【コラム】
叔母の言ふ。
「お前はきりやうがわるい
から、愛嬌だけでもよくな
さい。
お前はからだが弱いから、
心だけでもよくなさい。
お前は嘘がうまいから、
行ひだ(おこない)だけで
もよくなさい」
太宰治「晩年」
叔母の言ふ。
「お前はきりやうがわるい
から、愛嬌だけでもよくな
さい。
お前はからだが弱いから、
心だけでもよくなさい。
お前は嘘がうまいから、
行ひだ(おこない)だけで
もよくなさい」
太宰治「晩年」
作家の西村滋さんは、母の
恩についてこう語っている。
「優しかった母が結核に
罹って隔離された。大人たち
は近寄らないようにと言うが、
幼時のことで母恋しさに近寄
ると、
母は私を見るなり罵声を浴び
せ、コップやお盆などを手当
たり次第にぶつけてくる。
顔は青く、髪を振り乱して
荒れ狂う姿は、鬼としか思え
ず、次第に母を憎悪するよう
になった。
いつか、ぐれて少年院にいた。
そのときに、昔の家政婦さん
が来て告げた。
『私はもっとあの子に憎まれ
たい。私はあと一年か二年の
命です。あの子は幼くして母
を失うのです。
幼い子が母と別れて悲しがる
のは、優しく愛された記憶が
あるからで、憎らしい母親な
ら死んでも悲しまないでしょ
う。
夫もまだ若いから、新しい
お母さんが来るでしょう。
その方に可愛がってもらう
ためにも、死んだ母親なんか
憎ませておうほうが、あの子
のためです』と。
それを聞いて、私は立ち直る
ことができた」
なんと壮絶な母の愛ではあり
ませんか。
お金とか土地とか家などは、
残してもかえってためにな
りません。
自分のつらさを隠して無償
の慈しみと愛の強さを痛感
しました。