・・・子供や若者たちを解放してやってくれ! その為に俺も含めて老人や高齢者が死ぬのなら、本望だ!!
そういう強い北風がね・・・俺のまわりでは、びゅ~びゅ~と音をたてて吹いている、ということを伝えておこうか。
視界不良や悪天候のとき以外でも、岐路やわかりづらい分岐に出くわすと、よ~く周囲や足元の景色を目に焼き付けておくこと、これは人気のない奥山を歩くときの鉄則だが、道だけをただトボトボと歩いていると、迷い込む、黄泉の国への入り口は、そこかしこにある。
万が一、行程にアクシデントが発生して、日が暮れてしまっても、これがキチンと出来ておれば迷うことはない。
ヘッドライトだけで、余裕で降りてこれる。
ただね、電池の予備は持っておらんとね。
今朝は酷い筋肉痛と、真っ黒に日焼けした顔がヒリヒリと痛い。
60歳を過ぎてくると、すぐに手当てをしておくことで、翌日以降の体調はまったく変わってくる。
歳をとると、この後の始末がとても大事になるということでもあるが、くたびれた~でダラダラしておると、次の週末がまた大変な山歩になるからこそ、キチンと過ごすようになっている。
風が強いせいもあって、雪をかぶった遠くの山々まで、綺麗に見えておった。
登っていると暑いくらいで、すぐにTシャツ1枚になって、それでも大汗をかいて、強い北風が心地良かった。
顔がヒリヒリしてきたのは、焼け始めたということ、自粛馬鹿な社会で鈍った身体が、目を醒ましていた。
黙々と、ぐんぐん高度を稼いでいった。
獣たちも、鳥たちも、みなで応援してくれてるようで、あちこちからいろんな鳴き声が聞こえてきてた。
・・・がんばれ~、糞じじい!! と、聴こえた。
・・・あんがとよ~
延々と飽きるほどに続く、薄暗い杉林の中の急な登りを終えて鞍部に出ると一休み、そこからは岩場に張り付いて古びた鎖と千切れそうなロープ、錆びついて傾いてる鉄のはしごを用心しながら登り、強風に身体がめくられそうになるのを堪えながら、山頂に立った。
どこの山も、山頂が近づくと厳しい登りになる。
とんがってるてっぺんの部分に登る訳だから、これは仕方がない。
そのぶん、眺望は抜群、そういうことだ。
ゆ~るりと汗を乾かして、温かいコーヒーを沸かして飲み、雪をかぶった山々を堪能した。
重い登山靴も脱いで、疲れたビ~~、そんな休息になった。
身長が176センチなのに、体重が80キロ近くになり、担いでるザックが20キロ超え、片足にかかる負担が100キロ超えてる。
・・・痩せね~とな~、ダメだ~~
独り言を大声でつぶやいてると、後ろから登ってきたオヤジが近づいてきて
・・・一度ついた贅肉は、おとせね~んだよな~
聞いてやがったようだった。
程よく締まった身体は、登山にはちょうど良い、そんな体格だった。
・・・その通り、その通り
・・・逆に足腰が強くなるのが関の山で、悪循環になるんだよな~
・・・そうそう
やけに話が合った。
・・・自粛なんて必要ね~んだがね~
・・・まったくだ、みなで素直に籠って死ぬつもりになってる
大笑いしあって、先に次の山頂を目指した。
・・・お先にゆくぜ!
・・・あ~、あ~、俺はもう今日は此処で終わりだから、ゆっくり独り占めするよ、気をつけて!!
風も、大汗かいた身体には心地良いんだが、それが強すぎると困ったことになる。
山や海には、その人間にとってのほどほどに心地いい風が、あんまり無いんだな。
そりゃ~そうだ、ここでは人間が主役ではない、主役は地球や宇宙のほうだからだ。
さ~、今週末はまたもっと北の山に登るっぺよ。