夢をアレンジして、短編小説なるものを初めて書いてみる。
僕は、全ての物に命を与える工場で働いていた。
椅子や机、ゴミ箱、いろんな物が意志を持っている。その工場では、それらが動きまわり、互いに会話をしている。
そこに勤めている僕は、もうすぐ40を迎える中年男。
前職は塾の講師をしていた。わりと真面目に働いていたが、転職してこの会社に入り、一ヶ月が経とうとしていた。
ちょっとしたことで全てが狂ってしまう。僕の場合もそうだ。
何故僕が人間でなくなってしまったのか。
それは、不運な遅刻から始まった。
会社には、二人組で出社することになっている。
僕の場合は、坂本健さん(前職の先輩社員でボクシング経験のあるやくざのような存在)や林和貴くん(前職でずっと一緒に働いていた鼻のでかい美男子後輩)と交互にペアを組んで出社していた。
三人とも塾出身であるため、この会社では平社員で、出世の見込みはない。
話しを戻す。一ヶ月が経とうとしていたある日のこと、僕は坂本さんを家に迎えに行った。
彼がなかなか現れない。このままでは遅刻してしまう。電話をすると、少し待ってくれという。
やくざのような彼の頼みを断れない。
ゴメン、ゴメンと彼は一時間後に現れた。
当然、遅刻して、上司の沼口課長に小言を言われた。「自分でたまにはこんなこともある。仕方ない。仕方ない。」と呟いた。
ところが、えてして禍は重なることが多い。
次の日、後輩の林くんが迎えに来た。
街は祭の真っ只。車が全く進まない。
背中に冷や汗が流れた。「2日連続、遅刻。前代未聞だ。」
結局、一時間遅れてしまう。
恐る恐る課長のところへ行くとこっぴどくしぼられた。「前の会社では一度も遅刻したことはなかったのですが、いろいろ事情があって…」なんて、言い訳をしたものだから、説教が長引き、危うく首になるところだった。
説教が終わるとエレベーターに向かった。
地下数百メートルのところに僕達の作業場がある。
エレベーターを待っていると、机や椅子が僕を心配してくれて、慰めてくれた。僕は愛想笑いを彼らに向けながら、エレベーターに入った。
エレベーターには前職で先輩の奥先生が乗っていた。彼はプロレスラーのように強く、キレたら何をするか解らないような凄みのある人物だった。
その彼に今日の出来事を話すと同情してポケットサイズの小さな箱をくれた。
すごくいいものが入っているから後で開けるように言われた。
箱を渡される時、拳銃で撃たれるような恐怖を覚えたが、錯覚だったのかもしれない。
僕は、右のポケットにその箱を入れ、エレベーターで地下へ地下へと降りて行った。
地下50階の作業場に着くと、坂本さんや林くんはすでにそこで働いていた。
奥先生とそこで別れ、僕は自分の持ち場へ向かう。
僕達の仕事は、生命の泉からポンプを使って、その水を地上まで運び、いろんな物に命と意志を与えることだ。
その中でも僕の仕事は一番簡単で、生命の泉が溢れないように見張るだけだ。
生命の泉を見ていると、遅刻したことが原因か、説教されたことが原因か、または言い訳した自分に嫌悪感があったからか、理由ははっきりしないが、どうしても目の前の生命の泉に浸かってみたいという衝動に駆られた。
動く意志を持った人間に、さらに意志と命を与えたらどうなるのだろう。
もうひとつの人格ができるのだろうか?
意志や命が暴走して死んでしまうのだろうか?
時空を超えて別の世界に行くのだろうか?
いろいろ考えた結果、好奇心からと現実からの逃避欲が重なり、生命の泉に入ることを決心した。
服を脱ぐ時、右のポケットに奥先生からもらった小さな箱のことを思い出した。
開けようとも思ったりしたが、泉に入りたくてしょうがなく、箱を持ったまま、生命の泉に頭から飛び込んだ。
温泉に浸かっているようななんともいえない気持ちよさが、波のようにやってくる。心が癒され、意識が遠のいていった。続く…
今日はクリスマス。
読んでくれた人、メリークリスマス。
いつも、ありがとう。
僕は、全ての物に命を与える工場で働いていた。
椅子や机、ゴミ箱、いろんな物が意志を持っている。その工場では、それらが動きまわり、互いに会話をしている。
そこに勤めている僕は、もうすぐ40を迎える中年男。
前職は塾の講師をしていた。わりと真面目に働いていたが、転職してこの会社に入り、一ヶ月が経とうとしていた。
ちょっとしたことで全てが狂ってしまう。僕の場合もそうだ。
何故僕が人間でなくなってしまったのか。
それは、不運な遅刻から始まった。
会社には、二人組で出社することになっている。
僕の場合は、坂本健さん(前職の先輩社員でボクシング経験のあるやくざのような存在)や林和貴くん(前職でずっと一緒に働いていた鼻のでかい美男子後輩)と交互にペアを組んで出社していた。
三人とも塾出身であるため、この会社では平社員で、出世の見込みはない。
話しを戻す。一ヶ月が経とうとしていたある日のこと、僕は坂本さんを家に迎えに行った。
彼がなかなか現れない。このままでは遅刻してしまう。電話をすると、少し待ってくれという。
やくざのような彼の頼みを断れない。
ゴメン、ゴメンと彼は一時間後に現れた。
当然、遅刻して、上司の沼口課長に小言を言われた。「自分でたまにはこんなこともある。仕方ない。仕方ない。」と呟いた。
ところが、えてして禍は重なることが多い。
次の日、後輩の林くんが迎えに来た。
街は祭の真っ只。車が全く進まない。
背中に冷や汗が流れた。「2日連続、遅刻。前代未聞だ。」
結局、一時間遅れてしまう。
恐る恐る課長のところへ行くとこっぴどくしぼられた。「前の会社では一度も遅刻したことはなかったのですが、いろいろ事情があって…」なんて、言い訳をしたものだから、説教が長引き、危うく首になるところだった。
説教が終わるとエレベーターに向かった。
地下数百メートルのところに僕達の作業場がある。
エレベーターを待っていると、机や椅子が僕を心配してくれて、慰めてくれた。僕は愛想笑いを彼らに向けながら、エレベーターに入った。
エレベーターには前職で先輩の奥先生が乗っていた。彼はプロレスラーのように強く、キレたら何をするか解らないような凄みのある人物だった。
その彼に今日の出来事を話すと同情してポケットサイズの小さな箱をくれた。
すごくいいものが入っているから後で開けるように言われた。
箱を渡される時、拳銃で撃たれるような恐怖を覚えたが、錯覚だったのかもしれない。
僕は、右のポケットにその箱を入れ、エレベーターで地下へ地下へと降りて行った。
地下50階の作業場に着くと、坂本さんや林くんはすでにそこで働いていた。
奥先生とそこで別れ、僕は自分の持ち場へ向かう。
僕達の仕事は、生命の泉からポンプを使って、その水を地上まで運び、いろんな物に命と意志を与えることだ。
その中でも僕の仕事は一番簡単で、生命の泉が溢れないように見張るだけだ。
生命の泉を見ていると、遅刻したことが原因か、説教されたことが原因か、または言い訳した自分に嫌悪感があったからか、理由ははっきりしないが、どうしても目の前の生命の泉に浸かってみたいという衝動に駆られた。
動く意志を持った人間に、さらに意志と命を与えたらどうなるのだろう。
もうひとつの人格ができるのだろうか?
意志や命が暴走して死んでしまうのだろうか?
時空を超えて別の世界に行くのだろうか?
いろいろ考えた結果、好奇心からと現実からの逃避欲が重なり、生命の泉に入ることを決心した。
服を脱ぐ時、右のポケットに奥先生からもらった小さな箱のことを思い出した。
開けようとも思ったりしたが、泉に入りたくてしょうがなく、箱を持ったまま、生命の泉に頭から飛び込んだ。
温泉に浸かっているようななんともいえない気持ちよさが、波のようにやってくる。心が癒され、意識が遠のいていった。続く…
今日はクリスマス。
読んでくれた人、メリークリスマス。
いつも、ありがとう。