北海道函館市の建築設計事務所 小山設計所

建築の設計のことやあれこれ

『古道』 その1

2015-06-11 13:20:10 | 日記
「中世鎌倉街道 その6」の記事で、『これは「旧中仙道」で、藤森栄一さんの「古道」に出て

くる、黒耀石の「和田峠」に続いている道のはず」と書いたのですが、この時は記憶だけで

書いていて、あとから『古道』を引っ張り出して、久しぶりに読んでみました。黒耀石が

出たのは「和田峠」の奥の「星ヶ塔」という場所なのです。それはいいのですか、こんな文章

もあったのです。少し長くなって、その2、その3 にまでなってしまいそうですが引用

します。


昭和4年ころ、小海線清里駅で夕方の早い最終列車を逃した、当時二十歳の藤森栄一さん

は、一番近くの大きな町「佐久」を目指して、北に歩き始めます、、、、。(以下『古道』

学生社刊、昭和41年より)




  一時間半、やがて、長い六月の陽がおちかかった。もう佐久往還に出そうなもの

  である。まちがえたのかもしれない。私の歩いている道は、次第に深い雑木林の

  中に入った。木橇(きぞり)の道かもしれない。-見当をつけようー私は、見晴ら

  しいい林の切れ目をさがして、その軌跡からはなれ、雑木林の中を左右にさまよ

  った。六月ではあるが、山は寒い。しかし、私の額からは、汗が湯気になっての

  ぼった。

  そのとき、一度もかいだことのない、胸をかきみだすような生あたたかい匂いが

  むうっと、いっぱい顔をついて、私は思わず立ちどまった。いままでも、かすか

  にただよっていたのだが。-これはなんなんだーへんな人の唸き声もする。

  あたりは、まだ、夕べの光がかすかにただよっていた。見上げると、その匂いの

  もとは、私の踏み込んだ林の暗い梢から、白い房のように垂れ下がっている栗の

  花だった。私はそのふしぎな匂いの中にまよいこんだ。

   「だれだ?ここんとこは、俺のトヤだゾ」

  栗の林の下草の柔らかそうなしげみの中から、男が立ち上がった。心臓がとまる

  ほど驚いたその瞬間、私は草むらの中に、白い大蛇のようなものが、ぐぐっとち

  ぢまるのをみた。

  その男女が何をしていたのか、そのときの私には具体的にはわからなかった。が

  しかし、ひどく下品なことと思えたのである。クリの花の匂いは、いよいよ、む

  せかえるように、におってきた。

  暗闇の中を、私は、その男女について、叢林の中のふみわけみちを長いこと登っ

  て、丸太と板でつくった彼らの飯場へついた。そこには、十人ばかりの男と七人

  の女がいた。女はみんな十人のうちの女房であった。彼らは原始林から原始林へ

  わたり歩く、キコリの集団だった。飯場は、真中に土間が通って、いろりが三つ

  四つあり、その両側は板敷きで、私はそのいちばん隅に寝せられた。頸を上げて

  みると、暗いランプの下で、向こう側が全部男、私の側に女が寝ているらしかっ

  た。

  彼らは、彼らのいう学生さんに対して、とても親切だった。もっとも、リュック

  いっぱいに背負っていた、米と味噌とヒダラが魅力だったのかもしれない。私は

  なんということなしに、そこで二日すごした。



                この引用、『古道』 その2 につづきます、、、。





写真は、場所も違いますし、栗の木でも種類が違うと思うのですが、同じ長野県内なの

で、、、、上伊那郡辰野町大字小野「しだれ栗森林公園」の、「しだれ栗」です。















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