カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第三話  つかの間の安堵

2008-07-29 23:53:54 | Weblog
無我夢中で走った。何も考えずひたすら二人は走った。
「先生、もう駄目!」
愛美は、ヨタヨタと歩き出した。
「そこの茂みで休もう。」
二人は、川原の茂みの中に入ってしゃがみ込んだ。
「先生、私達本当に戦国時代に来ちゃったの?」
「信じられないけど、今走って来た間の景色は、昨日までと全く違ってた。」
「うそお、どうすればいいの、どうしたら帰れるの?」
愛美は、無理もないが動転していた。
「あっ、携帯がある!」
愛美は、ポケットに入っていた携帯電話を取り出し操作した。
「圏外だ・・・。」
「そりゃそうだ。この時代中継アンテナも無ければ携帯会社も無い。」
「先生のバカ!」
愛美がふて腐れて横になった。
「先生、私達どうなるの?もしかして殺されちゃうの?」
愛美は、泣いているようだった。
「大丈夫さ、俺様は歴史の教師だ!お前を守って生き抜いてやるさ。」
三津林も不安だったが、愛美のために強がってみせた。
「先生・・・。」
愛美は、三津林の腕の中で目を閉じた。
「しばらく休もう・・・。」
見上げた空は、とても青かった・・・。



「ここに居たか、捜したぞ。」
あの男だった。
「無事でしたか、良かった。」
「ほら、食べな。」
男は、大きな葉っぱに包んだ握り飯を二人に差し出した。
「ありがとう、おじさん。」
三人は、川原の茂みの中で握り飯を食べた。
「私は三津林慶大、教師です。あなたの名前は?」
「俺は、渡名部清志だ。三年前、長野で道路工事の手伝いをしてたんだが、嫌なことがあって辞めちまったんだ。それで山の中にあった洞穴で野宿してたら地震があってこんな時代に来ちゃたってわけだ。君達と同じようにね・・・。」
「でも三年も無事だったんですね。」
「ああ何とかね。でも最初は武田の領地で追われてこっちへ逃げて来たんだ。ここの御主人様は、俺を気に入ってくれて足軽にしてくれたんだ。」
「御主人様って誰ですか?」
三津林が聞いた。武将の名前を聞けばおおよその年代が判るのだ。
「中根様だ。そのまた大将は、あの家康だぞ。このまま行けば天下人の家臣だ。やりがいは充分あるさ。」
三津林は心配になった。家康が幕府を開くのはまだ30年程先の話、それまでは家康と言えどもまだまだ紆余曲折の時代を送るのだ。
「ところで君の名前は?」
「私は、本河田愛美、高校生です。」
「へえ、教師と生徒か。何かドラマみたいだな。」
「勘違いしないでください、私達はたまたま史跡の調査をしていただけなんですよ。けっして怪しい関係じゃないですよ・・・。」
三津林は、あわてて否定するように言った。
「そうかあ?まあいいや、食べたら城へ行くぞ。」
「城?」
「ああ、浜奈城だ。」
愛美と三津林は、顔を見合わせた。この時代に来たのも浜奈城の家康像の前で、二人が待ち合わせたことから始まっているのだ。



夕焼けの中、三人は浜奈城を目指して歩き出した。



            ※ この物語はフィクションです。
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