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寺に入った泥棒に金縛りをかけたと伝えられる聖観音菩薩立像。鋭い眼光で人々の行いを見守っている
(京都府久御山町佐山・大松寺)
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車の往来が絶えない府道宇治淀線から細い路地をわずかに南に入ると、
今までの喧噪(けんそう)がうそのように、
静かで穏やかな空気が流れる。
京都府久御山町南東部の佐山地区にある大松寺。
本堂には、
黒光りした一体の観音様が安置されている。
その眼光は鋭く、
すべての行いの諸悪を見抜いているかのようだ。
正式名称は「聖観音菩薩(ぼさつ)立像」だが、
地元の人たちは、
語り継がれる一つの逸話から「金縛りの観音さん」と呼ぶ。
ある日、この寺に泥棒が入った。
しかし、和尚は足が不自由でどうすることもできず、
泥棒のなすがままで、ただ悔しがることしかできなかった。
手当たり次第に仏具を盗み、
風呂敷に包んでそそくさと逃げて行った泥棒に和尚は怒り心頭。
観音様に「なんとか泥棒を捕まえられますように」と祈願し、
「えーい」と声を上げた。
泥棒は近くの竹やぶに逃げ込んだが、
しばらくすると和尚の呪文(じゅもん)にかかり身動きがとれなくなってしまった。
泥棒がやぶの中で動けずにいるはずだと推測した和尚は、
檀家の人たちと竹やぶに入り泥棒を捜した。
すると不思議なことに、
和尚の予言通り、
泥棒は風呂敷包みを担いだままの姿で固まっていた。
自分の罪を悔いた泥棒に、
和尚は十分反省し改心しているとみて再び呪文を唱え
「えーい」と声を上げると、
泥棒の手足は元通り自由に動くようになったという。
檀家の人たちは、
観音様の力に驚き感心した。
この一件以来、そう呼ばれ、
しばらく、本堂などの施錠をしなかったという話もある。
三十年ほど前にこの寺にやってきた住職は、
「なんとか泥棒を捕まえたいという和尚に仏様が力を貸したのでしょう」とほほ笑む。
「金縛り」のイメージが強いが、
万人の自由を奪う観音様ではない。
「悪いことをした人間には必ず天罰が下る。
反対に、善いことをすればきっと誰かが見ていて、
その行いが報われるものですよ」という住職は、
悪事が後を絶たない世の中に心を痛め続ける。
「悪い行いが消えることはないが、
それを悔い改めて生きることが大切なんです」。
観音様の胸中を代弁するかのように、と住職。
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