むかし新宿に、TOPSという喫茶店があった。紀伊国屋書店の裏側、靖国通りに
出る角に建っていた、、、。
どうも、今の建物は建て替わっているみたいで、建物の凹に木が1本植わっているのは同じ
(『株立ち』だったかな?)だけれど、昔は、もっと低層の3~4階建ての建物で、設計した
のは原田さんという、僕の卒業した建築科の大先輩で、大阪の村野森事務所に長く在籍して
いた方のはずで、新宿では紀伊国屋書店と並ぶ良い設計の建物でした。1階の店舗の内部設計
も、外部空間の緑の採り入れ方や、床の高低差や(横の道が靖国通りに向かって緩く傾斜して
いたはず、、。)客席の落ち着きのあるアルコーブなど、とても上手な設計で、紀伊国屋書店
の帰りなど暑くて喉が渇いていたりすると、一人でも利用しやすい喫茶店でした、、、。
ある時、例の木が1本植わっている凹の横の、TOPSでも特等席の場所でアイスコーヒー
か何かを飲んでいたら、入り口のドアとの間の、僕の目の前の2人掛けの席に、若い恋人
同士みたいなカップルが座ってきた、、、。2人とも大学生かな?と思ったら、どうやら
男の子の方は社会人らしい、、、。女の子の方は、後姿しか見えないけど、凄くカワイイ
感じで、いいところのお嬢さんの女子大生かも知れないのだけれど、ずーっと男の子の話
を聞いているというか、聞かされているのでした、、、。
さっきから、この男の子の方が一人で何を話しているかというと、なんと『コーキング』の
話なのです、、、!『コーキング』と言うのは、一般の方には判りずらいと思うのですが、
建築工事では『シーリング』とも言って、ガラスと金属の間とか、石材と金属の間とかの『溝
(みぞ)』を現場で充填すると、後から硬化する『ゴム』みたいな防水材料なのです、、、。
この男の子は、『シリコンコーキング』と『ウレタンコーキング』の違い、ガラスと金属の間に
『○○コーキング』は良いけど、石材と金属の間に『××コーキング』は駄目とか、彼女に延々
と説明しているのです、、、!つまり、この男の子は去年か一昨年の新卒で、最近、組織設計事務所
かどこかで働き始めた、どこかの、それなりの建築学科の卒業生か何かなんだ、、、!(たぶん)
だいいち、ついこの間『建築知識』という雑誌で『コーキング特集』をやってたばかりじゃないか、
雑誌の知識を、そのまま受け売りするの、、、カワイイ女子大生の彼女に、、、? こっちなんて、
いまだに屋根の板金の『捨てコーキング』に『ブチルコーキング』を打った方が良いかどうかさえ、
判らないでいるって言うのに、、、。
僕は、その時、思いました、、、。『あぁ、日本の建築の設計の世界は、もうダメだ、、、!
終わっている、、、!女の子を口説くのに、コーキングは無ぇーだろう、、、!!』
おしまい