リサイタルツアーの最後は福岡県柳川市であった。汚く、照明が下品で、寒く、イスが小さく、響きが悪い、市民会館であった。どうしたらこんなに最悪なものの集合体が作れるのか。
だが、それは大体田舎役所のやることだから想像はつく。そこの人間はそれにも増して悪質だった。
年金は高すぎるのではないか。S席に座るカネがあるのなら、田の草取りでもしてカネは市役所に返せ。
農民や労働者階級も音の芸術に大いに触れてほしい。僕は願う。一度でいいから天才とは何か、努力とは何かに思いをはせろ。ところが、寝たり、手遊びをしたり、飽きてもぞもぞしたり、はたまた隣の席のババアと話し始める。手のかかる連中だ。
僕は一年前に決心をしてもう諍(いさか)いは起こさないことにした。が、せっかく1年続いたのに我慢のカウントはリセットされた。バカは誰でも知っている曲になると、なんとボールペンで指揮を振り出した。
何度か小さく小突いて注意していたが、分からないようだったので紙を丸めてスッパーンとはたいた。どうも悔しかったらしくこんどはボールペンのキャップを持って小さく指揮をとっていた。
自分はとても音楽に造詣が深いのだ、といいたいらしい。それにしては爪に泥が・・・
宮本笑里(えみり)については
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E6%9C%AC%E7%AC%91%E9%87%8C
たとえば、勉強で貧乏人が努力して金持ちに勝つことはありうる。よく考えなければならない。それは貧乏人が勉強で勝っただけであり金持ちになったのではない。
金持ちに僕の様に喧嘩っ早いのはいない。数百年も金持ちが続くと一度ぐらい転落して貧乏になろうが、DNAに刻まれたものは動じない。すぐ回復だ。
宮本さんを見ていてそう思った。一曲ぐらいは仕込めば僕も弾ける。だが、そんなことでなんになる。一方僕は、痴呆と客席でケンカしている。
宮本さんはゆったりとした陽だまりのような雰囲気をステージに残し消えた。
ときとして激しいバイオリンになるとパンフにあった。違う。それは曲が激しいのであり彼女の弓は優しかった。
かたや僕は、絶望の土着民と天使のささやきの間でもがいていた。
お子様が生まれたので、birth だそうだ。彼女は、最高の音楽環境に囲まれて最高の指導を受けた。
たとえばバイオリンの弓は消耗品だ。いい弓で弾かないと上達しない。5年使うことはない。一本数千万。練習用で500万。聞く人には違いは分からないが弾く人は10センチ先で音が出ているわけだ。モヤモヤがのこると弾きたくない。
バイオリン本体は1台(丁)、10億をこえた。中国人のせいだ。さすがの宮本さんも借り物を使っている。日本最高のバイオリニストが最高の楽器を所有しようとして、ドサ周りをしている。
今後日本で演奏家たらんとすれば、あらゆる条件をクリアし、とにかく豊かでないと出来ない。それもハンパなく。バイオリンのことだけを考えて生きてきたはずだ。一日7時間、8時間練習するのが楽しくてしょうがない、それを用意する素敵な家庭。
貧困の悪循環があるということは、金持ちの好循環もあるのだ。貧富間に相互乗り入れの路線はない。これじゃあいかんし、なんか哀しい。
宮本さんはCMやキャスターに忙しいが、早く気に入ったバイオリンを所有してほしい。借りてきた猫の毛並みがよくても心からは愛せない。