岡部鈴さんは渋谷で初女装して、なんと新宿まで電車で移動するという大胆な行動にでました。
そして、女装のことばかり考えるようになったのです。
BEATUPIの女装体験から、私はいつも女装することばかり考えるようになっていた。
どうしたら綺麗になれるのか、そのためにメイクはどうするのか。他人にやってもらうのでは
なく、せめて自分で出来るようになりたい。
四月も終わりに近づいた日曜日、私は以前メイクをしてもらった渋谷の女装サロンSに再度
向かった。今度は、お金を払ってメイクをしてもらうのではなく、自分で出来るように一から
メイクを教えてもらおうと思った。
必要な化粧品をネットで調べ、百円ショップで購入、ユーチューブで化粧方法の動画を参考
にしながら、ある程度の予習はしておいた。
昼過ぎにサロンの扉を開けると、以前メイクをしてくれたMさんが優しく迎え入れてくれた。
「あら、いらっしゃい」
「あの時は、大変お世話になりました。お陰でとても楽しい一夜になりました」
そう私が答えると、
「初めて化粧して、電車に乗って外出するなんて、凄い度胸だって情感心していたわよ」
とMさんは笑った。
確かにそうかも知れない。普通はもっと控えめに、慎重にステップを重ねて行動していくも
のなのだろう。今思うと、あの日の無鉄砲なパワーは一体何だったのだろう。
「他の会員さん達は、今日は?」
と私が開くと、
「今日は天気も良いから、皆お出かけしているのよ。夕方頃には皆帰ってきて、ここで色々と
お話ししたりするの」
Mさんは、穏やかな口調でそう答えた。
私には、そうやって自分でメイクをして、自由に外出をしていく女装さんたちがとても羨ま
しく思えた。
「今日は、ここで少しメイクを勉強しようと思って来たんです。色々と教えてもらえますか?」
と私が開くと、
「化粧台も鏡も化粧品も自由に使って良いからね。とりあえず自分でやってみて、わからなか
ったら何でも開いてね」
と、Mさんは答えた。
渋谷の女装サロンSは、道玄坂にあったあのお店かな?と想像しています。
総務部長はトランスジェンダー 父として、女として | |
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