私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

雑記:楽園の復活 ⑫

2009-12-17 19:49:58 | 自作雑文 楽園の復活
  楽園の復活―マイ・コールド・プレイス― ⑫


 自我をもつ人間はすべからく孤独である――とは、またえらく古雅なテーゼに辿りついてしまったものだが、私が惹かれる「詩情」の源にあるもののひとつが「孤独」であることは、やはり間違いないように思う。そのように考えれば、私が同性である女性詩人の作品よりも近世以降の男性のものに惹かれがちな理由にいくらか説明がつく。どういうわけか全体にわが同胞たる女性たちはあまり孤独を歌わないのだ。むろん人類の半分全般が生まれつき残りの半分より孤独に耐性があるわけではないだろう。その点は人種国籍老若男女を問わず個人差が大きいはずである。ただ、一般にさまざまな面で受動的な立場におかれることが多かった立場の人間たちは、そのためにこそ、主体性と結びついた孤独に気づかされる機会が少なかったのかもしれない。
 あめつちにわれひとりいてたつごとき寂しさを恬淡とほほ笑めてしまったら解脱まであと一歩である。穢土に菩薩はめったにいない。善良な優婆夷優婆塞はその寂しさに耐えきれない。私が惹かれる「詩情」の根幹をなすものは、不運にも自他の区別にはっきりと気づいてしまった人間があげる人恋いの叫びであり、「楽園」とは「かつては自分も孤独ではなかった」と感じたがっている人間が荒れ野にひとり立つ心地を抱いて憧れつづける場所である。いささかならず感傷的な表現だが、あえて定義を下すならそんなところになるのかもしれない。その場所は過去か未来にあり、ただ現在にだけはない。


 Ⅱ終了。Ⅲに続く。