ホテルに入って真っ先にロビーのソファーに座ってみたが、全面ガラス張りで西日が暑い。洒落た低いソファーでいつまでもデローンと寝そべっている病み上がりの旅行社(娘/予約筆頭)にそっとささやく。(きの)「宿の人にとりあえず話しかけてみよう。テニスは予約が要るのかどうかとか。」そうでないと、このグロッキーになって座っている人達が客なのか何なのか向こうからはわからないからだ。立ち位置を明確にしよう。
しぶしぶ立ち上がって聞いてみると、テニスコートは今バッチリ日なたで、そんなところで運動しようとするなんて狂気の沙汰だと即断する姿勢が明確に見て取れた。今日って27度でしょう?こっちは最低気温29度の南国から来てるんですけど。
普段の客層に合わせた慎重な気遣いにより(そのうち隣にある背の高い針葉樹林で日陰になっていくそうだから)、それまで別の事でもしていようかと思っていたら、部屋の準備が出来上がっているので入っても良しということになった。じゃあ部屋で休もう。さっきの店で買ったクレメンタインを食べながらうだうだする。すると、ミカンのビタミンCが効いたのか段々生きがよくなってきた。しかし大事を取ってしばらく休む。
ふと、ここエアコンあるのだろうかと不安になった。北海道はたまに公共施設や釧路など元から冷房が設置されてないことがある。涼しいから必要ないという判断なのだろうが、昨今の猛暑では冬季用の高断熱高機密とあいまって地獄のような空間と化している。着いた時にちょっと空気がひんやりしていたのでまさか。保養地にするってことは他よりちょっと涼しかったからということか!?
壁を見たらリモコンがあったのでホッとした。窓が上の方だけバカっと一列外側に開く仕様になっている。珍しいなこんな窓。面白がってガチャガチャ開けてみる。きっと昔はこの通気用の窓だけでしのげたんだろうな。
窓から見てると、下の駐車場の向こうに温泉なのか低い建物があり、黒い服を着た集団が出たり入ったりしている。葬式?の後の精進落としの集まりなのかもしれない。はるか向こうの景色に一部都市のようなビル群らしきものがうっすらと見える。あれが札幌かな。
小一時間ばかりするとかなり回復してきたので、まずはテニス。ロビーから覗くとコートのうち端の1面が日陰になっているので、さっそく申し込む。(ホテル)「ボールを3個あげましょう。時間は?」(きの)「30分」へぇ?30分でいいの?という顔をしたが、テニスを30分もやると結構疲れるのだぞ。
京都では鴨川のほとりでよくやっていたが、あそこはフェンスが低くて蹴鞠のような動きしかできない。もし外すと鴨や鵜のみなさんと一緒に流れていき淀川を通って大阪湾へ出てしまうが、ここはフェンスがかなり高いので気にせず打てる。
良い気分で打ち合いを続けていると、サーブのついでにまわりの草むらに黄色いボールが数個転がっているのを見つけた。泥が付いているところを見ると、ずいぶん前からここに落ちていたようだ。なんで3個しかくれなかったのかわかったような気がした。みんななくなっちゃったと言って戻ってこないからだな。しかし、この草むらをどうにかすれば、そのような顧客不審に陥ることはないのでは。拾って寄せ集める。
ゴルフボールも落ちていたので、ついでにゴルフボールで打ち合う。いつ何時、どんな球が来るかわからないのだよ。油断大敵。ゴルフのみなさんがドラゴンボールの界王星のような浮かれたカートに乗り、斜面を猛スピードで走り回っている。
それを見ていてそう思ったわけではないが、テニスの遠投ってないのだろうか。また良からぬことを思いつき、コートの後ろの方に下がって行ってフェンスギリギリから向こうのフェンスめがけて打ってみる。届くことは届くが、ポスッと網に当たって落ちる。つまらん。もっと飛び越えて真横のゴルフコースのホールを先に埋めてやりたい。
(きの)「うおぉりりゃあああ」拾ってきたボールも合わせてバシバシ打つ。テニスボールは空気抵抗とボール自身の軽さでなかなかフェンスを越えない。何の競技が始まってしまったのか知らないが一心不乱に打ちまくる。結局10回ぐらいやって越えたのは1コだけ。歩幅で測ってみたら50mぐらいだった。ちっ。大したことない。きっと体がなまっているせいだ。もっと精進しなければ。
すっきりしてラケットを返す。(きの)「はいこれ。落ちてたよ(ボール)どろォゴロゴロ」(ホテル)「はぁ?うわぁどうも」常々管理を怠るでない。特にゴルフボールは踏むと危ないのだよ。
晩飯はお待ちかねのビュッフェ。1人5千円も払うのだから、さぞかし ”良い具材” が揃ってるのだろう?ビュッフェは大偏食大会だ。行く前にグネグネと(娘)「全然予約してないし、食べれるとは思えない」逡巡している。(きの)「あそこにあるものを全部食べなくていい。好きな物だけ食べればいいのだからうってつけだ。なにがしかの栄養を取るべき」自分の好みもあるが、ホテルにある他の店には食べたいと思えるメニューがなかった。だいいち昼もろくに食べていないじゃないか。
ああだこうだ言いながら、とりあえず予約のない人でも食べれるのか聞きに行ってみようということで、エレベーターで最上階に上がっていくと(受付)「ふぅむ・・・」店員2人がそろって悩んだ結果、奥に聞きに行って窓際の席でなくてもいいならOKですということになった。
ほら見ろ、ディナータイムが始まった直後の早いうちに行ったら、空いてて何とかなりそうだと思ったのだ。船でも実感したのだが、窓際の席って意外と室内の照明が反射して自分自身が映って見えるばかりで、実際はもう1列内側に引っ込んだ席の方が落ち着いて景色の全体が楽しめる。
会場はやたらに広く、これまた全面ガラス張りの空中庭園のようなところだった。はるか下のどこまでも続くブロッコリーのような森を眺めながら食べるのは乙なものだ。
あんなに深い森に四方をかこまれて、きっとあの中に野生のクマがうようよしているに違いない。シカもキツネもいるだろうが、北海道といえばやはりヒグマだ。1頭のなわばりは何kmなのだろう。そうすると全体で何百匹もいるのだろうか。来るときの小道でバスが止まってしまわなくて良かったなどと思いながら真ん中あたりの席に着くと(きの)「なにあれ!」近くの席に案内されてやってきた禿頭のご老人の服装が完全に水戸黄門。
細かいお経のような文字がナナメに入ったホテル備え付けの浴衣に、なんかビリヤードの緑のフェルトで作ったとしか思えない派手なチョッキ。それに合わせるのはもちろんビニル地の茶色いスリッパだ。(娘)「ドレスコード?あなたも正装で来れば良かったんじゃない?ニヒヒヒ」ゼッタイ嫌だ。あんな格好でいやしくも4つ星ホテルのディナー会場に来ようと思う勇気がすごい。
よく見ると他にもチラホラと、浴衣のみとか、浴衣に自前のサンダルとか、個性ある着こなしの方々がおられるが、フォーマルなひと揃えはあの御大しかいない。陣羽織?というのだろうか、肩の辺がピッと出た独特のシルエット。お殿様という印象がぬぐえない。そもそも寝間着で部屋から出てくるのは避難する時ぐらいな気がするが。なんなんだろうこのホテルは。じつは元国民宿舎なのではないのか。それとも昔からのしきたり?
妙なカルチャーショックでドギマギしている内に食事は始まり、そこら辺の魚の中華あんかけをすくってきてちょこちょこ食べる。それにしても、ビュッフェに欠かせない飲み物がこんなに払って、お茶か水。ひどい。コーラの一杯でもいただければ。いまいち勢いが乗らないまま、舞茸の天ぷらに塩をかけて貪り食う。
奥の方の銀のお盆に、ダイヤ型に切ったオレンジ色のメロンが山盛りになっているのを見つけた。これは夕張メロンだな。炭鉱なき後、名産を作ろうと頑張った成果だ。スイカなど砂地が原産の瓜科は一定期間夏の暑さに当てないと甘くならないらしいが、寒冷な気候でどうしているのか。この上品なフランス産カンタロープ・メロンのような色合い。角の立った切り口が光っている。(きの)「美しい。ガシガシ」
案外気に入ったらしく、食事の途中でふいにデザートの時間が始まる。そうかと思うとまだ天ぷらに未練があるらしく執拗に取りに行く。メロン、天ぷら、天ぷら、メロン・・・。気がついたら天ぷらも自然に手で食べていた。実に野趣に富んだ食事風景だ。
このビュッフェの売りは100種類ぐらいの食べ物と共に、海鮮とカニの食べ放題だとか言っているが、どちらもそんなに好きではない。カニははっきり言って大きなクモみたいなので、自分で買ってきて調理しようとも思わない。もしも生きていて動きだしたらと思うと、絶対に無理だ。(シェフ)「さぁカニが来ましたよ!」べつに。
と思っていたら取って来てしまった。(娘)「これどうやってむくの?」(きの)「だからこれはこうやって、ボキッ」一度手を汚してしまったら、もうどうでもよくなり後はひたすらカニをむく。ズワイガニだそうだ。足が長く細い。ポキッと折るとスルスルと身が出てくる。
アメリカ人は金曜にこれを溶かしたバターにつけて食べるのだよ。ちらっと見ると(娘)「ベロベロ。」いい調子で食べていなさる。気持ちが悪くなったらいけないから、その話はしないでおこう。
小さい頃、お盆に帰ると叔母はカニを丸ごと何匹も茹でてくれた。西日本は胴体を食べるワタリガニだ。殻が固く容易には割れないが、無頓着な父は器具など使わず素手で握りつぶしていた。ワタリガニは肉の一つ一つが独立しているというか、すぐにほどけてバラバラになってしまう。それを自分がもういいというまで、ほの暗い電灯の下でむき続けてくれたことを思い出した。
よく食べた末に(娘)「トイレに行ってこようっと」ふいに立ち上がる。確かに入り口のすぐ外にあった。食事中に抜け出すのはあまり良くないとは思うが、仕方ない。そつなく出入りすればよいが、具合が悪い人なんかはそういう気遣いを失念しトラブルになったりする。そういう時は手でも振ればいいかと考えながら天ぷらをつまんでいるとすぐに戻ってきて、また間の悪いことにすぐに皿を持って列に合流したりする。案の定店員がちらちらと動きを目で追っている。
後で聞いたら出るときには伝えたそうだが、帰ってきてみると受付には誰もいなかったからそのまま入ったとのこと。はっきりさせないのもどうかとは思うが、ここまで露骨な態度を見せるなんて随分無礼なところだなと思った。
そういえば、この会場に外国人が多い。何人座れるのか知らないが、200人ぐらい入れるもはや体育館ぐらいの広さの空間の後ろの方に団体で居る。東南アジアから来たらしい彼らは、日本を楽しんでいる様子で行ったり来たりしてる。
先ほど着席する際にも(店)「こちらは初めてか」と聞くから、そうだと答えたらビュッフェに関する注意事項を最初からずいぶん丁寧に教えてくれた。こっちもなんでそんなこと聞くんだと思うから、ハイとイイエぐらいしか口を開かなかったせいもあるとは思うが、店側もそんなにマナーを気にして疑うなら呼んでこなきゃいいじゃないかと思うが、バブルの時代は日本人のゴルフ客で賑わってたのかなと思うとわびしい気もする。
ななめ前の一人で来ている客は、なんとなく学会で来たような風情だが結構な値段を払ってマグロがちょっと乗った丼を自分で作り、専門誌片手に食べてそれで終わり!?ちっとも楽しんでないじゃないか。カニは食べたのか?いらん心配などしながらこちらサイドでは一心不乱に剥き続ける。身を一列に並べた皿の横に、殻でタワーを作った一皿を置いておいたら知らない内に片付けられていた。(娘)「あっちに器具あったよ」そんなものは要らない。
食べている内に、あたりはもう真っ暗になってしまった。森の中に何やらログハウスのような三角の突き出た屋根があるが、あれがエスコンフィールドなのか。この会場はサウス・エルフィン・・・南エルフっぽいなにか。北エルフもあるのか。それともフォンをヴォンと書くこともあるから、エルヴィン?何か意味があるのか。それともただ南アルプスなどと名乗ってるだけ?
エルフィンとは:エルフっぽい(妖精のように小さく)ちょろちょろと飛び回る何かという形容詞。エルフィンロードは「茶目っ気のあるロード」、コープさっぽろエルフィン店は「微細な店」。
そもそもエスコンて何?結局Fビレッジもわからないし、それを言うなら日本ハムファイターズという名前もおかしい。野球界の伝統にのっとれば、「北海道ハムズ」もしくは「日本ハム・ポークス」がいいのでは。などと黒い森を見ながら考える。
結局メロンと天ぷらしか食べなかった。
早々に宴の喧騒を後にし、さて次は付属のジムでトレーニングだ。おかしい。保養に来たのではないのか。なぜこんなに30分きざみのスケジュールなのだろう。横でヨガのようなクラスをやっていた。多彩だ。
お待ちかねのナイトプールの時間がやってきました。地下のプールに夕食時に入ろうと思う人は居まい。ここでは水着を貸してくれるらしい。なんて便利なのだろうと思うと同時に、どう考えても洗ってるとは思うが、繊細な子さんは急に気になって下着の上から穿いた。
ついでに借りたゴーグルをしたら違和感だらけでとても痛い。サイズが合わないというより、曲線が合いすぎるのかピッタリはまってどこにも隙間がなく、真空状態となって目玉を吸い出そうとしてくる。大丈夫なのだろうか、これ?きよし師匠のような表情でひたすら泳いでみるが、とても不安だ。そして曇ってきて何も見えない。
奥にジャグジーが付いている。もはや手探りでそこまで這っていき、それで時々温まりながらひたすら泳ぐ。地下は温度が安定しているのか、夏だというのに水温20℃は寒い。温水プールだと書いてあったが、そんなに温かくはない。関東平野の小学校のプール教室の目安は25度だったぞ!アメリカのプールと同じだ。日差しは暑いが水は冷たいという不思議。どうしても慣れない。
横のガラス張りの小部屋にモンステラなどの観葉植物が植わっている。楽園の演出はバッチリだ。そのせいか知らないがビート板がいっぱい積んであるところに(きの)「この虫なに?」(娘)「ん?なんでもないよ。行こうか」ゴーグルが曇ってよく見えないのでより嫌さが増す。大きいカミキリムシみたいだった。北海道にも虫いるんだ。
気を取り直して泳ぐ。奴らも水の中までは入ってこないはず。しばらく真ん中辺の浮きヒモに足をかけて浮いて瞑想をしていた。こういう水と一体化したような感覚がいいんだ。プール最高!
昔シアトルの空港近くのヒルトン系列のホテルのプールで誰もいないのをいいことに1人で水に浮いて漂っていたら、横にあった透明エレベーターで上がって行く知らない客がこちらを指さしてやけに焦っていたのが見えた。水死体だとでも思われたのだろうか。変に騒がれてもいけないのでそれからは訳もなく人前で長時間漂うのはやめた。楽しいのにな。しかしここは貸し切りのようなものだから、もうしばらく浮いていよう。ムヒヒヒ
旅行の前に、電話したってレタラは生き返らないなどと意気消沈していたが、仮に、一般市民が市役所などの公的機関に連絡をしたら、それがこの世、この時代でいう「葬儀を手配した」ことになるとしよう。
そして、もしも上からアボリジニの創造主・バイアーメのような神々がやさしく見守っていた場合、あ、あの子とあの子は縁があったんだね(^^)と認定してくれないだろうか。なぜなら知らない人の葬儀は理論上手配できないからだ。
そうして最後の審判の会場で(あんた何教だ!)会った時に、知ってる人同士とみなされ、そうしてみんなで手をつないで同じところへ行けるのなら。うん、これはいい考えだ。だから、いいんだ。縁があったと思えることだけを理由に、これからもかけ続けよう。
誰もいない夜のプールでバチャバチャ泳ぐ。いつか見た四国の橋の下の、クサフグになったつもりで。
終了時間ギリギリでプールから上がり、売店がやっていたのでアイスを買ってかじる。オーロラを期待しながら寝たがいまいち札幌の街明かりで見えず。
朝起きてすがすがしい陽気の中、朝食へ。また昨日と同じエルフィン会場だが横から朝日が射しているのでまばゆい光景だ。ということは、またあの飲み物は水かお茶スタイルになるのか?と思ったらコーヒーやオレンジジュースがあるらしい。さっそく機械の100%オレンジと書いたボタンを押してみる。(きの)「ポチッ(音)ジャーゴボゴボ」色の薄い水のような液体が出てきた。これがオレンジジュース?原液の不足だろうが昨日といい何なんだここは。イライラ。
もうこれは苦情を言おう。落ち着いた態度で言えば大丈夫だ。カウンターの向こうにいた若い女性をつかまえて(きの)「コホン。すみません。これはどう見ても100%でないように思う。」毅然とした態度で控えめな嫌味を言った。
もし、薄いぞ!と騒いで、それはあなたの主観にすぎないと返されたらいけないが、100%かどうかは誰がどう見てもわかるはずだ。こんな透明なオレンジはない。
そうしたら、それがどうしたといわんばかりの堂々たる立ち振る舞いでパックを出してきてガチャン、ゴンと替えてくれた。そして最後にこちらが握りしめていた薄い液体の入ったコップを奪い取って行った。まぁ置いて行かれても困るが。
前にも慇懃無礼なホテルの従業員を見たぞ。秋の深まり・・・北海道のホテルで朝食、オレンジジュース・・・わかった!ウポポイに行った日だ。きっと北海道の人は朴訥なのだろう。それか柑橘にあまり縁がないからこだわらないのか。
もういい。かくなる上はコーヒーにデザート用の生クリームをトッピングして勝手なウィンナーコーヒーを作って
隣のテーブルでは韓国人らしき若いカップルが2組なのかわからないが、グループで穏やかに朝食を楽しんでいる。金持ちそうな爽やかな男にコーヒーを運んでもらったアンニュイな彼女は、大きなイヤリングに高そうなモコモコの部屋着を着て遠くの景色とスマホを等分に見ている。最近の韓国の人達は、ずいぶんオシャレになった。
80年代には、集団で釜山から船で下関に来て秋芳洞を観光しているのを見たことがある。日本の10年くらい前の服装をしたバーのママとジャッキーチェンが悪くなった風体の男達が口喧嘩をしているような姿勢で話しながら、存在感たっぷりに通り過ぎて行った。それが今ではその場の誰よりもオシャレで、まるで雑誌から出てきたように朝日に照らされている。
食べ終わってテイクアウトのコーヒーをもらう。氷を入れてアイスコーヒーにして、今日はこれを持って歩こう。そして裏口から外を見に行った。ゴルフ場があり、芝生に小道が続いている。いつかタクシーの運転手さんが話していたが、最近は韓国からゴルフに来るらしい。さっきのグループは、ゴルフ目当てかな。
昨日は暑くてよく見なかったが、針葉樹がずいぶん生えている。朝だからか全てが輝いているように見えたが、芝についた朝露だろう。キラキラ光る芝生は久しぶりだ。
テニスコートの隣の丘陵に、でっかい装置がある。あれはリフト?なぜリフトがこんなところに。冬はスキーもできるのかな。昨日のプールは半地下で、窓の上の方にあれが見えていた。ということは、あの辺の窓がプールだななどと考えながらすぐに戻ってきてチェックアウトだ。
ロビーの壁際には系列ホテルの説明や、入り口にはライオンズクラブの憲章が飾ってあった。会合で使うんだそうな。子供を連れた若夫婦がやって来て出発の準備をしている。昨日から久しぶりに見る日本人の若者だ。あまりの珍しさに、ここにどういうつもりで来たのか聞いてみたい。
送迎バスで帰りも送ってくれるらしい。時刻にはまだ早いが、早く出て外で待ってたらいい。そう言いながら飛び出して行ってしまった。8月にそんなことができるなんて。ところ変わればこうも違うものか。西日本ならギリギリまで建物の中に引っ込んでいたい。
出てライラックなどそこらの木々を見ながら待っていたらトンボが飛んできて止まった。赤トンボだ。旅行社が激写している内に(きの)「あっバスだ」勝手知ったるスズメバチのバスがやってきたので乗り込み、駅へ。
朝の便は大型の観光バスだ。それに昨日と同じ模様が書いてある。フキと白樺のあざやかな緑の世界はあっという間に遠ざかり、市街地へ出たら、急に何もない所で停まっておば様達が数人乗ってきた。この人たちは宿泊客?手ぶらな感じでとても観光しているようには見えない。従業員?がなぜあんな何もない道端にいるのか。道端に居る人誰でも乗せるのか。タダで?しかも朝から駅に行くだけの人達?謎が多い。
コスコ
コスコに行くには、近いと思ったが色々行程を経ないといけないらしい。駅のロータリーの反対側から出る路線バスに乗る。バス停に着いてはみたが時間があるのでまたクレメンタインを買ってきたい。なぜなら昨日のリカバリーの最中に全部食べてしまったからだ。家でじっくり味わおうと思って買ったのに。
もう一度、ロータリーの端からあの細長スーパー目指して進む。暑い。朝だというのにこの日射し。ジリジリジリ前頭葉を射してくる。北海道は涼しいはずでは。また入って行って、また買って出てきた。昨日からこのスーパーを行ったり来たりしている。
バス停のベンチに戻り、作りかけの駅ビルを眺める。防塵布に大きく貼り出した未来透視図のようなスタイリッシュな壁画によると、マンション? 駅を出て一番いい所に店でも作ればいいのに、こんなとこに住んで騒々しくないか。
そして、せっかく飲もうとした大事な特製アイスコーヒーを(きの)「バチャうあああ」ベンチにこぼす。慌てて持ってる紙を総動員して拭きまくる。後ろの交番からは何人か出てきて話し合ってどこかに行ってしまった。バスが来たので乗ってしばらく走り、一本しかない国道の途中で下りる。
(きの)「ココドコデスカ」(旅行社)「コスコの前にオンコを見たいか」(きの)「イチイ?」大昔なんとか左衛門が植えた樹齢100年以上の(きの)「見たい!」だいたいこういう時は迷う旅行社の案内で、最初に見に行くことになった。道の向こうに(きの)「あ!あっちにコスコ見えてるよ」(娘)「いいえ、こっち」どんどん離れていく。
(娘)「確か小学校の敷地内にある」不安なグーグルマップを頼りに歩いて行くと道沿いの柵の内側にはすでにイチイの木が並んでいるが、全部プリンのように剪定されてる。(娘)「これ・・・かな?」(きの)「そんな由緒ある木をこんな変な形にカットするわけないから、もっと別の場所にあるんじゃないの」
歩いて行ったらあった。自然な樹形といえば自然だが、てっぺんの所が雷で折れたのか切ったのか、無くなってる。幹は太い。元はもっと背が高かったのだろう。イチイは成長が遅いからあんまり大きくはないが、それでもそれなりに風格がある佇まい。(きの)「ふぅん」見て引き返す。
横断歩道をコの字に渡って、いざコスコへ。入り口では門番のようなベテランの大柄なオバさまが(音)「ピッ」入場者のバーコードを読みこんでいる。アメリカでも大体あのポジションにいるのはあんな体格のスパニッシュ系の人だ。オバさまの近くに石でできた座れそうな柱があったので、陰に腰を掛けて待つ。
人波が途切れたので顔を出して話しかけてみる。(きの)「ねぇねぇあの坂を登って行くとどこに出るの?」(オバ)「あぁあれは屋上駐車場」(きの)「じゃあフードコートは?」(オバ)「フードコートはそこだけど、ぐるっと回って来ないと。今日は食べに来たの?」(きの)「ううん、今あっちでカード作ってる。」(オバ)「じゃあ中に入りなさい。」入れてくれた。
カードもできたようなので合流し、満を持しての初入店。(きの)「わぁーコスコの匂いがするぅー」コスコのにおい??25年経っても覚えているとは犬のようだ。とにかく懐かしがってあちこち走り回って喜んでいるようなので当初の目的は果たしたと見ていいだろう。当人は、なにやらカード担当者の態度がむかつくとかでご立腹。
まずはメシだ!メシだ!ホットドッグにかぶりついておかわり自由のドリンクで流し込まなければいけない。というか、暑い中歩き回って飲み物をこぼしたから何も飲んでいないんだ!早く水分を取らねばと思ったが、メシコーナーはレジの外。
そんな。買った人しか食べれないなんて厳しすぎる。アメリカのコスコは入ってすぐの所にあったぞ。そしてトイレも大混雑のレジの外。いい加減にしてほしい。と思っていたら、人々はこっそりとカートを置いて、端の方の使われていないレジのヒモを外してすり抜けていく。どう考えても責められるべき行為ではない。では、トイレに行った帰りにお腹が空いたとしたらどうだろう。
スルリと抜けてまずは、ホットドッグだ。それとこのプルコギドッグというのも捨てがたい。ピザ1切れとスープとジュースと。買ったはいいが席を取っていない。なぜあんな大きな倉庫を有しておいて、食べるところはこれだけしかないのだろう??隣の山盛りカートのご家族は、その場で立って食べだした。こんなことでいいのか、会員制!アメリカ人は余裕がないことを一番嫌う気質ではないのかね。
しばらく呆然と見ていると2人組の婆様たちがこっちを見て手まねきしている。(婆)「こっちへ来なさい」呼んでくれたのでえへへへとばかりに相席。(婆2)「昔はもっとイスがあった」(きの)「ハワイピザ食べる?」など、なごみの雰囲気の中で食事を終える。
一方、前の4人掛けのテーブルを1人で占拠しているおじさんは、カートを横に付け、(客)「あのぉ、いいでしょうか」という問いに対して(オジ)「席を取ってる」などと憮然とした態度で追い払っていたが、見ていると同席者が来る気配もなく、そして何も食べていない。まぁ何かしら!というそこら中から突き刺さる視線の中で何十分も居座るなんて、並の神経ではできまい。
我がテーブルの優しいお婆様たちは挨拶を交わし、去って行った。するとそこへ母、娘、孫3人の家族が流れ着いてやってきた。1人が注文を取りに行ったりして、その間は2人で座っているが、食べる時どうするのだ。しょうがないのでこちらのカップを横によけて脇に寄り、子供を真ん中にいざなう。
なぜ人んちの子供を真ん中に挟んでギュウギュウ食べなければならないのか知らないが、これもさっき呼んでくれた婆様達からの恩送りとしよう。ギュウギュウの家族も礼を言い、このうたかたのピースボートのごとき乗り物から離れて行った。次はベビーカーを持った家族が・・・こちらももう行こう。
さっさと立ち上がってソーダを足して、いざ、ショッピングだ。本当に天井の高い倉庫な上に上までびっしりとリフトでないと取れないようなビニールぐるぐる巻きのケースが山積みになってる。イケアに行った時も思った。大量仕入れもいいが、こういうとこで地震が来ると上から巨大な物が降ってくる上に迷う。入ったら全員で真剣に地図を把握した方がいい。
どうやら全体像は、出入り口の近くのレジが頭で背骨とアバラのように通路が通っている。ではその通りに進もう。右のアバラをつづら折りに進みながらも常に背骨を意識しながら奥に進む。(きの)「カークランド・シグニチャー!キーライムパイにフェタ・チーズ!はぁうっ」感動しているらしい。が、実際問題あんなでっかいパイを買って帰ったところで食べれもしないし冷蔵庫に入らない。
途中の冷蔵コーナーでさっきのテーブル占拠おじさんが奥さんらしき人と歩いていた。そういえば終盤のころ、やっと奥さんが来て何か食べていたようだが、はて、奥さんは今まで何をしていたのだろう??おじさんの横のカートはほぼ空だった。今から新たに買い物をしているということは、さっき何も買ってなかったのだろう。しかし、買いもしないのに、どうやってあのレジをカートごとすり抜けてきたのだろう。
そして、今引き回しているカートはそのカートなのか。奥さんは買い物もせず、何十分もどこで何をしていたのだろう。それともカートは2台存在するのか。それぞれの巨大カートで楽しくおしゃべりしながら買い物ができるとも思えないが。謎は深まるばかり。待ち合わせをしていたのなら嘘は言ってないが、最終的に奥さんしか来ないのなら横にちょっと2人ぐらい座らせてやればよかったじゃないかよ。
買い物を続ける。意外に日本の企業が作った大型のものが多い。考えてみれば、コスコとはその地にある企業に頼んで大型の物を作ってもらっているだけだ。別にアメリカの商品だけを売るわけではないのか。それにしてもシリアルのチェリオスとか、1ガロンの牛乳、サワードウ種のパンなど売ってくれればいいのに。
散々なつかしーとか言っておきながら、実はコスコに向いていない性格だ。大容量のティッシュを買ってきては、なぜか「使ってしまわなければ」という使命感に駆られ、次々と消費していく。非常に無駄だし、その姿は資本主義の良くない所を文字通り体現しているようで怖ろしい。自覚しているが、気づくと「消費」している。
だから、あまり生活の一部として重用しないようにして、ただの楽しみの為だけに行くことにしていた。どちらかというと今日食べるものをちらっと近所に買いに行く方が向いてる。今日何を食べるかも決まってないのに、買いだめなんてできるはずもない。
いつかなんて、新しく出た水色のクリスピーm & mの大袋だけを買ってきたことがある。これで果たして35ドルの元は取れているのだろうかなどと考えた。
奥の方は寒い。生鮮食品のコーナーはすごく寒いので右アバラつづら折りの最後にちらっと寄って、また背骨を通って頭のレジの方に戻る。次は左アバラだ。左の奥は野菜室があって、もっと寒かった。もう部屋が冷蔵庫なんじゃないかというくらい低温で、北海道の人達でさえ「おぉさぶっ」とか言いながら出てくる。その中に、輸入してきた珍しいフルーツがあった。説明書きもあったが、冷静に読んでいられる程の温度はないので、これぞというものをひっつかんで外に出てやっと商品名がわかる。
小ぶりのイチジクも良かったが、変なドドメ色をしたプラムが珍しかったので、それを選ぶ。カリフォルニア産だそうな。何というか、見たこともない品種で、艶のないグミの実のようなボツボツの質感。赤紫と茶、それに薄緑がまじったような色合い。テニスボールぐらい大きい。
あとはソニアというニュージーランドの縦長のリンゴと、シーアスパラガスという海藻? さんざん見てまわった末に買ったのはこれだけだった。みんな巨大なビニールに入ったのっぺりしたパンをわしづかみにしてカートに入れていたが、そんなもの大量に買って全部食べるのだろうか。
レジで前に並んでミネラルウォーターの箱入りをわざわざ抱え上げてカートに入れていた老夫婦に(レジ)「1家族1個までです。回収します」と言って無慈悲に取り上げていた。なんて厳しいんだ。コストコ「ホール」セールではないのか。制限してどうする。
レジを通ってフードコートでまたペプシのお代わりをもらう。飲み物は確保しとかないとな。いつ失うかわからないのだから。出口でレシートをチェックし、カートの隅に置いといた着替えの入ったズダ袋を(店)「これは?」(娘)「これは関係ない!」そんな冷たい言い方しなくても、洗う前の洗濯物を間近で見せてやればいいじゃないか。