ひとりぼっちなので本は色々読んでますが、最近読み終えたのがこれです。
「十二単衣を着た悪魔~源氏物語異聞~」
内館牧子著
幻冬舎文庫
もともと源氏物語ファンなので、弘徽殿女御サイドからの視点というのに興味を持ちました。
中身はとにかく面白いです。
源氏物語…固いイメージがあるかもしれませんが、笑いと涙でどんどん読めました。
三流大学出で就職先も見つからない主人公、雷(らい)が、いきなり源氏物語の時代にタイムスリップ…源氏物語は物語なので、正確には源氏物語の世界に入り込んでしまうのです。
その服装や言動から、高麗から帰国した陰陽師として、弘徽殿女御に仕えることになった雷。
源氏物語のあらすじを知っているため、予言者として優秀な陰陽師と認められるのです。
こういう設定は見事!
ついうっかり口走るカタカナ言葉や服装(ジーンズやダウンジャケット)を全て高麗のものとして、宮中の人々を納得させるのが面白いです。
桐壺帝の女性遍歴を一歩引いて冷ややかに見つめるクールな弘徽殿女御は、かっこいいです。
弘徽殿女御って、桐壺に嫌がらせをしたりするイヤミなオバサン的な解釈が多いですもんね。
かの名作「あさきゆめみし」でも、若干太り気味の恐いオバサンでした。
政治も人の道もそっちのけで色恋に明け暮れる桐壺帝や桐壺、藤壺、光源氏をかなり厳しい目線でとらえています。
それらを批判的にとらえ、弘徽殿女御とその息子一の宮(光源氏の兄)を全うな人間ととらえるのは、光と常に比較されて父桐壺帝の愛情も受けられない一の宮に雷は自分を重ねてしまうから。
雷は現実世界にいた時、優秀な弟を持ち、自分などいてもいなくてもよい存在と常にコンプレックスを持っていたから。
しかし源氏物語の世界では、優秀な陰陽師として、信頼され、厚遇され、ようやく自分に自信を持ち始めます。
その辺りの心情描写と、源氏物語の世界で妻と子を持ち、重宝される源氏物語の世界で生きていこうと決意した雷が、妻子を一度に亡くし、その悲しみをことあるごとに思い出して「生きていたら…」と想像するシーンは、本当にこちらまで悲しくなるほどで、内館さんは心の描写が等身大で見事だと思いました。
とくに今、わたしはK君と離れているからよけいに感情移入しました。
最後、雷は現実世界に戻り、(何とかして源氏物語世界に帰ろうとする雷がまた切なくて…)、そこでようやく自分の生き方を見つける事が出きるのです。
作者は、映画「プラダを着た悪魔」を見て、弘徽殿女御を書きたいと思われたそうで、弘徽殿女御愛を十分に発揮した作品でした。
源氏物語のあらすじも分かり、一石二鳥の小説です。