ミリ波レーダーやレーザーレーダー、ステレオカメラなどのセンサーデバイスを使って前方車両を検知し、自動ブレーキによって停車して衝突回避や衝突被害の軽減を可能にするプリクラッシュセーフティシステム(以下、プリクラッシュ)の開発競争が激化している。
これまでは、センサーデバイスにステレオカメラだけを用いる富士重工業の「EyeSight」が、10万円という低価格化によって先行していた。しかし、2012年後半に入って、三菱自動車が新型「アウトランダー」向けに「e-Assist」、マツダが新型「アテンザ」向けに「i-ACTIVSENSE」を立て続けに発表。e-Assistは、搭載車と非搭載車の価格差が9万5000円と、EyeSightよりも安価である。e-Assistよりも多機能のi-ACTIVSENSEも、低価格での提供が期待されている。
さらに、Volkswagenが2012年10月に日本市場に投入した小型車「up!」が、レーザーレーダーを用いたプリクラッシュの標準搭載を特徴の1つとして展開を図るなど、安価なプリクラッシュへの注目は高まっている。
これらに対して、トヨタ自動車は2012年11月12日、センサーデバイスにミリ波レーダーだけを用いるプリクラッシュの改良版を発表した。
同社は、ミリ波レーダーやステレオカメラ、赤外線カメラなど複数のセンサーデバイスの情報を統合する、センサーフュージョンタイプのプリクラッシュを、高級車ブランドの「レクサス」などに展開している。2012年10月に日本市場で発売された新型「レクサスLS」には、速度差が時速40km以下であれば衝突を回避できる進化版が採用された。
ただし、センサーフュージョンタイプのプリクラッシュは、レクサス向けとあって極めて高価だ。プリクラッシュ以外にもさまざまな機能を搭載しているものの、メーカーオプション価格は136万5000円である。
一方で同社は、センサーデバイスにミリ波レーダーだけを用いるプリクラッシュを、ハイブリッド車「プリウス」や高級セダン「クラウン」、高級ミニバンの「アルファード」や「エスティマ」、大型SUV(スポーツ多目的車)「ランドクルーザー」などに幅広く展開している。プリクラッシュと連動してベルトを巻き取る「プリクラッシュシートベルト」やクルーズコントロールなどの機能も備えており、先述した競合他社のプリクラッシュと同等の価格帯となる、14万7000円というオプション価格で提供している。
今回発表したプリクラッシュは、このミリ波レーダーだけを用いるプリクラッシュの機能をさらに強化したものだ。価格は、14万7000円で据え置くか、ミリ波レーダーのコスト削減が進んでいることを含めて、戦略的に10万円前後まで値下げする可能性もある。
改良点は2つある。1つは、先行車両との衝突可能性が高まっている状態で、プリクラッシュによる警報にドライバーが気付いてブレーキペダルを踏んだときのブレーキの制動力を補助する「ブレーキアシスト」の性能を高めたことだ。先行車両が時速20km、新開発のプリクラッシュを搭載した自車両が時速80kmで走行している状態、すなわち速度差が時速60kmからでも、衝突する前に先行車両と同じ時速20kmまで減速できるという。
もう1つは、従来は衝突が不可避な状態になってから自動ブレーキで減速して衝突被害の軽減を図っていたところを、衝突が不可避な状態になる前から予備的に自動ブレーキを働かせておくようになったことである。先行車両が時速20km、新開発のプリクラッシュを搭載した自車両が時速50kmで走行している状態から、自動ブレーキによって減速し、衝突を回避できる。ただし、自動ブレーキによって衝突を回避できる速度差は、自車両の速度など状況によって異なるため、時速15~30km以内としている。
今回新たに採用する方式図
現行のシステム概念図
先述した各社のプリクラッシュとの最大の違いは、1つ目の改良点である、速度差が時速60kmからでも衝突を回避できる機能だ。競合他社のプリクラッシュは、2つ目の改良点と同様に、先行車両との速度差が時速30km以内であれば、自動ブレーキによって衝突を回避できることを特徴としている。しかし、それ以上の速度差については、自動ブレーキによって衝突被害を軽減できるとしか言及していない。
トヨタ自動車によれば、「追突事故の90%以上は、先行車両との速度差が時速60km以内のときにで起きている」という。新開発のプリクラッシュであれば、ドライバーがプリクラッシュの警報ブザーやディスプレイ表示に気付いてブレーキを踏み込むという条件付きではあるものの、速度差が時速60kmまでの衝突事故を回避できるわけだ。
同社は、近々発売する新型車から、新開発のプリクラッシュを順次展開する方針である。2012年12月末の発売が予想されている新型「クラウン」に搭載される見込みだ。
オプション設定がしばらく続いた後
標準装備の流れになっていくのかな
ただ軽自動車に装備しようとすると厳しい
軽自動車にこそつけて欲しい機能なんですけどね
販売台数などを考えると