
カナダ、モントリオール大学アジア研究所日本語科科長で言語学者の金谷武洋さんが敬語という切り口で日本文化を支えている「地上の視点」について述べる一冊。
地上の視点とは、話し手と聞き手が同じ位置にいて、相手に溶け込む日本語のことをいい、近代西洋語はそれとは対照的に話し手は上空から見下ろすような視点をもっているといいます。
その例として筆者は日本語の「あげる」「くれる」の使い分けを挙げています。私たちはこの二つの言葉を当たり前のように使い分けますが、英語ではどちらも 「to give」とするのです。誰かが誰かに「もの」をあげようがくれようが、上空(=神の視点)からみれば「もの」が移動しただけだと英語では考えるそうです。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という一文は日本語の世界では、話者が汽車に乗っていると誰もが考えますが、サイデンステッカーの英訳では、
The train came out of the long tunnel into the snow country.
となって、英語の世界の人たちは、この視点が汽車の中にはなく、上空にある。いわば、鉄道模型のジオラマをガラスケースの上から眺めているような見方をするというのです。
私たちのことばのベースにあるものを考えさせてくれる一冊です。
最近のニュースでは例の東北関東大震災で被災された人々が痛みはお互い様とみんなで譲り合う、その精神の崇高さが外国人には畏敬を通り越して奇異に映るというような記事があります。もしかしたらそういう側面も地上の視点のなせるわざなのかも知れないと思いました。
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