蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

驕る平家は……

2013-01-17 | ステージ
近ごろソニーの凋落著しいが、ジョブス没後のアップルも、退潮目を覆うばかりだね。

iPad miniを買おうかと昨日、量販店をのぞいてみたんだが、製品の詰めの甘さにあきれて帰ってきた。木綿の生成りみたいな妙な色合いの縁が画面のブルーとしっくり来ないし、ポータブル製品だというのにサイズが微妙に手に合わない。なんか適当に決めてしまった感じ。

ジョブスが采配を揮っていた頃は、こういう細部を厳しく追い込んで、これ以上迷いようのないレベルまで突き詰めたデザインを採用していたのだが。

徹底したプロ意識で作られた商品だけが放つ、あのどうにも抵抗しがたいオーラがiPad miniには欠けている。そばに並べられていたグーグルのNexus 7やサムスンの端末の方が輝いて見えたぐらいだ。

完成度の高さが何よりアップル製品の魅力だったのに、これはどうしたことか。時価総額世界一の慢心? そういえば10年ぐらい前、下り坂をたどり始めたころのソニーも慢心が外部の目にさえ明らかだったよな。アイボとかいう、毒にも薬にもならないロボット犬なんか作ったりしてさ。独りよがり丸出し。

商品には商品自体の善し悪しとは別に、メーカーの勢いといったものが、おのずとにじみ出るのかも知れない。いまのソニー製品には、欲しいっ、と思わせる迫力がないもんねえ。
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前進座

2013-01-10 | ステージ

閉館が決まった前進座劇場のファイナル公演に出掛ける。出し物は、河竹黙阿弥の『三人吉三巴白浪』。このところ、歌舞伎がマイブーム(©春口祐子)なんです。

前進座は台所事情がラクではないと見えて、松竹系の舞台に比べると書割なんかかなり見劣りするが、役者の力量では引けをとらない。いや、一部の突出した才能にその他大勢がぶら下がる構図の多い松竹系とは異なり、脇役の水準が隅々まで揃っている点、勝っているとも言える。レパートリー劇団の強みだ。

それに、ここの歌舞伎上演は常に演出が入って感覚的に近代化するよう努めており、だから伝統遵守一点張りの舞台のように間延びすることが、あんまりない。この年明けのファイナル公演も、きびきびしたテンポが心地よかった。

それにしても、幕末の黙阿弥って人は随分と面白いドラマを書いたんだねえ。主役の一人、お嬢吉三は捨て子から歌舞伎の一座に拾われて女形になり、女装で強盗を働く。裏声から地声まで、状況に応じて声色を使い分ける。女の振りが、何かの拍子に思わず男声になってしまうところが可笑しい。

これを演じた河原崎国太郎は裏声を使うとき、いかにも女らしい女声ではなく、本来男である女形が出すはずの女の声、を出す。黄色い響きだが、ザラッと荒れたところのある声である。初登場のシーンでお嬢吉三は、娼婦のおとせのカネを強奪する。このとき、この声によって役上の女形と女とのコントラストがくっきり際立つ。これは明らかに計算して出している声であり、怖ろしいほどの芸である。

この役をはじめ、登場人物はどれも悪党であり、同時に正義漢である。一番の善人に見える娼婦宿の主も、ドラマの発端の悪事を働いた盗賊の過去を持つ。

そういう重層的な性格のキャラが予定調和を裏切る形で、どんどんあらぬ方向へドラマを引っ張っていく。驚いたことに、日本人が生理的に嫌う近親相姦のエピソードまで出てくる。兄妹が畜生道に落ちたってんで、断末魔に犬の真似を始めるんだから、あんぐり口が開いてしまう。若く美しい恋人たちも、ここではいつまでも清らかな善玉ではおられんのです。これはもう作者が筆の赴くまま、サディズムまでも満たすべく書きつけたようなドラマですな。

先人がこれだけ面白いドラマを書きまくってしまったんだもん、明治以降の劇作家が四苦八苦したのも無理ないよなあ。新派新劇ってのは、ホントつまらん。

前進座が自前の劇場を失ってしまったのは残念だが、今後も水準を落とすことなく活動を続けてほしいものだ。
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中村勘三郎

2012-12-31 | ステージ
昨日(12月30日)の昼下がりにBSで放送された『法界坊』は、見応えあったなあ。故・勘三郎丈追悼番組の白眉だったんじゃないか。

主人公は、剽軽さと残忍さとを併せ持つ破戒坊主。初めは色々とこっけいな振る舞いを見せ、間抜けなドジを踏んだりするのだが、だんだんと凶悪な面を見せ始め、最後は両性具有の悪霊と化して若い恋人たちをきりきり舞いさせる。

喜劇悲劇が入り交じり、切り子細工のようにめまぐるしくフェーズが移り変わる辺り、シェイクスピアもビックリである(演出の串田和美もそこを意識したらしく、墓穴を堀るシーンで『ハムレット』を引用したりしていた)。

あらゆるロジックを嘲笑し、非合理の極北でドラマを成立させるのが歌舞伎の面白いところだが、その面白さがこの作品では突出している。

主人公を演じるには当然、軽妙な喜劇性と悪役の凄みとが求められる。その相反する両面を、勘三郎はあきれるぐらい鮮やかに演じきっていた。コミカルな彼は、たけしや桂文枝が逆立ちしてもかなわないほど粋なお笑い芸人である。一方、悪霊の演技、というより舞いはヘタなホラー映画そこのけの怖さだ。

この18代目中村勘三郎という人、一般に体格の貧弱な歌舞伎役者の中でも際立って短躯だった。だが、その小柄な彼が目を剥いて呪いを掛けると、画面いっぱいにグロテスクなオーラが立ち込める。煌々とライトを照らしてほとんど陰のない歌舞伎のステージでこれだから、凄い。

歌舞伎界というぬるま湯が淀んだような思考停止社会の住人たちは、大抵が昔ながらの定型を守るばかりで個人の意志をパフォーマンスに表すことが滅多にないが、この役者は別だった。定型を破ることに、きわめて意欲的だった。

歌舞伎以外の演劇界から演出家や俳優を引き込んだり、コクーン歌舞伎や平成中村座を始めたり、といった実験的活動もその一つだが、歌舞伎の上演スタイル自体に彼ならではの独自性があった。

言い忘れたが、この『法界坊』は2007年ニューヨーク公演の録画である。なので、セリフの一部を英語に変えたり、黒人俳優に雷神を演じたさせたりしている。04年のNY公演でも、目明かしの代わりにニューヨーク市警の警官とパトカーを登場させていた。

そういう一見イージーな思いつきが、しかし勘三郎の舞台では安っぽく浮いて見えない。それは、彼が伝統の基本をしっかり押さえていたからだろう。土台が堅固だから、その上の飾りを少々いじっても大きくぐらついたりしない。

見得や殺陣は、大抵の歌舞伎役者が型に則るだけでお茶を濁すが、勘三郎は体力の消耗を怖れず、体操選手も顔負けの激しい身体表現をした。前述墓穴掘りのシーンの所作など、無駄なく洗練されたステップがバレエを思わせるほどだ。みっちり舞踊の基礎を身につけていることが、そこから容易に想像できた。歌舞伎は本質的に舞踊劇なのだ。

法界坊は父親の先代勘三郎の当たり役だったそうで、激しい動きもバレエのような所作も先代が創始したらしい。しかし、軽快なドラマの展開と生き生きとした人物造型に漂う今日的なセンスは、間違いなく18代目独自のものだった。

陳腐な言い方だが、歌舞伎界は、日本の演劇界は巨大な人材を失ったものだと改めて思う。その証拠に、別の役者による『仮名手本忠臣蔵』の一部を同日夜に放送していたが、こっちは伝統一点張りで創造性に欠け、15分も観れば眠気を催すような代物だった。
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良心的

2012-09-03 | ステージ
北米各地に流れ着く震災漂流物の処理費用負担を、政府が検討してるんだと。ワー良心的。

でもさ、日本て被災国じゃなかったっけ? 東北では、いまも気が遠くなるほど大量のガレキが未処理のまま山になってるんじゃなかったっけ?

それでもって、処理費用は税金から出すんだよね? で、国庫は1000兆に迫る天文学的赤字で、11月ごろには空っぽになってしまうんだよね?

赤字の大きな原因の一つは、ドル建て米国債という貸し金の形で、日本のカネがじゃんじゃんアメリカに吸い取られたことだったよね?

その米国債は、アメリカの同意なしには売却できず、日本が抱え込んでるうちに円高という数字のマジックでドンドン値打ちが下がって、つまりアメリカの対日借金は大半チャラにされたんだよね?

でも、出す義務のない処理費用をアメリカに対して出す。ワー立派。さぞ感謝されることだろうよ。アホか、とハラの中で笑われながら。
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純愛

2012-06-05 | ステージ
菊池直子を匿っていた男、分類すればやっぱり犯罪者なんだろうなあ。執行猶予になるとしても、前科はつく。

しかし、オウムの女と知ってなお2年間一緒に暮らし、女が捕まったと聞くとみずから出頭したって、人間としちゃ、ヘタな政治家より出来てるんじゃないの? オレなんか、気が小さい上に自分がカワイイから、オウムと知ったら震え上がって警察へ駆け込んじゃうね。

一方、官の世界じゃ原子力安全委が電力会社に全電源喪失対策不要の理由を作文させていた事実が発覚。委員長の班目いわく「隠蔽したと取られても仕方がない」。問題は「隠蔽」以上に「作文」だろが。毎度のことだが、話をすり替えるなと言うんだよ。

こういう税金泥棒はお咎めなし。体を張って女のシェルターになった男は逮捕される。これって、当然?
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