彼の指は男にしては細く長い。
それすら、いとしかった。
・・・どうして、このひとは、
こんなにせつないのだろう。
私は? 彼にとって私は?
はぐれている同類?
せめて「愛している」のひとこ
とが欲しい、たとえ刹那でも・・
・・・
https://www.youtube.com/watch?v=9XrM4BzVvgw
彼の指は男にしては細く長い。
それすら、いとしかった。
・・・どうして、このひとは、
こんなにせつないのだろう。
私は? 彼にとって私は?
はぐれている同類?
せめて「愛している」のひとこ
とが欲しい、たとえ刹那でも・・
・・・
https://www.youtube.com/watch?v=9XrM4BzVvgw
私ね。好きな人と手をつなぐの
が夢だったんだ。
何でもなく手をつないで歩いた
りするのがね。
ドキドキする恋もいいけど、
自然に手をつなげる人が隣
にいて、街歩いて、
ずーっとずーっと街歩いて
隣町まで行っちゃうような
感じがね。
恋の小舟はあてどなく
みえて、やはりあなたが
思い通りに動かすことが
できる舟。
ただ、あなたが情熱と理性
という二本のオールを
持っているかどうか、と
いうことが、恋の成就の
決め手だ。
残念ながらそのオールは
市販もしていなければ、
他人からゆずり受けるわ
けにもゆかない。
あなた自信が、素敵な恋
と自分の幸せのために、
コツコツと女という木を
けずって、つくりあげて
ゆくしかない。
生まれた時から持っている、誰
からも愛されるよい面を、生まれ
た時にはすべての人がひとりの
例外もなく持っている、
澄みきった、愛(うつく)しい
心を、損なうことになっても、
失うことになっても、それを承
知で、麻里子みたいな聡明な
女の子が、不毛な恋に踏み込ん
でいくのは、なぜ。
そんなわたしの想いを知ってか、
知らずか、しんみりとした口調
になって、麻里子は言った、
「不思議なの。桃李さんと、会
ってない時の方が、彼のこと、
身近に感じるの。
一緒にいる時の方がうんと淋し
いの。すぐにそばにいる時、た
とえば抱き合っている時なんか
にね、
ああ、この人はあたしから、
何億光年も離れたところにい
るのかもしれない、なんて思
ってしまう。だからすごく淋
しいの。変でしょう?」
どう答えたらのかわからなく
て、わたしは静かに、自分の
お酒を飲み干した。
その時、ピアニストがゆっくり
と、ジャズのバラードを弾き始め
た。
わたしは胸の中で、諳んじてい
る英語の歌詞をなぞっていた。
ひとつの物語を語り終えるよう
に、ピアニストがその曲を弾き
終えた時、
「このままでいることなんて、
あたしにはできない」と麻里子
は言い、そのあとに、呟くよ
うに言ったのだった。
「あたし、もう、だめにな
っちいそう」