イワン・クラムスコイ
原題「夫人の肖像」
これは全部を嘘で作り上げた女性である。顔も体つきもすべて人から盗んだものだ。この中にいる本人の本来の姿は、もっと貧相で、これとはまったく違う姿をしているのである。
身分のありそうな服を着て、真に迫って自分をやっているが、それ自体が芝居なのである。本当の自分はこんなものではない。苦い事実がいくつもあるはずである。見かけからは考えられないようなことを、この女性はいくつもしているはずだ。
だからなんとはなしに、まるでキツネが化けているような、胡散臭い空気をまとっているのである。
画家はその空気をもみごとに描き切っている。
嘘でつくりあげた人間には、いつもこの見えない空気がまとわりついているのである。