料理のいちばん奥義は
何だろう―――
やっぱり香りであろう殊に、
フランス料理は香りだ。
補助味の香り、香料の香り、
そういうものが、揮然となっ
て、味及び色彩と共に一つの
交響楽をつくりあげる、
これがフランス料理の芸術た
るゆえんだ。
家政婦タサン志摩さんも、フ
ランスの三ツ星のレストラン
で、料理の修行は鼻の修行を
していたといってもよい。
一流料理人だった志摩さんは、
バスケットのマイケル・ジョー
ダンに似ている。ジョーダンは
プレイ中、見方選手に能力がなけ
ればパスは回さなかった。
志摩さんも料理人時代その
葛藤と戦ってきたプロの職人
なのだ。
包丁に異臭があってはならぬし、
鍋に他の臭いが残っていてなら
ぬ。手の清潔はもちろんのこと、
極端にいえば心の怒りが体臭と
なって発散するかも知れぬ。
匂いというものについては、
それぐらい細心にならねば
ならぬ。それをつらぬいたの
が志摩さんだ。
チームプレイで誤解があり
料理人を去り家政婦になった
ときに、プライドとの葛藤から
今のスタイルを作ったのだ。