





ビビがブスになってきた。最初は目がこれだよ、それが、今日お出かけしたら
目がこれだ。
お出かけしている間、ずーっとブス。
なんか百年の恋も冷めたしまう。
タダと思って食うのだけには熱心だ。
器はクリスタルだぞ、クリスタル。
でも、顔で判断しちゃあいかんな。そりゃあわかっているけど、人間の場合でもそんな気持ちにならないかい?
ブスな赤ちゃんを嬉しそうに見せびらかす親を見て、僕はかわいいじゃなく、かわいそうにと思う。よくこんなんののために勤労意欲がわくよ、ひどい場合はよく育てるよと思ってしまう。
ビビがブスになった。目も透き通るようなコバルトだったのに、有明海の干潟のようになった。
ブス側の反論はもっともだ。
「好きでブスやってんじゃないのよ。この顔で一生生きていく身にもなってよ。」
この反論は人間の場合でも同じだ。十分同情する。
だが、人には理論より前に大脳辺縁系に響く直感というものがある。見ろよこのやる気のない顔。
相互に相乗効果もあるんだろう。みんなから「かわいいね、天使のようだね」と言われ続ければ本人も笑顔になるし優しい気持ちは顔に影響しないはずない。
一方、ほめようがないもんだから無理して「健康そうね」とか「元気ね」とか、棒読みで「かわいい」とか言われ続ければ性格もゆがむというものだ。
神は実に不平等に人や猫を愛したようだ。
そう思っていたら、
顔を隠した。
何故こうなってしまったんだ。最初は、
かわいくて元気で、
ま、捨てたりはせんけど、僕はビビと絶妙な時期に出会ったみたい。
人間の場合、一か月でここまで豹変しない。ただ、10年たつとカバになる。しかもカバの餌はカネだ。
ちょうど一か月たったスネブスビビでした。
「カラシ」は子育ての経験がないせいか、どうも加減がわかっていない。「ビビ」(小さいほう)は捨て子の寂しさからか、やたらじゃれたがる。
そこで、俺を食う気か!!
と、
カラシの目がマジになっている。
ここ一週間でやっと時々は一緒に昼寝したりする。仲良くするときもあるようになった。
カラシの作った表情と、ビビの野生に目覚めた表情。
捨てられていたときは、ただかわいそうでかわいくて・・・、情にほだされるというやつだ。だってこの表情されたら殺処分はなしでしょ。
猫も子供も唯一の欠点は大きくなること。このままだったらいいのに。
見通しなく飼い始めると「カラシ」以上に「ビビ」は大変だ。ビビが退屈してたのでお出かけ。
「早く出せ」
出したら出したで、
「繋ぐなっ」
3週間でぐっと大きくなった。最初の可愛さは消え野生の鋭さが際立ってきた。
なるほど、ビビを捨てた飼い主は、かわいいうちに捨てればどっかのあほが拾ってくれると考えたに違いない。
エサは全く食わず、脱出のことばかり考えている。
佐賀県に行って花を見た。100円とられた。あまりきれいではなかった。ペットは無料ですかと尋ねたら真顔で、「無料です」。
家に帰り久しぶりに風呂に入れた。
どう見ても感謝してない。
人間的な「カラシ」、猫らしい「ビビ」、僕はどっちも好きだ。
家猫として「カラシ」がいる。
向上心にあふれた賢い猫だ。こいつとはまあ何とか仲良くしている。おうち大好き猫で、抱いて家の周りを散歩するとぶるぶる震える。
とくに野良猫に出会った時は爪を立ててしがみつくのでとても痛い。
ところが座敷から窓越しに野良を見つけると大変勇ましい。相手が向かってこられないとわかるとぎゃあぎゃあ鳴きまくって力を誇示する。
人間にもいる。
バイトだからと思っていい気になって若造が年長者に横柄な口を利く。ところが人には我慢の限界というものがある。
頭に来て下から覗きあげて、
「いいかい、兄ちゃん。俺は傷つきやすいんだ。調子こいてなんだその態度は!」と、すごんでみせると突然ひきつった笑顔になってせいぜいできることは上に泣きつくことぐらいだ。
カラシが外の野良猫にすごんでいたら、いつもはコソコソしている野良がすごい形相で向かってきた。
閉まっていると思っていたガラス窓は空いていたのだ。カラシは、若造横着正社員のように慌てて箪笥の上に逃げた。
そんな空威張りカラシが僕は好きだ。
人間誰でもテキトーなところってあるよ。
そんな猫嫌い猫、カラシがある日窓の外を凝視していた。生後間もない子猫がいる。2匹。1日ほったらかしにしていたが、子猫はかなり衰弱してきた。
育児放棄か捨て猫か、どのみちカラスの餌になる運命だ。
かなり考えたが、飼うことにした。すでに車庫には別の親子がいる。多分だが、だれか捨てたようだ。
一匹になっていた。とても怖がりの猫でビビってばかりなので「ビビ」と名付けた。
このままいくと猫屋敷になる。
だが、ちゃんと考えて買っているのに「最後まで責任を持てよ」といいに来たあほがいた。猫より始末が悪い。捨てられた老人間だ。猫は自分の世界観が確立していてむやみに他人に干渉しない。
ところで、ビビ。
受難のシャンプー。
2回した。それでも黒いよごれが出た。
一週間後、慣れてきたのでピクニックに行った。離乳食を作りシートを広げ僕はサンドイッチ。小市民的生活を感じてみたが、なかなか庶民も楽しい生活をしているようだ。
今は固形分をだいぶ増やせるようになってきた。
人に聞いたらなかなか血筋のいい猫だそうだ。なんだ、僕と同じじゃないか。
親近感がわく。
カラシはビビが来て喜んでいる。猫嫌い猫のカラシは、人間嫌い人間からけんと本来的に気が合う。ビビともなぜか仲良くなった。
だから、みんなで仲良くできそうだ。
ウンコ、オシッコもちゃんと自分専用トイレでできる。医療衛生面も万全。
殺されるかと思った、
俺を水攻めで殺す気だ、シャワーを止めろ!・・・と思っているのは、
もらってきた保護猫のカラシ。人の親切を全く理解していない。
避妊手術、予防注射、ノミよけ剤、システムトイレ、・・・金をかけたのに感謝していない。
だから水をかけるなって!
安いエサは、吐いてしまう。やせ細ってきても中国製は食わない。飼い主は中国野菜で我慢しているというのに。
部屋から出そうものならぶるぶる震える。元野良猫カラシ。
俺は水が嫌いなんだよお、勘弁してくれ!
お部屋大好きの「カラシ」。もう一匹「ニコフ」が来る予定だったがよそに行った。
機嫌がいいときは僕がテレビを見ていると肩を組んでくる。
最初は借りてきた猫のようにおとなしかった。
が、
俺をズブにぬれにして、笑ったな。信用できない奴だ、
と、僕もカラシの表情が読めるようになった。
昼寝をしていると必ずマフラーのように首に巻きつくが、こっちが呼んでも気分屋で机の下から出てこない時もある。だが、返事だけはする。
かわいくない奴だと思いつつ、情にほだされてまあいいかと思い今日まで来た。
そんなカラシとの生活も一年と4か月になった。
ぼくと生活していると猫ですらPoliticになる。