古森病院@福岡市博多区です。
管理人は複数のメールマガジンに登録しています。その中の
医療ガバナンス学会という学会のメールマガジンに
元、亀田総合病院の副院長であった小松秀樹先生が投稿されている記事が
面白かったため、ブログ記事としました。(転載歓迎とのことですので)
電子カルテは便利な反面、様々な問題を孕んでいます。
当院も一部 薬剤注射オーダリングシステムのみ導入していますが、オーダリングシステム
導入に当たってさえ、第二の公共事業ではないかと思ったことは一度や二度ではありません。
地域包括ケアシステム構築のためのIT化を進めるにあたって、注意しないといけないことが
書かれてあります。
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『地域包括ケアの課題と未来』編集雑感 (10): 情報ネットワークシステムについて
(ソシノフブログhttp://www.socinnov.org/blog/p379より転載)
小松秀樹
2016年1月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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亀田総合病院は日本で最初に電子カルテを導入した。亀田信介氏はその院長である。『地域包括ケアの課題と未来』で、以下のような主張を展開した。電子カルテやアプリケーションを共有すると、地域での医療に関する情報のやり取りが容易になり、CTの読影などで、専門家の協力が得やすくなる。結果として費用が節約され、診療水準が向上する。ただし、従来の電子カルテでは、他の電子カルテに乗り換えられないようにするために、情報伝達をやりにくくしていた。多様性を認め、進歩を阻害しないようにするために、一定の条件を満たした医療・介護サービス提供者は、共通の電子カルテを使用しない場合でも、公正な条件の下に、平等に情報にアクセスできるようにする必要がある。電子カルテやアプリケーションの使用について、参加と脱退の自由がなければ、公正な競争は生じず、進歩が阻害される。
しかしながら、電子カルテをいかに改善しようと、現状では、病院、診療所、介護施設の間で情報伝達がスムーズに行われるようになるとは思えない。病院の電子カルテの構造は複雑で、大量の情報がさまざまな場所に収められている。情報の収納の場所、情報を引き出す方法は多彩である。収納場所を探しあて、必要な情報を引き出すのは簡単ではない。情報にアクセスできても解読は難しい。同じ病院であっても、診療科ごと、医師ごとに書かれている内容や書き方が大きく異なる。いたるところでコピー・アンド・ペーストが行われ、重要な情報が、重複した大量の情報の山の中に埋もれている。急いで入力した情報が、誰のチェックもなしにそのままになっているので、間違いが少なからず存在する。
しかも、職種ごとに記載が大きく異なる。例えば、看護記録は医師の記録とは別系統で残される。温度板と呼ばれる体温表が中心におかれ、その周囲にこまごまとした看護記録が記載される。
病院という組織は極めて複雑であり、医療に関わるさまざまな専門分野が関与している。それぞれの分野は独自の行動形態、言語論理体系を有している。いくつかの分野では、国家資格が設定されている。これは、それぞれの分野が、外部から関与できない独自の領域を有していることを示す。すなわち、それぞれの分野が小さな社会システムを形成している。病院には、医師システムとそのサブシステムとしての各診療科システム、看護システム、薬剤システム、リハビリシステム、診療報酬システムなど多様なミニ社会システム(コンピューターのアプリケーションではなく、文字通り社会システム)がその領域を独占しつつ、機能を発揮している。電子カルテは単一の世界ではなく、多くの小さな社会システムが出会う広場である。
筆者は、亀田総合病院で、管理職として、医療が適切に行われているかどうか、チェックすることがあった。例えば、個人輸入の薬剤の使用例について、説明と同意がどのようになされているのか調べたことがある。電子カルテで状況を把握するのに、膨大な時間を要する。しかも、必要な情報をすべて把握できたかどうか、はなはだ心もとない。インフォームド・コンセントに関する記録が見つけられなかったとしても、本当に記録がないのか、記録はあるがそれを発見できなかったのか、確信が持てない。
地域包括ケアの対象となる人たちに対するサービスの目標は、在宅であれ、施設であれ、日々の生活をよくすることである。具体的には、衣食住と排泄の確保、人間関係の中での居場所の確保が目標になる。医療はこの一部を形成しているにすぎない。利用者にとって医師より介護職がはるかに大きな存在になる。医療にしても、生存期間を延ばすための積極的治療より、生活に悪影響を及ぼす症状の緩和など、日々の生活を支えることが目標になる。病気の治癒、生存期間の延長を目的とする病院とは、活動が全く異なる。
地域包括ケアで必要とされる情報は、生活していくのに必要な情報である。こうした情報が、ケアに関わる人たちで共有されなければならない。あるいはいざとなった時に簡単に参照できるようにしておきたい。病状についての情報として、障害の程度と将来の予測、必要な医療的措置と問題点(例えば、排尿できなくなった人に使用される尿道カテーテルの扱いなど)、投薬内容とその重要度などがある。患者側についての情報として、患者が考える望ましい生活像、患者・家族の病状理解、医療者への要望、住所と地図・駐車場、キー・パーソンの氏名・連絡先などがある。経済状態の記載は難しいかもしれないが、生活を支えるには重要な情報である。サービス提供者側に関する情報として、ケアマネジャー、関係職種の氏名と連絡先などがある。
上記情報の内、病院で得られるものは必ずしも多くない。少なくとも、急性期病院の医師が、障害の程度と将来の予測について書くことは、要介護認定のための診断書以外ではほとんどない。尿道カテーテルの取り扱いなど患者と家族にとって重要な関心事について、診療録に書かれていたとしても、探し当てるのは至難である。急性期病院の医師の多くは、ケアに関わる人たちが共有すべき情報が何かを知らない。しかも、多くの医師は、介護施設や介護事業者に対し関心と知識を持たない。知らず知らずのうちに、介護側に対して傲慢にふるまうことがある。たしなめられることがないので、修正できない。
現時点で、医療と介護の間でITが活用できる状況にはなっていない。ケアの必要な高齢者についての情報のやり取りのルールを地域で決めて、申し合わせをすることを提案したい。規格として明文化し、大げさな演出で協定を結び、互いを縛るようにしてもよいかもしれない。現状では、電子カルテを介するより、まずは紙ベースで、公正かつ合理的なやり取りを確立すべきであろう。
今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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病院ホームページ http://komori-hp.cloud-line.com/
追記
管理人は 患者さんの情報交換は今からは電子カルテではなく、group LINEのような
汎用性の高く、即時に伝わるコミュニケーションアプリケーションツールを
使用したほうがよいと思います。
管理人は複数のメールマガジンに登録しています。その中の
医療ガバナンス学会という学会のメールマガジンに
元、亀田総合病院の副院長であった小松秀樹先生が投稿されている記事が
面白かったため、ブログ記事としました。(転載歓迎とのことですので)
電子カルテは便利な反面、様々な問題を孕んでいます。
当院も一部 薬剤注射オーダリングシステムのみ導入していますが、オーダリングシステム
導入に当たってさえ、第二の公共事業ではないかと思ったことは一度や二度ではありません。
地域包括ケアシステム構築のためのIT化を進めるにあたって、注意しないといけないことが
書かれてあります。
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『地域包括ケアの課題と未来』編集雑感 (10): 情報ネットワークシステムについて
(ソシノフブログhttp://www.socinnov.org/blog/p379より転載)
小松秀樹
2016年1月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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亀田総合病院は日本で最初に電子カルテを導入した。亀田信介氏はその院長である。『地域包括ケアの課題と未来』で、以下のような主張を展開した。電子カルテやアプリケーションを共有すると、地域での医療に関する情報のやり取りが容易になり、CTの読影などで、専門家の協力が得やすくなる。結果として費用が節約され、診療水準が向上する。ただし、従来の電子カルテでは、他の電子カルテに乗り換えられないようにするために、情報伝達をやりにくくしていた。多様性を認め、進歩を阻害しないようにするために、一定の条件を満たした医療・介護サービス提供者は、共通の電子カルテを使用しない場合でも、公正な条件の下に、平等に情報にアクセスできるようにする必要がある。電子カルテやアプリケーションの使用について、参加と脱退の自由がなければ、公正な競争は生じず、進歩が阻害される。
しかしながら、電子カルテをいかに改善しようと、現状では、病院、診療所、介護施設の間で情報伝達がスムーズに行われるようになるとは思えない。病院の電子カルテの構造は複雑で、大量の情報がさまざまな場所に収められている。情報の収納の場所、情報を引き出す方法は多彩である。収納場所を探しあて、必要な情報を引き出すのは簡単ではない。情報にアクセスできても解読は難しい。同じ病院であっても、診療科ごと、医師ごとに書かれている内容や書き方が大きく異なる。いたるところでコピー・アンド・ペーストが行われ、重要な情報が、重複した大量の情報の山の中に埋もれている。急いで入力した情報が、誰のチェックもなしにそのままになっているので、間違いが少なからず存在する。
しかも、職種ごとに記載が大きく異なる。例えば、看護記録は医師の記録とは別系統で残される。温度板と呼ばれる体温表が中心におかれ、その周囲にこまごまとした看護記録が記載される。
病院という組織は極めて複雑であり、医療に関わるさまざまな専門分野が関与している。それぞれの分野は独自の行動形態、言語論理体系を有している。いくつかの分野では、国家資格が設定されている。これは、それぞれの分野が、外部から関与できない独自の領域を有していることを示す。すなわち、それぞれの分野が小さな社会システムを形成している。病院には、医師システムとそのサブシステムとしての各診療科システム、看護システム、薬剤システム、リハビリシステム、診療報酬システムなど多様なミニ社会システム(コンピューターのアプリケーションではなく、文字通り社会システム)がその領域を独占しつつ、機能を発揮している。電子カルテは単一の世界ではなく、多くの小さな社会システムが出会う広場である。
筆者は、亀田総合病院で、管理職として、医療が適切に行われているかどうか、チェックすることがあった。例えば、個人輸入の薬剤の使用例について、説明と同意がどのようになされているのか調べたことがある。電子カルテで状況を把握するのに、膨大な時間を要する。しかも、必要な情報をすべて把握できたかどうか、はなはだ心もとない。インフォームド・コンセントに関する記録が見つけられなかったとしても、本当に記録がないのか、記録はあるがそれを発見できなかったのか、確信が持てない。
地域包括ケアの対象となる人たちに対するサービスの目標は、在宅であれ、施設であれ、日々の生活をよくすることである。具体的には、衣食住と排泄の確保、人間関係の中での居場所の確保が目標になる。医療はこの一部を形成しているにすぎない。利用者にとって医師より介護職がはるかに大きな存在になる。医療にしても、生存期間を延ばすための積極的治療より、生活に悪影響を及ぼす症状の緩和など、日々の生活を支えることが目標になる。病気の治癒、生存期間の延長を目的とする病院とは、活動が全く異なる。
地域包括ケアで必要とされる情報は、生活していくのに必要な情報である。こうした情報が、ケアに関わる人たちで共有されなければならない。あるいはいざとなった時に簡単に参照できるようにしておきたい。病状についての情報として、障害の程度と将来の予測、必要な医療的措置と問題点(例えば、排尿できなくなった人に使用される尿道カテーテルの扱いなど)、投薬内容とその重要度などがある。患者側についての情報として、患者が考える望ましい生活像、患者・家族の病状理解、医療者への要望、住所と地図・駐車場、キー・パーソンの氏名・連絡先などがある。経済状態の記載は難しいかもしれないが、生活を支えるには重要な情報である。サービス提供者側に関する情報として、ケアマネジャー、関係職種の氏名と連絡先などがある。
上記情報の内、病院で得られるものは必ずしも多くない。少なくとも、急性期病院の医師が、障害の程度と将来の予測について書くことは、要介護認定のための診断書以外ではほとんどない。尿道カテーテルの取り扱いなど患者と家族にとって重要な関心事について、診療録に書かれていたとしても、探し当てるのは至難である。急性期病院の医師の多くは、ケアに関わる人たちが共有すべき情報が何かを知らない。しかも、多くの医師は、介護施設や介護事業者に対し関心と知識を持たない。知らず知らずのうちに、介護側に対して傲慢にふるまうことがある。たしなめられることがないので、修正できない。
現時点で、医療と介護の間でITが活用できる状況にはなっていない。ケアの必要な高齢者についての情報のやり取りのルールを地域で決めて、申し合わせをすることを提案したい。規格として明文化し、大げさな演出で協定を結び、互いを縛るようにしてもよいかもしれない。現状では、電子カルテを介するより、まずは紙ベースで、公正かつ合理的なやり取りを確立すべきであろう。
今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
************************************************************************************************************************
病院ホームページ http://komori-hp.cloud-line.com/
追記
管理人は 患者さんの情報交換は今からは電子カルテではなく、group LINEのような
汎用性の高く、即時に伝わるコミュニケーションアプリケーションツールを
使用したほうがよいと思います。