きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

横暴旅行社、仲間を呼んでくる~札幌・星空の夕べのはずが、北広島での静養~その1

2025-02-02 22:32:51 | 旅行
Part I ダリヤ
 夏にアメリカの知り合いの娘さんが、日本旅行の途中でうちの実家に寄って行くらしい。古民家の見学か。こちらのとんでも旅行社(笑)はもう北海道に戻った後だが、自分はまだ滞在中で居るから適切に出迎えようではないか。

 数日前に(母)「あの子、新幹線の乗り換えはできないみたい」とは聞いていたが、当日(JR)「急に脱線して全部不通。代行バスが出るよ」(きの)「ちょっと待った!駅まで迎えに行く。」乗り換えもできない人が代行バスの存在を感知するとは思えない。

 結局、新幹線の駅まで迎えに行くことになった。暑い。いつ来てもこの駅は暑い!改札の前のスポットクーラーに貼り付いて待機。送風口と一緒になって動いて待つ。小さい時に会ったっきりだ。はて、どんな顔をしていたか。

 次々に出てくる旅行客を見ながら、それらしい人物を探す。あれかな。いやいや、成長したらあんな風になっているかもしれない。思い当たる面影に一番近いような人が来たので、前のめりで顔を覗き込んで(きの)「ダリヤ?ダリ・・?」話しかけてみたが(女性)「すみません。ちがいます」そそくさと逃げられた。

 このままこれを続けていると大層不審がられるが、ここで逃がしてはもっと面倒だ。と思っているとやけに顔の小さい胴体部分の割合が多いシルエットが現れた。うん、断然これだ。さっきの人は、よく考えたら日本人だった。

 そしておもむろに(ダリ)「具合いが悪い」(きの)「えぇっ?!」どうしたことだ。なぜせっかくのお出かけに体調不良で来るのか。(ダリ)「乗り物が揺れた」日本の新幹線が??さては神経質さんだな。パンとリンゴジュースを買って(きの)「塩分と水分で循環をよくしてみよう」どうにかして治そうと試みるが、その後の攻防にも進展は見られず。(きの)「トイレに行ったらどうか」(ダリ)「混んでる」(きの)「電車で少し寝てみたら」(ダリ)「寝ない」

 この光景は、なんかどっかで見たことがある。すごい既視感だとぼんやり思いながら、在来線でLINEのグループのなり方について喧々諤々の議論を交わしていて、ふと見たら空いてるわけでもない車内で他の乗客が自分達を中心に遠ざかっていた。

 そうか、この人はずっとそうだったんだな。忘れていた感覚を思い出してしみじみとしたが、ただ単にうるさかっただけかもしれない。そうこうしている内に駅に着いた。なんだか非常に疲れた。



Part II レタラとの出会い
 去年の晩秋、北海道にて日が暮れてから近くの公園を通って高架の下をくぐる小道にさしかかった時、橋の向こうの暗がりを灰色の大きな猫が走って行ったように見えた。雪を踏みしめ近づいて行くとダラリとしたシッポがやけに太く、猫にしては大きすぎる。

キツネだ。

 初めて見た。足の長い柴犬が持ち上がったような今までにないシルエット。足をクロスさせてウロウロとこっちの様子をうかがっている。ここ通りたいのかな、と思ったからくるっと引き返してそばの階段を上がろうとして振り返ったら、すぐ後ろまで近づいて来ていた。


 さて、どうしたものか。犬と同じなら逃げても追いかけてくるのか。小さい頃、イトコの家の大型犬を気軽に散歩に連れ出してひどい目にあって以来、犬は苦手だ。このまま走って一緒に家まで帰って、それでどうするというのだろうか。

 数年前、実家の家の近くの山で木を切っていたら、通りかかった婆様が昔ここでキツネを見たと言っていた。目がつり上がっていたらしい。もしあれがキツネなら、本当につり上がっているのか見せてほしい。そう思って背中を向けて逃げるのはあきらめ、正面を向いて対峙してみた。

 さぁ、見せてくれ。両手を広げて立ちはだかっていたら、目前まで来て「てへっ」とばかりに顔を伏せ、そそくさとすれ違って行った。

人間??

 なんだあの近江の番頭さんのような物腰は。絵本に出てくるずる賢い商人のイメージに納得がいった。そのまま遠ざかって行きながらも時々雪の斜面を駆け上がっては降りてきたりして遊んでいる。その後ろ姿に精一杯の小声で(きの)「車に気をつけるんだぞー。道路に出ちゃダメだー!!」呼びかけた。


(きの)「それがレタちゃん」 (娘)「?」

 足先の黒いうす汚れた白ギツネだったのでゴールデンカムイにあやかりレタラと名付け、エキノコックスの心配などしながら温かく見守る。アイヌ語なのだろうけど、学名などのギリシャ語でLuとかLeから始まる言葉は白を表すから、理にかなっている。レタスの茎から出る白い液体とかカフェオレのレとか。Rなのかな。

(きの)「レタちゃんはねー大きくなったらオオカミになるんだよー笑」(娘)「・・・。」種が違うと思いますが。小さいころからそうやってよく騙されてきた。(きの)「子猫の小枝ちゃんは大きくなったらタイガーになるんだから、今の内にせいぜい親切にしておくといいよ」その優しい嘘を大人になっても覚えていて、タイガーにならなかったじゃないかと詰られた。

 キツネはそんなに嫌いではないということがわかったが、公園にいた猫さん達がいなくなったのが気にかかる。まさか食われてしまったのか??肉食?春になり、いつか通りかかったらサビが一人でぽつねんとたたずんでいたので(きの)「(涙)どうか皆さんによろしく。天国の皆さんに。ヨヨヨ」などと声をかけ、あやかしを見るような目で見られて傷ついた。

 その後もまた夜に通りかかったら、うすよごレタラは笹薮の近くから並走してきた。害がないのでそのまま一緒になって走っていると、少し先の街灯に照らされる耳が見えた。(きの)「ん?」ということは2匹いるのか。と思っていると入り口の方から駆けつけてくるレタラその3が見え、もう誰がどれなのかわからない。夏になり最近は見ないが、どうした。猫達も戻ってきている。ただ嫌だから逃げていただけなのか。

 お盆の終盤に店を探して繁華街をさすらっている時に、遠くの幹線道路に横たわるベージュの背中を見たような気がした。家に帰ってきても気になる。あれはレタラだ。そうに違いない。(娘)「電話?」今日は土曜で役所は休みだ。道路関係の連絡先を探している内にロードサービスの車がやってきた。誰かに先をこされた。とりあえず出て行ってこっそり祈ってから帰ってきた。

 そういえば冬に、公民館のとこにエサをやるなとか貼り紙があった。安住の地を追われてこんな街なかの公園で暮らしていくことになった結果があれなのか。だから気をつけろと言ったんだ。賢そうだからわかってくれると思っていた。(きの)「電話したってレタラは帰ってこない。」じっと窓の外を見る。



そのIII 旅行 クラッセホテル#411 9,000円
 夏の終わりに出かける目的として「新札幌・夜にやってるプラネタリウムの夕べ」のはずだったが、調べてみると解説がやってないらしい。(娘)「もういい。保養だ!プールに入りたいよね!」(きの)「はぁ」星空はどこへ。札幌の近くの北広島の森の中にある保養地に出かけて行くこととなった。


 行く前に地図を見て確認。(娘)「ホテルからハチのようなバスが来ます」 蜂のようなバス??(娘)「他に何かしたいことないの」保養地で?(きの)「さぁ」森を散策したり?(娘)「いったい何がしたいのよ!」ひどい。(きの)「じゃあコスコに行きたい」Costco?

(きの)「うむ。」なぜか日本に帰ってからというもの、今まで住んだ場所のどこにもない。いつかの3月に横浜のイトコと行こうと思ったら、ダイヤモンドプリンセスが大変なことになって話が立ち消えた。(きの)「♪コスコー!コスコー!コスコスコスコー」なんでも歌にすればいいと思ってる。しかし、どうせ年会費もディズニーランド並に高騰しているに違いない。高校生の頃は1日パスポート5千円前後だったけど、今は1万円近くするらしいし。

 調べてみると年会費4千円。そうでもない。昔も35ドルぐらいだった気がする。住所の証明が必要らしいので、ちょうどいいのを持っている旅行社の方で取得する運びとなった。

 北広島はなんたらいう野球場で大賑わいの地方都市だった。駅の周辺だけに高層マンションが乱立し、今作ったばかりのホームに降りてあたりを見回すと、近代的なガラス張りのドーム型屋根がなんと(きの)「開いている」冬にはもちろん閉まるんだろうねぇ。そうでないと駅の中が雪だらけだ。

 どこかにホテルの送迎シャトルバスの乗り場があるはずなのだが。あの「Fビレッジこちら」と書いてある看板がそうなのか。Fビレッジって何だろう。Forest(森)かな。それとも妖精さん(Fairy)? Footballは関係ないし、A~Eまであるのかな。あとはFail(失敗)とかFool(ばか)とか。なんだか Fワードの集合体みたいで印象が悪い。

 おや、ここで昼飯の時間だ。駅にあった観光案内所で聞いてみると、困ったような顔で西側には喫茶店があります。東には何もありませんというようなことを言った。何もないってどういうことだろう。荒野でも広がっているのだろうか。新規開拓ならあながちありえなくもない気がした。

 喫茶店があるのなら、そこに行ってみよう。駅を出て歩いて行くと煤けた低いビルディングに飲み屋と思しき店が2,3軒。どこもやってないような時間帯だが??あの店はやっているのかなと検討をつけて近づいてみると(きの)「ジンギスカンは嫌だ!」急に好き嫌いが始まった。なんか食べれない。どうも食用の気がしなくて羊は食べれないのだよ。

 スーパーの入り口があった。地図で見ると駅前に生協があるらしいのだが、これかな。入ってみると衣料品や花を売っている。それにしてもなんだこの長いスーパーは。そして寒い。冷房が効きすぎてる。突き当りに食料品売り場があった。ここが生協?と思ったら違うみたいだ。ここが1つめのスーパーの終わりで、生協はこの先。長すぎる。野菜売り場には、黄色いスイカや、なんと珍しいクレメンタインを売っていた。まぁいいや、後で買えば。この先の生協にも行ってみよう。店を出て少し行くとスーパーが2軒あった。ありすぎだろう。

 とりあえず右の小さい方へ。地元で採れた野菜などを売っているようだ。真っ赤なトマトや手ごろなスイカ。とてもいいのだが品質管理が良くない上にコバエが飛んでいた。敷地内に生えている大きな針葉樹といい、ここが元からあった店のような気がする。だとしたら、左側の生協はその真隣に出店したことになる。そんな性格の悪いことをするのだろうか、コープさっぽろよ。とりあえず入ってみる。

 広い店内で、半分から向こうはまたさっきの店と同じような衣料品を売ってる。2軒も必要なのかな。そして、ここに至り、満を持して最終奥義を持ち出してきた。

(娘)「具合いが悪い。」

(きの)「えぇ!?」どうしてこんなに駅から最も離れたところで具合いが悪くなるのか。とりあえずいろいろと思いつくままに打開策を検討。(きの)「ああしてみれば、こうしてみれば」(娘)「ううん。特に」ごく最近どっかで見たこの光景。やっぱり仲間だったか。

 奥まった所に置いてあるイスに座り込み、盛大な沈黙の後にポツリと(娘)「温かいものが食べたい。」温かいもの?さっきのスーパーが寒すぎたのか。ここにはレストランなんかどこにもない。コンビニ・・・」そんなものはこの駅前に存在していない。なぜかスーパーが3軒あるのみ。


あとは森。


(娘)「あったかいものが・・」(きの)「探してきます」ベンチに残して食料を探しに行く。おにぎりやインスタントの味噌汁を見つけ(きの)「お湯はないでしょうか」(レジ)「ないです」くそう。予想が外れた。プランBとして用意していた茶わん蒸しをレジの向こうの電子レンジで温めて持って行く。一応食べたが、ぬるいのか(娘)「温かいもの」うぅ。少しだけ勢いを取り戻しむしむし食べている。

 その隙に自動販売機?そんなものははなから存在しない。どうしよう。うろうろ探し回っても時間だけがいたずらに過ぎていく。レンジで温められるもの。レンジで温められるもの。う~~~ん。(一休)「ポクポクポクポク・・・・・チーン!芋?」


芋?!


 芋をどうするというのか。そんな高度な調理ができるほどレンジの仕様に長けていない。(きの)「そうだ!」最近はなんとかっていうレトルトのスープがあったはず。前に見てこんなの誰が買うんだと思っていたが、今こそあれが大活躍する時だ!思いついて大急ぎで探しに行く。

 はて?何のコーナーにあるのだろう??大好きなもつ煮はコンニャクの売り場にあった。スープはカレーの一種だろうか。行ってみたらボンカレーの近くにあった。シリーズでミネストローネやクラムチャウダーなども出ている。これを説明通りにチンすればいいのだな。(レジ)「スプーンは有料です」ちんけなスプーンを20円も出して買わされた。

 その他食べれそうな惣菜を買って行き、どうだとばかりに並べてみると、少しは琴線にかかるものがあるらしく、手前のパプリカの酢の物などをついばんでは温めたスープをすすっている。もうこの病弱旅行社には頼っていられない。自分で道を見つけねば。どれどれ。HPで見たところ、送迎バスは1:25というのがある。場所はさっきの極寒スーパーの真ん前ではないのか。今は1:08。これなら間に合う。

 残りの食料をものすごい勢いで食べ始め、空になった端からゴミ箱に放り込む。さて出発だ。出て二手に分かれる。ホソボソと暖かい路上を行く方と、縦長の店を突っ切ってクレメンタインを買う方。競歩のような足取りで入っていき、みかんの入った袋をつかむとレジへ直行。大急ぎで払って先を進む。次のバスは2:45。乗れなかったら3時まであのジンギスカン広場で何をして過ごせばいいんだ。途中の花屋の時点で見た時計は23分。フッ、勝った。悪いが勝たせてもらう。カカシ先生のフラグ発言を思い浮かべながらひたすら歩く。

 ところが店を出た近くにあると思っていた停留所らしきもはなく、停まって待っているであろう送迎バスもいない。もう1本向こうの通りではないのか。と疑い始めた時に、遠くのロータリー入口あたりから黄色と黒のマイクロバスが曲がってくるのが見えた。確かにハチのようだ。左側からはいつか分かれた路上部隊がゆっくりと姿を現してきたが、そこからでは角のマンションが邪魔になって見えまい。

 ここで置いて行かれては一大事とばかりに(きの)「あぁっ!あれではないのか!」大げさに指さして、身振り手振りでわあわあ言いながら近づいて行って見事に合流する。見たか、この遊園地の観覧車のごとき乗り込みを。いつもギリギリだとわめいているが、今回が史上最速の乗車だ。

 警戒色の送迎バスに乗ってしばらく普通のひなびた道を走っていたが、途中からウッズという感じの涼し気な雑木林に入り込んだ。曲がりくねった小道が白樺と巨大なフキの間をどこまでも続いている。(きの)「あぁ軽井沢というか、どっちかって言うと蓼科(たでしな)だな」東急のハーベストクラブといういかにもな保養地に、またいつもの母の恩師の計らいで行ったことがあるが、霧に包まれて厳かで確かにこんな感じだった。

 バスの車内でも思ったが、着いてもまわりは上品な老夫婦でいっぱいだった。ロビーの端にゴルフバッグがずらりと並び(娘)「若い人は?」(きの)「だって保養地だもん。クスクス」そういうところも蓼科だ。ゴルフコースと温泉もあるらしいが、あいにく今回はテニスとプールが目当てだ。

 小高い丘の上に建つホテルは、気温が多少ひんやりしているが日射しがまぶしい。着いてもまだチェックインの時間ではないので、ロビーのソファーで休みたい。具合いの悪い人を連れてここまで来るだけで、ナゾの精神的な疲労感がすごかった。

 具合いの悪い人はおしなべて同じような態度を取る。こちらの提案が不充分な上に矢継ぎ早すぎるのか。それとも若者はみんなこうなのか。同郷の者どもめ。いかんともしがたいではないか。

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