「ホテルローヤル」
桜木柴乃 著
住む場所によってそのひと個人の、
身に付いたものはやはり違ってくるのだろう。
雪降る町や暖かいところや。
雪の輝きをみた経験、雪に接する毎日。
桜木柴乃の眼差し。
さて、ラブホテルという日本独特の空間が舞台の、
訪れる様々な人々。
7編からなる物語の時間軸が過去へとながれる、
異空間。
穴の内奥と、矢印が生活の中の性へとなる、
肌のぬくもりは凍えた一部分を確かにあたためる。
信じるつながりがある。
性は日常を迷いもさせ、愛しさにもなる。
動物ごっこ
動物に一色の色をつけて
人間にたとえて感情を表現する
鳴き真似は純粋に鳴く
月の雨
雨は夢
夢は月
光はどこにも存在し
闇もどこにもある
表裏する着古しに
もう勘弁してと口にする
水に浮かぶ月と夢
交じり合う雨と月
甘い香りにふわりと誘導されて
泣き虫になり水の中へ
笑い上戸に水の外へ
それもいいし
これもいい
はなれていく思い出の数々は
ほおっておく
つまらないからとおいていく
それはどうなの
形がないから
色もなければ感触もない
微かにあるのは匂いと声
それも時折よみがえる程度
手の平からするりとおちる気持ち
気持ちの名前はカケラにした
そう
失うのは中心が折れている
どんなものにもあるというのに
日記
日付のない日記
自身の声は日記に吸い込まれ
もうどこにもない