北海道函館市の建築設計事務所 小山設計所

建築の設計のことやあれこれ

『川原家(カワラヤ)』と『上がり家(アガリヤ)』

2019-11-09 22:05:06 | 日記

紀州熊野の新宮は、昔から水害の多い土地なのです、、、。





『毎日新聞社提供』の文字の、右上のあたりが新宮市街。熊野川の矢印の先の、手前の橋が

国道42号線、奥の鉄橋がJR紀勢線。





昔、このJR紀勢線の鉄橋と国道42号線の橋に挟まれた、新宮市街側の熊野川の広い河川敷に

(『権現川原』と言ったらしい)、『川原町』という集落?があって、集落の建物を『川原家』

と呼んでいたようなんです、、、。



この写真の時代には、JR紀勢線の鉄橋も国道42号線の橋も、まだなかったようです。『川原町』

の奥には、堤防か石垣の擁壁の上に一段と高く、倉庫か蔵のような建物が一直線に並んでいる

ように見えるのですが、、、?




2本ある熊野川からの道の両側の平べったい建物が『川原家』です。この写真の2本の道の

真ん中あたりが、現在の国道42号線だと思います。



『川原町』は、船からの荷物の積み下ろしや、特産の木材の運搬など、熊野・新宮の物資・物流

の拠点だったようです。



往時の『川原町』の様子。




『川原町』の『川原家』は組み立て式の工法で、釘や金物を使っておらず、大工さんでなくても

普通の人たちが、短時間で組み立てたり解体したり出来るように工夫してあり、洪水や水害の

恐れがある時は、その前に町の人が総出で解体して、安全な場所に避難したのだそうです。

(近くの熊野速玉神社横の船町の避難所を『上がり家(アガリヤ)』と呼んだようです。)




和歌山信愛大学の千森督子さんという研究者の方の『紀伊半島大水害による被災住宅と仮設住宅

について』という論文のPDFです。105ページの図3に、小さいですが『川原家原寸模型制作図面』

があります。写真18~写真20に再現された川原家の写真があります。

http://www.shinai-u.ac.jp/toshokan/shinai%20kiyou/HP%20Kiyou/KiyouVol.53/chimori-53.pdf#search='%E6%96%B0%E5%AE%AE+%E5%B7%9D%E5%8E%9F%E5%AE%B6%E3%80%8C%E3%81%8B%E3%82%8F%E3%82%89%E3%82%84%E3%80%8D%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%82%8A%E5%AE%B6'




地元の新宮工業高校の建築科の生徒さん達が、授業でこの『川原家』を復元したらしくて、、、






何かの催し物の時に、地元有志の人4~5人で組み立ててみたら






30分もかからなかったみたいなんです、、、。




(でも、明治時代とか大正時代はトラックもなくて人力だけでどうやって、解体した部材を安全

な場所に短時間で運んだんでしょうか、、、? 大八車で、何往復も、、、?)




『上がり家(アガリヤ)』というのは、水害の危険のある『本宅』とは別に、高台の安全な場所

に避難用の『別宅』として用意した、熊野川の流域にあった比較的簡便な建物の名称です。




京都大学の落合知帆さんという研究者の方の『洪水常襲地における水害対策としての上がり家』と

いう論文のPDFです。4ページに「アガリヤ」の写真、5ページに平面図があります。


http://maedakksz.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/12/H26-2-5.pdf#search='%E6%96%B0%E5%AE%AE+%E6%B0%B4%E5%AE%B3+%E4%BD%8F%E5%AE%85'



同じく落合さんの『熊野川沿い集落における水防建築「アガリヤ」の分布と分類』という論文の

PDFです。24ページに「アガリヤ」の写真かあります。

https://www.cpij.or.jp/com/ac/reports/17_22.pdf#search='%E6%96%B0%E5%AE%AE+%E5%B7%9D%E5%8E%9F%E5%AE%B6%E3%80%8C%E3%81%8B%E3%82%8F%E3%82%89%E3%82%84%E3%80%8D%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%82%8A%E5%AE%B6'










追記  川原町の略図(大正時代)。右が熊野灘・太平洋。下が新宮市街。左下が熊野速玉神社。

    神社の境内だけでなく、道路にも解体した『川原家』の部材を置いていたようです。


    



.

                   京都府立大学生活科学部住居学科 本多昭一教授の資料より








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またまた Robert Silman さん

2019-11-09 22:01:25 | 日記

アメリカのイリノイ州の州都シカゴの西90kmくらい、やや南、フォックス川という川の河畔に

ファンスワーズ邸(Farnsworth House)という、建築の設計の世界では超有名な、鉄骨建ての

住宅が建っているんです、、、。







こんな家なんですけど、、、






  ところが、この住宅の敷地は洪水危険地帯のど真ん中だったのです、、、。(中央の赤丸)





左はお施主さんのファンスワーズ(Farnsworth)さん。女医さんで腎臓専門医だったらしい、、。

右は設計したルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)さん。

(お二人のなれそめや、その後の詳しい事情については、このブログでは割愛、、、。)



(2分57秒あたりに、このブログの2016-08-13の記事『Chicago 'L'』の古い車両が出て来ます。)




この建物、少なくとも洪水に4回は遭っています。(特に近年多いので、例の地球温暖化、、?)


1954年  まだ、建ってわずか3年目。床上60cm。

1996年  床上1m50cm? 水周りと化粧合板が損傷。(1m50cmなら損傷どころでない、、、。)

1997年  床上5cm。それまでの?見積もりを取ったら、補修費用は何んと5000万円以上、、。

2008年  床上46cm。   

                 (以上、Wikipediaから、床上浸水のインチ・フィートの
                  数字を拾いましたが、間違っていたらごめんなさい。)





              ローエ(Rohe)さん、念のために、かなり高床にはしていたのですが、、、。




建て主のファンスワーズさんは、1972年にイタリアに引越してしまって、この家を買った英国人

は、2001年にイリノイ州に7000万ドル(約7億円?)で買うように話を持ちかけますが交渉決裂、

結局2003年にサザビーズ(Sotheby's)で競売にかけられて、1951年当時に建築費7万4000ドル

(当時1ドル360円のレート換算で2664万円? 今なら7080万円?)だったこの家は、The National

Trust for Historic Preservation and Landmarks Illinoisに、7500万ドル(約8億2000万円?)

で落札されたそうなんです、、、。(計算間違ってないかな、、、?)




でも、2003年にイリノイ州のナショナルトラストの管理下になった後も、この家は2008年の洪水

で、またしても水没してしまった訳で、、、。これを何とかしようと提案したのが、前の記事

『大手術』で、大手術をした Robert Silman さん。




最初の案は、そのままの場所で盛土して建物を持ち上げてしまおうと言うのですが、これでは

建物も景観もスポイルされてしまいます、、、。



Farnsworth House Flood Mitigation Project- Option A - Elevate from Saving Places on Vimeo.






次は、同じ敷地の中の少し離れたもう少し高い場所に『曳家(ひきや)』をしようと言う

のですが、Robert Silman さんいわく、『費用が掛かり過ぎる。』のだそうです。







最後の案が、Robert Silman さんのお薦めらしく、遊園地の巨大遊具のように、4セットの

油圧シリンダーと巨大ジャッキの組み合わせで、洪水時に建物全体をリフトアップしてしま

おうと言うものなのですが、、、



Farnsworth House Flood Mitigation Project- Option C - Hydraulics from Saving Places on Vimeo.





ですが、今現在でも、そんな工事をしたなんて聞いた事もありませんので、

また洪水が来たら、、、また水没してしまうと思うんですけど、、、。






敷地選定の際には、その土地の『冠水歴』に気をつけましょう。地盤の良し悪しはもちろんです。


                                        
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