蒲田耕二の発言

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ハイレゾ・カラス

2014-10-27 | 音楽
e-Onkyoを覗いてみたら、カラス主演のオペラが何種類かアップされていた。残念ながらDSDではなく、24bit/96KHzのPCM。でもCDよりはマシでしょう。

取りあえず『トロヴァトーレ』全曲をダウンロード。Macだと一括DLができなくて、50何回もクリックしなきゃなんなかった。同じファイルを2度クリックしたり、必要なファイルをスキップしてしまったり。なんとかしてくれよ。

ともあれ、USB-DACで再生してみる。うっわあ、いい音。歪みほとんどなし。ノイズ勿論なし。弦はのびのび、カラスの声も円やかに艶やかにスルスル。いままでeBayその他で、ない袖振って初期プレスLPを競り落としていた苦労は、なんだったのだ。

ひとしきり狂喜乱舞、かつ地団駄。そして我に返った。待てよ。これって、キレイすぎない? カラスの声、こんなにクセがなかった?

むくむく頭をもたげる疑念のままにLPを取り出し、聴き比べる。やっぱり違う。LPのカラスには体温がある。体臭がある。ツバが飛んでくる。ツメで引っ掻かれそうだ。

それに対してハイレゾ音源のカラスは、なんか洗濯されてしまったみたいなんだよね。ツルツルしている。一点の曇りもないガラスの向こうで行儀よく歌っている。キレイで安全で、手が届かない。

これ、ノイズ削減のせいじゃないかな。レコード会社は50~60年代の古い音源をCDにトランスファーするとき、必ずノイズ・フィルターを通してアナログ録音の宿命だったヒスノイズをカットする。これが曲者で、ノイズと一緒に音楽の微妙なニュアンスを削り落としてしまうのだ。

いまのノイズ・フィルターは性能が飛躍的に向上したから音楽信号を損なうことはほとんどない、と下記Completeの付属ブックレットに書いてあるが、ダメージはゼロじゃない。そのほんのわずかなダメージを、人間の耳はとらえてしまう。

ふと思いついて、Completeから同じ全曲盤のCDをリッピングしてハイレゾ版と聴き比べてみた。条件を揃えるため、24bit/96KHzにアップコンバートして再生。

なんや、大して変わらんやんけ。

いや、よく聴けばCDの方が声の響きが尖ってるし、弦のピアニッシモとかホールエコーとかの微細信号が少ないことが分かる。でも、目くじら立てるほどの差ではない。

ハイレゾとCDの距離は、LPとハイレゾの距離よりずっと近い。ま、ハイレゾもこれはこれで悪い音じゃないから、DLして後悔はないけどね。

で、さっきからcomplete, completeといってるのは、海外のワーナーから先月発売された "Callas Remasterd: Complete Studio Recordings" のことです。旧EMIの時代にも似たような全集セットが出ていたが、今度はオリジナル・テープからマスタリングをやり直したんだと。

なるほど、CD同士の比較では大半が過去に出たどの盤よりも素直な音で聴きやすい。まだ半分も聴いてないけどね。

ただし、『メデーア』は別。この全曲盤は普通の1/4インチ磁気テープではなく35ミリ磁気フィルムを使って録音され、おかげで1957年の時点では驚異的なハイファイ録音だった。そのオリジナル・マスターがどうしても見つからず、仕方なく「第1世代のコピー・テープから1990年に作成されたデジタル・リマスター」を音源に使ったんだと。

てことは、16bit/44.1KHzのCD制作用データもしくはCDそのものを音源にしたってことでしょ。ゆえにSACDの発売もハイレゾ音源の配信もなし。せめて「第1世代のコピー・テープ」を音源にすりゃいいのに、それも行方不明なのかね。

元ネタの90年版CDと聴き比べてみたら、旧EMIの悪い癖だった高音強調を改め、より落ち着いた音質に改善してある。同じスタジオで同じスタッフがやってるんだけど、マスタリング技術が向上したのか、俗受け狙いの音作りを反省したのか。しかし、低ビットレート、低サンプリングの根本的な欠陥はそのままだから、やっぱりLPと比べたら……あ、もうやめます。
コメント
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