滋賀県内でも賛否の嵐? 全国初の「交通税」導入は疲弊する公共交通の起爆剤となりえるか
Melkmal より 220427 弘中新一(鉄道ライター)
◆「交通税」とは何か
滋賀県は、全国初の「交通税」導入に向けて本格的な議論を始めた。
交通税とは、地域を走るバス・鉄道の維持費用を税金で賄おうというもの。2022年4月20日出された県の税制審議会の答申では導入の検討を求めることが記されており、これから本格的な検討が始まる。一体どういった経緯で検討されているのだろうか。
滋賀県の交通税は三日月大造知事が再選した2018年6月、記者会見で初めて示された。三日月知事は選挙公約に掲げていた「地域公共交通の充実」ために
「厳しい経営状況にある公共交通を守るために何をするか。一つの選択肢として負担を県民が分担する」
として、議論を進めるとした(『京都新聞』2018年6月26日付)。
⚫︎滋賀県で危機を迎えている公共交通は、鉄道とバスだ。
鉄道で交通税による維持の対象となっているのは、滋賀県東部を走る近江鉄道だ。同社は鉄道・バス事業を運営しているが、鉄道単独では1994(平成6)年以来赤字が続いており、2017年12月には維持が困難であるとして、沿線自治体に協議を求めるに至った。
これに対して、沿線5市5町は法定協議会を設置して検討。バス転換は行わず、自治体の支援により全線を存続することを決めた。
その後、
・利用者数目標の設定
・ふるさと納税を通じた寄付
など、存続に向けた努力が続いている。
そして、2024年から公有民営の上下分離方式(施設の整備・保有主体と運営主体を分離すること)による運営が決まった。鉄道の運営会社は近江鉄道とし、線路や車両などは2022年12月に設立予定の近江鉄道線管理機構が担う。これにより、自治体の負担は2022年度以降、
・県:3億3000万円
・沿線自治体:計3億4000万円
となる(『京都新聞』2022年3月30日付朝刊)。
⚫︎構想が生まれた背景
2010年代後半から、バス路線も再編や廃止が相次いでいる。
県内の多くの自治体では
・路線の再編
・乗り合いタクシーへの切り替え
が盛んに実施されている。
県内では、これまでも交通弱者の足を確保するためにコミュニティーバスが導入されたものの、利用者が少なく廃止。その後、乗り合いタクシーに切り替えて復活した例もある(『読売新聞』2020年12月1日付朝刊)。
少子高齢化を迎えて、交通弱者の足を確保するために自治体の負担は、さらに増えると見込まれている。こうした中で、交通税の構想は登場した。
具体的には
・県民税
・固定資産税
に上乗せする方式で行われるが、その導入には県内でも賛否が分かれている。三日月知事は2022年7月の滋賀県知事選に立候補を表明しており、導入はこの結果によって決定づけられそうだ。
公共交通の維持を目的に税金を徴収する構想は、これまでも何度も検討されてきた。1997(平成9)年9月には、当時の三塚博蔵相が道路・鉄道・交通など交通機関の利用者全体に負担を求める「総合交通税」の創設を検討していることを明らかにしている。
この目的は旧国鉄の長期債務27兆8000億円であった(『毎日新聞』1997年9月12日付夕刊)。
しかし具体的な検討が行われたものの、利用者に負担を求めることに事業者も反発し頓挫している。
その後、海外では鉄道・バス路線維持のために税金が徴収されていることが紹介されたが、本格的な議論は実施されなかった。
しかし具体的な検討が行われたものの、利用者に負担を求めることに事業者も反発し頓挫している。
その後、海外では鉄道・バス路線維持のために税金が徴収されていることが紹介されたが、本格的な議論は実施されなかった。
なぜなら今回の滋賀県のように既存の税金に上乗せする方式を採っても実質的な増税には変わらず、有権者の反発を買うことが必至だったからだ。
⚫︎今後のヒントは富山市にあり?
富山市「パーク・アンド・ライド駐車場」の一例(画像:富山市)
滋賀県で交通税の導入が実現すれば、各地で存続が危ぶまれているローカル線の維持についても新たな段階に入るだろう。JR西日本では4月に初めて不採算路線の収支を公表。単独での存続は困難として、自治体への支援を求めている。
今後はどうなるか。国有化による存続は現実的でないため、上下分離方式での維持に落ち着くだろう。そうなると、沿線住民に負担を求める流れは自然になる。住民に増税を納得してもらうためには、利用促進策が欠かせない。
富山市では2006(平成18)年から、税金を負担してJR高山本線の列車増便を行い、乗客減少の歯止めに成功している。この背景には、駐車場が整備された沿線各駅に自動車を駐車し、鉄道を使って目的地に移動する――という環境にしたことがある。富山市では「パーク・アンド・ライド駐車場」と呼ばれる、この駐車場は無料となっている。
つまり増税するには,自動車に比べて便利に利用できる環境を整えることが不可欠なのだ。
⚫︎今後のヒントは富山市にあり?
富山市「パーク・アンド・ライド駐車場」の一例(画像:富山市)
滋賀県で交通税の導入が実現すれば、各地で存続が危ぶまれているローカル線の維持についても新たな段階に入るだろう。JR西日本では4月に初めて不採算路線の収支を公表。単独での存続は困難として、自治体への支援を求めている。
今後はどうなるか。国有化による存続は現実的でないため、上下分離方式での維持に落ち着くだろう。そうなると、沿線住民に負担を求める流れは自然になる。住民に増税を納得してもらうためには、利用促進策が欠かせない。
富山市では2006(平成18)年から、税金を負担してJR高山本線の列車増便を行い、乗客減少の歯止めに成功している。この背景には、駐車場が整備された沿線各駅に自動車を駐車し、鉄道を使って目的地に移動する――という環境にしたことがある。富山市では「パーク・アンド・ライド駐車場」と呼ばれる、この駐車場は無料となっている。
つまり増税するには,自動車に比べて便利に利用できる環境を整えることが不可欠なのだ。
交通税は今後の路線維持のもっとも重要なキーワードとなるだろう。
その動向から目が離せない。
💋こういう事はいずれ首都圏以外に波及かと… 人口動勢の無理解不勉強の結果…