1997年に徳間文庫から刊行された『性鬼伝』(いそのえいたろう著)には女装者が2人取りあげられています。
とりはキャンディキャンディとなって街を行く有名な女装者・塩崎雄三氏。もうひとりは向島で名物となっているオトコ芸者・真紗緒姐さん。
いそのえいたろう氏は11PMなどで風俗レポートをしていたベテランの風俗ライターです。
そして、この本も女装者だけではなく、縄師・ボンデージ師・ボディピアス師と多士済々。20世紀末の東京の性風俗を丹念にルポしています。
今日はオトコ芸者の真沙雄さんのところは抜粋してみます。
ただ、これはこの本のごく一部だけ。
奥の深い本です。
興味のある方はぜひamazonやブックオフで手に入れて読んでみてください。
向島名物オトコ芸者 真沙緒
お座敷に出る前に化粧をしていると不思議ですね、もう何もかも怖くない。根は赤面症で人見知りするのに、ヅラをつけて芸者の姿になりますでしょう。
そうすると鬼に金棒ですのよ。まったく敵知らずの気持ちになってしまいますの。何かが乗り移るんでしょうかねえ。
女という仮面をつけると強くなれるなんてオカマじゃないと味わえないでしょうね。
そして今晩は、とお座敷に出ますでしょう。するとオトコの身体の中にですよ。こんどは子宮がついたみたいに女っぽく、いや女そのものになりきれるんです。
オカマは毒々しくトゲっぽいけれど、芸者になりきるとそれこそ生理が始まったんじゃないか、と歩き方も小股になって、手先までも女っぽくなれるんですのよ。 で、 あたし、オトコ芸者でございます、と、天高く宣言していますから向島界隈ではちょっとは知られているんでございます、でもオカマと知らないべお客さんの場合、少々まごつきますわ。
正体バレだ方がやりやすいんですがね・まったくバレずにいるとかえって疲れてしまうんですのよ。
お酌して、話の腰を折らないようにハイハイとうなずいているうちに男声でございましょう。
えッ、お前、まさか。オトコじゃなかろうか、とちょっぴり不審な目つきを素早く見とるともう隠さず、スミマセン、オカマなんです。チンチンのついたオトコー身づくろいは女でもオトコでござい、とやると遂に、そうか、偉い、なんていわれてチップのひとつも頂戴することが多いんです。
キレイな芸者さんは天然物でございましょう。あたしは人工加工ですから、とてもとてもかなわないけれどあたし、ひとつだけ自慢出来るのは芸者衆にはとうてい出来ない道化の役どころは全部引き受けておりますの。
バカだ、間抜けだ、どうぞ存分にいって下さい。世の中の愚痴、不平不満、あたし、全部お引き受けしております。そりゃ、オカマですからお客さまのウサ晴らすのが大切なお仕事ですからね。
いいんです。一晩パーッと気分よく過ごしていただくためにあたし、道化も大切な芸だと信じておりますからね。
オトコ芸者は何も怖いものがないんでございます・犯されようとも犯される道具を持っていませんしね。
アハハ……あたし、花街で一番、怖いものなし。矢でも鉄砲でも……とおもっておりますのよ。あら、あら、男っぽくなってしまって、ごめんなさい・色っぽくすましているつもりが根がガラッハチっていけませんねえ。
出典『性鬼伝』いそのえいたろう著 1997年 徳間文庫
真沙緒姐さんはゲイボーイから芸者に転身?されました。
「子宮がついたみたいに女っぽく」....。
すごくいい表現ですよね。
感服です。
amazonではkidleにはなっていないですね。
古書だけのようです。