くまきち日記

名古屋に住んでいる、くまきちのたわごと。

ヒョシンくん ミュージカル『笑う男』 公演レビュー その5(記事)

2018-10-10 23:56:43 | パク・ヒョシン
















ミュージカル『笑う男』いつも笑う人生はハッピーエンディングだったのか


国内で初めて公演する、それも創作ミュージカルが興行するというのは申込通帳もなしにアパートを譲り受けるくらい確率が希薄だ。多数の創作作品が舞台に上がったが 
初演が最後の公演になった場合が少なくない。ところがこの作品は初演でも人気が尋常ではない。EMKミュージカルカンパニーの創作ミュージカル『笑う男』の話だ。『マタハリ』に続き
EMKの2番目の創作ミュージカルである『笑う男』は8月までソウル・芸術の殿堂オペラ劇場で公演を終え 9月からブルースクエア・インターパークホールで観客と出会っている。

この作品はフランスの作家ビクトル・ユゴーの同名小説を基にしたミュージカルだ。『笑う男』は口が醜く横に裂け 遠くから見ると笑っているように見える顔を持つことになったグウィンプレンを指す。
いつも笑っているが内面では憎悪と悲しみを抱く人物だ。DCコミックス バットマンの中の希代の悪党‘ジョーカー’の原型として知られている。

17世紀イギリス、グウィンプレンは人身売買団コンプラチコスによって誘拐され 裂けた口を持つことになる。彼は寒い冬 道端で凍死した女性の胸で乳を吸っている赤ん坊(デア)を発見する。
彼は偶然出会った流れ者の薬売りウルシュスに助けを請い、ウルシュスは二人の物話で流浪劇団を率いる。彼は奇異な笑いのおかげでヨーロッパで最も有名なピエロになる。
ある日ジョシアナ公爵夫人は彼の怪物のような姿に惹かれ誘惑する。さまよったグウィンプレンは突然 悪名高い拷問所に引っ立てられ そこで出生の秘密を知ることになる。

‘ある日’‘突然’‘偶然に’が繰り返されるのは錯覚ではない。貧弱なドラマはこの作品の弱点でもある。ストーリーだけ見ると‘マクチャン(ありえない展開が満載)’を
スプーン一杯追加した朝ドラのようだ。だがミュージカルだけの短所とは言えないのは原作がそうだからだ。ストーリーの物足りなさを補うのは俳優たちの演技と歌、そして舞台の華やかさだ。

グウィンプレンの口を大きく形状化した強烈な舞台デザインの核心コンセプトは‘傷’。オ・ピリョン舞台デザイナーは「貧しい者の世界と裕福な者の世界は傷に対する方式で差を見せる」とし
「傷を隠さないグウィンプレンと傷を隠そうとする貴族の差を舞台で表現しようとした」と明かした。

台本と演出はロバート・ヨハンソンが担い、主なナンバーはミュージカル『ジキルとハイド』『皇太子ルドルフ』『モンテ・クリスト』等でよく知られたフランク・ワイルドホーンが作曲した。
二人とも‘ミュージカルオタク’がどんなスタイルを好み望むのかを良く知る専門家だ。たまに自分のコピーのようだという批判も受けるがどうだろうか。
その感じが好きなら 知りつつも再びハマるしかない。

『笑う男』のグウィンプレンは ミュージカル『シラノ』の鼻が大きく不細工なことで悩む主人公シラノと『ノートルダムの鐘』のせむしの鐘つき男カジモドのように 
一般的な目で見れば美しくない外見を持つ。それでも彼らの内面は美しい。『笑う男』でグウィンプレンの顔の向こうに美しい魂を見ることができるのは皮肉にも目の見えないデアだ。

キム・ユソン メーキャップデザイナーによると グウィンプレンの裂けた口を作るためには毎日1時間半ほどかかる。シリコン素材の特殊メイク用の粉を練って粘土のようにした後
この塊を口のまわりに伸ばして塗り その上にメイクをして裂けた口を表現する。毎日練り粉と成形、メイクをしなければならないため時間が長くかかる。
参考までに‘シラノ’の鼻は俳優の顔の型をとって軽い素材で成形した後 彩色して作った。『ノートルダムの鐘』のカジモドの頭は石膏パックに染料を混ぜて頭に塗り 
手でひとつひとつより合わせて作ったのだ。

紆余曲折の末 女王の前に立ったグウィンプレン。彼は貴族たちに 持つ物を分かち合って慈悲を施すよう‘その目を開きなさい’と叫ぶ。だが女王と貴族たちは鼻で笑って嘲るだけだ。
この“その目を開けて”が終わって狂気と怒りに駆られたグウィンプレンの“笑う男”が続く。「傲慢な者ども 自分たちが最高だと騒ぎ立て/怒った神が私のような怪物を作った理由」と
咆哮する姿に圧倒される感じがする。

グウィンプレン役は歌手パク・ヒョシンとEXOのスホ、ミュージカル俳優パク・ガンヒョンが演じる。ウルシュス役はチョン・ソンファとヤン・ジュンモ、ジョシアナ公爵夫人役は
シン・ヨンスクとチョン・ソナが演じて歌唱力を誇る。パク・ヒョシンとスホはファン層がもともとしっかりしているが、2015年にデビューしたミュージカル俳優パク・ガンヒョンは
総合編成チャンネル番組『ファントムシンガー2』準優勝チーム(ミラクラス)所属だったという事実を知らなければ見慣れない顔だ。だがチョ・スンウに似た見た目に
舞台を咀嚼するような発声と発音が非凡で 初めて見た人もとりこにさせるのに十分だっだ。彼はあるインタビューで「制作スタッフにとっても挑戦的なキャスティングではないだろうか」と語ったが 
その挑戦は成功だったという言葉を付け加えたい。

“金持ちの楽園は貧しい者の地獄で成り立ったのだ”とは作品を貫くメッセージであり最も有名なセリフだ。17世紀イギリスでも21世紀の韓国でも この言葉が受け入れられるのを見ると 
社会がたいして変わったのではない模様だ。私たちが今いる場所は楽園なのか地獄なのか。笑う男は人生の終わりで本当に笑ったのだろうか。
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