「伊賀の石仏拓本展」について
「伊賀の石仏拓本展」が開催されます。
平成25年9月21日~10月20日(開館時間9:00~16:30)、場所は三重県伊賀市上野丸之内106、伊賀上野城大天守閣一階です。
伊賀市在住の郷土史家である市田進一氏が採拓された伊賀地域の石仏の貴重な拓本の数々が展示されます。(市田さんは昨年『伊賀の石仏拓本集』を自費出版されています。)
伊賀というとすぐ忍者を連想される方が多いかもしれませんが、実は日本有数の中世城館の密集地帯で、優れた石造物にもまた恵まれた土地です。三重県は東海地方に属していますが、こと伊賀地域に限っては、大和、山城、近江に隣接し、ほぼ近畿文化圏にあるといって過言ではありません。
古くから東大寺などの荘園が開かれ、重源上人が伊賀別所を置き、西大寺の有力末寺もありました。そのせいかどうかはさておき、中世の石造物に関しては大和の強い影響下にあったと考えられています。伊賀に残された石仏の細部の意匠にも大和の石仏との共通点が見いだせると思います。東国への玄関口でもあり、石造物の伝播や文化圏を考えるうえでも非常に興味深い土地柄です。その伊賀の石仏の拓本展とくれば、石造ファンならずとも行かない手はありません。
数多い石仏の中でも、特に中ノ瀬磨崖仏(写真)の拓本は圧巻で、前代未聞、空前絶後の労作。阿弥陀三尊を中心に不動明王、地蔵菩薩などで構成され、鎌倉時代の作と考えられています。川沿いの切り立った岩壁に刻まれた像高3m近い雄大な磨崖仏を拓本するのは事実上不可能と思われていましたが、これをたったお一人で敢行された市田さんの熱意と行動力には、ただただ敬服するのほかありません。小生などは見学するだけで不審者呼ばわりされることも少なくないのに、気候やタイミング、作業や技術上の難しさやご苦心は勿論ですが、拓本に至るまでの様々なご苦労を慮ると言葉がありません。中ノ瀬磨崖仏のほかにも、丹念に伊賀の石仏を訪ね歩かれ、採拓された作品群が一挙に展示されるとのこと、これはもう是非とも行かねばなりませんぞ。