表紙の絵と題名だけ見て、何をどう思ったのか知らないが、てっきり産業文明が終焉を迎えた後のAI開発の世界を描いたSFだと思って借りてきたら、恋愛の本だった。
この「夏への扉」に似た意味ありげな優しい表紙の絵も、きっと主人公の発想の元となった思い出の故郷の家だろうと。他にも「双子座の星のもとに」、「帰郷」、「空っぽの家」など入り組んだ内容を想起させる興味深い題名があった。
作者の名前はロザムンド・ピルチャー。 ロザムンドとはいかにも濁点だらけで宇宙工学に詳しそうな白ひげの学者っぽかったのに。
全然ちがったじゃないか!
まぁいいや、せかくだから読んでみよう。
全体的にはソープオペラ(昼にやってるドラマ)のようなシンデレラストーリーだったが、こちらのお姫様はバカではなかった。運命に翻弄され他力本願で幸せにしてくれといった感じではなく、自らが考えて人生の岐路で堅実な方を選び取るところに、この作者が人気だったらしい理由がうかがえる。
最後の場面など、まるで自身が運命を操り、ややもすると未必の故意とも言える方法でプリンス・チャーミングを消し去り、「あぁ、そんなっ!!」って。
お前がやったに近くないか??
事前に橋が壊れそう→別の人とこのままそっとしておこうという結論に→当日ドライブの帰り道にケンカして彼氏は激高→手前の信号でそっと降りて「ほら後ろの車が詰まってる」と促す。
もしかして雨も自分で降らしたんじゃないのか!?
すっかりはまっている。
もしも、このお姫様が電話の内容も言い合いの詳細も知らず、本は訳アリの王子様が自分のオフィスに持って行って「後日発見しお礼に御父上より寄贈」とか書いて飾っていたとしたら、どうするのだろうという気はする。
それでも、はしこいお姫様のことだ。些細なきっかけからヒントを見つけ出してきてシンクレアの危うさに気づいたに違いない。そう思わせる勘の鋭さと聡明さと決断力(?)を兼ね備えている。
この本をディズニーの絵本の隣に置いたらどうかな。
お姫様像の変遷とかって。
おとぎ話の主題は、綺麗な衣装や特異な舞台というよりも、どうやら運命の掌握にあるように思えるから。