パク・ヒョシン“人の人生に染み入る歌手になりたい”
ミュージカル『エリザベート』主役‘死’
大きな扇風機がごうごうと回っていた。
暑苦しい空気を全部吹き飛ばそうとするように楽屋をつなぐ廊下の入口にある扇風機は力強く風を吹き出していた。
去る3日夜 芸術の伝統・オペラ劇場の舞台の後方。
ミュージカル『エリザベート』の公演を終えた出演者・スタッフらが「無事に終わった」と安堵のこもった表情で一人、二人と出て来た。
「今日もお疲れさまでした」という挨拶があちこちで聞かれた。
劇場のエアコンは消えて熱帯夜の勢いが楽屋まで入り込んできた。この日‘死’役で舞台に立った歌手パク・ヒョシン(32)も汗だくの顔をぬぐった。
「良くなったので本当に何よりです!」
先月26日の開幕公演の時より体がほぐれたようだとの言葉にパク・ヒョシンは「千秋楽近くになれば本当に‘とんでもない’死になる」と冗談を言った。
冗談のような言葉だったが、この作品と役割に自信がついたという話でもあった。
「実際 開幕の時だけでもこんなふうに、あんなふうにしてみるべきだという思いがとても多かったんです。でも今はそうは思わない。
自然に役と一体化したと感じています。‘死’に没頭しているため自分で身の毛がよだつ時もあります」
芸能兵士として軍服務した時はラジオDJも演技もしたりと多様な分野に携わったが、民間人パク・ヒョシンは誰が何と言っても歌手だ。
だから昨年9月の除隊後 いまだにCDを発表していない彼がミュージカルを先に披露すると言った時 彼の背景を気遣った人々が多かった。
彼は今年初めに見に行った『オペラ座の怪人』がきっかけになったという。
デビュした頃 何も知らずに『ロック・ハムレット』に出演して以来13年間忘れていたミュージカル舞台だった。
どんな感じだったのか正確に語ることができないと言った。ただカーテンコールが終わっても頭をハンマーで一発殴られたようにずっと呆然と感じていたという。
公演を見た2日後には 彼は再び『オペラ座の怪人』の劇場に向かった。単に感想を言いに行こうという思いとはすでに違っていたという。
「再び見なければならないという理由がありました。あの舞台で私ができることは何があるか行ってみようと考えました。
オリジナル公演チームのブラッド・リトルが演じたファントムは本当に強烈だった。あんな舞台で私も歌ってみたいと思いました」
機会は思ったより早くやって来た。ミュージカル『エリザベート』の主役‘死’をやってみないかという提案が彼に来たのだ。
グループJYJのキム・ジュンス、ミュージカル俳優チョン・ドンソクと交代で引き受ける役割だった。
‘死’はハプスブルク王家の皇后エリザベートを悲劇へと導く存在だが、これは憎しみや復讐のためではない。死それ自身が彼女をとても愛したということだ。
「この作品だけ見てもエリザベートは皇后、ヨーゼフは皇帝、ルドルフは皇太子という認識可能な役割です。だが死は抽象そのもの。
それをキャラクターとして表現するのは難しいことです。だが強さと穏やかさ、冷たい身の毛がよだつような様々なイメージを持つ難しい役割なので
挑戦したいという思いがより大きかったんです」
もちろんミュージカルの舞台で出会うパク・ヒョシンも嬉しいが、彼の声をひそかに収めたアルバムを待っている人もいるはずだ。
彼は多様な物話を入れたアルバムを今年中には間違いなく出せると言った。
「片手間に書いた曲がある。何曲なのかは数えられないが、選んだらなかなかのものだと思います。色々な物話を入れてみるつもりです。
愛の話も入れて、まわりの人生、人の話も少しずつ切り出してみようと思います」
この日パク・ヒョシンは午前7時に日課を初めて 午後と夜の公演をすべて消化した。すぐにでも黒い舞台メイクを落としてどこへでも行って寝たい時間。
それでも彼は「最近 人生に満足している」とのんびり話した。
昨年 前所属会社が起こした訴訟に負けて30億ウォンもの債務を背負うことになり 裁判所に自己破産申請まですることになった彼。
「今はどんなことも引き受ける時のようです。当時はその状況が私には毒だと思っていましたが、過ぎてみると結局その経験が薬になっている。
今はただ精一杯 素敵な公演を見せられれば良いと思います。失くしたと思いましたが、決して失くなってはいないです」
持っている物が多くはない今、かえってまわりを見渡せる余裕を持ったと彼は語った。
「石も噛み砕いて食べるほどの意気込みで皆かたく団結した」彼の20代が歌手としての人生だけ考えて走ってきた時間だとしたら、
今は好きな友達とも良く会い旅行にも行って自分のためだけの時間を楽しんでいると言った。
「特に海が見える島が好きです。済州島、その中でも牛島が本当に美しいです」
どんな話でも正直に話すが、特有の落ち着いた態度は相変わらずだった。
先月廃止が決定した芸能兵士制度についての質問には それについては断定して話す立場ではないと思うと言って言葉を慎んだ。
代わりに自分の‘天職’についての豊富を強調して語った。今も公演が終われば感情がこみ上げてマネージャーにつかまって泣くという
感性に満ちあふれた‘歌い手’パク・ヒョシンだ。
「多くの人の人生にそっと染み入る歌手になれたらと思います。悲しい時も大変な時も音楽で寄り添うような歌手です」