人は、考える葦である。天は自ら助けるものを助ける。

戦後の混乱から立ち上がり、文化的平和な国に成長した日本が、近頃反対の方向を向き始めた。偉人の言葉を考え直して見たい。

人は考える葦であるー第四章 女性の生き方

2018-10-09 22:14:21 | 随筆
 先月、女優の樹木希林さんが亡くなられたが、追悼の報道にこれほどまでテレビに取り上げられた女性は、未だかつていなかったように思う。それは、テレビの出演や功績が多かっただけでなく、日本では珍しい別居結婚を続けた人という、特に関心を持たれた人だったこともある。亡くなってそれを詳細に知らされたことによれば、結婚が必ずしも幸運ではなかったために早々と別居し、一人っ子のお嬢さんにまで普通の子供以上に悩みを抱えさせてしまったことが、奇しくも葬儀の時のお礼の言葉で知らされたのだった。そのような稀に見る結婚生活を送ったために、時折取材を受けて、自分の病気を告白したりプライバシーに踏み込まれたりしたことが多かったように思う。しかし彼女は強靭な信念の持ち主であったために、普通の人だったら取材攻撃で参ってしまうことが多い中、めげることなく自分の道を歩み続けたのである。
 あの強さは、女性としていつ頃から培われたのだろうかと思わせられたが、やはり、親からの教えが彼女の成長の大きな要因となっているように感じたのである。夫からは、離婚届を出されたにも拘わらず承諾せずに別居という形で40年も続けられたのは、日本の長年の歴史でも想像できない例ではないだろうか。一般の女性だったら、夫の方から切り出された場合泣く泣くそれに従うことが多いと思う。そして、運が良ければ再婚相手に巡り合ってやり直し、良い一生を送る。多くは母子家庭として苦しい生活をし、子供に望むこともしてあげられない暗い一生を過ごすことになる。現在は離婚の割合も多くなっている時代だけれども、女性の再婚は男性より難しいのではないだろうか。
 樹木さんの場合、経済の土台がしっかりしていたので、自立できたし、ご主人を自分の重しとおっしゃっていたけれど、事実上は、樹木さんの重しで、ご主人の破天荒な行動のブレーキになっていたように見える。テレビの大きな罠にかかった時を機に、繰り返す行動が見られなかったのではないだろうか。どのような苦難に出会った時でも動ずることなく、最後は大きな称賛さえも受けた人生を送った樹木さんの生き方は、肩書きの立派な女性でも敵わないくらいの堅固な意志の持ち主だったと思う。
 
 最近、有名人のガンによる死が次々に報ぜられた。その方々の近況があまり知らされなくなったと思うと、訃報のニュースになって驚かされるのである。樹木さんは、その点についても早々と公表し、しかも元気な方と共演したり、番組で元気な姿を見せていた。その態度は、今ガンに罹って闘病している人々にどんなに大きな希望を与えたか計り知れない。冗談交じりに、遺作です詐欺などと流行りの言葉になぞらえて明るく話していたことは、心の器の広さを示すものだった。ガンに罹患しただけでも患者は悩みが半端じゃない。死刑を宣告された死刑囚のような気持ちのどん底を味わう。そこを乗り越えて闘病し、残りの人生を少しでも楽しくと努力する。しかし、ガンの病魔はいつも身にまといどうしても暗い人生になりそうになる。それを、うまく乗り越え、数々の映画に出演した樹木さんの凄さ、只々感心するばかりである。どんなに詐欺してもいいから、もっと長く生きて欲しかったと誰もが思ったに違いない。でも本当は、どんなに苦しかったか、どんなに我慢したか知れないと思うと、やはり彼女の意志の強さが響いてくる。

 人は誰でもどこかに弱さがあるものだ。苦しさに負けそうになるものだ。それを乗り越え乗り越え最後まで人としての最高の姿を保持し続けた樹木さんは、男性に勝るとも劣らない女性だった。