「中世鎌倉街道 その6」の記事で、『これは「旧中仙道」で、藤森栄一さんの「古道」に出て
くる、黒耀石の「和田峠」に続いている道のはず」と書いたのですが、この時は記憶だけで
書いていて、あとから『古道』を引っ張り出して、久しぶりに読んでみました。黒耀石が
出たのは「和田峠」の奥の「星ヶ塔」という場所なのです。それはいいのですか、こんな文章
もあったのです。少し長くなって、その2、その3 にまでなってしまいそうですが引用
します。
昭和4年ころ、小海線清里駅で夕方の早い最終列車を逃した、当時二十歳の藤森栄一さん
は、一番近くの大きな町「佐久」を目指して、北に歩き始めます、、、、。(以下『古道』
学生社刊、昭和41年より)
一時間半、やがて、長い六月の陽がおちかかった。もう佐久往還に出そうなもの
である。まちがえたのかもしれない。私の歩いている道は、次第に深い雑木林の
中に入った。木橇(きぞり)の道かもしれない。-見当をつけようー私は、見晴ら
しいい林の切れ目をさがして、その軌跡からはなれ、雑木林の中を左右にさまよ
った。六月ではあるが、山は寒い。しかし、私の額からは、汗が湯気になっての
ぼった。
そのとき、一度もかいだことのない、胸をかきみだすような生あたたかい匂いが
むうっと、いっぱい顔をついて、私は思わず立ちどまった。いままでも、かすか
にただよっていたのだが。-これはなんなんだーへんな人の唸き声もする。
あたりは、まだ、夕べの光がかすかにただよっていた。見上げると、その匂いの
もとは、私の踏み込んだ林の暗い梢から、白い房のように垂れ下がっている栗の
花だった。私はそのふしぎな匂いの中にまよいこんだ。
「だれだ?ここんとこは、俺のトヤだゾ」
栗の林の下草の柔らかそうなしげみの中から、男が立ち上がった。心臓がとまる
ほど驚いたその瞬間、私は草むらの中に、白い大蛇のようなものが、ぐぐっとち
ぢまるのをみた。
その男女が何をしていたのか、そのときの私には具体的にはわからなかった。が
しかし、ひどく下品なことと思えたのである。クリの花の匂いは、いよいよ、む
せかえるように、におってきた。
暗闇の中を、私は、その男女について、叢林の中のふみわけみちを長いこと登っ
て、丸太と板でつくった彼らの飯場へついた。そこには、十人ばかりの男と七人
の女がいた。女はみんな十人のうちの女房であった。彼らは原始林から原始林へ
わたり歩く、キコリの集団だった。飯場は、真中に土間が通って、いろりが三つ
四つあり、その両側は板敷きで、私はそのいちばん隅に寝せられた。頸を上げて
みると、暗いランプの下で、向こう側が全部男、私の側に女が寝ているらしかっ
た。
彼らは、彼らのいう学生さんに対して、とても親切だった。もっとも、リュック
いっぱいに背負っていた、米と味噌とヒダラが魅力だったのかもしれない。私は
なんということなしに、そこで二日すごした。
この引用、『古道』 その2 につづきます、、、。
写真は、場所も違いますし、栗の木でも種類が違うと思うのですが、同じ長野県内なの
で、、、、上伊那郡辰野町大字小野「しだれ栗森林公園」の、「しだれ栗」です。
くる、黒耀石の「和田峠」に続いている道のはず」と書いたのですが、この時は記憶だけで
書いていて、あとから『古道』を引っ張り出して、久しぶりに読んでみました。黒耀石が
出たのは「和田峠」の奥の「星ヶ塔」という場所なのです。それはいいのですか、こんな文章
もあったのです。少し長くなって、その2、その3 にまでなってしまいそうですが引用
します。
昭和4年ころ、小海線清里駅で夕方の早い最終列車を逃した、当時二十歳の藤森栄一さん
は、一番近くの大きな町「佐久」を目指して、北に歩き始めます、、、、。(以下『古道』
学生社刊、昭和41年より)
一時間半、やがて、長い六月の陽がおちかかった。もう佐久往還に出そうなもの
である。まちがえたのかもしれない。私の歩いている道は、次第に深い雑木林の
中に入った。木橇(きぞり)の道かもしれない。-見当をつけようー私は、見晴ら
しいい林の切れ目をさがして、その軌跡からはなれ、雑木林の中を左右にさまよ
った。六月ではあるが、山は寒い。しかし、私の額からは、汗が湯気になっての
ぼった。
そのとき、一度もかいだことのない、胸をかきみだすような生あたたかい匂いが
むうっと、いっぱい顔をついて、私は思わず立ちどまった。いままでも、かすか
にただよっていたのだが。-これはなんなんだーへんな人の唸き声もする。
あたりは、まだ、夕べの光がかすかにただよっていた。見上げると、その匂いの
もとは、私の踏み込んだ林の暗い梢から、白い房のように垂れ下がっている栗の
花だった。私はそのふしぎな匂いの中にまよいこんだ。
「だれだ?ここんとこは、俺のトヤだゾ」
栗の林の下草の柔らかそうなしげみの中から、男が立ち上がった。心臓がとまる
ほど驚いたその瞬間、私は草むらの中に、白い大蛇のようなものが、ぐぐっとち
ぢまるのをみた。
その男女が何をしていたのか、そのときの私には具体的にはわからなかった。が
しかし、ひどく下品なことと思えたのである。クリの花の匂いは、いよいよ、む
せかえるように、におってきた。
暗闇の中を、私は、その男女について、叢林の中のふみわけみちを長いこと登っ
て、丸太と板でつくった彼らの飯場へついた。そこには、十人ばかりの男と七人
の女がいた。女はみんな十人のうちの女房であった。彼らは原始林から原始林へ
わたり歩く、キコリの集団だった。飯場は、真中に土間が通って、いろりが三つ
四つあり、その両側は板敷きで、私はそのいちばん隅に寝せられた。頸を上げて
みると、暗いランプの下で、向こう側が全部男、私の側に女が寝ているらしかっ
た。
彼らは、彼らのいう学生さんに対して、とても親切だった。もっとも、リュック
いっぱいに背負っていた、米と味噌とヒダラが魅力だったのかもしれない。私は
なんということなしに、そこで二日すごした。
この引用、『古道』 その2 につづきます、、、。
写真は、場所も違いますし、栗の木でも種類が違うと思うのですが、同じ長野県内なの
で、、、、上伊那郡辰野町大字小野「しだれ栗森林公園」の、「しだれ栗」です。
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