京都府 京都市右京区梅ヶ畑高雄町 神護寺下乗石
紅葉の名所として知られる京都の高雄、神護寺に向かう道すがら、清滝川にかかる朱塗りの橋を渡ったところから石段が続いている。この石段下の右手に石の方柱が立っている。これは下乗石で、参詣する者はここで輿や馬などの乗り物から降りるべきことを明らかにすると同時に、ここからが寺の境内、あるいは特別な聖域であることを示している。花崗岩製。平らな上端面の中央に浅い枘穴が認められることから、元は笠石が載る笠塔婆であったと推定されている。幅、奥行きとも約61cm、高さ約30cmの基礎台石の上に立つ塔身は、幅約31cm、奥行き約24.5cmのやや扁平な方柱状で高さは約195cm。正面と側面は平らに整形し、背面は粗叩きのままとする。各側面素面の基礎台石は後補の疑いがあるが、この点は後考を俟ちたい。正面には、上部に金剛界大日如来の種子「バン」を薬研彫し、その下、中央付近に「下乗」の2文字を大書陰刻する。下方に2行にわたり「正安元年(1296年)十月日造立之/権大僧都乗瑜敬白」と刻む。在銘最古の下乗石とされる。「下乗」の独特の書体は、各地に残る下乗石の多くに通有のもので、その中でも最古の紀年銘を有するこの下乗石の持つ意味について考えておかなければならない。
参考:川勝政太郎・佐々木利三「京都古銘聚記」
川勝政太郎 新装版「日本石造美術辞典」
〃 「京都の石造美術」
写真中:上端の枘穴、ちょと分り難いですね。写真をクリックしてもらうと少し大きく表示されます。中央に浅い穴があいています。写真右:背面の様子。文中法量値は実地略測ですので多少の誤差はご容赦ください。紅葉のシーズン、また若葉の頃も美しい高雄山ですが、厳冬の時期は観光客もまばらでじっくりこういうものを観察するにはちょうどいいと思います。もっとも冬の京都はかなり寒いですが。