2025年までにEV用全固体電池の実用化目指す
Wedge より 21/02/18 中西 享
電気自動車(EV)の普及に向けての動きが加速する中で、EV性能を大きく左右する高性能のバッテリー開発に熱い視線が注がれている。
現在は液体の有機電解液が使われているリチウムイオン電池が主流だが、これに代わる新しいEV用バッテリーとして国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2007年から同じリチウムイオン電池ではあるが、液体ではなく固体の無機電解質を使った全固体電池の開発を進めている。
開発の現状と課題について、次世代電池・水素部蓄電技術開発室の田所康樹主任研究員に聞いた。
開発中の全固体リチウムイオン電池
――NEDOが全固体電池を開発することになったきっかけは何か。
田所主任研究員_ 全固体電池のブームのきっかけの一つとして、2011年に東京工業大学の菅野了次教授が、液体のリチウムイオン電池に用いられている電解液のイオン伝導度より高性能な難燃性の固体電解質を見つけて科学雑誌「Nature(ネイチャー)」に発表したことが挙げられる。
NEDOの全固体電池の研究開発は、07年度開始のプロジェクトから15年近くの歴史があるが、18年からは全固体電池だけにターゲットを絞ったプロジェクト「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」をスタートした。トヨタ自動車などの自動車メーカーや蓄電池・材料メーカー、大学や公的研究機関の研究者などが加わって「オールジャパン」で研究開発していくプロジェクトになった。
――現在主流となっている液体のリチウムイオン電池と比較して、全固体電池は何が優れているのか。
田所主任研究員_ 大きくは4つ利点がある。
1つ目は、液体の場合は可燃性の電解液が用いられているため燃える危険性があるが、固体電池は難燃性の固体電解質を用いており、安全性が高い。
2つ目は、液体の場合、特に高温で使用すると電解液が劣化、さらには分解してしまうため冷却装置が必要になる。
一方、固体の場合は200℃まで耐えられる電解質もあり冷却しなくてよい可能性がある。現在、車に積載する場合は冷却が必須で、例えば日産自動車「リーフ」は空冷、テスラは水冷方式で冷却している。
3つ目は、高エネルギー密度化により、同じ大きさでより多くの電力を蓄えることができる。液体の場合、4.5ボルト以上になると電解質が分解してしまうが、全固体の場合は5ボルト以上充電できる可能性がある。このことで、車体に積載する電池の大きさをコンパクトにできるようになる。
4つ目は、充電時間を短くできる。いまの急速充電では30分ほどかかるが、われわれのプロジェクトではこれを10分以内への短縮を目指している。
――現在の開発段階で、克服しなければならない課題は何か。
田所主任研究員_液体と比べて、固体電池の方がイオン伝導度が高く、電解質の中でリチウムイオンが通りやすいメリットはあるが、電極や電解質がすべて固体であり、固体と固体で接触する界面と呼ばれる部分の抵抗が大きくなり、イオンの流れが悪くなる恐れがある。
このため、この界面抵抗をいかにして下げるかが課題になっている。現在は電極に圧力をかけることで界面抵抗を下げる工夫などを行っている。
もう一つの課題は研究レベルでうまくいっても、この全固体電池を実用化するためには量産できるかどうかだ。大量生産するためのプロセスをどうするかの研究を続けている。
――NEDOとしては全固体電池を何年ごろまでに実用化を計画しているのか。
田所主任研究員_昨年末に菅義偉首相が脱炭素社会の実現を目指す計画を発表し、国内の新車販売を30年代半ばまでに電動車100%を実現する目標を掲げた。
また各自動車メーカーは20年代前半にいくつものEVを発売すると打ち出すなど、EVシフトが加速している。NEDOとしても、それまでに間に合うように開発を急ぎ、25年までには車載用の全固体電池の実用化を目指したい。
――全固体電池の技術開発で日本勢が持っている特許の数は多いようだが。
田所主任研究員_昨年の10月時点集計での2001~18年までの全固体電池に関する特許出願件数約9400件の国別内訳は、日本が37%でトップ、2位が中国で28%、次いで米国、韓国の順だ。
しかし、最近の16~18年でみると、中国が日本を上回ってきており、国を挙げてこの電池の開発に取り組んでいる姿勢がうかがえる。出願人別の特許の件数でみると、トヨタが首位で、出光興産が3位、日産自動車が8位、ホンダが10位で、上位20位内の4分の3は日本勢で占めている。
現状では、日本は優位に開発を進めているが、中国の追い上げはすさまじいので、油断はできない。
――全固体電池の論文数では中国が多いようだが、中国の追い上げはどうか。
田所主任研究員_確かに論文数では中国が一番多く、様々な開発を進めているようだ。研究者の人数も相当多くいるようだ。
――リチウムイオン電池はレアメタル(希少金属)を使うため、材料の調達が難しいと言われてきた。対応策で考えられることは何か。
田所主任研究員_リチウムイオン電池の中で使われているコバルトの主要な産地がアフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)に偏在しているので、今後EV大量普及時には確保が難しくなると考えられる。このため、コバルトを使う量ができるだけ少なくて済むような電池の開発も目指したい。
――今後はどのような構えで開発を進めていくのか。
田所主任研究員_現在、産、学、官で連携しながら開発を進めており、これからもこのやり方で開発を進める方針だ。現在のプロジェクトでは産業技術総合研究所関西センターの中にある技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)を集中研究拠点として自動車・蓄電池・材料メーカーからも研究者が出向してきており、今後も「オールジャパン」で知恵を出し合って優れた全固体電池の実用化を進めていきたい。
日本はこれまでいくつもの製品開発で「技術で勝ってビジネスで負けた」と言われてきたが、全固体電池ではそのようなことにならないよう頑張りたい。
さらには30~40年代の実用化に向けて、エネルギー密度の高い革新的な蓄電池の開発も進めている。リチウムイオンに代わるフッ化物イオンにも注目しており、新たな材質にもチャレンジしている。
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福井の全樹脂電池工場、秋に本格稼働 越前市で世界初の量産化へ
福井新聞より 21/02/18
2021年5月に開所し、全樹脂電池を量産するAPBの工場=2020年3月、福井県越前市庄田町
東証1部上場の化学メーカー三洋化成工業(本社京都府京都市)は2月17日、子会社のAPB(東京)が福井県越前市内で世界初の量産化に向けて準備を進めている次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の工場を今年5月に開所し、秋から本格稼働させると発表した。三洋化成の安藤孝夫社長は2025年度を目標に売上高900億円、新たな工場の建設を目指すとしている。
安藤社長とAPBの堀江英明CEOが越前市役所に奈良俊幸市長を表敬し、事業の進捗について報告した。APBは20年3月に同市庄田町にある電子部品メーカーの旧工場(延べ床面積約8600平方メートル)を取得。設備投資や工場の運営に向け、同年12月下旬までに第三者割当増資により計100億円資金調達した。
全樹脂電池はリチウムイオン電池の主要な構成要素である集電体などを、金属ではなく樹脂に置き換えたもの。従来電池に比べて電気容量や安全性が高く、低コスト、短い工程で製造できるという。
APBによると、今年稼働させる工場の生産能力は年間最大約3ギガワット。再生可能エネルギーの発電などの基幹電力を安定させる定置用電池市場を主に狙い、さまざまな形状になる樹脂製の強みを生かしてドローンやロボット用など幅広い用途に展開していく。
25年ごろを目指すという新たな工場は電気自動車(EV)市場への参入も視野に、生産能力は開所する第1工場の約10倍を見込むという。
市は現在、第1工場から北陸道を挟んで西側にある北陸新幹線新駅周辺の農地約100ヘクタールに先端産業の企業を複数誘致して「越前市版スマートシティ」をつくる構想を進めている。安藤社長は将来的な工場の増設は「最初の工場の近くで検討したい」と市の構想との連携に前向きな姿勢を示した。堀江CEOも「越前市を起点に世界中に新たな電池の技術を広めたい」と意欲を語った。