歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~瀬越憲作『作戦辞典』より≫

2024-10-13 18:00:09 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~瀬越憲作『作戦辞典』より≫
(2024年10月13日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の攻めについて、次の事典(辞典)を参考にして、考えてみたい。
〇瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]

<注意>
・搦み(からみ)(137頁)

【瀬越憲作名誉九段のプロフィール】
※瀬越憲作(1889-77)
・広島県能美島。戦後に日本棋院理事長。
 囲碁文化の普及に貢献し、『御城碁譜』(1952年)、『明治碁譜』(1959年)を編纂。
 30年(1955)引退、名誉九段。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、38頁)

〇秀哉と瀬越憲作
・明治7年(1874年)6月24日生まれで、昭和15年(1940年)の1月18日に亡くなっているから、数えどしの67歳。
 満65年半の栄光に満ちた生涯だったようだ。
 しかしながら、その少年時代は辛苦そのものの日常だった。
 社会のどん底から這い上がって第一人者となり、それを維持したまま生を終えるまでの道のりは、文字通り一生を貫いた闘争史であった。

・二十一世本因坊秀哉。本名は田村保寿、徳川幕府の旗本だった父、田村保永の長男として生まれた。この親父殿は大局を見損じて、佐幕派の陣に走り、彰義隊に参加したりしたので、官員になったものの将来性は全くなく、失意の日常を好きな碁でまぎらわしていた。保寿は父の碁を眺めているうちに自然と碁を覚える。ときに数えの8歳だったという。
・10歳、近所の碁会所の席亭が勧めるままに方円社を訪ね、村瀬秀甫八段に十三子置いて一局教わり、直ちに入塾を許される。
・11歳で母を亡くし、17歳で父を失う。
 孤高の名人と言われる秀哉は、一人で社会に放り出されて、少年時代から孤独だった。
 頼りになるのは自分だけなのである。

・17歳のとき、方円社から二段格を許されたが、もちろんそれで一家を構えられるわけがなく、方円社の最底辺に在って心はあせるばかりだった。実業界に進出しようとしたが、失敗した。方円社にも顔を出さなかったこともあり、追放処分にされてしまう。ときに田村保寿二段、数えの18歳。
・房州の東福院というお寺さんの和尚に拾われ、自分には碁しかないのだということがわかる。保寿は麻布六本木に教室を開く。そこに、たまたま朝鮮から日本に亡命していた金玉均が入ってきた。金と本因坊秀栄七段は親友であり、時の第一人者秀栄に紹介されたのが開運の端緒になったそうだ。秀栄は保寿に四段を免許し、秀栄の門下生になった。
・ここからの保寿の奮闘ぶり、精進のさまがものすごかったとされる。
 師匠の秀栄には定先で何とかしがみついている程度だったが、競争相手の石井千治をついに先二まで打込み、雁金準一を撃退し、秀栄の歿後に本因坊秀哉を名乗って第一人者となる。

・晩年には鈴木為次郎、瀬越憲作の猛追に苦しみ、最晩年には超新星、木谷実、呉清源の出現を見たが、ともかくも明治晩年から昭和初年に渉る巨匠秀哉だった。 
 亡くなる寸前まで、第一線で活躍した現役の名人本因坊秀哉だった。
(中山典之『昭和囲碁風雲録 上』岩波書店、2003年、192頁~195頁)

〇原爆下の対局と瀬越憲作
●原爆下の対局
・第11期棋聖戦第3局は広島で打たれ、立会人が岩本薫九段、解説は橋本宇太郎九段だった。
 このときの碁盤と碁石は、歴史に残る「原爆下の対局」で両九段が使用した盤石である。

・第3期本因坊戦は昭和20年(1945)に行なわれた。
 物資が窮乏して前年に新聞から囲碁欄が消え、「碁など打っている時局か」といわれるなかで、広島に疎開していた瀬越憲作(せごえけんさく)八段が本因坊戦の実現に奔走した。
 やがて戦争は終わる。
 囲碁復興のためには本因坊戦の灯を絶やしてはならないと、瀬越は考えたのであった。
・20年5月の空襲で溜池(ためいけ)の日本棋院が焼失。
 焼野原の東京を離れ、広島市で7月23日に七番勝負第1局が開始された。
 第6局までコミなしで3日制。
 日本棋院広島支部長の藤井順一宅で打たれ、屋根に米軍機の機銃掃射を浴びながら、防空壕に入らず打ち終えたという。
 挑戦者岩本薫七段の白番5目勝だった。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、36頁~38頁、250頁)



【瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社はこちらから】



〇瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]

【目次】
序 瀬越憲作
父を想う 瀬越寿美子  1973年夏

第一部 置碁必勝作戦
第1局 8子局・黒の作戦
第2局 8子局・黒の作戦
第3局 8子局・黒の作戦
第4局 6子局・黒の作戦
第5局 6子局・黒の作戦
第6局 6子局・黒の作戦
第7局 6子局・黒の作戦
第8局 6子局・黒の作戦
第9局 4子局・黒の作戦
第10局 4子局・黒の作戦
第11局 4子局・黒の作戦
第12局 4子局・黒の作戦
第13局 4子局・黒の作戦
第14局 4子局・黒の作戦
第15局 4子局・白の作戦
第16局 4子局・黒の作戦
第17局 4子局・黒の作戦
第18局 4子局・黒の作戦
第19局 4子局・黒の作戦
第20局 4子局・黒の作戦
第21局 4子局・黒の作戦
第22局 4子局・黒の作戦
第23局 4子局・黒の作戦
第24局 4子局・黒の作戦
第25局 4子局・黒の作戦
第26局 互先局・白の作戦
第27局 互先局・黒の作戦
第28局 互先局・黒の作戦
第29局 互先局・双方の作戦

第二部 定石問答
 問題と解答
第三部 打ち込みの破壊力
 問題と解答
第四部 捨て石の怪
 問題と解答
第五部 タネ石の取り方
 問題と解答




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・瀬越憲作『作戦辞典』の序文
・父を想う 瀬越寿美子
〇第一部 置碁必勝作戦
〇第二部 定石問答
〇第三部 打ち込みの破壊力
〇第四部 捨て石の怪
〇第五部 タネ石の取り方






瀬越憲作『作戦辞典』の序文


序 瀬越憲作


・碁は布石、定石からはじまり、戦いに移り、ヨセに及んで終局するが、その過程でいちばん有利な点を打つことができれば、勝てる道理である。
・「作戦辞典」の編集にあたっては、次の両面に主眼をおいたという。
①戦術の面で、局面の焦点を適確にとらえる鋭い眼力の養成・戦略の面
②局面構成を理想形にみちびく広い視野の養成をと戦術、戦略の面
➡それが、各過程でいちばん有利な点を打つ道に適う、と考えたそうだ。

<本書の内容>
・著者が永い間、多くの人に教えた経験を生かしたけいこ碁とか、プロの打碁譜に現われたものを教材にとりいれた。
〇第1部「置碁必勝作戦」
・黒の立場でいうと、白の欠陥(ウス味)を衝く手段に気づかずに、しばしばチャンスをのがしてしまうケースが多いので、その弱点を改めてもらうよう、配慮した。
・つまり、白がここに打たれては困る、という“上手泣かせの戦術”を解いてある。

〇第2部「定石問答」
・盤上に描かれる定石が“生きているか死んでいるか”によって、布石戦略が決まる。
・そのポイントは、局面構成に応じた正しい定石の選び方とその運用にあることを解いてある。

〇第3部「打ち込みの破壊力」
・中盤戦のダイゴ味ともいえる華やかな打ち込み作戦で、ドカンと急所の一発が決まると、勝敗を左右する可能性をもつ恐さと、敵をギャフンといわせる壮快さを解いてある。

〇第4部「捨て石の怪」
・なるべく少ないギセイでもって、最大の効果をあげるのを理想とする高等戦術と上達するにともなって、その捨て石を巧妙に使いこなせる楽しさを解いてある。

〇第5部「タネ石の取り方」
・中盤戦で勝機をとらえる決め手は、敵のタネ石を取ることにあるので、第一感の急所はどの点か、推理と思考を働かすヨミの力が、問題解決に一番大切なことを解いてある。

※この「作戦辞典」によって、定石から布石、中盤にかけての攻防の要領を理解し、いつの間にか強くなっていることを感じられると、著者は信じている。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、i頁~ii頁)

父を想う 瀬越寿美子  1973年夏


・亡父が他界して、はや一年の歳月が過ぎた。
 この一周忌にあたり、誠文堂新光社から「作戦辞典」が出版されることになった。
 
・思えば、亡父の若き日の処女出版「囲碁讀本」も当社の刊行にかかって、碁書のベストセラーとなり、多くの同好者の座右におかれているときいている。
 また亡父の長い著作生活中思いもよらず、絶筆となったこの「作戦辞典」も、当社から出版されることに、奇しきご縁を感じる。
・さきに出版された「手筋辞典」は、長い年月をかけての労作であったが、年老いての久々の刊行の故か、文章、筆力など懸念していたが、予想外のファンから激励と絶賛の便りなどに、目を通しつつ、活力を顔に溢れさしたことは、終生忘れることはできない。
・いつも寸暇を惜しむように「碁」だけに明けくれた父の生活だったが、自己の一生を徹頭徹尾、心身共に一つの道に打ちこみ、生きぬき得たことの栄光、また苦難の日々をしみじみと想い返す。

・亡父は功成り名とげて、多くの栄誉に浴し、幸福にすごしながらも自らの生涯を自断の道を選んだことは、自分にきびしく生きて来た人故に、ただ暦の上に日を重ね盤面の黒白の識別もうすれ人の語らいにも次第に耳遠く、徒らに老醜をさらすようになることに、屈辱に感じたのではありますまいか、という。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、iii頁~iv頁)

第一部 置碁必勝作戦


・置碁は、碁の上達法に欠かすことのできないものである。
・著者の教えた経験によると、2子・3子の置碁は白が無理をしないで正しく打って位(くらい)でおしていけるが、4子からそれ以上の置碁では、布石時代に全局のバランスを保って、大勢に遅れないようにしなければならない。
 たとえば、黒が五手も六手もかけて打っているところを、白は三手か四手で間に合わせていく、といったぐあいにボカシて打つ、そうすると自然のなりゆきで随所に欠陥(ウス味)が生じてくるのはやむを得ない。
➡このウス味を衝かれたら困るが、と思っていると、相手はそれに気がつかずに見のがして助かった、と思うことがしばしばある。
 その白のウス味を衝いてくるようになれば、もうその手合は卒業した、といえる。

・「上手泣かせの戦術」とは、黒からここに打たれたら困るという題材である。

・置碁必勝作戦には、8子局を三局、6子局を五局、4子局を十七局、それに互先局を四局、収録した。
 8子局は白の欠陥が多すぎるので少なくしたが、この作戦は9子局にそのまま応用できる。
 互先局は、高級で有段者の研究資料に供するために、掲げた。
※4子局を中心にしたのは、この戦法をものにするのが、いちばん力の養成に効果的なるがゆえであるという。
➡すなわち、4子局を卒業すれば、もうアマチュアでは一人前として通用する。
 専門棋士に4子で打てれば、アマチュアの有段者だからである。
※ここでは、碁譜を多くして、解説をなるべく簡易化したという。
 この方が、頭に入りやすいと思うからであるとする。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、2頁~3頁)

第一部 置碁必勝作戦

第一部 置碁必勝作戦 第19局 4子局・黒の作戦~カラミ


【第19局 4子局・黒の作戦(A級)】
【第1図】
・左辺の六子の白を攻めて、上辺の白地を荒らそうというカラミの作戦である。
・黒が1とツケて攻めかかると、白6と進出する。
・そこで黒7、白8、黒9以下、13となるが、わずかに白二子を取り、これでは黒はさっぱり、つまらない。

【第2図】
≪棋譜≫第19局第2図、106頁

・黒は、まず白を攻める前提として、1とキッて、白の応手を探るのが手順である。
※黒1はaの打ち込みでもよろしい。
・白が2、4と受けると、黒は、5、7、9とキカしておいてから、11とツケ、以下15まで封鎖してあざやかに白を取ることができる。
※白は黒1のとき、この結果を読まなくてはならない。
 そして、13にトンで、白を逃げる処である。

【第3図】
・白は下の六子にさわらぬようにと、2以下8までと受けたところ。
・黒はこれだけキカしておけばと、9とツケて取りかけに行った。
・白16のとき黒17がよい手で、以下黒23となって、白は窒息してしまった。
※さかのぼって、黒1とキッたとき、白は11にトンで、上の二子を捨てて、大石の安全をはからねばならない。

【第4図】
・黒1とオス手は、下の白六子を狙った手だが、実は1はaにキルか、15に打ち込む方がカラミの作戦としては、いっそうきびしい手である。
※白2は5にトンでいる方が、損害が少なくてすむ。
・黒3、5以下14までは必然で、黒15とトンで、上方の白地を荒らして、黒地とすることができる。

【第5図】
※前項までの説明によって、左辺の白六子は黒から攻められると、どのぐらいイジメられるかということが、おおよそわかったであろう。
・そこで、黒1ときたときに、白は関せずえん、と2とトンで逃げているのが上策で、黒3のとき、白4と軽く受け流していれば、白は損害を最少限度に止めることができる。

【第6図】
・この図は、黒の巧妙な搦み(カラミ)作戦を示した実戦譜であるが、黒は1と打ち込んで、白の応手をみるのがよろしい。
※或は1で3にキルのもよろしい。
※白は黒1に抵抗するほど、問題が大きくなるから、中央を2とトンで、黒3を許すことになる。
※搦みの巧妙な作戦の一例である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、106頁~3頁)

第21局 4子局・黒の作戦


【第21局 4子局・黒の作戦(B級)】
【第1図】
・白1に黒2とツケて、以下白11となるのは、ツケノビの基本定石である。
・次に、黒の打つ手はaとbと二つあり、aは堅実で消極的、bは攻勢で積極的の手である。
※以下、この二つの黒の作戦を示す。

【第2図】
・黒12とオサエるのは、隅を完全に活きておいてから、次に左右の白に向かって、攻勢に出ようという狙いをもっている手である。
・白左辺を13と守れば、黒14と下辺の白を攻めている。
・白15、17と逃げると、以下26までとなって、黒は右方に勢力を作ることができる。

【第3図】
・黒24のハネに対し、白25とキッてくるのは、無理である。
・黒26から白29までは必然だけど、黒はひとまず屈したあと、30からの反撃に移る。
・勢いのおもむくところ、以下42までとなって、黒攻め合い勝となる。
※手順中、黒34は白の手数をちぢめる筋である。
※このあとは各自で確かめて欲しいという。

【第4図】
・第2図では、白15でaにツケる変化を示したが、白15を決めて、17とコスムとどうなるか。
・黒18にトビツケて、せっていく作戦が有力になる。
・白19のハネから以下黒24となったあと、bのキリが残るから、白はあと一手備えを要する。
※黒の方は▲印とあいまって、下辺が地域化してくる。

【第5図】
・白11のとき、黒12と打つのがきびしい筋。
・黒16がよい手で、自己を堅めながら左右の白を狙っている。
・白21と攻めてきたとき、黒22のハネが要領である。
・白23の方を受けると、黒24とハネて、以下黒30となるが、白21の手は失敗に帰した。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、111頁~113頁)

第27局 互先局・黒の作戦


第27局 互先局・黒の作戦(A級)
【第1図】
・実戦にできた形をそのまま採用した。
・上と下の白の一団は、まだ連絡していない。
・黒は白を分離して、搦みの作戦にかけようとするには、何処から手を着けたらよいか、黒の打ち方いかんでは、一挙に勝形にみちびくことができる。

【第2図】
・黒1が上下の白に搦む攻めの狙い。
・白2は7の方にトブ手もある。
・黒3がきびしい狙いの筋になる。
・白4なら黒5、白6、黒7と手順を運んで、9と攻めていくと、白10以下黒17までのコウとなって、白は窮地に陥る。
※黒3のツケはうまい筋で、一気に大勢を決することになった。

【第3図】前図白4よりの変化 黒19ツグ
・白4と受けると、黒5、白6と交換して、黒7とコスムのがうまい手である。
・白8に黒9と受けて、白10には黒11、白12には黒13と平易に受ける。
・白14のとき黒15とキッて、黒21までは勢いで、黒はダンゴにシボられたけど、大石の白はちっ息して、活きが困難である。

【第4図】
・黒1に対して白2と一方の白を補えば、黒3、白4、黒5、白6とキカしておいて、黒7とトブ調子がよい。
・白8とワタリを打つよりない。
・そこで、黒9、白10、黒11とオサエて、白12とキッたとき、黒13とトベば、以下黒21となって、黒11と白12の交換があるために、白は外部に脱出することができない。

【第6図】
・黒1に対して白2とくれば、黒はどう打つのがよいかを考える。
・黒3、白4、黒5と打てば、白6と逃げる。
・黒9が攻めの急所である。
・白10以下18とこの大石は治まったが、黒19と打たれては、上の白がもたない。
※黒1と打ち込まれては、どう変化しても両方を凌ぐことはできない。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、137頁~139頁)

第28局 互先局・黒の作戦


第28局 互先局・黒の作戦(A級)
【第1図】
・黒の方はどの石も治まっているが、白の方は一見して薄い形をしている。
・黒は上下の白を分離して、何れか一方をカラミ取ろうという作戦である。

【第2図】
・黒1が上下の白をカラミで攻める急所になる。
・白2、黒3、白4と切りむすべば、黒は5以下9まで手順を運んで、白を分離する作戦である。
・白10のとき、黒11、13が手順で、白の形をくずす呼吸。
・白14をまって、黒15と形につくのが冷静で、左右の白を狙ったきびしい手である。
・白16の方を用心すれば、黒17とカケる要領である。

【第3図】
・黒1のカケから前図の延長である。
・白2には黒3とユルめるのはヨミ筋で、白4のとき、黒5、7と切断を図る。
・白8はこの一手であるが、黒9のトビでうまくいかない。
・白10、12の出切りに対しては、黒13、15とダメをつめて、黒勝ちである。
※この形は、黒1のカケをくっては、白つぶれである。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、140頁~141頁)

第29局 互先局・双方の作戦


・黒の作戦(C級)搦み(カラミ)
【第1図】
・白は上下に両分されているが、黒は三石とも治まっている局面である。
・黒は存分な攻めをかける立場にあるが、優位を決めるには、どのような作戦が適切かを考える。

【第2図】
・黒1と急所にノゾキ、白2、黒3、白4、黒5の運びがカラミの作戦である。
・白6をまって、黒7のトビが調子よく、次に9と8を狙った手である。
・白が8と逃げると、黒9、白10、黒11で、下方の白を取ることができる。
※下の白を取られては損が大きいから、白8では9と助け、黒8の封鎖を許すよりなかろう。

【第3図】前図黒9よりの変化
・黒9ときびしく封じこめようという発想は、白10のキリ筋が生じて、問題が生じる。
・黒は11とヒクよりないところで、白12、黒13、白14、黒15、白16というネバリがあって、コウになる。
※黒13が肝要で、単に15は白13で、白活きである。

【第4図】前図黒11よりの変化
・白△のキリに対して、黒1とかかえるのは第一感の手だが、これは白2から平凡なはこびで、白8までと、脱出する。
※いずれにしても、白△にキリが入っては、この白を無条件で取るわけにいかないから、失敗である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、149頁~150頁)

第二部 定石問答


・「定石を知らぬ奴には敵わない」というのがある。
 たいへんな皮肉な表現であるが、碁のもつ真理の一面を現わしているといえる。
 定石を正しく理解せずに、中途はんぱに形だけで覚えていると、相手が定石はずれを打ってきたとき、それをとがめる力が伴なわないために、崩れてしまうのである。
・定石とは、広く浅く「形を記憶する」のではダメで、学ぶ心得は、少ない数でよいから、「一手一手」なぜこの黒と白の石は共によい手に当たるかを、徹底的に究明することである。

・次に、種々ある定石をその局面構成に応じて、正しく選択することが問題になる。
 つまり、盤上に描かれた定石が、血の通った「生きている定石」であるか、形骸化した「死んでいる定石」であるかが、その一局の優劣を決める重要な意味をもってくる。
※布石戦略は、定石の運用によって、大きく変わってくる。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、152頁)

【定石問答:第5題 黒先】


・両ガカリされた黒一子を動こうという訳である。
・この配置で、どの両ガカリ定石を選ぶのが適切であるかを考える。
・両ガカリもいろいろな組合わせがあり、本題では両方小ゲイマになっている。

【失敗図】
・黒1、3にツケノビても、周囲に白石が迫っていては、発展できない。
・白4、6と実利を占められ、黒は一方的に攻められる恐れがある。
※黒1でaも白bの3三で、同様である。

【正解図】
・敵の勢力範囲では、早く治まる定石を選ぶのが正しい作戦である。
・白は三間でそれ程広い間合いではないから、黒1、3のツケオサエが適切で、黒7まで隅で早く治まる。

【参考図1】
・黒5までとなったとき、白6のコスミなら、黒7、9と早く治まる要領。
※白6で9にすれば、黒7、白8、黒a、白bとなって、白からきびしい攻めは考えられない形である。

【参考図2】
・白6でサガリの場合は、黒7のキリが急所になる。
※次に白aは黒bがある。
※なお、白2で5にハネコムのは、黒a、白3の時、黒bまたはcと応じて、サバクことになる。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、157頁、159頁)

【定石問答:第26題 黒先】


・実戦によくできる形。
・下辺の白の構えに対して、どういう作戦に出れば効果的であろうか。
・打ち込むべきか、消すべきか、その判断は周囲の配置から容易な筈である。
・余裕のある方は、白の手番も考えて欲しい。

【正解図】
・黒1のカケで惜しまず決めて、白地の拡大を制限する作戦が適切である。
※黒1で6に打ち込むのは、白の構えが堅いこの際は、白aにツケられて、攻撃目標になるから失敗である。

【参考図1】黒13劫トル
※黒3で6は、白14、黒3、白10の時、11の点が後手とはいえ、双方の好点になる。
・黒3のトビは軽いので、心おきなく先手がとれる。
・白4、6の手段も、図の進行となるから、恐れない。

【参考図2】
・黒1のカケに白2のトビで受けるのは、一見してウスイ手である。
※後に黒aから様子を見る手や、黒b、白c、黒dと手厚く打つ手段が残るから、白2のトビで打つ所ではない。

【参考図3】
・前図黒1のカケは、左辺に発展できない形では理想的ではないが、捨ておくと白1のケイマで下辺の地を盛りあげられる。
・で、打ち込む所でなければ、消しに先べんする要領。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、185頁、187頁)

第三部 打ち込みの破壊力


・打ち込みは、相手が地を囲い切ってしまう形になる、最後の一瞬をとらえるのが最も効果的で、ドカンと急所の一発を決めて、敵の構えを攪乱してしまうのは、まことに痛快な戦法である。
・しかし、その囲い切る最後の瞬間ということになると、実際の局面で正確に判断するのは、至難といえる。
 つまり、打ち込みの成否は、時機の選択によって決まるわけであって、それは実戦の経験と鋭い眼力を養うよりないのである。

・華やかな「打ち込み戦法」は中盤作戦のダイゴ味であって、急所の打ち込みは、真剣勝負で一気に敵のノド笛をつく威力をもって、勝負の決定打になる。
 で、当然打ち込まなければならないところを、打ち込まないことが敗因になることは少なくないのである。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、222頁)

【中盤心得①】
・二カ所以上の弱石は、左右搦みとなって凌ぎ難いと知らねばならない。

【打ち込みの破壊力:第1題 白先】


・置碁によくできる型である。
・白1のボーシに黒2とケイマに受けたが、「ボーシにケイマ」の格言もこの際は疑問の形である。
・白3で“この一手”ともいうべき絶好の打ち込みを誘うことになる。

【正解図】
・白1の三々打ち込みが、この一手といえる急所。
・黒2と三間幅のある広い方からオサエるのが正しく、白3以下黒12までの進行は勢いだが、白△、黒▲の交換が白の利かした形である。

【参考図】
・白1の打ち込みに対し、黒2と狭い方からオサエるのは、逆方向になる。
※白7で10は、黒7が好手になる配置なので、図の分れが相場。
※やはり「ボーシにケイマ」が白の働き。

【失敗図】
・「ボーシにケイマ」の交換がある形では、白1のツケは、黒2と隅からオサエられて、苦しい戦いとなる。
※白1でaの打ち込みは、黒1または黒bと応じられて、適切でない。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、223頁~224頁)

<中盤心得④>
・堅い所は強く打ち、薄い所は戦いを避けるのが、中盤戦の条件

【打ち込みの破壊力:第12題 黒先】


・黒は、下辺の白に対してどこに打ち込むのが急所であるかを考える。
・下辺の白は粗末な形で、黒から打ち込まれては、一局終りとなるかも知れぬ。
・白aの備えがあって、はじめて一局の碁になる。

【正解図】
・黒1の打ち込みが急所。
※この意味は白のサバキを封じながら、カラミの作戦になっている点がきびしい。
・白2とコスメば、黒3とカタをツキ、白を分離して攻める要領。

【変化図】
・黒1の打ち込みに対して、白2のツケは、黒3のハネから必然黒11までとなる。
※黒は手厚い形になったのに反し、白は分離されたうえ、両方とも不安定である。
 で、黒の優勢は明らか。

【参考図】
・黒1の打ち込みは、白2、4のツケギリ、または白6のサバキを与えるので、一路下の2の方がきびしい。
※黒5でaは白bで、黒bなら白aで黒悪い。
・黒5とアテてaまたはbが手順。

【失敗図】
・黒1の打ち込みに白2は図の進行で黒好調となる。
・黒11までとなった姿では、白は両ガラミになって、一方はもちそうにない。
※前図のサバキの中から選ぶより他ない。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、235頁、238頁)

<中盤心得⑥>
・成算のない場合に、石は決してどんづめまで攻めてしまうのは悪い。

【打ち込みの破壊力:第17題 黒先】


・下辺の白は大きく構えているが、弱点が残っている。
・黒からドカンと急所に打ち込まれると、白は裸同然になってしまう。
・で、この場合、黒aでは物が小さい。
※打ち込みの条件は自陣が堅いことにある。

【正解図】
・黒aのツケ味を見て、黒1とドカンと打ち込むのが急所である。
・白2なら黒3のハサミツケが手筋。
・黒7までとなれば、黒bからからcの利きがあり、黒は楽に治まり形になる。

【変化図】
・黒1、3に対し、白4と下ツギに変化した図である。
・黒5から9とトビだすことになれば、白は地を破られた上に、左右が弱くて守勢一方になる。
※黒成功の作戦である。

【参考図1】
・黒1、3に白4に下ハネで変化するのは無理。
・黒5のキリから勢い黒11までとなった時、白aのシチョウ関係が悪いから、下辺の白四子が落ちる。
※白4はシチョウ関係がポイント。

【参考図2】
・白2でワタリを止めるのは、黒3で次に黒a、b、cの味を見て、捕らえられることはない。
・白4なら黒5にコスミ、次に白a、黒dと中央へ進出する形が好調である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、243頁、245頁)

>第四部 捨て石の怪

【捨て石の怪:第1題 黒先】
【第1題 黒先】
・直接助からぬ石は、捨て石にして活用する工夫が、生きた碁の真価である。
・隅に囲まれた黒四子を助けるのは、無理な相談。
・で、取られた石を捨て石にして得を図る工夫はないか、と考えるのが順序である。

【正解図】
・黒1と石を大きくして捨て石にするのがポイント。
・白2のオサエを待って、黒3のキリが狙いである。
・後は一本道で、白18まで、黒は巧みに外勢を張る要領。
※白地は減り、黒は厚い。

【参考図】
・正解図の捨て石作戦によるシメツケを嫌って、白2とユルメる手段は、黒3、5で隅に手が生じる。
・次に白a、黒b、白c、黒d、白eで部分的には、劫の形だけど、前図より白が劣る。

【失敗図1】
・正解図の黒1、3に対して、白が黒の捨て石作戦を嫌って、4からアテるのは無理である。
・黒7、9で追い落しが成立する。
※黒1に対しては、正解図が一筋道である。

【失敗図2】
・黒四子を捨て石にする手で、黒1の打ち込みにするのは、白2とオサエられて、次の手がない。
※周囲の堅い所へ打ち込むよりは、捨て石で外勢を築くのが理である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、285頁~286頁)

【捨て石の効用②】
・布石における場合の捨て石
・白石をしのぐための捨て石

【捨て石の怪:第5題 黒先】


【第5題 黒先】
・黒a、白b、黒c、白dとキメるのは、無造作過ぎて、妙味が生じない。
※そこで黒は、白の不備を衝く捨て石の手法によって、局面をひらいて欲しい。
※碁は常に捨て石にすることを惜しんではならない。

【正解図】
・黒1のツケ、白2のハネは当然として、黒3のキリが捨て石作戦になる眼目の筋である。
・止むなく白4にカカエた時、黒5のアテで決まる形である。

【参考図1】
・黒1以下5までとなった時、白6と△の要石を助けるのは、黒7、9で星下の一子を先手で分断される。
※白のたまらない姿であるが、それというのも黒3の効果によるものである。

【参考図2】
・黒1、3に対し、白4と応じるのは無理である。
・黒5以下の手順で21まで、白が落ちてしまう。
※白4で9は黒6。
※白4で7は、黒4があるから正解図の分れが相場である。

【例題図】
・黒1、3の筋で形をキメるのは実戦でもしばしば現われる。
※黒1でaはゆるみ。白2で3は利かされである。
※黒3は捨て石にして整形するポイントの一着。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、289頁、291頁)

【捨て石の効用⑤】
・先手を取るための捨て石
・ヨセにおける捨て石

【捨て石の怪:第15題 白先】


【第15題 白先】
・右下隅ではげしい攻防戦が展開されている。
・で、白は包囲された六子を捨て石にして外勢を張る狙いを採るが、黒も安易な応手を考えると、逆に取られる恐れがある。
※捨て石作戦の醍醐味は。

【正解図】黒20ツグ
・白1のオサエが急所。
・黒2が最善の応手で黒の手数が延びる。
・白3で5を先にしてもほぼ同結果。
※白は捨て石を最大限に働かして、目のさめるような外勢を張っては成功である。

【失敗図1】
・白1に、黒2とハネるのは軽率である。
・白3のサガリを利かしてから、5、7とダメヅマリにみちびく。
・黒8の時、白9のカケが手筋で、ピタリとシチョウが成立する。

【失敗図2】
・前図の変化である。
・白1、3に黒4と応じるのは、白5以下の手順で黒が落ちる。
・経過中、白7、9がポイントの手筋である。
※黒10で12に出るのは、白aから簡単に落ちる。

【失敗図3】
・白1のハネで攻めるのは失敗する。
・黒2、4と首を出されて、白から封鎖する形がない。
※正解図に示された捨て石の醍醐味を実戦で味わいたいものである。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、301頁、304頁)

第五部 タネ石の取り方


・よく人から、先生は何十手ぐらい先きが読めますか、と聞かれるが、実はこれには返答に困る。
・布石時代はもちろん中盤の戦いになってからでも、一手先がわからない場合もあるし、戦略の方針の岐路に立ったときなどは、どちらを採ったものかと、迷うことはしばしばある。
・ところが、シチョウとか或はこれに類する推理してゆける死活の問題においては、何十手先までも、心眼で読んでいけるのが、専門家の思考力である。
・心眼というのは、碁盤に並べて、置いたりハイだりして検討することなく、その盤上に並んでいる形をジッと見詰めて、頭の中で一手ずつ推理していくことをいうので、実戦ではすべてどんなむつかしいところでも、心眼で読むよりないから、この心眼で読む練習が実は絶対に必要なのである。
・戦いの筋を見つける勘の養成と推理力を養成されたい。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、306頁)

囲碁の狂歌① 作 本因坊算砂
石立は、相手によりて打ちかえよ さて劫つもり時の見合わせ

【タネ石の取り方:第1題 白先】


【第1題 白先】
・白石を切断している▲印の黒二子はタネ石である。
・白は当然黒のタネ石をねらうことになる。
・タネ石とは、石数の多少に関係なく、要(かなめ)の石に当り、その石を取られることは、勝敗に影響するほど大きい。

【第1題 白先】
【正解図】
・白1のキリから打つのが鋭い。
・止むなく黒2とツゲば、白3のアテが手筋で、手段が生じる。
※黒4で5にすれば、白4で黒五子が落ちるため、図の劫になる。
※白aから劫材は白豊富。

【参考図1】白7劫トル・白9ツグ
・黒は劫材が足りないので、黒8のアテから劫を避けるのは、下辺の損失が大きい。
・白11で確実にイキと見ても、中央の白に対する攻めがかなり緩和された形であり、白の成功である。

【参考図2】黒6ツグ
・正解図白5のアテまでとなった時、黒6にツグのは、白7のツギで黒一手負けになるから、黒は劫を争うよりない。
※白1のキリに黒2で4なら、白2で有難くタネ石を取ってよい。

【失敗図】
・白1にキルのは、黒2のサガリで、手にならない。
※白1で2とハサミツケるのも、黒aにツギがあり、失敗である。
※単にaとキル急所に注目されたい。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、307頁~308頁)

囲碁の狂歌④
・囲碁はただ下手と打つとも大事なり。小事と思う道のあしさよ。

【第10題 黒先】


・下辺中央で切り結んだ攻防が焦点である。
・黒は白の欠陥をとらえて、▲印の手数を延ばせば、タネ石の白四子を取れる。
・攻め合いの手法として実戦に多く生じるから、この機会にものにして欲しい。

【正解図】
・黒1のサガリはこの一手で、白2の時、黒3と出て、5のサガリがポイント。
・白6はつらいがしかたない。
※aとツメるのは、黒6、白b、黒c、白6、黒dが成立。
・黒7で一手勝となる。

【失敗図】
・黒1以下、白4までなった時、手拍子で黒5と当てるのは失敗である。
・黒7、白8で逆転する。
※なお、白2で3のツギは、黒7で攻め合い勝になる。
※正解図黒5に注目。

【例題図】
・問題図と類似の筋で黒のタネ石を取ることになる。
・白1のハネから3のツギが先手に利くのがポイントである。
※黒4でaは、白b、黒c、白dで黒四子が落ちる。

【参考図】
・白1に対し、黒2と応じれば、やはり白3のツギが正しい。
・次にaと5の点を見合いにして、黒のタネ石を取る要領である。
※初学者にも理解できる形なので、実戦応用が広い。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、319頁~320頁)


≪囲碁の攻め~山下敬吾『基本手筋事典』より≫

2024-10-06 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~山下敬吾『基本手筋事典』より≫
(2024年10月6日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、引き続き、囲碁の攻めについて、次の事典を参考に考えてみたい。
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年 
 
 著者の山下敬吾九段は、先日(9月29日)の第72回NHK杯2回戦で、福岡航太朗五段との対局で、奇抜な布石を打たれていた。
 解説の河野臨九段は、山下九段を“囲碁界随一の力戦家”と紹介されていた。
 山下九段といえば、かつては初手天元、5の五など、大胆な布石で知られていた。この日の布石は、黒番の山下九段が5手目に、天元一路左横に打たれ、奇抜な布石を打たれた。
 こうした布石が打てるのも、深い読みに裏打ちされた手筋を熟知されているからであろう。
 さて、その山下敬吾九段の経歴であるが、高校の数学教師で囲碁愛好家の父より、兄と共に囲碁を習ったのがきっかけであるようだ。
 1986年、旭川市立東栄小学校2年の時に、少年少女囲碁大会小学生の部で、歴代最年少記録で優勝し、小学生名人となる(決勝の相手はのちにプロでタイトル争いをすることとなる高尾紳路氏)。
 翌年、1987年に上京して、アマチュア強豪菊池康郎先生の主宰する緑星囲碁学園に入園する。その後、プロとなり、張栩、羽根直樹、高尾紳路とともに「平成四天王」と称された。

 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。

 ところで、折しも、本日のNHK杯の放送にかわって、少年少女囲碁大会(8月6日、7日)の決勝戦の模様を、鶴山淳志八段が解説されていた。
 小川蓮君(小4)vs横手悠生君(小6)
 二人とも東京代表で、藤澤一就八段の主宰する囲碁教室で勉強しているライバル同士の決勝戦となった。小川君が左辺の白の勢力圏に打ち込み、戦いを仕掛けてゆき、劣勢になったものの、中盤で挽回し、小学4年生にして、見事に前年度の覇者の横手君を打ち破り、全国1位に輝いた。
 藤澤一就氏といえば、前回のブログで紹介した『基本手筋事典』の藤沢秀行名誉棋聖の息子さんである。そして、一就氏の長女が、女流四冠などを達成した藤沢里菜七段である。
 秀行名誉棋聖の息子さんの囲碁教室から、全国小学生のトップを輩出させるとは、その指導力にも敬服した。



【山下敬吾(やました けいご)氏のプロフィール】
・昭和53年生まれ。旭川市出身。
・菊池康郎氏に師事。
・平成5年入段、9年五段、15年九段。
・平成12年25期碁聖。15年27期棋聖。18年棋聖を奪回4連覇。22年65期本因坊。
 他に天元、新人王など多数のタイトルを獲得。



【山下敬吾『基本手筋事典』(日本棋院)はこちらから】



山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年
【目次】
第1部 攻めの手筋(全て黒番)
1 切断する 第5型
2 石を取る 第8型
3 封鎖する 第7型
4 形を崩す 第7型
5 重くして攻める 第8型
6 手数を縮める 第1型
7 両にらみの筋 第1型
8 根拠を奪う 第5型
9 地を荒らす 第6型
10 いじめる 第6型
11 コウの攻防Ⅰ 第6型
12 眼を奪う 第1型
第2部 守りの手筋(全て黒番)
13 連絡する 第7型
14 シノぐ 第7型
15 進出する 第5型
16 形を整える 第3型
17 サバく 第2型
18 手数を延ばす 第4型
19 様子を聞く 第1型
20 コウの攻防Ⅱ 第1型
21 生きる 第4型
22 その他の手筋 第4型
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、6頁~11頁)




第1部 攻めの手筋の序文


1切断する


・石の連絡を断ち切る手筋である。
 石や地を切り離すことによって、石を弱体化させる効果が大きい。
・切断によって別々に生きなければならなくなるからである。
 場合によっては、切断がそのまま石の取り込みにつながることもある。
 攻めの第一に挙げた由縁である。
・ここでは切断の基本的な形をいくつか採り上げた。
 個々の手筋を見ていく前の、準備知識としていただきたい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、14頁)

2石を取る


・囲碁とは本来<石を囲む>こと、つまり<石を取る>ことを意味する。
 石を取るのは原初からの碁の基本行為である。
・石を取るのは相手の戦闘能力を削ぎ、有利になることはいうまでもない。
 とくに石を切り離している<かなめ石>を取ることができれば、あとを安心して強く戦うことができる。
・石を取る手段はいろいろある。
 本編に入るまえに、基本的な石の取り方を説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、44頁)

3封鎖する


・封鎖にはふたつの目的がある。
①ひとつは相手の進出を止め、攻めに活用することである。
 とくに眼のない石に対しては、進出を止めることにより、きびしい攻めがねらえる。
②もうひとつは封鎖により、自分の地を広げること。
 模様を構築するときなどは、とくに封鎖が効果的である。
・ここでは、封鎖の基本について、頻繁に現われる形を例として簡単に説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、80頁)

4形を崩す


・形を崩すというのは、多くの場合、相手の形の急所に一撃して、働き、効率の悪い愚形にさせることを意味する。
・愚形は、アキ三角や陣笠、ダンゴ石などさまざまな形があるが、要は石の働きの悪い重複形のことである。
・碁は一面では、石の効率性を争うゲームだから、相手を愚形に追い込めばそれだけ有利になるともいえる。
☆代表的な例をあげて、説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、110頁)

5重くして攻める


・石が重い、石が軽いという表現がある。
 囲碁用語でもあるが、抽象的でわかりにくい。
 ごく簡単にいえば、石数の多少で決まるといってもよい。
・重い石というのは、石のかたまりが大きく、捨てにくい石。  
 逆に軽い石は、石数が少なく、捨てても影響がない石である。
・攻めようというときには、相手を重くして、フリカワリを許さない形にするのが、効果的である。
☆ここでは代表例を挙げて説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、140頁)

6手数を縮める


・手数を縮める、あるいは手数を延ばすのは、攻め合いに勝つための必須の手筋である。
・手数というのは、石を取るまでのダメの数のことである。
 相手の手数は縮め、自分の手数は延ばすのが、石の取り合い、つまり攻め合いの基本である。
・それでは、手数を縮めるには、どうすればいいか。
 一言でいえば、相手をダメヅマリに導くこと。
 そのためには、①形の急所を衝く筋、②捨て石の筋、これら、ふたつの手段がある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、164頁)
図も既に入力済

7両にらみの筋


・両にらみの筋とは、その名のとおり、一つの着手で二つのねらいを持つ手筋のことである。
 相手が片方を防げば、もう一方のねらいを実現する可能性が高い。
・見合いという術語があるが、考え方としては相通じるものがある。
 両ガラミ、モタレなどの作戦も両にらみの筋の一つの変形ともみられよう。
・碁の一手一手が両にらみの要素を含んでいる、といってもいいかもしれない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、188頁)

8根拠を奪う


・根拠を奪うとは、文字どおり相手の眼形を奪うことである。
・封鎖が相手の進路を止めて小さく生かす攻めとすれば、根拠を奪うのはそれとは反対に追い出す攻めといえる。
・根拠を奪うには、外からじりじり相手の領域を狭めるのと、内部から撹乱するのと、ふた通りある。
 いずれにしろ、自分の地を固めながら、相手の根拠を脅かし、それが攻めにつながれば理想的である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、222頁)

9地を荒らす


・地を荒らす手筋には、派手さはないが、その巧拙によってすぐ数目は違ってしまう。
 地味な分野ではあるけれど、勝敗に直結するだけにおそろそかにはできない。
・地を荒らすには、まず相手の地の欠陥、弱点を見つけることが必要だ。
 それによって、ヨセの具体的な手段を考えることが大切である。
☆本章では、欠陥を衝くヨセを多く収録した。
 手筋を知って実戦で使いこなしてほしい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、246頁)

10いじめる


・囲碁でいじめの筋といえば、石の生死を脅かすことによって、何らかの得を図る手段のことである。
 たとえば、攻めて地を削減したり、石をもぎ取ったりするのが、いじめの筋の目的である。
・死活の筋とも関連するが、死活はあくまで石の生き死にだけを問題にする。
 地の多寡を考えるいじめとは、異なるところである。
☆本編に入るまえに、少々例を挙げて、いじめの筋をみていただこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、270頁)

11コウの攻防Ⅰ


・コウは序盤から終盤まで、あらゆる局面があらわれる。
 コウというルールがあるからこそ、局面が複雑化し、囲碁の深みが増すともいえる。
・攻防という観点から考えれば、攻めのコウもあれば、守りのコウもある。
 一概に判別できないものも多いが、ここでは攻めの要素を含んだコウを採り上げた。
 守りのコウについては、第2部の「コウの攻防Ⅱ」をご覧いただこう。
☆まず攻めのコウの手筋をいくつか例示しよう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、294頁)

12眼を奪う


・攻めの部最終章は、死活のうち「眼を奪う」手筋を採り上げた。
〇石を殺すには、大きく二つの方法に分けられる。
①ひとつはフトコロをせばめる攻め。
 眼形を作る<広さ>を攻めるもので、ほとんどの場合、外からせばめて眼形を奪う。
②もうひとつが急所の攻めである。
 形によって急所は変わるから、その見極めが大事になる。
 眼形の急所に直撃するその性格上、内部から攻めることが多い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、324頁)

第1章 切断するの例題


切断する
【1図】(直截の切り)
・単独の石を切り離す切りの原点。
・本図では、黒1によって、白はどちらかの石が助からない。
・白2は上辺の石を大切にするもの。
・黒3で三角印の白は動けず、攻めを防いで白4の二間ビラキも省けない。
※切りの威力である。

【2図】(出切り)
・黒1、3は、手筋以前のもっとも素直な切り。
※形からみて切断への力強い迫力といったものが感じられる。
※切り離された白は両方とも見捨てるわけにはいかず、ここから激しい戦いが予想される。

【3図】(ツケコシ)
※格言に「ケイマにツケコシあり」という。
・黒1がそのツケコシで、切断の手筋として多用される。
※本図ではシチョウが悪いので、白はaないしbとノビて戦うことになる。
 いずれにしても、むずかしい戦い。

【4図】(ワリ込み)
・黒1がワリ込み。
・一間トビに割って入る形に意外性、飛躍といったものが強く感じられる。
➡決まれば恐ろしい手筋。
・黒1で白はつながらない。
※上辺の白には眼形を作る余地がなく、あきらめざるを得ない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、14頁~15頁)

切断する:第5型


【第5型】
・切断の形はさまざまあっても、もっとも効果の大きい手段を選ぶのが常識。
・形に明るいことも手筋発見の力になる。
【1図】(失敗)
・黒1のハネ出しは白2とオサえられて、切断できない。
※隅にはもともと一眼はあり、なんら事情は変わっていない。
※周囲の黒の石の形をもう少し考えれば、どこが急所の点になるか、わかるだろう。

【2図】(失敗)
・黒1はつい打ちたくなる手だが、都合よく白3とはツイでくれない。
・正しく白2と応じられると、黒はアキ三角の愚形になっている。
※黒3と切断はできても、白4でぴったりと生き。
 これでは効果半減だ。

【3図】(正解)
・黒1のツケが手筋。
・白2と受けても、黒3のアテ込みが好手で、白は切断されている。
※隅の白にも生きはない。
※黒1、3は上辺の黒の形(▲の二子)をいっぱいに働かせた切断といえるだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、20頁)

第1章 切断する:ツケ【参考譜1】孔傑vs張栩


【ツケ】
・単に生きを求めるだけでは、相手は痛痒を感じない。
 相手の弱点を衝きながら、シノぐのが要諦。

【参考譜1】
第3期トヨタ&デンソー杯準々決勝
 白 張栩
 黒 孔傑

【参考譜1】
・白1のツケが黒の切断をにらんだ手筋。
※ただ生きるだけでなく、場合によっては黒を切り離して、攻めに転じようという強い手でもある。

【1図】(実戦)
・黒2は中央の厚みで勝負しようとしたものであろう。
・白3のアテには、黒4から6の切り返しが手筋。
※黒8で9は、白aからbと切られて、うまくいかない。
・白11まで切り離しては実利が大きく、白成功であろう。
 
【2図】(変化)
・白1に黒2と受けると、白3から5と取り、前図のように、黒6と封鎖するのは、白7の両アタリがあって、破綻する。
・したがって、白3のアテに黒は7とノビる相場で、白6のノビキリになれば、白は悪くない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、34頁)

【参考譜2】37頁 2024年9月6日

第1章 切断する:ワリ込み【参考譜2】古力vs依田紀基


【ワリ込み】
「一間トビにワリ込みあり」というが、ワリ込みは相手の形に節をつけ、切断をねらうのがいちばんの目的。

【参考譜2】
第17期テレビアジア選手権
 白 依田紀基
 黒 古力

・白1はシノギと反撃を含んだきびしいワリ込みである。
※黒がどちらにツイでも、切る気迫。
・黒4のツギなら、当然白5の切りである。

【1図】(実戦)
・白の切りに対して、黒1のアテから、3のカケはサバキの手段。
※強く戦うなら、黒4のツギだが、白aとマゲられて、無理と判断したものだろう。
・白4から6の取りに、黒7の後退は自重したものか。
※黒8にツイでシボリをねらえないのでは、つらい。
・白は8から10と切って厚くなった。
※はじめの形からみれば、予想以上の成果とみていいだろう。
※本局は中国の北京で行われ、依田九段が中押し勝ち。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、37頁)

第2章 石を取る:第14型


第2章 第14型 黒番
【テーマ図】
・オイオトシで石を取るには、相手をダメヅマリに追い込むことが条件となる。
 そのためには細心の手順が必要。
 初手で成否がわかる。

【1図】(失敗)
・黒1のトビは、白をダメヅマリにする工夫が感じられない。
・白2のトビが好手で、左方に連絡してしまう。
※なお、黒1でaのアテを決めてしまうのも、白bと換わって、そのあとがうまくいかない。

【2図】(正解)
・黒1の押しが手筋。
※なんの変哲もない普通の手にみえるが、これが白のダメヅマリに追い込む急所の一手になる。
・白2に黒3のカケが好手。
・白4なら、黒5のホウリ込みが手順となり、オイオトシ。

【3図】(変化)
・前図黒3のカケに、白1のトビなら、黒2から4と詰める手順。
 ⇒やはりオイオトシが成立。
※前図の黒1の押しは普通すぎて、ことさら手筋というほどのものでもないが、理にかなった急所の一着である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、59頁)

石を取る:ツケ【参考譜4】張栩vs王銘琬


【ツケ】
・実戦ではいうまでもなく、石を取る状況にはいろいろなケースがある。
 相手の出方次第で、石を取る手が生じてきたりする。

【参考譜4】
第56期本因坊戦 挑戦手合第1局 
 白 王銘琬
 黒 張栩
【参考譜4】
・中央の黒大石が危機に瀕しているが、黒1のツケが白の応手をみた妙手だった。
※白の出方によってはダメがつまり、白が取られるはめになる。
【1図】(実戦)
・黒1のツケを食らってはほかの打ちようもなく、実戦は白2とツイだ。
・黒は3から5と白三子を取り込み、白は4から6と切って、あくまで黒全体をねらう。
・黒7から9と出切る手が強烈な反撃。
・黒11から13とハワれては、左辺の白が持たない。
※実戦の白2で、3にツイで助けるのは、黒aと眼を持たれる。
 そこで白bとあくまで大石をねらうのは、黒7、白8、黒10、白9、黒2の切りがきびしく、白が破綻する。

(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、67頁)

第2章 石を取る:鼻ヅケ【参考譜6】朴永訓vs山下敬吾


第2章石を取る:鼻ヅケ
【鼻ヅケ】
・シノぐときには、相手のかなめ石を取るのが、もっとも効果的である。
・それには、急所を見極め、直撃する。

【参考譜6】
〇第1期トヨタ&デンソー杯1回戦 
 黒 朴永訓
 白 山下敬吾
・白1の鼻ヅケがこの一手の手筋。
※黒二子のダメヅマリを直接衝いて、黒の動きを封じる、形の急所である。
 黒は動きが不自由となった。
【1図】(実戦)
・白1に黒は2と出るくらいのもの。
・そこで、白3の利きを行使して、黒4に白5と形を整える。
※攻め合いの形となったが、すでに白は読み切りである。
※なお、黒2で5のハネ出しは、白2と出て心配はない。

【2図】(実戦・続)
・黒は1、3とツケヒいて、手数を延ばそうとするが、白2、4で大丈夫。
・黒5とダメをつけても、白10までぴったり白の一手勝ち。
※平成14年、朴三段はこのとき16歳。韓国の天元だった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、75頁)

第2章石を取る:第28型


第2章 第28型 黒番
【テーマ図】
・黒八子の救出が問題。
 そのためには、切り離している白一団を取り込まなければならない。
 白のダメヅマリに注目。
 シチョウは黒有利。
※原図は「官子譜」所載。

【1図】(失敗)
・一見すると、黒1がバランスのよい封鎖の手筋にみえるかもしれない。
・しかし、白2のコスミツケから6と打たれて困る。
※生きと脱出が見合いになっている。
※白のダメヅマリを衝いた攻めが必要。

【2図】(正解)白10ツグ
・黒1のカドが急所。
・白2のコスミには黒3、白4を交換し、黒5から7のホウリ込みで白をダメヅマリに追い込むのがうまい。
・最後は黒13のホウリ込みが決め手となり、白はシチョウ。

【3図】(変化)
・黒1に白2の押しから4のマゲも考えられる。
・それに対しては、黒5のホウリ込みから7のカケが読みの入った一手。
・白8以下、脱出を試みても、黒13が決め手で白の大きなかなめ石は助からない。
※次に白aなら黒b。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、76頁)

第2章 第30型


第1部 第2章 第30型
・ねらいは白のダメヅマリ。
 初手さえ発見できれば、かなめ石はわりあいすんなり取れるかもしれない。
※原図は「発陽論」所載。
【1図】(正解)
・単に黒1とハネ込むのが、白のダメヅマリをねらった手筋。
・白2のアテには黒3が妙着で、白が参っている。
・白4なら黒5でかなめの白五子がオイオトシ。
※白はダメヅマリに泣いている。

【2図】(変化)
・黒1に白2と内側からアテれば、黒3と突っ込む手順。
・白6までとダメヅマリにさせて、黒7のツギから9のカケが決め手になる。
・白10から12ともがいても無駄な抵抗で、黒13までシチョウ。

【3図】(失敗)
・前図黒9で、黒1の押しから7まで攻めるのもありそうだが、これは失敗に終わる。
・白8のツケから12までとなって、ぴったり攻め合いは白の一手勝ち。
 ゲームセット寸前の逆転では泣くに泣けない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、78頁)

封鎖する:第1型


【封鎖する:第1型】(黒番)
・切断の手筋として、有効な働きを持つ手段で、ここではそれを封鎖に活用する。
・一子を犠牲打とする代表的な封鎖の形。
【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1のツケは白2とノビられて、相当味悪の形。
・黒3とツグしかないが、白a、b、cの出切りを含みにして、dのハネ出しがきびしくなる。
※すぐさま決行されても、黒は持ちこたえられないだろう。
【2図】(正解)
・黒1のツケコシが封鎖の手筋。
・白2、4は仕方なく、黒5から7まで味のよい封鎖形である。
※なお、白4でaのアテを利かすか、あとにbやcの味を残すかは、どちらともいえない。
 黒からは白へのいじめが楽しみ。
【3図】(変化)
・黒3のとき、白4とノビて戦うのは、無理としたものだろう。
・黒5から7が整形の形。
・白は8と生きるくらいの相場となり、黒9に先行できる。
※なお、白4でaは、黒b、白c、黒8となって、やはり黒有利な戦い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、82頁)

封鎖する:コスミツケ【参考譜7】小林覚vs安斎伸彰


【参考譜7】
第14期竜星戦決勝トーナメント
 白小林覚 vs黒安斎伸彰

<コスミツケ>
・封鎖は相手の出足を止め、自身は安定する。
 しかも外に厚みができて、一局の主導権を握ることができる。
【参考譜7】
・白1のコスミツケが封鎖の手筋。
※黒のタケフの形の急所にあたっている。
 ここを封鎖できるか、黒に突破されるかは大変な違いである。
【1図】(実戦)
・黒2のマゲは仕方がない。
・白は3と封鎖して手厚い。
・白5から9と暴れて、白が打ちやすい。
※なお、白3でaは、黒3と突破されて悪い。

【2図】(変化)
・黒2と出るのは、白3のハネ込みから、5のオサエがきびしい。
・黒6から8とダンゴになってはつらい。
※白にとっては格好の攻撃目標だ。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、91頁)

第3章 封鎖する:第10型


第10型
【テーマ図】
・ダメヅマリをねらった封鎖の形を考える。
 白の反発により、思わぬ結果になることも考慮に入れておきたい。
【1図】(失敗)
・黒1のツケもときに考えられる筋だが、この場合はちょっと凝り過ぎだろう。
・白2、4のワリツギが適切で、黒5なら白6とはみ出される。
※なお、黒1で3のコスミは、白1とナラばれてつまらない。
【2図】(正解)
・黒1から3のハネを一発利かして、5にカケるのが、ダメヅマリをねらった封鎖の筋。
・白6から8の出切りには、黒11まで先手になる。
※あと黒aが白の右辺進出を妨げる好点。
 黒の手厚い封鎖形であろう。
【3図】(変化)
・黒3のハネに、白4と押して反発することも考えられる。
・それには黒5のハイを利かし、7とトンで不満はない。
※封鎖は逃したが、黒aとトベば白は眼がなくなる。
 といって白は一手入れていると後手。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、92頁)

封鎖する:第14型


第14型
【テーマ図】
・格言に「ケイマにツケコシあり」という。
 本型はまさにその一手が焦点である。
 白の応手によっては、黒から隅に手段の余地が残る。
【1図】
・黒1がツケコシの手筋。
・白は2とさえぎり、黒3の切りに白4とカカえるくらいのもの。
・黒9まで完封して黒厚い。
※これは白がつらいので、あらかじめ9に備えが必要。
 なお白8を省くと、黒8でトン死する。
【2図】
・前図のように完封されるのはひどいから、白4、6とサガった形。
・しかし、これには黒7のコスミが筋で、隅に手が生じる。
・白8のアテはやむなく、黒13までのエグリは大きい。
※白は根拠を失った。
【3図】
・黒1のツケコシに、白2と下から受けるのもひとつの手筋である。
・白8まで辺に展開するのが白の作戦だが、黒も7まで大きく稼いで不満はない。
※途中、白4でaとカカえるのは、黒4で1図に戻る。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、97頁)

封鎖する:第16型


第16型
【テーマ図】
〇小目の一間バサミ定石からの変化形。
 封鎖は相手の進出の急所を直撃するところか始まる。
 それがダメヅマリを衝いていれば効果が大きい。
【1図】(失敗)
・黒1、3の二段バネはきびしそうにみえるが、白4の単バネが黒の勢いを削ぐいい手。
・黒5のツギはやむを得ず、白6にノビキられては息が切れている。
※これでは白のダメヅマリを衝いてはいない。
【2図】(正解)
・黒1の点が白の進出とダメヅマリの両方を見据えた急所。
・白2のツケなら黒3とワリ込んで切る。
・黒9まで手厚い。
※黒aは先手、逆に白aなら黒bとノビてよし。
なお、左辺重視なら白2に黒c、白5、黒d。
【3図】(変化)
・黒1に白2は堅実な受け。
・黒は3と戻るくらいのものだから白先手。
※白2でaは黒bと打たれ、ここは進出しづらい。
 なお、白2を省くと、黒2のマクリから、白c、黒d、白e、黒fがきびしい手段となる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、99頁)

封鎖する:第26型


第26型
【テーマ図】
・上辺の黒を助けるのがテーマ。
 そのためには中央の白を封鎖して取り込まないといけない。

【1図】(失敗)
・黒1のアテから3とシボるのが、まず目につく筋だろう。
・白4に黒5とアテても、シチョウにはならない。
・黒7から9は、白14まで黒破綻する。
※また、黒7で12のカケは、白14の切りで黒無理。

【2図】(正解)
・黒1のハサミツケが封鎖の手筋。
・白2の取りなら、黒3とオサえてよい。
・白4には黒5から7まで、オイオトシでかなめ石が落ちる。
※なお、白2で5のブツカリには、黒aのヒキで白は打つ手がない。
【3図】
・白の最強のがんばりは前図白4で、白1のツケである。
・しかし、これには黒2のハネ出しが強手。
・白3から5のアテに、黒6から8とアテて、天下コウ。
※白のツブレといっていいだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、109頁)

第4章 形を崩すの例題


第1部第4章 形を崩す
・形を崩すというのは、多くの場合、相手の形の急所に一撃して、働き、効率の悪い愚形にさせることを意味する。
・愚形は、アキ三角や陣笠、ダンゴ石などさまざまな形があるが、要は石の働きの悪い重複形のことである。
・碁は一面では、石の効率性を争うゲームだから、相手を愚形に追い込めばそれだけ有利になるともいえる。
☆代表的な例をあげて、説明しておこう。

【1図】(ノゾキ)
・黒1が白の形を崩す急所のノゾキである。
※切りを防いでaと打てば、アキ三角の愚形で最悪の形。
・それを避けて白2と断点を守っても、白は愚形に変わりはない。
※黒1の一発で、白は眼形が失われた形。

【2図】(急所の守り)
・白番なら1と急所を守るところ。
※これで白は一気に強い石になり、急な攻めはなくなる。
反対に上辺の黒は弱くなり、白aなどの攻めが脅威になる。
一手の差で完全に攻守交替したということである。
【3図】(急所の一撃)
・黒1が白の根拠を取る急所。
・封鎖を避けて白2と押すが、黒3とハネられて困った。
・進出するには白4しかない。
※アキ三角の愚形になるが、仕方がない。
・白の形にくらべ、黒は5と守って好形。
【4図】(切り)
・前図、白4のアキ三角はつらいから、白1とツケて進出を図る。
※しかしこれはもっと悪い結果になる。
・黒2が強手で、白は5、7から生きるしかない。黒厚い。
※白1で4のハネも、黒2と切られて悪い。
【5図】(コスミ)
・黒1に白2とコスむのは、黒3の押しに白4とノビるしかない。
・黒a、白bの先手利きからみれば、白4はアキ三角であり、この進出もすでに形が崩れている。
※白は眼がなく、一方的に攻められる。
【6図】(俗筋)
・シチョウが悪いからといって、黒1とアテ、白2に黒3とアテてしまうのは味気ない。
・黒5は手厚いが、白に右辺に先着されて、黒は棒石になりかねない。
※黒5でaのヒラキなら、白5のマゲが手厚い。
【7図】(カケ)
・黒1のカケが手筋。
・白2とアテれば、黒3から5のシボリが気持ちいい。
※白はダンゴ石となり、形が崩れる。
※ちなみに、隅の白三子は、黒aには白bでよく、他の手もうまくいかない。
 黒からのちにcが狙い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、110頁~111頁)

形を崩す:第2型


【形を崩す:第2型】(黒番)
・相手をダンゴ石にさせる常用の手筋である。
・本型の場合、相手をダメヅマリにして重くさせる効果もある。
・原図は「活碁新評」所載。

【原図】
【1図】(失敗)
・黒1と打って、逃げ出せないことはない。
※しかし、白に左右を固められて、黒は得にならない。
 はっきりした根拠を持つまで、黒が負担になるであろう。
※すぐの逃げ出しでなく、柔軟な発想も必要。

【2図】(失敗)
・黒1のツケもひとつの筋ではあるが、この場合は白2と取られて、つまらない。
※次図の気持ちいいシボリを逃しただけでなく、黒三子を一手で取られたため、あと何も利かなくなっている。
【3図】(正解)白4ツグ
・黒1のホウリ込みから、3、5とシボるのが、形を崩す手筋。
※白をダメヅマリにし、重くしている効果もある。
・ここで黒7と動き出すなら、1図と違い十分考えらえられる。
※互角以上の競り合いであろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、113頁)

第4章 形を崩す 第5型

 
【第4章 形を崩す 第5型(黒番)】
・形を崩すのと形を整えることは、表裏の関係にある。
 黒が急所を衝くか、白が守るか。
 一手の差で石の強弱が入れ替わる。
※原図は「活碁新評」所載

≪棋譜≫117頁、問題図


≪棋譜≫117頁、1図

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、白の断点をねらった、形を崩す手筋。
・白2と守れば、黒3とトンで、攻めの態勢が整う。
※白は眼形を失い、弱い石になる。
※白番なら、1と守るのが、相場。
 一手の価値があり、強い石となる。

≪棋譜≫117頁、2図

【2図】(変化)
・黒1に白2が手強い抵抗手段だが、この場合は黒3のサガリが強手。
※黒aの躍り出しとbのツケが見合い。
黒bのツケに白cのツギなら、黒dの切りが成立。
 攻め合いは白が勝てない。

≪棋譜≫117頁、3図

【3図】
・白が1図のように攻められるのを嫌うなら、白2のツケも考えられる。
・黒は3のハネ出しから、手順に9まで手厚く封鎖して十分の形。
※なお、黒3で6の下ハネは、白5とノビられて、生きても大損。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、117頁)

形を崩す:ハサミツケ【参考譜11】宮沢吾朗vs小山靖男


【ハサミツケ】
・相手が打ちたいところを先回りして打つのが筋になることがある。
・封鎖の筋とも関連のある手段である。

【参考譜11】
〇第35回NHK杯戦1回戦
 黒 宮沢吾朗
 白 小山靖男
・黒1のハサミツケが強烈な手筋。
※通常は、黒aとハネ、白1とノビるところ。
黒1は白bなら黒aだが、白はbにツグわけがない。
【1図】(実戦)
・黒1のハサミツケには白2と出るしかない。
・黒3の切断も勢いであり、白は4のアテから6とシノギを図る。
・黒7に筋よく白8とハネたのが悪かった。
・ここは愚直に俗っぽく白9とアテて出ていくのが、よかったようだ。
・白14に黒15とハネ出されては、白が苦しい。
※白はいろいろもがいたが、結局最後は白の大石が召し捕られた。
※豪快な武闘派、宮沢七段(当時)の気合あふれる一気の攻めが奏功した。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、133頁)

形を崩す:第21型


【形を崩す:第21型】(黒番)
・互いに切り結んで一手も揺るがせにできない局面。
・白の弱点を衝いて、形を崩す手筋を発見してほしい。
【原図】
【1図】(失敗)
・黒1のアテから、3、5のハネツギは無策というしかない。
※隅は生きたが、外はすっかり白が厚くなってしまった。
・黒7から9と動き出してみても、白十分の戦い。
※これでは、白の弱点にまったく迫っていない。

【2図】(正解)
・黒1のハネが白の弱点を衝いた手筋。
・白2のオサエなら、黒3、5と出るのが手順。
・白は6、8と取り、黒は9と取り合うフリカワリである。
※白2の一子が無駄石になっている分、黒有利とみられる。

【3図】(変化)
・前図を避けて、白2のアテから4のツギなら、黒5の躍り出しが手筋。
・白8と取られても、黒は7とワタって、まずまずの結果だろう。
※なお、白4でa、黒5、白6、黒b、白8の変化もある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、135頁)

形を崩す:第22型


【形を崩す:第22型】(黒番)
・白の形を崩す絶対の急所がある。
・実戦でもよくお目にかかる形なので、この際しっかり頭に入れていただきたいもの。
・原図は「活碁新評」所載。

【1図】(失敗)
・黒1のトビは、白2と逃げられて、白の形を崩しているとはいえない。
・黒3と攻めようとしても、白4と進出されて、はっきりしない戦いだろう。
※なお、黒1でaは、白bと受けられて、白が好形になる。

【2図】(正解)
・黒1のツケが白のタケフの急所であり、また弱点ともいえる。
・愚形でも白2とツグよりなく、黒3、5から7とノビて、十分戦える。
※なお、白2でaのオサエは、黒2の切りがきびしく、白苦しい。

【3図】(変化)
・黒1には白2とフクラみたくなるが、これはよくない。
・黒3のハネが緩みのないきびしい手。
・白4には黒5と二段バネされ、白6では黒7、9を利かされて、白重苦しい。
※白は前図にしたがうほかないところ。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、136頁)

重くして攻める:第12型


第12型
・白△とツケたところ。
・形になじんで打つとチャンスを逸する。
・白の連絡具合に注目して、傷を発見することが肝要。

【1図】(失敗)
・考えずに打つと、手拍子で黒1とハネてしまいそう。
・すると、白2を利かされて、4の攻めがきびしくなる。
※白が強化されただけに、黒の苦戦が予想される。
※黒1では、もっときびしい手がある。

【2図】(正解)
・黒1の出がきびしい。
・白2と隅を受ければ、黒3の両ノゾキがあって、白は分断される。
・白4はやむを得ず、隅は大きく生きるが、白四子は重い石となってしまう。
※なお、黒3で4は、白aとかわされる。

【3図】(変化)
・黒1には、白2とツケる変化もある。
・黒はいきおい、3、5と隅を取り切るくらいのもの。
・白は4から6と形を作り、前図の浮き石となることはない。
※しかし、黒も隅を地にして不満はない。白はaがねらい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、153頁)

重くして攻める:ハネ込み【参考譜12】張栩vs小山竜吾


【ハネ込み】
・形は違うが、ハネ込みも形を崩し、重くする手段として有力である。
・白が断点の守り方に迷うように打つのがよい。

【参考譜12】張栩vs小山竜吾
第10期竜星戦本戦
 黒 張栩 
 白 小山竜吾

・黒1が断点をねらったハネ込みである。
・白aと切るのは黒bで苦しいから、白bと受けるしかないが、このとき断点の守り方が悩ましい。
【1図】(実戦)
・黒1に白2のアテから4のカケツギは、黒5が気持ちのよい利かしとなって、つらい。
・白8までの形は、石が重複して重くなっている。
※といって、白4で5は、黒4、白6。
 この形も、白やる気がしない。

【2図】(実戦・続)
・続いて、白1から3のツケ切りがサバキの手筋だが、黒4のヒキが冷静な手だった。
・白5のヒキには、黒6から8の二段バネがきびしい。
※白は上下を連絡する手がなく、結局上方の白が取られてしまった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、155頁)

重くして攻める:鼻ヅケ【参考譜13】羽根直樹vs小林覚


【参考譜13】羽根直樹vs小林覚
第31期棋聖戦挑戦者決定戦
 黒 羽根直樹 
 白 小林覚

・白1の鼻ヅケが黒の形の急所である。
※かなめの黒二子をねらって、ここから局面を動かして、白の形を整えるのがいい。
 黒はシノギに追われる。
【1図】(実戦)
・白1の場所は攻防の急所である。
※黒の出足を鈍らせ、重くして攻める拠点となっている。
・黒2には白3と出て、黒を分断する。
・黒は4のハネから6と、シノギに専念するほかはない。
・逆に、白は7から9と堂々の進軍で、完全に攻守が入れ替わった。
・白11から13の二段バネが切断の筋。
・白23と眼形の急所を直撃しては、勝負はあった。ここで黒投了。
※小林覚九段が10年ぶりに棋聖挑戦を決めた一局である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、159頁)

重くして攻める:第18型


【第18型】
・一団の白石をどう重くして攻めるか。
・ふた通りほどの手段が考えられるが、どちらも実戦で多用される手筋である。
・原図は「活碁新評」所載。

【1図】(失敗)
・黒1と出るのは、白の形に節をつける意味でも逃せない。
・しかし、白2のオサエに、黒3が生ノゾキと呼ばれる筋悪の手。
・白4のツギのあと、白aのハネが残っている。
※黒bも同様の生ノゾキ。悪手の見本である。

【2図】(正解)
・黒1のハサミツケが常用の手筋。
・白2のツギなら、黒3のトビで断点をねらうのが気持ちのいいところ。
※白aとツグほかなく、黒bと改めて絶好調である。
※白2でaなら、黒の切りで分断する。

【3図】(別解)
・もうひとつの手段は黒1の切り。
・白2のノビに黒3のノゾキが急所。
※白aと断点を守っても、白の姿は重く、攻めが期待できる。
※黒1で単に3とノゾくと、白aのカケツギが好形になってしまう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、161頁)

第6章 手数を縮めるの例題


第1部第6章 手数を縮める

【1図】(ホウリ込み)
・黒1のホウリ込みがダメヅマリにする捨て石の筋。
・白2と取らせて黒3とアテれば、白の手数は三手。黒の一手勝ち。
※黒1で3のアテは失敗。
 白1にツガれて手数は四手。逆に黒が一手負けになってしまう。

【2図】(ワリ込み)
・黒1のワリ込み。
※これも捨て石の活用による、手数を縮める手筋である。
・白2に黒3のアテから5のサガリまで、黒の一手勝ち。
※このあと、白aなら黒b。
※黒1で5は白1にツガれて黒負け。

【3図】(切り)
・黒1の切りが出発点。
・白2のアテに、黒3と二目にして捨てる石塔シボリの筋である。
・黒7のホウリ込みもダメヅマリにする手筋で、黒9のツギまで黒一手勝ち。
※切りから捨て石を利用する筋は数多い。

【4図】(ハネ)
・黒1のハネから、緩まずつめるのが手筋。
・白4の切りには、黒5で一手勝ちだ。
※黒1で2は、白1とアテられて失敗。
※攻め合っている本体を攻めるのが、攻め合いの基本型。
 枝葉を攻めても、仕方がない。

【5図】(オキ)
・黒1は白の形の急所を衝いて、手数を縮める手筋。
・白2と黒3のところが見合いで、黒の一手勝ちである。
※なお、黒1でaは、白1と眼を持たれて、セキとなり、失敗。
※眼持ちが手数を延ばしている。

【6図】(ハサミツケ)
・黒1のハサミツケが白の急所を衝いた手筋。
・白2には黒3とワタって、黒一手勝ち。
※なお、黒1で3のハネは、白1、黒a、白bで、黒一手負け。
※正解の黒1は、2と3を見合いにした急所。

【7図】(ツケ)
・黒1は白の急所を衝いた手数を縮める手筋。
・白2、4に対しては、黒5のアテで、黒が一手勝っている。
※なお、黒1で5のアテは、白aとコウにする筋がある。
※黒1で2は、白1でやはり手になる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、164頁~165頁)

手数を縮める:第2型


【第2型】
・黒の手数は三手。白の手数はわかりにくいが、△の白四子が攻め合う本体だから、やはり三手。
・しかし初手を誤ると、白の手数を増やしてしまう。

【1図】(失敗)
・黒1、3のハネツギは白2と受けられて失敗。
※白の手数は三手あり、一手もつめていない。
・白4とつめられて、黒は一手負け。
※この黒1のハネは、枝葉の白二子を攻めてしまった理屈となる。

【2図】(失敗)
・黒1のサガリも白2と受けられて、黒一手負け。
※aのところは「内ダメ」といって、眼のある白が有利。
 黒がaとつめなければならず、白だけの手数になる。
 白4の時点で、黒は外ダメの二手、白は三手。

【3図】(正解)
・黒1が手数を縮める手筋。
※白がどう受けようと、白の手数は延びない。
・白2には黒3が筋で、黒の一手勝ち。
※本図は眼あり眼なしも時によるケースで、眼があっても、必ずしも有利でない例である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、167頁)

手数を縮める:オキ【参考譜14】依田紀基vs結城聡


【オキ】
・相手の手数を縮めるには、形の急所を直撃しなければならない。
・急所は眼形の急所と重なることも多い。

【参考譜14】依田紀基vs結城聡
第30期碁聖戦挑戦手合第1局
 黒 依田紀基
 白 結城聡

・黒1のオキが白の手数を縮める手筋。
※黒はダメヅマリだが、白との攻め合いに関係するのは、本体だけで、枝葉は捨ててもかまわない。

【1図】(実戦)
・白2のハネは紛れを求めたものだが、黒3とツイで、手数が延びる。
・いきおい白4のアテに、黒5と中央の白を取り込んで、ゲームセット。
【2図】(変化)
・黒1に白2とさえぎれば、普通の応酬。
・黒3には白4から6と黒を取りながら、ダメをつめる。
※しかし、本体はぴったり黒の一手勝ち。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、168頁)

手数を縮める:第15型


【第15型】
・黒は三手ではっきりしているが、白の方は何手なのか、わかりにくい。
・とにかく三手以内で、取る工夫をしなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のオサエは白2のハネが利くと、手数が一手延びる。
・格言の「両バネ一手延び」のとおり、三手になり、白4とダメをつめられて、黒の一手負けになる。
※黒1ではもう少し踏み込みがほしいところ。

【2図】(失敗)
・黒1のアテから白2のツギに、黒3と二段バネする手がある。
・白は4と切るしかなく、黒5と弾けばコウになる。
※しかし、無条件で取る手があるのだから、コウでは失敗。
※なお黒1ではaでもコウ。

【3図】(正解)
・黒1のオキが手数を縮める手筋である。
・白2のハネには黒3のナラビが関連する手筋で、白はどうしても手が延びない。
➡黒一手勝ち。
※この黒1、3は「タヌキの腹つづみ」と呼ばれる手筋である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、182頁)

両にらみの筋:ツケコシ【参考譜16】瀬戸大樹vs山下敬吾


【ツケコシ】
・両にらみは相手の応手によって実利に就くこともあるし、厚みを築くこともある。
・そして、その後の作戦も変わってくる。
【参考譜16】瀬戸大樹vs山下敬吾
・第26期新人王戦3回戦
 黒 瀬戸大樹
 白 山下敬吾
・白1のツケコシは相手の様子をうかがった手である。
※実利を稼ぐか、じっくり辛抱するか。
 いまがそれを聞くタイミングとみたのである。
【1図】(実戦)
・白1に黒2から4とサガって辛抱したのは、やむを得ないと判断したのだろう。
・黒は6から右辺の白を攻める構想だが、白の実利も大きい。
【2図】(変化)
・黒1の反発には、白2から6のアテがある。
・黒7に白8と黒二子を取り込んでは厚い。
※左辺の黒の一団が薄く、全局的に白が打ちやすい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、196頁)

両にらみの筋:第30型


【第30型】
・隅は生かしても左方の大石を仕留めるには、どうすればいいか。
・鮮やかな手筋が秘められている。
・原図は「玄玄碁経」「官子譜」所載。

【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1のツケコシは切断の手筋だが、大石を生かしてしまうのが難。
・白2には黒3のアテ込みが筋で、黒5、7と隅は取れる。
・黒5、7と隅は取れる。
・その反動で白6と一眼を作らせてしまう。
※切断して、さらに眼を取る工夫が必要。

【2図】(失敗)
・黒1の切りはひとつの筋、応手には注意を要する。
・白2からアテなければいけない。
※白aのアテは黒bが利き筋となって、黒6で切られる。
・黒3からねばっても、白6まで生き。
・コウではなく、白8で生き。

【3図】(正解)
・黒1のアテツケがすばらしい筋である。
・白2には黒3のツケコシが手順で切断できる。
※白2で4のオサエには黒2に切り、白は眼ができない。
※また白2で5のツギには、黒a、白4、黒3。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、221頁)

根拠を奪う:第6型


【第6型】
・白の形の急所に直撃する筋である。
・本型は根拠を奪う代表的な例といえるだろう。
・一連の変化をよく心得ておくことが大切。
【テーマ図】

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、2の切りと5のワタリを両にらみにした、根拠を奪う手筋である。
※白は隅に半眼あるだけの形となり、今後も攻めの余得を期待できる。
※なお、白2でaは間に合わず、黒2の切り。

【2図】(変化)
・白2のコスミツケには黒3の切り。
・白4が手数を延ばす手筋だが、黒5から7の反撃があって、白がうまくいかない。
※黒11までaまたはbのシチョウと黒cのツギが見合い。
 この変化手順をよく知るべし。

【3図】(変化)
・白の無理な抵抗手段をもうひとつ挙げておく。
・白2から4を利かして、6が紛らわしい。
・これには黒7の切りから9の鼻ヅケが好手である。
※ただし、周囲の状況が変われば、2図、3図が成立しない場合もある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、229頁)

根拠を奪う:ケイマ【参考譜19】張栩vs馬暁春


【ケイマ】
・相手の根拠を脅かしながら、自分の根拠を守ることができれば、一石二鳥の働きがある。
 攻防兼備の手である。

【参考譜19】張栩vs馬暁春
第13回富士通杯本戦2回戦
 黒 張栩
 白 馬暁春

・黒1のケイマから3のコスミツケが攻防兼備の好手である。
・白aなら生きているが、それではつらすぎるから、白は外へ出ざるを得ない。

【1図】(実戦)
・白は1と進出するくらいのもの。
・黒は2と補強を兼ねて右上の白の攻めをうかがう。
・黒4から白5に、調子で黒6とノゾいたのがきびしい。
・黒10から12と改めて、黒ペースの進行であろう。

【2図】(大きい白2)
・黒1の封鎖も考えられるが、白2の守りが大きい。
※白aと分断するねらいも残って、黒が薄い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、236頁)

根拠を奪う:第17型


【第17型】
・白のダメヅマリを衝くエグリの手筋である。
・急所を一撃すれば、白は打ち方に困るだろう。
・白は被害を最小限に食い止めたい。

【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1は打ち込みの急所だが、この場合は白2と受けられて、後続手段がない。
※このあといくら動いても相手を固めるだけだろう。
※なお、黒1でaのひとつの筋だが、白bで持ち込みになる。

【2図】(正解)
・黒1のツケが急所である。
・白2なら黒3から7まで隅を生きる。
※白4でaのサガリは、黒6、白5、黒bから白cには、黒dの石塔シボリがあって、白まずい。
※なお、白4で5は黒aのハネでサバキ形。

【3図】(変化)
・黒1のツケに白2なら黒3のノビ。
・そこで白4なら黒5のハネが機敏。
※白aなら黒bがぴったりだ。白cなら黒a。
※白4でcなら、黒4のハネで生き。
※また白4でaなら黒cの進出となるだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、242頁)

地を荒らす:第4型


【第4型】
・白のダメヅマリを利用して、ヨセる形がある。
・内側からワタリをうかがう常用の手筋でもある。

【1図】(失敗)
・黒1のハネツギは小さくはないが、物足りない。
・白4の守りが正着。
※これを手抜きすると、黒aのコスミで大きくヨセる手筋が残ってしまう。
※黒1は白3のハネツギとくらべると、先手9目のヨセ。

【2図】(正解)
・黒1のカドが白のダメヅマリをとがめるヨセの手筋である。
・白2に黒3とオサえるのがよく、白4の取りに、黒5、7を利かす手順。
※白がこれを嫌うなら、早めにaのハネ一本を利かすのが大きい。

【3図】(失敗)
・黒1はいいとして、3のハネはやや損なヨセである。
・これに対しては白4が正着。
・黒5を打たざるを得ず、後手を引いてはおもしろくない。
※白4で5は、黒4、白a、黒b、白c、黒dで、コウダテ次第では有力。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、251頁)

地を荒らす:第6型


【第6型】黒番
・ヨセではどちらから打っても先手になる「両先手」が最優先される。
・しかしたとえ後手でも、大きなヨセになれば、優先順位は高くなる。
【1図】(正解)
・黒1のコスミが白のダメヅマリをねらう鮮やかな手筋である。
・白2のアテに、黒3コスミが筋で、黒はワタっている。
※白4で5は黒4。
※黒1は後手のヨセにはなるが、白地を大幅に減らした。
【2図】(先手ヨセ)
・黒1、3のハネツギは白4と守らなければならず、先手ヨセである。
※前図とは6目の差があり、選択は全局から判断するしかないだろう。
※なお、黒1で2のオキは、白4と打たれ、1図とくらべて、1目ほど損。

【3図】(白から)
・白から打てば、1、3のハネツギ。
※1図とくらべると、後手9目強のヨセで大きい。
※▲がなく、白1、3が先手になる状況なら、それを防ぐ1図のヨセは「逆ヨセ」となり、価値が高まる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、253頁)

地を荒らす:第8型


【第8型】黒番
・シボリの筋を利用して先手でヨセる常用の筋である。
・白は被害を最小にする受け方を工夫しなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のハネは、白2のコスミがぴったりした受けで、たいしたヨセではない。
※このあと、黒aは白bと受けて、黒cなら手抜きもできる。
※なお、黒1で2は、白dと受けて持ち込み。

【2図】(正解)
・黒1から3の二段バネが筋である。
・白4の切りには、黒5から7とシボリ、9のコスミが筋。
・白14まで先手で、白地を大幅に減らした。
※この進行は理想的。これだけ荒らせば、いうことはない。

【3図】(変化)
・黒1に白は2の受けが工夫した手である。
※aの点はどちらが打っても大きいが、後手になる。
※黒aなら前図にくらべ、5目ほどの得でしかない。
※前図の黒の先手ヨセを阻止した白の抵抗手段である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、255頁)

地を荒らす:第10型


【第10型】黒番
・明治4年、村瀬秀甫が本因坊秀和との対局で見損じた有名な形。
・白の弱点を衝いて得を図る手がある。

【1図】(失敗)
・黒1は俗手。
・白2と受けられて、手がない。
※後年、秀甫は著書「方円新法」で「黒たちまち見損じて不意の負けを取りたり。――結了して碁子を碁笥に収むるまではすこしも気を疎放すべからず」と書いた。

【2図】(正解)
・黒1にアテ込む手が妙着である。
・白2のアテには黒3とサガリ、これでどうしても白四子が助からない。
※秀和・秀甫戦は秀甫の先相先先番。本型とは白黒逆だが、秀甫の3目負けだった。

【3図】(変化)黒11取る(1)
・黒1、3に白4とアテても、事情は変わらない。
・黒5から7と切り、黒9と単にアテるのが大切な一着。
・白10と取るしかなく、黒11と抜いてやはり白は助からない。
※黒9で1にホウリ込むと失敗。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、257頁)

地を荒らす:ツケ【参考譜20】趙善津vs山下敬吾


【ツケ】
・「サバキはツケから」というが、この局面では左右を関連づける手筋である。
・相手がどう受けても手になっている。

【参考譜20】趙善津vs山下敬吾
・第22期NECカップ1回戦
 黒 趙善津
白 山下敬吾
 
・白1のノゾキを利かして、3のツケが黒地を荒らす手筋である。
※白からaあるいはbが切断をみて利いていて、黒は動きが不自由。
【1図】(実戦)
・白1に黒2と受けたのが実戦。
・白3を利かして、さらに白5のツケが第二弾の荒らしの筋。
・黒6はやむを得ず、白15まで生きては勝負あった。

【2図】(変化)
・白1に黒2の受けは白3の切りから、9にツイで攻め合い。
・黒10から12は手数を縮める筋だが、白19までコウになっては、黒いけない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、261頁)

いじめる:第1型


【第1型】
・形の急所ははっきりしているが、問題は白の応手。
・受け方を間違えると、死にまであるので、細心の注意を払ってほしい。
【1図】(正解)
・黒1が「三目の真ん中」が二つ重なった大急所。
・白2のツギは気が利かないが、この場合最善である。
・黒3にはコウに備えて、白4までセキ。
※黒1は先手9目のヨセ。
※なお、白2でaは、黒2に切られて、トン死。
【2図】(変化)
・黒1に白2のブツカリも、前図と同じく正解である。
・黒3には白4とアテていい。
・コウを避けて、白6までセキ。
※なお、黒5のツギで6とホウリ込むのはいけない。 
 白5に取られて、白は生き。
【3図】(変化)
・黒1に白2の受けは、黒3から5のホウリ込みがきびしい。
・白6の取りに、さらに黒7とホウリ込んでコウ。
※セキは地はゼロだが、無条件の生き。
※それをむざむざコウにしては、白失敗である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、272頁)

いじめる:第5型


【第5型】
・ダメヅマリに追い込む常用の筋がある。
・いじめの筋を活用して、白を眼ふたつにしたい。
・自身のダメヅマリにも注意を要する。
・原図は「玄玄碁経」所載。
【1図】(失敗)
・黒1のハネは典型的な俗筋。
・黒3のアテから5とコウにねばる手がないわけではないが、正解の筋には及ばない。
※白はまずはコウを取って、様子をみることになるだろう。
 黒が謝れば、手抜きできる。
【2図】(失敗)
・黒1のコスミから3のトビは手筋だが、隅の特殊性がからんで、この局面では失敗。
・白4のアテに5とツグと、白6から8でオイオトシ。
・黒5のツギでは、前図のようにコウにするよりない形。

【3図】(正解)
・黒1から3のヒキがこの場合の手筋。
・白4には5で、白6に黒7のサガリがオイオトシを避ける好手。
※白6で7のハネは、黒6がある。
※白は8と眼ふたつで生きるほかない。いじめ成功である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、276頁)

いじめる:ハネ【参考譜22】山田規三生vs山下敬吾


【ハネ】
・ハネにはふところをせばめて、眼形を脅かす効果がある。
・相手ががんばれば、全体の眼形が怪しくなる。

【参考譜22】山田規三生vs山下敬吾
第30期名人戦リーグ
 黒 山田規三生
 白 山下敬吾

・△のオサエに、地合いで足りない黒はあえて、手を抜いてほかにまわり、投げ場を求めた場面。
・白1のハネから3のアテで、黒は投了した。
【1図】(オキ)
・黒二子を助けたいところだが、もし黒1とツグとどうなるか。
・白2のオキが鋭い。
・黒3に白4とアテる捨て石作戦が常用の筋。
【2図】(花見コウ)
・前図に続いて、白1のホウリ込みが決め手。
・黒2に白3とアテて、黒の大石はコウ。
※これは白の花見コウで、投了もやむを得なかった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、283頁)

コウの攻防Ⅰ:【第1型】


【第1型】
・白三子を取られたあとに、コウの仕掛けが残るという常用の筋である。
・基本手筋なので、しっかり自家薬籠中のものにしていただきたい。
・原図は「碁経衆妙」所載。

【1図】(正解)
・黒1のハイが出発点である。
・白2のハネに黒3と切り、5のアテを利かすのがポイント。
・白6とポン抜くのが正しく、黒7とハネる。
※これで一応白を取ったようにみえるが、白からの反撃が残っている。

【2図】(正解・続)
・前図に続いて、白1のホウリ込みから3と再度ホウリ込むのが手筋である。
※黒はアタリとなっているため、コウを争うよりない。
※しかし、白もコウに負けると損が大きい。仕掛ける時機が問題。

【3図】(類型)
☆同じ筋のコウをあげておく。
・黒1とハネ、白2のアテに黒3でコウ。
※コウに勝って、aにツゲば、白三子が取れる。
※この黒3は、白が「1の一」にすぐに入れない隅の特殊性を利用した手筋である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、296頁)

第11章 コウの攻防Ⅰ~ハネ【参考譜26】高尾紳路vs橋本昌二


【ハネ】
「ツケにはハネよ」でハネは接触戦の基本だが、一線のハネには、フトコロをせばめ、ダメをつめる作用もある。
【参考譜26】
第51回NHK杯戦1回戦
 白 橋本昌二
 黒 高尾紳路

【参考譜26】
・三角印の黒のツメに、白が三角印の白と反発したところ。
・白1と打っていれば安全なのだが、利かされの気分もあり、実戦心理としても打ちにくいもの。

【1図】(実戦)
・黒1のハネが手数を縮める手筋。
・黒3から5と固め、一手ヨセコウ。
・このあと、右下を二手連打するフリカワリとなったが、黒満足のワカレ。

【2図】(変化)白6ツグ
・黒1に手拍子で白2とオサえるのは、いけない。
・黒3のホウリ込みが手数を縮める手筋。
・黒5、7とつめて、本コウになっては、実戦とは大差。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、317頁)

第12章 眼を奪うの例題


第12章 眼を奪う

【1図】(ハネ)
・黒1がフトコロをせばめる攻め。
※ハネて殺すから「ハネ殺し」と呼ばれる。白はどう受けても生きがない。
・白2には、黒3が急所で、7まで白死。
※また、白2で7は、黒6。
 白2で4には、黒5。

【2図】(打ち欠き)
・黒1の打ち欠きもフトコロをせばめる攻め。
・白2の取りに黒3で、五目ナカ手の白死。
※フトコロをせばめて急所にオク、いちばん多い死活の例である。
※黒1で3の攻めは、白a、黒b、白1、黒cでセキ。

【3図】(ツケ)
・黒1のツケもフトコロをせばめる攻め。
・白2から4と取っても、生きる広さはなく、黒5でナカ手の白死である。
※黒1で3は、せばめたことにならず、白1と広げて生き。
 また、内部からの攻めも白生き。

【4図】(オキ)
・黒1のオキが4の切りからウッテガエシをねらう急所。
※内部から攻めである。
・白2と切りを防げば、黒3を利かして7まで隅のマガリ四目の白死である。
※なお、黒1で3は、白1と守られて生き。

【5図】(オキ)
・黒1も眼形の急所を直撃する攻めである。
・白2なら、そこで黒3とフトコロをせばめる手順。
※黒1で3はフトコロをせばめる攻めだが、白aと取られて失敗。
 1と三角印の黒のところが見合いで白生きている。

【6図】(ツケ)
・黒1のツケが急所の攻め。
・白2のハネには黒3とサガり、白死。
※なお、黒1では3でも白死。
※白2で3のツケも筋だが、黒2、白5、黒aでやはり白死。
 なお、黒1で4とせばめる攻めは、白3のトビで生き。
【7図】(ホウリ込み)
・黒1のホウリ込みはフトコロをせばめる攻めか急所の攻めか、判断のわかれるところ。
・それはともかく、黒1に白aのツギなら黒bのハネだし、白cの取りなら黒dで、左方は欠け眼である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、324頁~325頁)

眼を奪う:【第1型】



【第1型】(黒番)
・フトコロをせばめる攻めか、それとも急所を攻めるか。
 ダメヅマリに注意してじっくり読んでいただきたい。
【1図】(失敗)
・黒1の切りは白2のアテが好手。
※黒aと打っても、白bでオイオトシ。
※なお、白2でbのアテは、黒2にノビられて白死。
※黒1でaも、白bでオイオトシ。
※黒1で2も白1で生き。
※内部からの攻めはすべて失敗。
【2図】(失敗)
・黒1の元ツギは、局面によっては成立するひとつの筋だが、この場合は白2とツガれて何ごともなし。
※ほとんどの手は検討したが、まだひとつ残っている。
 それが盲点の一着なのである。
【3図】(正解)
・黒1がフトコロをせばめる手筋である。
・頭をぶつけるイメージと、白2でアタリとなる姿から、盲点になりやすい。
・冷静になってみると、白2には黒3のアテから5が先手。
※ダメヅマリのため、白死である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、326頁)

山下敬吾九段の実戦譜~高尾紳路vs山下敬吾(平本弥星『囲碁の知・入門編』より)


 冒頭に述べたように、 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。
・少年少女の頂点は、平成12年に第21回を迎えた「少年少女囲碁大会」である。
 中学生の部と小学生の部に約100名(男女区別なし)ずつ、各県で代表となった少年少女たちが全国から集まり、8月に日本棋院で盛大な大会が開かれる。
・最年少の小学生名人は、2年生で優勝した山下敬吾(昭和61年、北海道・旭川東栄小、平成5年入段、12年七段・碁聖)と井山裕太(9年、大阪・孔舎衛東小)。井山くんは院生になり、第二の山下敬吾を目指している。
・21世紀の囲碁界期待の星、山下敬吾と高尾紳路(3年入段、12年七段)の初対局(昭和61年小学生決勝)と、それから14年後の二人の対局の棋譜を掲載しておく、と平本氏は記している。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁)

 その二人の棋譜を紹介しておきたい。

<少年少女の囲碁>
〇昭和61年(1986)8月5日 NHK
第7回少年少女囲碁大会・小学生の部決勝
  黒 高尾紳路(千葉・桜木小4年)
  10目半勝ち 白 山下敬吾(北海道・旭川東栄小2年)

高尾VS山下(1986年)
【棋譜】(50手、以下略) 黒47コウ取る(39)、白50同(38)


〇平成12年(2000)10月26日 日本棋院
第26期名人戦三次予選
 中押し勝ち 黒 高尾紳路
  白 山下敬吾

【棋譜】(77手、以下略)

(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、58頁)


≪囲碁の攻め~藤沢秀行『基本手筋事典』より≫

2024-09-29 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~藤沢秀行『基本手筋事典』より≫
(2024年9月29日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の攻めについて、次の文献を参考に考えてみたい。
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]

<お断り>
・図のイロハ…は、入力の都合上、abc…に変更させてもらった。

【藤沢秀行氏のプロフィール】
・1925年横浜市に生まれる。
・1934年日本棋院院生になる。1940年入段。
・1948年、青年選手権大会で優勝。その後、首相杯、日本棋院第一位、最高位、名人、プロ十傑戦、囲碁選手権戦、王座、天元などのタイトルを獲得。
・1977年から囲碁界最高のタイトル「棋聖」を六連覇、名誉棋聖の称号を受ける。
・執筆当時、日本棋院棋士・九段、名誉棋聖

<著書>
・「芸の詩」(日本棋院)
・「碁を始めたい人の本」(ごま書房)
・「秀行飛天の譜」(上・下、日本棋院)
・「囲碁発陽論」(解説、平凡社)
・「聶衛平 私の囲碁の道」(監修、岩波書店)




【藤沢秀行『基本手筋事典 上』(日本棋院)はこちらから】



〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
【目次】

<第1部> 攻めの手筋
切断の手筋 アテ
圧迫の手筋 ハサミツケ
封鎖の手筋 カド
形を崩す手筋 コスミ
ようすを見る手筋 ツケ
重くする手筋 アテマクリ
弱点を作る手筋 コスミ
両にらみの手筋 グズミ
根拠を奪う手筋 オキ
石を取る手筋 アテコミ
コウで脅かす手筋 (しゃくる)

<第2部> 守りの手筋
ツギの手筋 アテコミ
進出の手筋 トビダシ
脱出の手筋 カド
形を整える手筋 アテまくり
先手を取る手筋 オリキリ
軽くサバく手筋 ツケ
切り返しの手筋 ハネコミ
両シノギの手筋 アテコミ
根拠を固める手筋 ツキアタリ
ワタリの手筋 オキ
コウでねばる手筋 (コウかキカシか)




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・第1部 攻めの手筋の序文
・切断の手筋:薄い連絡形の例~二間トビの場合
・切断の手筋:キリチガイ~【参考譜1】藤沢秀行vs大平修三
・重くする手筋の例題
・重くする手筋:アテマクリ
・重くする手筋:ノゾキ~【参考譜21】林海峰vs藤沢秀行


【補足】要石かウッテガエシか~平本弥星『囲碁の知・入門編』より
【補足】大ナカ小ナカ~柳澤理志氏
【補足】大ナカ小ナカ~高先生
【補足】大ナカ小ナカ~Tsuruyama Atushi(鶴山淳志八段)
【参考実戦譜】上野梨紗vs安達利昌~NHK杯より
【参考実戦譜】藤沢秀行vs加藤正夫~藤沢秀行『勝負と芸』より






第1部 攻めの手筋の序文


切断の手筋

アテ
・石の連絡を断ち切る手筋。
・大きく二つに割っていけば分断、侵入してきた石の退路を断てば遮断、さまざまな呼びかたはあっても、要は相手の石の連絡を断ち切ることによって、さまざまな利得を生み出そうとするのである。
・ただし、切断はごく基礎的な手段であって、手筋と呼ぶほどの微妙な手順や形を必要としないばあいが多い。
 まず、部分的な手筋を要しない切断の例を二、三挙げ、切断の手筋の準備知識としよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、14頁)

圧迫の手筋

ハサミツケ
・封鎖より緩やかで、相手の石の一方に退路があるばあいの手法
・必然的に地を固めるが、それ以上に中央の勢力が有効な局面に用いられる。
・ごく基礎的な手筋であって、一般的な定石や布石のなかで多用される。
ふつうは、第三線の石に対して行使され、第四線の石を圧迫しても確定地が大き過ぎて、損になることが多い。

・相手が反撃したときには乱戦。
 シチョウ問題が生ずるケースもあるので、周囲の状況に注意が必要。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、36頁)

封鎖の手筋

カド
・相手の石を封鎖し、包囲するのは、相手の地を限定し、自分の石を外部に働かせようとする全局的観点からの手法である。
・もちろん包囲したことで、逆に自分の弱点をねらわれたり、包囲した外勢がまったく働かなかったりするような形ならば、封鎖の着想そのものを考え直さなければならない。
・包囲するためには、包囲する石より多くの石数を要する。
 手数の差と、外勢の効率をつねに比較する必要もある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、58頁)

形を崩す手筋

コスミ
・形を崩す手筋とは、多くのばあい相手の形の急所に一撃して、石の働きの効率の悪い愚形に追い込む手法をいう。
 愚形には、アキ三角、陣笠、集四、ダンゴ形など、さまざまな種類があって、そのいずれも石の働きの重複形である。

・ただし、相手の形を崩すことに成功しても、そのため自分の形がより崩れたり、弱点が生じたりしては、なんにもならない。
 また、形を崩したあとの事後処理をどうするか、二、三の例題で説明しておく。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、84頁)

ようすを見る手筋

ツケ
・相手が右に受けるか、左に受けるか、ようすを見て、次の手を決める手筋である。
・まだ形の熟していない時期には、文字通り、ようすを見る手法となるが、石が混んできたときには、多くのばあい、左右の受け手に損得の差が生じ、一方の受けを強制する手段となることも少なくない。

・ただし、継続する手段との連係を誤れば、相手を固めただけ不利。
 手筋を行使する時期と相手の反撃には、十分注意する必要がある。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、111頁)

重くする手筋

アテマクリ
・石の重い、軽いは碁の難解用語の一つだが、簡単にいってしまえば、「重い」とは、石のかたまりが大きく捨てにくい形のこと。
 攻めようとするときには、できることなら重い形にして、フリカワリの可能性を奪い、攻めのレールに乗せてしまいたい。
 ややもすれば、等閑視される手筋だが、技術が向上するにつれて、重要性を増すだろう。

・ただし、重くするつもりで、相手を強化し、厚い形にしては、攻めがきかなくなることに注意。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、133頁)

弱点を作る手筋

コスミ
・弱点を咎める手筋は理解しやすいが、うっかりしがちなのは、その前段階、弱点を作る手筋である。
・弱点を作る目的は、相手の守りを強制して、先手で利を得ることにあるが、その守りが以後の利得を約束するような好形ならば、弱点を作る意味がない。
・補いにくい弱点を作り、あるいは二つの弱点を作って、一方を守らせるようにすれば、のちに手形の支払いを要求する権利が残るわけである。
 まず、ごく基礎的な弱点を作る手筋を列挙してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁)

両にらみの手筋

グズミ
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)

根拠を奪う手筋

オキ
・上からの攻めが封鎖ならば、下からの攻めが根拠を奪っての追い出しである。
 根拠を奪うことじたい、相手の地を減らし、自分の地を増やす効果を生むケースが多い。
 しかも、追いながら周辺の地を固め、相手が応手を誤ったり、手抜きをしたりすれば、トリカケに行くことも可能である。
・ただし、自分のモヨウに追い込む攻めは、原則として避けなければならない。
 さきに損をしては、以後の攻めで取り戻すのが、たいへん。
 基礎手筋を列挙する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁)

石を取る手筋

アテコミ
・相手の石を取る有利はいうまでもなく、ましてその石が逃げ出されては困る要めの石なら、たとえ小さくとも取って安全を確保しておけば、あとを強く戦うことができるという目に見えぬ利得がある。

・そして、石を取るばあいには、ポンヌいたり、眼を奪って殺したりするほか、相手が身動きできないようにする石取りの技術が存在する。
 まず、例によって、基礎的な石の取りかたをいくつか簡単に説明しておこう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、220頁)

コウで脅かす手筋

しゃくる
・ヨセのコウ、死活のコウとちがって、中盤のコウは局面打開のために仕掛けられることが多い。
 ただし、いちがいにコウといっても、コウを手段に相手を追い詰めるケースもあれば、コウを手段に追求をかわすケースもあるだろう。
・ここでは、攻めの手筋としてのコウを扱うが、コウはコウダテと一対にして考えなければならず、部分だけでの問題として解決することは、ほとんど不可能。
 それを前提にして、まず基礎的な手筋を二、三掲げる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)



切断の手筋:薄い連絡形の例~二間トビの場合


・ごく狭い意味でいう切断の手筋とは、コスミ、ケイマ、一間など、一見して確かそうな連絡形を、手順をくふうして断ち切る手法をいう。
 もっと薄い、間隔の大きな連絡形は、何通りもの切断法があって、問題はその選択。
 周囲の状況によって、切断法選択の巧拙が岐れ、全局の形勢によって、選択の善悪が判定されるのである。

・薄い連絡形の一例として、ここでは二間トビを採り上げ、さまざまな切断法を紹介しながら、切断の成立する条件について、説明する。
 やや抽象的になるのは、お許しをねがう。

【12図】(ツケオサエ)
・黒1、3とツケオサエれば、aとbに断点が生じて、どちらかを切断できることは明白。
・ただし、白cなどとツガれたのち、黒bのキリに白からのシチョウが成立すれば、黒1、3は根本から考え直さなければならない。
※シチョウが悪ければ、白はd、eなど。

【13図】(ツケハネ)
・黒1、3は、白4で5のキリを期待し、黒4、白aとシチョウにトラれても、黒11のアテから切断するねらいである。
・こうしたばあいは、白4から6と裏からつながるのがよく、黒7とキッても、白8、10とフリカワルことができる。
※白bと補って、三角印の黒がコリ形。

【14図】(ツケギリ)
・黒1、3では切断したとはいえ、名ばかり。
・白4、6と裏からつながる手が絶対の強制力を持っており、黒9とキッても、実効は薄い。
※白4では5とアテ、黒4、白aと1子を捨てて打つこともでき、この形が中央にあったとしても、ほとんどこのばあい、異筋の切断となる。

【15図】(ツケヒキ)
・黒1、3のツケヒキは、aのハネダシとbのキリを見合いにする二間トビ切断の基本。
・aと1子を抱えこまれてはものが大きいので、こののち白はa、c、dのうちの一つを選んで、bのキリを許すことになる。
※白2で3とハネても、黒eと受けられて、強化するのみ。

【16図】(ツケツッパリ)
・黒1、3あるいは黒3から1とツッパッて、5ないしaとキルのは、俗筋とされる。
・この形では、白bのノビがほとんどキイているところで、黒aのキリには白bからcとカカえられる形があるし、黒5のキリには白b、黒d、白eとアテ出られても、つまらない。

【17図】(ツケハネ)
・黒1、3は有力な切断法で、このばあいはとくに、白4で5、黒4、白aのとき、黒bとキリ返す筋が光る。
・白4、6と裏からフリカワリを目指し、この形では黒11ののち、cとカケツぐくらいで、十分打てよう。
※黒7でdのキリは、三角印の黒との連係が悪い。

【18図】(ツケギリ)
・黒1、3も、14図同様、白にサバキの主導権を与えて、多くは不成功に終わる。
・いつのばあいでも、白は、4、6と裏から打つ調子が正しく、ことにこの形では、白aのキキがあって、黒bのキリが成立しない。
※逆に、三角印の黒が分断されてしまった。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、17頁~18頁)

切断の手筋:キリチガイ~【参考譜1】藤沢秀行vs大平修三


・キリチガイは、相手に多くのキキを与えるため、ふつうは切断の手段として好ましくない。
 焦点を絞ったねらいというより、総合戦略としての切断に用いられる手法である。

【参考譜1】
 第1期首相杯争奪戦決勝
 黒 藤沢秀行
 白 大平修三
≪棋譜≫参考譜1、21頁

・黒1と準備して、3、5のキリチガイがこの局面では、ぴったり決まった。
・白は数子を捨てるよりない。

【参考図1】(中央に厚み)
・白1とアテ、さらに3、5のアテツギなら、連絡は容易である。
・しかし、黒6に白7は省けず、黒8と中央一帯を地モヨウとしては、白にまったく勝ち目がない。
※実戦では、部分の戦いより、全局の形勢判断が優先するのである。

【参考図2】(フリカワリ)
・実戦では、白1、3と捨てに行き、黒4のモチコミを打たせて、中央の厚みにフリカワッた。
※この方が長丁場の勝負となる。
※白3で6のツギは、黒5、白4、黒aとオサえられ、白3なら黒bで全部死んでしまうのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、21頁)

重くする手筋の例題


例題【7図】(下ノゾキ)
・黒1のノゾキはいまが時機。
・白2とツガせて、黒3と守れば、次の黒aに迫力が増している。
※白2でbなら、黒cとマガッて進出し、黒2のアテがあるので、dの欠陥がしぜんに解消されるのである。
※重くするねらいと、ようす見とを兼ねた筋だ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、134頁)

重くする手筋:アテマクリ


【アテマクリ】
・手を入れて守るまえの一仕事。
・後手となっても、相手を重くする効果は意外に大きい。
・黒シチョウ有利が条件である。

【1図】(ポンヌキが厚い)
・黒1と守れば、白2とポンヌいて先手。
※黒の実利、白の勢力というワカレだが、ポンヌキがいかにも厚い。
※しかも、黒1では白aとサガッて、b以下のシボリをねらう筋が残ってイヤミだし、黒1でaなら堅いが、白cとツケる大きな先手ヨセが残る。

【2図】(緩めない)
・といって、黒1、3と逃げ出すのでは、白6、8とキリサガられて、ツブレだ。
・したがって、黒は白6、8の余裕を与えないような、険しい手で細工をしなければならないのである。
・黒1でaのアテは、白2とノビられて、かえって味消しとなる。

【3図】(黒1、手筋)
・黒1のアテマクリ、白2のヌキなら3とアテて、ダンゴにシボッておく。
・黒5の守りが本手で、この形では白もいばれた厚みではないのだ。
※白2で3と抵抗したとき、黒2とツイで、シチョウを見ながら、白a を封ずる筋が成否の鍵である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、136頁)
<ポイント>
・アテマクリ+アテ=シボリ

重くする手筋:ノゾキ~【参考譜21】林海峰vs藤沢秀行


【ノゾキ】
・形を重くするためには、常用手段のノゾキだが、ノゾキの形のない石を左右から揺さぶり、目的を達することもできる。

【参考譜21】
第13期十段戦挑戦者決定戦
黒 林海峰vs 白 藤沢秀行
≪棋譜≫参考譜21、146頁

・白1に黒2は必然。
・そこで白3とノゾけば、黒4のツギは愚形だし、全体の形も重くなったので、白5と進出のシンを止める攻めが好調である。

【参考図1】(形に溺れる)
・参考譜黒4で1とハイ、白3、黒aならキカシ返して、黒も満足。
・しかし、白2とソワれては、黒3を省けず、白4とハネアゲられて、左辺を広げられた。
※黒1、3は部分的な好形だが、全局的には参考譜のように重い形でがんばるよりない。

【参考図2】(その後)
・参考譜に続いて、黒は1とトビ、白2を誘って、3、5と進出する調子を求めた。
※黒1で2は白a、黒1でbは白c、黒1で3は白dと攻められ、真正直に逃げるのでは、白の注文にはまるのである。
※黒5に、白6、8とハズすのも、攻めの要領。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、146頁)

弱点を作る手筋(151頁~)

弱点を作る手筋の例題


【1図】ツケヒキ 定石 断点を残す
【2図】守りが好形
【3図】ツケツッパリ
【4図】オサエ
【5図】オサエコミ
【6図】出
【7図】デギリ
・黒1、3とデギリ1子を捨てることによって、ダメヅマリを利用する黒5、7の筋が生まれた。
※白4で8のカカエなら、黒4とキッて、隅の2子をトル。
・デギリを打たず、単に黒5では、白6、黒7、白aとサガられ、それからの黒1、3は白8とカカエられる。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、151頁~152頁)

弱点を作る手筋:コスミ


【コスミ】
・ほんのわずかなくふうで相手に弱点を作り、ひいては先手を奪取することができるばあいが、すくなくない。
・白3子をどうトルか。

【原図】黒番

【1図】(後手)
・黒1とオサえれば、2手と3手でセメアイ黒1手勝ち。
※だが、隅の実利が大きいと油断してはならない。
・白2のツケから先手でシメツけられ、白の勢力も無視できない厚さである。
※aに断点が残ってはいるが、ねらうには話の遠い形だろう。

【2図】(シボリ)黒7ツグ
・黒1のマガリは、白2から4、6とシボられて、お荷物を作っただけとなる。
※黒の形が重いので、中央の白を攻める構図はとうてい望めない。
※白4で5とツイでくれれば、黒a、白8、黒6で3子をトリ、いちおうは目的を達成するのだが……。

【3図】(黒1、手筋)
・黒1とコスむ。
・なんのへんてつもないような手に見えるが、白2、4とシメツけられたあとの形は、aに断点が生じて、明らかに成功だ。
・白も6とツイで、1図よりははるかに厚い形。
※とはいえ、中盤で1手の差は想像以上に大きいものなのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、156頁)

弱点を作る手筋:コスミ~【参考譜22】藤沢秀行vs林海峰


【コスミ】
・相手の弱点を、追求せずににらんでおくだけで以後の進行は有利に展開する。
・右で弱点を守れば、左の守りにもなるのだ。

【参考譜22】
第9期名人戦第2局
黒 藤沢秀行vs白 林海峰

※白1では2とカタをツイて、黒a、白bが本形であった。
・黒2と鎌首を持ち上げられて、中央はいっぺんに薄く、黒4、6と大きく追って好調である。

【参考図1】(ワリコミ)
・白が中央を放置すれば、黒1、3の二段ワリコミで切断する。
・そこで白はaと打ち、白2で5、黒6、白2のシノギを用意した。

【参考図2】(コスミ)
・黒のもう一つのねらいは1のコスミだが、いますぐでは白2、4で上辺のセメアイがうまくいかない。
※しかし、こうしたねらいを持てば、中央の補強が先手となるのだから、その分、中央の黒の厚みが増しているのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、155頁)

弱点を作る手筋:二段バネ


【二段バネ】
・二段バネは、断点が二つできる危なっかしい形だが、無事に落ち着けば相手の形にもキリとして石が残る。
【原図】白番


【1図】(俗筋)
・白1のハネは当然としても、3とツキアタるのでは、いかにも俗筋だ。
※aに断点は作ったものの、2子の頭をハネられた形で、ダメヅマリ。
※続いて白aのキリは黒bとサガられて、備えが省けず、不利な戦いを避けられない。
※白3でcと戻るのでは、黒4と固められる。

【2図】(白1、3、手筋)
・白1、3と二段にハネダし、黒4なら白5とツイで、これが注文の形である。
・黒6とヒケけば、のちに白aの動き出しがねらいであり、黒6でaのシチョウカカエなら、白6とキリコむ手筋がのちのねらいとなる。
※白はともあれ、こうして形をキメておくところだ。

【3図】(モトキリ)
・二段バネに対する根本的な逆襲は、黒4、6というようなモトキリだが、この形なら、白7とキラれて、好結果は期待できない。
・このあと、しいて図を作れば、黒8以下白21と生き生きの形だが、諸方に弱点のある黒の不利はいうまでもないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、162頁)

両にらみの手筋の例題


 藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。

<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)

〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような例題の図を掲載している。
例題【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図

例題【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図

例題【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。

≪棋譜≫171頁、7図

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)

両にらみの手筋:ツケギリ~【参考譜26】橋本昌二vs大竹英雄


<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
 より全局的な手筋の運用といえるだろう。

【参考譜26】

≪棋譜≫参考譜26、186頁

第15期NHK杯戦決勝
 白 橋本昌二
 黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。

≪棋譜≫参考図1、186頁

【参考図1】(実戦)

・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。

≪棋譜≫参考図2、186頁

【参考図2】(サバキの筋)

・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)

石を取る手筋:グルグルマワシ


<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋】
【グルグルマワシ】(黒番)原図
・最終的にはシチョウの形だが、意外な方面からのシボリを連動させたばあいには、グルグルマワシと呼ばれることがある。

【1図】(イタチ)
・断点を恐れて、黒1とツグのでは、白2が「イタチの腹ヅケ」と呼ばれるセメアイの手筋で勝てない。
※黒aなら白bである。
・したがって、隅のセメアイに勝つためには、黒cとオサえなければならないが、白dのアタリをどう処理するかだ。

【2図】(黒3、手筋)
・白2には、黒3と尻からアテてシボるのである。
・黒5とアテて連絡。
➡このあとの仕上げも重要である。
※黒3で4のツギはむろん白aで3子がトラれるし、黒3でbのアテも、白4、黒c、白dで利得が少ない。
※黒3でcのコウは、一見して無暴(ママ)である。

【3図】(シチョウ)
・白6のツギには、黒7、9でぴったりシチョウである。
※このばあいでも、黒9でうっかり10は白9で逆にアタリとなることに注意。
※グルグルマワシとは、ずいぶん俗な命名だが、この結果を見れば、なるほどと納得がいくはずである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、227頁)

根拠を奪う手筋の例題


 根拠を奪う手筋の例題は、次のような構成になっている。そのうちの一部を紹介しておく。
【1図】ナラビ
【2図】コスミツケ
【3図】ケイマ
【4図】スベリ
【5図】低いウチコミ
【6図】高いウチコミ
【7図】カド
【8図】ツケヒキ
【9図】ツケサガリ
【10図】コスミ
【11図】ツキアタリ

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、194頁~219頁)

例題【4図】スベリ
・黒1とスベれば、同点に守られた形にくらべて、地の出入りは大きいし、白も根拠の容易にできない姿。
・白2なら黒3から5とノゾくなどして、まとめて攻め上げる効果があるだろう。
※白2で3のツケなら黒2とハネダすし、白2で6なら黒aとサガる。

【5図】低いウチコミ
・黒1とウチコんで、根こそぎエグるきびしい手法もある。
・白2のツケならば、黒3、5とワタッて、地の得は前図より大きい。
※ただし、白は、中央進出の容易な形である。
※白2でaなら、黒3、白5、黒bと分断して、強硬に戦うことになる。

【6図】高いウチコミ
・黒1と第四線にウチコんで、白を愚形に導く軽い手法も考えられる。
・黒5のアテ一本が値打ちで、7とワタり、実利の得とともに、白aのつらいカカエを強制している。
※白2はやや注文にはまった嫌いがあり、b、cなどがまさるであろう。

【7図】カド
・黒1とカドにウチコむ筋も有力。
・白2なら黒3が左右にワタリを見た手筋であるし、白2でaなら黒bで、5図が期待できる。
※黒1では他に3とウチコむ筋もあり、これらの選択はすべて全局の状況によるといわなければならないほど、手広い形である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、195頁)

石を取る手筋:ツケギリ


<第1部> 攻めの手筋
【石を取る手筋:ツケギリ】
・ダメヅマリの弱点を、オイオトシの原理で追求する手筋。
・常用の筋だが、黒の最強の抵抗に注意しなければならない。
・原図は『活碁新評』より。

【原図】(白番)

【1図】(俗筋)
・白1、3とごりごり打ってトレるなら、なによりわかりやすいのだが、黒4のハネに、白5と1子を投じなければ、7のアテが打てない。
・白9と遮断に成功しても、黒10と生きられては、得になっていないだろう。
・黒10では、さきにaとノゾくこともできる。

【2図】(白1・3、手筋)
・白1とツケ、黒2なら3とキリコむ筋がしゃれている。
※黒aなら白b、黒cなら白d、相手の打ちかたで、決まるオイオトシ。
※白1で3はむろん黒1でいけないし、黒2で3なら白2とオサえる。
※また、白3でaは黒3とツガれて、なんにもならない。

【3図】(最強の抵抗)
・黒の最強は2のグズミ。
※aのあたりに黒石があるようなときには、白の手筋をはね返す強手となる。
・このばあいは、白3とサガってよく、黒4、6とハネツいでも、bとハネダすセメアイのたしにはならない。
※黒2で6とコスむ筋も、この形では白3でよい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、234頁)

石を取る手筋:ハネコミ


【ハネコミ】
・長手順で追いかけるばあいには、手順前後を許さぬ形もある。
・原図は、『発陽論』より。

【原図】白番

【1図】(白1、手筋)
・さきに白1とハネこんで受けかたを確かめておかねばならない。
・黒2なら白3のアテコミが妙着。
※黒aなら白bだし、黒cなら白aでオイオトシだ。
※黒2でdでも白3で、aとbの見合いである。
※白a、黒3をキメてからの1は、黒2でいけない。

【2図】(シチョウ)
・黒2と受けさせ、それから白3、5をキメるのである。
・黒が2、4とダメの窮屈な形になったので、白7とツギ、9とカケれば、あとはぐるぐるまわしのシチョウだ。
※白が3と4の二つを打てば、オイオトシ。
 そのキキを見た白1が手順である。

【3図】(セメアイ)
・前図白9では1とオシ、3、5と突っ切る攻めもあるのだが、黒8とツケられてセメアイ1手負けの筋に入る。
※三角印の黒がない形なら、白7で10とオサえ、黒7、白a、黒b以下、難解。

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、240頁)

コウで脅かす手筋の例題


【1図】(ツケフクレ)
※コウ材に自信があれば、白1、3のツケフクレなどは、有力な局面打開法。
 部分的な戦いでは、獲得不可能な利益を、全局のコウ材優位を背景にして、もぎ取るのである。

・黒4のアテなら、むろん白5とコウに受け、黒は断点の処置に困っている。

【2図】(二段バネ)
・前図白1、3のツケフクレに、黒が正面衝突を避けて、三角印の黒に退いた形。
・しかしこれでもなおかつ、白1と二段にハネて、強引にコウを仕掛ける筋が残っているのである。
・黒2ならむろん白3でコウ。
※黒2でaとあやまれば、白bでも3でも手抜きでもよい。

【3図】(ハネコミ)
・白1とハネコんで、3とフクれる。
※できあがった形は1図と同じである。
※白がコウに負けないとすれば、黒aのツギなら白bだし、黒bのツギなら白aとアテ、黒c、白dと楽に脱出する。
※白1でbのツケは、このばあい黒1で全滅の危険があるだろう。

その他の例題は次のような構成である。
【4図】カケツギ
【5図】ツケ
【6図】アテ
【7図】手抜き
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、244頁)

コウで脅かす手筋:コウで切断


【コウで切断】
・ふつうでは考えられないねらいが、コウを利用することで生ずる。
・このばあいは左右の黒の切断である。

【原図】白番

【1図】(常識)
・白1とワリコんで、上下切断するねらいもあるそうだが、黒2、4と平易に受けられて、なんにもならない。
※白1でa、黒b、白cも黒2のアテがキイているので、かえってモチコミ。
※また、白1でb、黒a、白dは黒cとカカえられて、これもいけないというのが常識。

【2図】(白1、強手)
・常識ではどうにもならぬ連絡を、強引に打ち破るのが、白1のノゾキである。
・黒2と換わって部分的には損だが、次に白3とハネダして、黒aには白bとキル大コウにつなげるのである。
※黒2でaなら、白はむろん2とツキダし、分断の目的は達している。

【3図】(モチコミ)
・いきなり白1とハネダして、黒2なら白3とフクれる切断の形もないわけでない。
・しかし、黒4とカカえられては明らかにモチコミだし、いったん黒aとコウをトッて、ようすを見てくるかもしれない。
※非常識な前図白1にかぎるのである。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、247頁)

コウで脅かす手筋:コウのキキ


【コウのキキ】
・あとではキカないところをキカし、コウ味を残しておくのは常識。
 直接の手にならなければうっかりしがちだが、コウ味利用の外側のキカシもばかにならない利得なのである。

【原図】黒番

【1図】(無策)
・黒1のツギでは白2とノビられて、内部の細工が不可能となった。
※黒aなら白bで、なんの味もない。
※ただし、この形は黒cのオサエが先手。
※上辺より右辺の問題が大きいと見たときには、白2でdとツケておく。
※今度は黒aに白eとトル要領。

【2図】(黒1、手筋)
・さきに黒1とツケて、白の受けかたを見ておくのである。
・白2なら黒3とアテて5とツギ、白6には黒7のオサエがコウ含みのキキとなっている。
※白2で3のサガリなら黒2とハッて、白6、黒4、白a、黒5とツギ、白7には黒bがあるのだ。

【3図】(直接、手)
・前図白6で、1と上辺をがんばるのは、無理。
・黒2とオサえて直接、手になってしまうのである。
・白5、7はセメアイ常用の手筋ではあるが、黒8とカケツいで、コウはまぬかれない。
※また、白1でaなら黒3のオサエが先手。
 黒のキカシは無駄にならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、252頁)

コウで脅かす手筋:しゃくる


【しゃくる】
・コウに導く一つの要領は弾力点を発見することだ。
・中盤、なにげないところにコウへの手段がひそんでいるのである。
・原図は、『官子譜』より。

【原図】黒番

【1図】(生き)
・黒1のアテはaのコウアテとの差で大きい。
・当然のように見えるが、白2、4で確実に生きられ、さしたる戦果にはならない。
※白2で4とヌケば、黒2とアテてコウに導くことができるのだから、その弾力点へさきに打つ手がないかと考えてみるのである。

【2図】(黒1、手筋)
・黒1としゃくる。
・白2なら黒3とアテオサえ、これはともあれコウである。
※現実問題としては、白に生きコウが多く、たとえば白a、黒b、白cとハネサガられても、とうてい黒dとトリカケに行く勇気はあるまい。
※しかし、この筋を見ているかどうかでは、大差だろう。

【3図】(セメアイ)
・白2のノビなら黒3とツギ、白4には黒5以下であっさりセメアイ勝ちだ。
※白4で5のオサエは黒4とハイ、白a、黒b、白c、黒dとキカして、eとオサえても、黒fとキッて、周辺がこのままの状態なら白ツブレ。
※シチョウの関係もあるが、黒1の価値には変わりない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、255頁)

コウで脅かす手筋:ツケフクレ


【ツケフクレ】
・柄のないところへ柄をすげる手筋がコウといってもいいだろう。
・コウ材有利ならば、たいていの構えになぐりこんでいける。

【原図】黒番

【1図】(お荷物)
・いま三角印の黒とウチコみ、三角印の白にワタリを止めたところと見られる。
・続いて黒1、3、あるいは黒1でaなどと中央に逃げ出し、それで十分という局面はめったにない。
※黒1、3なら白4とワタられ、黒aなら白bとワタられて、攻めの対象となってはたいてい不利だ。

【2図】(黒1、3、手筋)
・黒1とツケ、白2なら黒3とコウにフクれて戦うのである。
※白2でaなら黒bとトビダして、その形なら白にぴったりしたワタリがないから、一方的に攻められる心配も薄れる。
※白4でcなら黒はdとハネてあくまでコウに仕掛けるのである。

【3図】(ダンゴ)
・前図黒5では1とツギ、白を低位にワタらせて不満がないようにも見える。
・じっさいこのあと、黒a、白b、黒cとポンヌくことにでもなれば十分だが、黒aには白cがあり、黒d、白b、黒eと2子をトッても、白fで全滅の恐れさえある。
 黒fと逃げるのでは、やはり苦戦。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、262頁)



守りの手筋:形を整える手筋


 第1部の「攻めの手筋」は前章で終わりであるが、第2部の「守りの手筋」の中のある手筋は、攻めとも関連する。例えば、「形を整える手筋」などがそうである。
 「形を整える手筋」の【2図】(三目の真中)などは、「ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる」という指摘は、攻守(攻防)を考える場合に、示唆に富む。参考の意味で、第2部の「守りの手筋」の一部の紹介しておきたい。

<第2部> 守りの手筋
【形を整える手筋】
・一着守って相手からの攻めがきかない形にしたうえで、あとを強く戦おうとするのが整形の手筋。
・形を崩す手筋の逆で、この守りの手筋は一般に「形」と呼ばれることが多い。
・ここでは、純然たる守りの「形」ばかりでなく、相手の弱点を衝いて自分の守りにつなげる手筋までを広く扱う。

〇整形の手筋は、石の働きや弾力性、のちのキキなどを総合した急所を発見するかどうかにかかる。
☆基礎的な手筋の例によって、急所の構造を知ってほしい。

【1図】(口)
・白から逆に1の点にノゾかれては、黒の形が崩れ、攻めの対象となる。(先述)
・さきんじて一着黒1と守っておけば、もう二、三手周辺に白が接近してきても、心配のない石になるのである。
※名称はないが、かりに「口の急所」と藤沢秀行氏は呼んでいる。

【2図】(三目の真中)
・ダメヅマリの三子から一間の距離の中央は、守れば眼形の急所、打たれればウッテガエシを含んだ奪弾力の急所となる。
・黒1と守っておけば、aのダメが詰まっても平気な形だから、次にbのハネから、白c、黒dとしてeのキリもねらえるだろう。

【3図】(未然のヌキ)
・相手の攻められないうちに守る、という点では、シチョウアタリのこないまえに、黒1とヌクなども、りっぱな整形手段。
・いつどのような形でシチョウアタリを打たれるかわからないのでは不安だし、黒1とヌイておけば、白a、黒1、白bのワタリを防ぎ、厚い形である。

【4図】(カケツギ)
・キレないところをツグ黒1も、がっちり守ってあとを強く戦う「本手」に属する。
※この守りがなければ、白aのハサミツケがうるさいし、白bのハネも大きい。
※いったん守っておけば、上辺へのヒラキのほか、cのカケ、dのツメなどを自由にねらえるだろう。

【5図】(ハネ)
・三角印の黒にまだ活力があるのだが、ともあれ1とハネて、三角印の白を悪手化しておく。⇒小さいようだが大事な一着。
・上辺に厚みを向け、右辺は白2と守られても、まだ黒aのキキがある。
※黒1のように、相手の石の働きを完全に殺す手はおおむね好手となる。

【6図】(ノゾキ)
・黒1と踏み込んで白2と換わり、3とツッパれば、黒aを防いで白4の守りはやむをえない。
※黒1で単に3は、白1と備えられて、bの進出をにらまれるのである。
※白2でcとコスミダしてくれば黒の注文通り。
 黒d、白e、黒bのオサエが先手で、上辺がさらに厚みを増す。

【7図】(キカシ)
・黒3、5のツケフクレも整形の手筋だが、そのまえに黒1、白2と換わるのが、黒の反撃を封じるための巧妙な手筋になっている。
※白6で7のアテなら、黒6とアテ返し、白a、黒b、白ツギ、黒cの変化を想定すれば、黒1、白2の交換がいかに働いたか、説明を要しないだろう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、328頁~329頁)

形を整える手筋:アテ


<第2部> 守りの手筋【形を整える手筋】
【アテ】
・形ができるかできないかは、ほんのちょっとした手順で決まることもある。
 大技も必要だが、小技も重要である。

【原図】(白番)
【1図】(シボリ)
・白1、3とシボッて5とスベり、左右を打ってしゃれた形。
※とはいえ、中央の黒があまりにも厚く、総合すればやはり黒に分があるだろう。
※白5でaのトビは、黒b、白c、黒dとキリコまれ、eからのシボリをにらまれて、白5とツゲない。

【2図】(大戦争)
・ポンヌキを打たせまいと白3のノビは、黒4とヘソを出られて守りかたがむずかしい。
・白7なら黒8、10のオサエをキカされたあとで、黒12、14と戦われてわけのわからぬ形。
※善悪は周囲の状況しだいだろう。
※白7で14は、黒aのキリが残っていけない。
【3図】(白1、手順)
・シボリのまえに白1のアテを一つキカしておくだけでいい。
・以下、白7までの形は、1図とちがって白も相当である。
※黒は白7のまえにaをキカすチャンスはない。
 黒2でaなら白4とツイで、黒3、白2とポンヌけば、あとどう変化しても打てよう。
<変化図>(図は不掲載)
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、330頁)


【補足】要石かウッテガエシか~平本弥星『囲碁の知・入門編』より


・日本棋院は、ホームページで、無料の段級位認定を行なっているそうだ。
・次の6図は、平成12年7月の第8問(9路盤)である。
 黒番で、A~Dの中に一つだけ黒が勝ちになる正解がある。

【図6】段級位認定・黒番(日本棋院)
≪棋譜≫131頁の図6

【小を捨てて大に就く】
・図7の黒1と打つとウッテガエシで、白二子を取れる。
※隅の一眼と合わせて二眼できるから、黒は生き。
・そう打つと、白は2と黒一子を取る。
・図8の黒1と打てば、白は2とツギ。
※黒は一眼になり、生きがなくなる。
 攻め合いも黒が一手負けで、黒八子は取られる。
☆図7を選んで黒八子を助けるか、図8で黒一子を助けるか。

※『徒然草』に「例えば、碁を打つ人」という話があり、“これも捨てずかれも取ろうとすれば、かれも得ずこれも失うが道理”ということが書かれている。
 兼好は「小を捨てて大に就く」ことをいい、“十の石を捨てて、一つでも大きい石に就くべき”と記した。
・一子と八子の石の数は比較にならない。しかし、ものごとは数量より質ということがある。何が小で何が大か。大小は、必ずしも数だけではない。

・図7に続き、図9の黒3と打てば黒五子は助かる。
・すると白4で、右上の黒二子は連絡を断たれて、取られる。
・この後を続けて打つと、図10が双方最善の進行で、白の4目勝ち。

・図8の白2で黒八子を取られた後は、図11になる。
・黒3とダメを詰めても、攻め合いは白が一手勝ち。
 しかし、右上の黒地が固まる。
・図10は右上が白地であるから、その差は大きい。
・図12が最終形で、黒の1目勝ち。
※この場合は、八子より要石(かなめいし)の一子が大切なのである。


【図7】ウッテガエシ

【図8】黒八子が取られる

【図9】図7に続いて

【図10】白が4目勝ち

【図11】図8に続いて

【図12】黒が1目勝ち

黒 アゲハマ0+取り石1+黒地21=22目
白 アゲハマ8+取り石0+白地13=21目
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、130頁~133頁)


≪囲碁の攻め~新垣武氏の場合≫

2024-09-22 18:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~新垣武氏の場合≫
(2024年9月22日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作を参考に、考えてみたい。
〇新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]
 この著作の特徴は、とりわけ、「第25節 石の取り方」に象徴されるように、石の取り方を攻めの一つとして積極的に説いている点にある。
 例えば、「第25節 石の取り方」において、著者は置碁では白石を囲んで外勢を取る打ち方を勧めている。
※勢力圏に侵入した白をさらに攻めるのであるが、白にすべて生きられては勝てない。
 勝つためには取らねばならない石がある(168頁)という。

【新垣武(あらがき たけし、1956-2022)氏のプロフィール】
・1956年生まれ、沖縄県出身。坂田栄男二十三世本因坊門下。
・1971年入段、1973年二段、1974年三段、1976年四段、1977年五段、1982年六段、
1985年七段、1989年八段、1994年九段。2020年引退。2022年、66歳で死去。
<著書>
・新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』NHK出版、2000年


【新垣武『攻めは我にあり』日本棋院はこちらから】



〇新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]
【目次】
まえがき
第1節 行く手を止める
第2節 囲んで取る
第3節 辺の星
第4節 脱出
第5節 低いワタリ
第6節 両ガカリ・ケイマと一間
第7節 地を与えて石を取る
第8節 ケイマ実験
第9節 黒快勝の譜
第10節 攻め優先
第11節 二間高バサミ
第12節 私のお勧め・ケイマ
第13節 私のお勧め・一間トビ
第14節 天王山・一間トビ
第15節 定石の疑問
第16節 若手の挑戦
第17節 守りの七子局
第18節 三々研究モデル
第19節 両ガカリ・ケイマと一間
第20節 両ケイマガカリ
第21節 二つの道
第22節 囲んで取る
第23節 大々ゲイマ
第24節 守りから攻めへ
第25節 石の取り方
第26節 五子局の卒業
第27節 一間バサミ
第28節 白の選択
第29節 両ケイマガカリ補足
第30節 互先・一間とケイマ
第31節 互先・目ハズシ
第32節 互先・攻めへの道程
第33節 アマ五段・四子局

□コラム
 ある思い・パートⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
あとがき



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・まえがき
・第5節 低いワタリ~五子局
・第7節 地を与えて石を取る~互先の実戦例
・第10節 攻め優先~五子局
・第19節 両ガカリ・ケイマと一間
・第20節 両ケイマガカリ
・第24節 守りから攻めへ
・第25節 石の取り方~四子局
・第28節 白の選択
・第32節 互先・攻めへの道程~二間高ガカリ
・【補足】実戦死活(二子局より)~新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』より







まえがき


・著者は、一間とケイマで攻めることを勧めている。
・置き石は多いほど攻めに持ち込むのが容易であるが、五子局ぐらいからはハサミ、打ち込みという互先実戦でも役立つ打ち方をしないと勝てない。
・従って、実戦例は四、五子局を中心として、互先にも通じる一間とケイマによる攻めの基本を、解説するように努めたという。
・本書を通じて、「石を攻めて取る喜び」を味わってほしいとする。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、3頁~4頁)

5低いワタリ(26頁~30頁)

第5節 低いワタリ


第1譜~第6譜(五子局)

【第1譜】攻めを保留、大場へ
・ここでも隅のケイマガカリに、黒はすべて一間に受ける。
・白5には黒も6と大場を占める。
・白9のヒラキには、すぐA(9, 十六)と打ち込まず、黒10と上辺の星を占めた。
・白B(6, 三)の時、ハサミになっているので、これも攻めを含んだ打ち方である。

【第2譜】攻めの転機
・白1のケイマガカリに、すでに三角印の黒(10, 四)のハサミがあるので、黒2とコスミツケてから、4と一間に受ける。
・白5に黒A(6, 六)と打っても、すぐには封鎖できないので、いったんここは保留し、黒6に回った。
※これも立派な攻めの戦法。

【第3譜】ノゾキのテクニック
・三角印の黒の打ち込みに、白1、3のトビ出しには、黒も2、4と中央へトビ出す。
・白7のノゾキには、黒8、10と逆ノゾキでツギを省略して、黒12のオサエに回る。
・白13と低いワタリとなっては、黒の大成功。

【第5譜】ツケオサエで弱石補強
・下辺の白もワタリ、上辺も三角印の白と手を入れたので、白の弱石は一応無くなった。
・この辺で黒も右下隅の弱石を補強する。
 このためには、黒1、3のツケオサエがしっかりしている。
・黒9まで、これで心配ない。

【2図】白の三々の生死
・黒が右下隅を整形した後、白はこの隅で生きることはできない。
 一例として、白1から黒14まで白死に。
・左上隅は、白1から9までのように、白は小さく生きることができる。
 しかし、黒は10と中央の大場に回れば黒成功。

【第6譜】切り離し
・白が左辺の黒の一等地に、1と打ち込んできた時は、黒2と鉄柱にサガって、左辺でのサバキを封じる。
・白3、5と隅に生きを求めてくれば、黒6と白1の一子を切り離して、十分。
・白13を省くと、黒A(2, 一)で白死。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、26頁~30頁)

第7節 地を与えて石を取る(36頁~39頁)

第7節 地を与えて石を取る


【総譜】

【第1譜】(1-18)穏やかな序盤
〇互先の実戦例。
・序盤は、穏やかで、黒7から白12までは一つの定石であるし、黒13から15も一つの型。
・黒17のカカリに普通は白Aくらいだろうが、白18はいっぱいにがんばった着手。
※このあと、黒が地を稼ぎ、白が攻める展開になる。

【第2譜】(1-17)実利
・白8の時、黒9と下辺に地を作ろうとしたのが問題だった。
・白10から14に対し、黒11から15と、さらに守り続けなければならなくなる。
※これにより白に外勢ができ、当然、このあと白は二つの黒に対して、攻撃を始める。

【第3譜】(1―9)シボリ筋
・白1とハザマを衝くのが、常用の攻め方。
・黒のサバキとして、黒2とカケる手を選んだ。
・そうなれば白3の出から、ほぼ一本道の進行で、白9の抜きとなる。
※黒の中央への進出が止まりつつある。

【第4譜】(1-14)黒を封鎖
・黒1とワタらなければならず、その間に白2、4と黒を封鎖した。
・黒5のアテから、7以降11までを利かして、後手でも黒13のコスミはこの黒が生きるために必要な手。
・白14に回られ、外側の黒も薄い。

【第5譜】(1-24)代償
・黒1と左下方の黒の補強。
・白2には、黒3が省けない。
・黒5は24だったか。
・黒9、11と白一子を取らないと、白2を助ける白12の手が先手。
※その分、必然的に外の白が強くなり、それに隣接する黒の大石が危険になる。

【1図】(生死の急所)
・黒a、白b、黒cの切り取りを打たないと、白dと打たれ、さらに手を抜くと、白1以下で左辺の黒に生きがない。
 かといって、前譜での切り取りは外の黒を生きづらくし、囲まれた代償を払うことになる。

【第6譜】(大石死ぬ)
・黒は1から逃げるが、白16のホリコミまで、黒の大石が取られた。
※その第一の原因は、黒が下辺で地を稼いだこと。
 その結果、白石が外側にきて、戦いが白の有利に進んだのである。
 地を稼げばよいというものではない。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、36頁~39頁)

第10節 攻め優先~五子局


【総譜】(1-77)五子局

<序盤の工夫>
【第1譜】(1-12)
〇本局は級位者の指導碁実戦。
・黒は2カ所で一間受けの後、白7に黒8と二間に受けた。
 珍しい手であるが、工夫が見られる。
・その後、白11と黒の切断をみた時、構わず黒12とケイマで攻めに回ったのは、一法。

(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、50頁)
【第2譜】(1-8)捨て石
・白1から3と隅の黒を分断するが、黒4とサガり、これを捨てる。
・その代償に黒は6から8とケイマで、白を攻める展開になった。
※石を捨てることを覚えれば、もう有段者。
 なお、白1のとき黒2は省けない。省くと―

【1図】(ノゾキに注意)
〇著者はケイマの攻めを、再三勧めているが、
・白1のノゾキにツギを省略して、黒2とケイマの攻めに回るのはいけない。
・白3と白がつながる上に、黒がバラバラになる。
※ノゾキやアタリの時は注意せよ。

【第3譜】(1-14)生きか脱出か
・白1から生きを図る。
・黒6を先手で決めるのを忘れないように(次図参照)。
・白13の時、黒14と目を取った。
※生かさないという意味であるが、黒14ではAと封鎖して、白の生きを催促するのも一法だった。

【2図】(先手最優先)
〇攻めは先手から打つことを肝に銘じてほしい。
・黒1、3と後手から始めると、白4、6で簡単に生きられてしまう。
※前譜の実戦が正着。
 囲んだ石を取る時は、先手で相手の地を狭めていくのが原則。

【第4譜】(1-16)新たな囲み
・黒は4とケイマで、囲みの再構築。
・黒16まで、ついに封鎖。
※黒2で3に切るのは、次図に見るとおり、無理。
※黒10で11から切る4図(次のページ)の厳しい打ち方もある。
※また、黒14で15にツグ手も成立(5図、6図)

【3図】(攻守逆転)
・三角印の白のとき、黒1と切るのは、白2から10と黒一子を制し、立場が逆転してしまう。
※下方の黒五子がまとめて攻められる展開になる。
・ケイマは攻めに適しているが、白6から10のように、アタリがあると囲みが破ける。

【4図】(攻めは切りにあり)
・三角印の白のとき、黒1から3と出切るのも厳しく、黒23までが想定される。
➡左方の白を殺した。自信ができたら実行してほしい。
・途中白12に黒13と控えたが、22の点にオサえると、白を強くして三々に入られる。

【5図】(手筋)
・三角印の白のアテに、黒1とツグ手もあるが、白の手筋に注意せよ。
・続いて、白は2のハネコミから4とアテ。
・このあと、白6から8となっては、白生き。
・黒15、17は次図を防いで、すぐ決めてしまってほしい。

【6図】(ハサミツケ)
・黒2のサガリを決めておかないと、白1のハサミツケが成立。
・勢い黒2のサガリには、白9までの後、黒10に白11とオサえて、コウになる。
※黒はここがコウになってはたまらない。
 黒2で3と後退するようでは大損害。

【第5譜】(1-13)大々ゲイマ
・白1、黒2を交換の後、白3と大々ゲイマ。
・黒は喜んで4から10で簡明かつ十分。
※黒4を7(次図)に打つのも一法だが、この場合は後の打ち方が難しく、問題。
・また、白は11、13のハネツギが必要(8図)

(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、50頁~57頁)
第19節 両ガカリ・ケイマと一間(117頁~126頁)

第19節 両ガカリ・ケイマと一間


【第1譜】(1-3)
☆悩み
・皆さんの悩みの一つは、定石の選び方ではないかと思う。
●下譜は四子局。
・白1のケイマガカリにすぐ黒2とハサみ、白3と一間に高く両ガカリしてきた。
・このあと、どのような定石を選ぶかである。

【第2譜】(1-11)ツケノビの一手
・黒1とツケる一手と覚えてほしい。
※この定石選択で黒がよい。
・白は2とハネ、黒3のノビに白4のノビ。
※ツケノビ定石の定型。
・三角印の白が一間と高いので、黒5の二丁ツギ(タケフ)の守りは、この一手。
・次に黒Aのオサエが地と根拠に関して大きく、白は6とケイマにスベって、それを防ぐとともに、自らの根拠を得る。
・このとき、黒7、9とオサえつけるのが、この定石の眼目で、先に三角印の黒とハサんだ石と関連して、強力な厚みを作る。
・このあと、白10に黒11と展開するぐらいで、黒十分。
※途中、白8で9に二段バネするのは無理手。
 しっかりとがめなければならない。(4図以降参照のこと)
※定石は双方五分の分かれのはずであるが、このようにどちらか、この場合は白の、悪い進行を定石とした例は他にもたくさんあるという。

【4図】(シボリ形)
・第2譜の黒7、つまり三角印の黒とマゲたあと、白1の二段バネは無理手。
・これをとがめるには、黒2、4のアテから6とカケる形に持っていく。
・白9の切りが入っても、構わない。
・黒10とアテて……

【5図】(鉄壁)白5ツグ(1の左)
・白1の抜きに黒2とノビて、二子にして捨てる手筋で、4とシボリ。
・さらに黒6の鼻ヅケが打てれば満点。
・以下、黒10とカケて、白が外に出るのを阻む。
・白13は低位であり、黒の外勢は鉄壁。
・黒16で勝負あり。



【第1譜】(1-6)押しあげ対策
・黒がツケノび、三角印の白、黒のあと、白A(18, 三)でなく、1と押しあげた時は、黒2と隅をオサえる。
・白3には黒4、白5には黒5とケイマして十分。
※黒4の時、白B(14, 五)からの出切りは心配ない。

【第2譜】(1-6)ケイマ攻め発見
・白1とカカリ。
※この時、黒は3に受けては落第。
・白を攻めるには、黒2が肝要。
・白3に黒4、白5を交換して、次に黒6のケイマ攻めが強烈。
※これを発見できれば、相当な実力。

【第3譜】(1-15)ケイマの威力
・黒1とカケた前譜に続き、黒の外からの圧迫に白2から6はやむを得ない。
・さらに黒7と外からのすばらしいケイマ。
・白8、10と出ても、黒9、11と切り離す。
・この後、白12と動いても、黒13、15で取れている。

【第4譜】(1-15)新展開
・白1、3と逃げても、黒2、4とゆるみシチョウで取れている。
・次に白は7、9の切りから戦うが、黒は14までを先手で決めることができる。
※この後、黒が要石の三角印の黒を引っ張り出して、右辺での戦いが始まる。

【第5譜】(1-6)要石
・黒1と要石の三角印の黒を引っ張り出すと、白は大石を生きなければならない。
・そのためには、白2から6を打たねばならないので、自然と周りの黒が丈夫になる。
・この後、黒は右下隅の弱点をAと補強して、上辺の白の攻めをみる。

【第6譜】(1-18)攻めの準備
・まず黒1と補強し、白2には黒3と白一子をゲタで取る。
・白4には外回りのボウシのケイマで、黒5と封鎖して、攻めの準備は完了。
・右下隅の折衝の後、上辺黒11以下に、白14から18と一応生きた。

【1図】(読み切り)
・上辺の白は一応生き形であるが、黒3がくると、黒5と打ち込みに白6が省けないので、白14までコウになる。
※長い手数であるが、囲んだら失敗してもいいから取りにいってほしいという。

【第7譜】(1-18)コウ立て準備
・前図の手順で、三角印の黒と白を決めたあと、コウ立てを読み切れないので、すぐ黒9とはいかず1と強化した。
・白2から8まで、この白は黒に二手打たれると死にそう。
※黒に立派なコウ立てができた。
・黒9からコウ決行。

【第8譜】(1-25)コウ争い 白4コウ取る(1の右)黒7〃白10〃黒13〃白16〃
※コウ立て十分な状況を作って、コウ争いを始めると、楽しいこと請け合いという。
・左辺の白にコウ材はあるが、とりあえず中央の白に黒5以下、コウ立てした。
・黒17に白は18とコウを解消し、戦いが下辺に移る。

【第9譜】(1-12)コウ移し 白9コウ取る(1)
・白は上辺のコウを解消したかわりに、下辺にコウが移った。
※今後のコウも白は負けると大変。
黒は負けても致命傷にならない。
・黒は左辺の白に10、12と連打できた。
※本局はコウで一局を制した例である。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、117頁~126頁)

第20節 両ケイマガカリ(133頁~142頁)

第20節 両ケイマガカリ


〇両ケイマガカリ
【第1譜】(1-8)簡明・コスミ
・白1のケイマガカリに黒2とハサみ、白3と両ケイマガカリされたときの打ち方。
・この場合、黒4のコスミから、以下、黒8の一間トビが簡明かつお勧め。

【第2譜】(1-10)ケイマ
〇第1譜の続き
・白1とケイマし、黒2、4に白は手を省けないだろう。
・白7、9の動き出しに、黒8、10とケイマで封鎖。
※白は中で生きなければならない。
 攻めのケイマの黒6、8、10を身に付けてほしい。

【第3譜】(1-7)後手生き
・白は中で生きるために、1、3のツケヒキを打たなければならない。
・黒は2、4と受けるだけで、何も難しいことはない。
※すっかり外勢が強固になった。
・白は7を省けないので、後手生き。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、133頁、140頁~142頁)


第24節 守りから攻めへ


【総譜】

<守りの布石>
【第1譜(1-6)】守りの布石
・著者は特に黒には積極的な攻めを勧めているが、黒がハサミを打たず積極的に攻めないと、下譜から始まって第2譜までのような布石がよくできる。
うっかり攻めを忘れて、こうなったという場合もあるだろう。
・双方守っているので、お互い急な攻めはないが、何とか今からでも攻め形に持っていってもらいたい。

【第2譜(1-6)】攻めの考え方
・そのためには、白からAやBに打たれた時の黒の考え方を心得ておかなければならない。
・逆に黒からCの打ち込みは攻めの立場からどうなのか、また黒からDのツケは……。
 どれも実戦で頻繁に現れる形を採り上げたという。

【第3譜(1-9)】打ち込み
・白からの1はよくある打ち込みの形である。
・黒2とツケて中へトビ出す手を妨げ、白9まで定石の進行。
※ここで黒にとって重要なことは、黒Aと付き合わないこと。
 先手を取って要点に回ってほしい。

【第4譜(1-5)】ツケ
・上辺で先手を取った黒は、要点といえば黒1のツケなどがある。
※黒が先手で外勢を築くのに有効。
・黒5のあと、白にはAとツグ手と、Bとカカえる手がある。
☆それぞれについて、その後の進行をみておこう。

【1図】(白ツギ)
・白が1のツギの時は、黒2のカカエ。
・白3のアテのワタリに、黒4と抜いて外勢を得る。
・白はしっかりワタるために、もう一手白5が必要。
・この後、右辺に呼応して、黒6、8と外から打って、中央に大勢力を築き、満足できる。

【第5譜(1-4)】白カカエ
・白2のツギでなく、1とカカえた時は、黒2と切りアテて、白3の抜きになる。
・次に、黒はコウを恐れず、4とアテる一手と覚えよ。
※白はコウに負けると、ひどい形になるので、ここではツギが普通。

【2図】(コウ材作り)
・もしも白がコウを始めるには、まずコウ材作りをしなければならない。
・そのためには、白1、3と切り違うなどの準備をし、白5のアテからコウが始まる。
※白はコウに勝つため、右上隅は損をすることになる。

【3図】(コウ争い)
・まず黒1の抜きは当然。
・白は2以下ここに用意したコウ立てを使う。
・そして白16のコウ取りまでとなって、右上隅の黒地がすっかり固まった。
※コウ争いは続くが、たとえ黒はコウに負けてもよい。

【第6譜(1-10)】外勢
・コウを避けて、白1のツギなら、黒2と白一子をカカえ、白3に黒4と白一子を抜く。
・この後、黒10まで黒は外勢を作って十分。
※ただし、この厚みを作った以上、白Aの打ち込みは許してはいけない。

【4図】(取り方)
・白1の打ち込みを許さないということは、白が生きを図っても、全部取るということ。
・黒2のサガリから黒4、6で外へは出さない。
・白7には黒8で隅を防ぐ。
・以下、黒22まで取り方を確認してほしい。



【第1譜(1-5)】白のトビ
・白Aの打ち込みでなく、1、3のトビで守った時は、黒も各々2、4と受けておいて、お互い様という所。
・ただし、黒2や4を打ったからには、白Aや5の打ち込みを楽々生かすような勝手を許してはいけない。

【第2譜(1-13)】白を捕獲
・黒1とコスミツケて、白のサバキを封じる。
※白6で7なら黒6で、白を隅に小さく生かして、黒十分。
・白8に黒9のオキが機敏。
※これで11は次図のようにコウとなる。
・黒13まで、白には二眼を作る広さはなく、脱出も不可能。

【1図】(白コウねばり)
・三角印の白のハネに、黒1とすぐオサえると、白2と急所にカケツがれる。
・黒3とアテても、白4とコウにがんばってくる。
※コウ材は白の方が多い。
※だから、2の点が双方の急所で、死んでいる石をコウにしては、黒いけない。

【2図】(打ち込み)
・三角印の白とトンだとき、黒aでなく、1と打ち込むのは、いかがなものか。
・答えは、定石どおり、黒13までとなったとしても、中で生きても閉じ込められて、黒最悪。
※白からいろいろと利きを見られ、他への影響も抱えている。

【3図】(利き)
・黒が中に閉じ込められると、白からいろいろと利きをみられる。
・たとえば、白1、3の形から、上方では白5、7が利くので、白9、11と安々と隅に入られてしまう。
※また、白aも利くので、左下隅も入られ易い形。

【4図】(切りからの戦い)
・前図黒13では、せめて1の切りから戦いを起こさないと、黒の五分の進行は期待できない。
・白2のノゾキに、構わず黒3とノビて戦う。
※隅は白に譲るほかない。
・黒9に……

【5図】(五分の戦い)
・白も1と一子を逃げるが、逃げ合いながら、上方を白に譲り、黒は10と下方につながる。
・しかし、封鎖した白は案外と強く、白11とツケ、13のフクラミから白17まで、コウ争いが始まる。これで五分の進行。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、159頁~167頁)

第25節 石の取り方~四子局


【第1譜】(1-11)取って勝つ
●著者は置碁では白石を囲んで外勢を取る打ち方を勧めている。
※勢力圏に侵入した白をさらに攻めるのであるが、白にすべて生きられては勝てない。
 勝つためには取らねばならない石がある。
 序盤から進めてみよう。


【第2譜】(1-11)両ケイマガカリ
※白のケイマガカリに、黒は3か所で一間に受けたが、左下隅に両ケイマガカリが生じた。
・黒1のコスミから黒11のケイマまでの簡明策で十分。

【第3譜】(1-8)白を囲む
※左方の黒がこれだけ厚くなると、右下隅の白をなんとかしなければならない。
・白1とスベリ、3と構えるぐらいだろう。
※黒は外から白を囲むように打つ。
・黒4のケイマはその基本。
・白5から黒8まで、左方が固まる。

【第4譜】(1-12)中央に勢力
・次に白1と上辺に打ち込んだが、ここでも黒2と上からツケて、白を封鎖しにいくことを忘れないでほしい。
・白11の後手生きに、黒12と中央の大勢力の構築に向かう。

【第5譜】(1-10)中央侵入
・白1、黒2と替わると、中央の黒地が大きくなりそうなので、白3、黒4のあと、白は侵入を図る。
・黒6、8は必要。
※ケイマと一間を使い、囲む。
・黒10をA(9, 十一)のケイマなら、次図のように簡単に取れていた。

【1図】(ケイマ)
・三角印の白の時、黒1とケイマに打てば、白に眼形がなく、話は簡単だった。
・黒9は白の目を取る急所。
※石を取る時は、一着で結果が一転する。
 囲んだ石はねらって、取るための読みの力をつけてほしい。

【第6譜】(1-15)勝負所
・白は1から生きを図る。
・以下、黒14にここを手抜きして、白15と三々に回った。
※黒にとっては、ここからが問題。
 実戦では、白15の大きな所に回られたうえに、中央の白を取りそこねてしまった。

≪棋譜≫172頁、第7譜

【第7譜】(1-12)認識
・囲んだ白石のどれかを取らないと勝てないという認識が黒に無いと、黒1から5のあと、黒7から11と地を囲いにいった。
・白も12と守り、このままヨセ合うと、白勝ち。
※実はこの後、黒から中央か下辺の白を取る手がある。

≪棋譜≫172頁、第8譜

【第8譜】(1-10)ねらい
・黒が白の下辺や中央へのねらいをもって、1から3と進めた時、白は4の悪手を打ってしまった。
※いよいよ黒が白を取りに出る時である。
 どちらか好きな方を取ればよい。そうすれば黒の勝ち。

≪棋譜≫173頁、2図

【2図】(中央の白を取る方法)
※以下にみる実戦の進行でも、白に生きはないが、ここでは読みの勉強のため、もう一つの手順を示す。
・白4までは実戦と同じであるが、黒5のホウリ込みの手順もある。
・白地を狭める手筋で、黒9まで白は一眼。

≪棋譜≫173頁、3図

【3図】(下辺白を取る方法1)
※中央への攻めとは別に、下辺の白に目を向けるのもある。
 黒先手なら下辺の白石は取れる。
・黒1以下は中手で取る方法。
・黒1のハサミツケは急所で、黒11のサガリまで、白は一眼の死に形。
※応用の利く方法である。

【4図】(下辺白を取る方法2)
・黒1が急所であることは、前図と同じ。
・白2には黒3とアテ込んで、ワタリをみる。
・黒5の切りからシボリ形にもっていき、この後どう打っても、白に生きはない。
※詰碁を別に勉強するより、実戦で急所を覚えてほしい。

【第9譜】(1-10)実戦の進行
・まず黒1の白のスペースを狭めた。
・黒3は殺しの急所。
・続いて、黒5、7に中手をねらう。
※黒5あるいは9で10の点にホウリ込めば殺せた。
・黒9ではセキになり、さらに下辺も生きられ、黒負けになった。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、168頁~174頁)

第28節 白の選択(183頁~188頁)

第28節 白の選択


〇白の応手A、B
【第1譜】白の応手A、B
・白のケイマガカリに、黒は全て一間に受け、黒8と攻めの態勢を作った時、白の応手としては、Aの一間トビまたはBの守りがよく打たれる。
・白のAとBについて、黒の立場から黒が攻め続けるための打ち方をみていこう。

【第2譜】(1)三角印の白への打ち方
・前譜の白A、三角印の白の局面では、右下の石数は3対2で黒が少ない。
・すぐにケイマで黒AまたはBと攻めるのは、黒にも切断が残り、後の戦いが不利になる。
・まず黒1とコスみ、次に黒CまたはDのケイマを見合いにする。

【第3譜】(1-8)上方への攻め
・白が1と下方を守れば、黒はただちに上方の三角印の白の二子への攻めに回る。
・黒2を利かし、白を重くしてから、4のケイマ。
・黒8までピッタリと白を囲むと、白は生きる守りの手が必要になる。

【第4譜】(1-14)タイミング
・白1と守った時、ここは黒2と上辺の三角印の白の一子の攻めに転戦するタイミング。
・攻めの常套手段、黒2のコスミツケから始める。
・黒4、6と外から一間で攻め、14とケイマでアオる。
※黒の攻めは絶好調。



【第1譜】(1-8)下方への攻め
・白が1と上方に着手すれば、黒は白の守らなかった下辺の白一子へ、2とケイマでカケ。
・続いて、黒4のケイマ以下、8と簡単に外勢を作れる。
・この後、白A(5, 十五)のような手は次図に示すように心配ない。

【1図】(ハザマは心配無用・1)
・白1のハザマに、黒は上方を大切にしたいので、2とツギ。
・辺の方は切りを入れた白5を盤側に押しつけるように打てば、何とかなるもの。
・この場合も、黒12まで白を取れる。
※ハザマには手は無いということ。


【第1譜】(1-9)白Bへの打ち方
・最初の局面で、白B、三角印の白なら三角印の黒の二子への直接の攻めではないので、黒
1で四角印の白の攻めに回る。
・白2に黒3の一間トビが大切。
・黒5と白6を決める。
・黒7に白8を待って、黒9とつながれば、黒成功。
※白Aは恐くない。

【1図】(ハザマは心配無用・2)
・白1のハザマには、重要な方、この場合は上方の白の攻めをみているので、黒2とツギ。
・白3、5の出切りには、以下黒8のツケを用意。
・白9には、黒10と切り込み、白13ツギにも黒18まで、白は助かる余地がない。

【第2譜】(1-7)ボウシ対策
・前譜に続く、白1のボウシには、彼我の力関係から見て、黒2とケイマで戦えるところ。
・白3の動き出しには、黒4とオサえ、白5の切り違いに黒6とアテ。
※黒の次の一手はかなりのヨミを必要とするだろう。

【第3譜】(1-13)突き出し
・ここは、黒1と突き出すのが正解。
・白2と切られても黒3と逃げて、黒は何も取られないので、黒1が成立する。
・以下、黒13と一子を抜いたところで、この戦いにそろそろ黒の勝ちが見えてくることだろう。

【第4譜】(1-16)白13ツグ(10)先手決め
・白1には黒2、4と先手で決めてから、黒6とオサエ。
※戦いにおいては、先手を探して、それを有効に利用してほしい。
・黒10のホウリ込み、黒12のアテも絶対先手。
・黒16まで、大きな白が取れた。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、183頁~188頁)

第32節 互先・攻めへの道程(206頁~210頁)

第32節 互先・攻めへの道程~二間高ガカリ


〇二間高ガカリ
・本書のテーマは、置き石必勝法で、互先必勝法ではない。
 互先必勝法というのは、現段階では存在しないはずで、もしあれば著者も知りたいものだという。
・置碁必勝のために、著者が勧める方法は、「ケイマと一間で白石を囲んで取る」ということ。
 その基本的精神は、「攻め」という一語に尽きる。
 これを実践するためには、基本的に石は高く打ってほしい。

・本局は、著者の指導碁。
 黒はアマチュア高段者。
・置き石のない場合には、互先必勝法なるものはないが、著者の置碁必勝法における基本的な考え方を応用することができる。
 黒でも白でも、序盤からできるだけ、これを応用できるように心掛けて、打ち進めていくのである。
・互先では、お互いに一手ごとに均衡を保って打ち進めていくので、すぐには一方的な攻めのパターンはできない。
 
【第1譜】(1-13)二間高ガカリ
・第1譜、黒3の小目に白8の二間高ガカリから、黒13までほぼ定石どおりの進行。
※ここでは、まだ「囲み形」も「囲まれ形」の気配も現れていない。

【第2譜】(1-15)大場
・白1から9と、上辺の形を決めたあと、黒は白の上方の勢力を考慮して、10とこの隅を固めるのが、大切。
・白11から白15まで、大場を打ち合った。
※この段階では、まだ形勢にも大差ない。
 黒の次の一手が重要。

【第3譜】(1-13)白10(1) 打ち込み
・実戦では、黒1と打ち込み。
・そして、黒3とハネ込み、白4と下から受け、6と黒一子をカカえた。
・以下、黒11と白一子をシチョウに取れば黒よしというのが定石。
・白12に黒13では、A(17, 十)と受ける手があった。

【第4譜】(1-10)競り合い
・三角印の白に三角印の黒とすぐ抜いてくれたので、白は1と黒を分断。
・黒2の攻めを兼ねた守りと、白3のトビを交換したあと、黒4のトビ出しは仕方のないところ。
・白5以下黒10まで、連絡と分断の絡んだ競り合い。

【第5譜】(1-11)黒を分断
・白1の利かしに黒2と反発したが、白3とハズして、目標は黒の分断。
・以下、黒8と上辺は黒が少し得をしたが、その間に白7から9を利かして、11と、黒の上下の連絡を絶った。
※黒五子は逃げなければならない。

【第6譜】(1-7)白の攻め
・黒1から逃げるが、白2から4、6とケイマと一間で攻める要領は、置き石の有無を問わない。
※黒は一手でも手を抜くと取られてしまう。
・黒7と弱石を逃げている間に、三角印の黒の六子が大きく白の囲みに包まれてしまった。

【第7譜】(1-15)大儲け
※白は「取れない時は他で大儲けをする」という打ち方をする。
・ここでは、まず白1の急所から9まで、攻めの効果で下辺と隅が固まった。
・実戦では、白11に黒12と守ったため、コウになり、コウ材不足で、黒の投了となった。

【1図】(皮肉)
〇碁とは皮肉なもの。生きようとすると死に、攻めると生きるもの。
 すなわち、自らの危機をシノぐために、相手の攻めに出るのである。
・ここでは、三角印の白(12, 十四)の時、黒1から5を決め、黒7から13と攻めて、シノぐ例を示した。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、206頁~210頁)

【補足】実戦死活(二子局)~新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』より


 新垣武氏は、2子局(1-63)の棋譜を掲げて、左下隅の死活について、次のような実戦死活問題を出している。

≪棋譜≫2子局(1-63)、208頁

【基本図45~48】
【基本図45】(1-28)
・2子局
・互先、2子局、3子局は、囲めるのは50手以降が多い。
・囲碁の上達の基本は、囲んだ石を取りに行くこと。
 失敗をおそれて取りに行かないのでは、上達は望めない。

【基本図46】(29-49)
・三々で生きるのは、小さい生き方。
・白39から48までが、この形での大きい生き方。
・但し、白49はよくばり。
※A(16, 二)とツイで、しっかり生きるところ。
 黒取りに行く。
(新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年、200頁)

【基本図47】(50-57)
・こんどは白の番。
・黒54では、A(17, 十八)で生きだった。
※この形も大きくコウが正解。
(睡眠薬の代わりに、ゆっくり反復トレーニングしてほしい。)
(新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年、204頁)

【基本図48】(57-63)
・黒の地の中に、57と入ってきた。
・三角印の黒(6, 十五)がいいところにある。
※これがないと、白を取りにいけない。
 実戦でこの形は活用してほしいという。


≪棋譜≫問題1、209頁

【問題1】黒番
・取り方四通り。皆さんの取り方の好みはどちらでしょう。

≪棋譜≫問題1の解答の一つ、210頁

<問題1の解答>4通りの一つ。
【正解図1】
・まず1とスベリ、白2に黒3、白4に黒5まで。

≪棋譜≫問題3、209頁

【問題3】黒番
・実戦ではこの形が多い。
 これは殺す方法は一つ。なんとかクリアしてほしい。三角印の白が問題。

≪棋譜≫問題3の正解図、211頁

<問題3の解答>
【正解図】
・黒1が正しい。
・白2は黒3以下、ゆるめずに一歩一歩の9まで死。

≪棋譜≫問題3の失敗図、211頁

【失敗図】
・黒1は失敗。
・白2が三角印の白の石とツナガるか生きるための好手。
・a、bが見合い。
(新垣武『実戦に役立つ死活反復トレーニング』日本放送出版協会、2000年、196頁~211頁)



≪囲碁の攻め~牛窪義高氏の場合≫

2024-09-15 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~牛窪義高氏の場合≫
(2024年9月15日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作をもとに、考えてみたい。
〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
 牛窪義高氏は、囲碁の“言語化”に優れている棋士という印象を受けた。 
 例えば、有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>とは、よく言われるが、“色即是空”をもじって、“攻即是守”という。
そして、囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという(82頁)。
 その他にも、次のような表現がこの著作に散見される。
・「無くても有る」…禅的発想(76頁)
・一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つ(78頁)
・名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手(156頁)

 また、この著作の特徴として、往年の囲碁棋士の名局を取り上げていることが挙げられる。

【牛窪義高(うしくぼ よしたか)氏のプロフィール】
・昭和22年5月24日生。高知県出身。
・窪内秀知九段門下。
・昭和34年院生。38年入段、40年二段、41年三段、42年四段、43年五段、45年六段、
 47年七段、49年八段、52年九段。
・大手合優勝2回。
・著書に「碁の戦術」「やさしいヨセの練習帳」(共にマイナビ)がある。



【牛窪義高『碁は戦略』(マイナビ)はこちらから】



〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
【目次】
テーマ1 戦う場所の問題
テーマ2 厚みを生かす
テーマ3 腰伸びをとがめる
テーマ4 攻めの要諦
テーマ5 攻即是守
テーマ6 息が切れる
テーマ7 一路の違い
テーマ8 大きな手とは?
テーマ9 切りかえ
テーマ10 部分と全体
テーマ11 タイミング
テーマ12 返し技
テーマ13 反発と気合い
テーマ14 打たずの戦術
テーマ15 相手を迷わせる
テーマ16 大模様の消し方
テーマ17 機略<ハザマトビ>
テーマ18 形勢判断
テーマ19 上達と勝利へのポイント



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき~アマチュアの上達と勝利へのポイント
・テーマ3 腰伸びをとがめる
・テーマ4 攻めの要諦




はしがき~アマチュアの上達と勝利へのポイント


【アマチュアの上達と勝利へのポイント】
①ヨミの訓練
②棋理の学習

①ヨミの力をつけるためには、詰碁に取り組むこと。
②棋理の習得には、常に疑問を持つことが大切。
※つきつめて一つだけ挙げれば、①ヨミの訓練に尽きるという。
➡ところが、ヨミの訓練は、詰碁などで独り黙々と地道に力をつけていかなければならない。
(アマチュアがヨミの壁を突破するには至難の業)

②棋理の学習は容易だという。
➡ごく当たり前のことを(そうでないと一般的な棋理にならない)、基本原則として、いくつか勉強すればよいから。
※棋理の習得は、またヨミに筋道をつけるものである。
 (ヨミの訓練にも役立つ)

※前著『碁の戦術』と本著『碁は戦略』は、ともに棋理について、分かりやすく説明した本。
➡アマの碁とプロの碁を対比させながら、学習の手伝いをしたもの。
➡前著が部分的な棋理を取り扱った
 本著は、全局的なテーマを対象にしたものが多い。
(後者がやや程度の高い意味があるという)
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、3頁~4頁、339頁)

テーマ3 腰伸びをとがめる


【テーマ図】白1に、あなたならどう打つ?
・著者の指導碁から(六子局)
・白は、丸印の白の一団が治まっていない。
 なんとか手を打たなければと、白1の二間トビすると、黒はノータイムで2にツケてきた。
 左辺に侵入されては大変、と…

〇腰の伸びたときがチャンス
【4図】
・白1の二間トビには、決然、黒2のツケ!
※周囲の強力な援軍を、無用の長物で終わらせないためにも、ここは白を強引に切っていくところ。


【5図】
・白3には、むろん黒4!
・白5に黒6ノビとなって、黒4の一子はつかまらない。
➡白困窮の図となった。
・4図黒2に対して……

【6図】
・白3なら、黒4から6で、これも白お手上げの形。


【7図】
・なお、黒2にツケるのもあるが(白aには黒b切りで、やはり白困る)、2よりcツケのほうが筋が良さそう。

【8図】
・二間にトブと切られる恐れがある…それなら、なぜ白1と一間にトバなかったのか、となるが、こういう「普通の手」を打つと、黒も2トビと「普通の手」で応じて、白はいつまでも重苦しい。
※弱石をかかえていると、早く治まりたいという気持ちから、どうしても腰が伸びる、すなわち「普通でない手」を打つ。
 攻める側は、そこを突かなければならない。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、41頁~44頁)




〇次のような例もある。
【25図】よくある形
・いま、三角印の白とケイマにあおってきたところ。
 ここで、いきなり黒aとツケコシて、戦いを挑むのは、いかにも無理。

【26図】
・黒1トビから3と構えて(白2はこんなもの)、aのツケコシをねらうのも一策。
・あるいは三角印の白ケイマの間隙に乗じたサバキとして、次図のような打ち方も、ときには面白いだろう。

【27図】黒1、3の連携プレー
・すなわち、黒1、白2と換わって、黒3のツケ。
・白4に、黒5の切り違い!


【28図】
・白6にカカエるのは、黒7、9で、丸印の黒と白の交換がちょうど働いてくる。
➡これは白いけない。

【29図】
・白6の引きがやむを得ず、そこで黒7カカエが一法。
・次いで白8、黒9から、

【30図】
・白10が必然。
・一子を抜いて、右上を荒らした黒、こんどは11にハネ、こちらのサバキにかかる。
・白12の切りには、……

【31図】
・黒13とアテ、白14抜きに、

【32図】
・黒15から17ツギ。
※すでに右上で得をしているので、少々の石は捨てる要領。

【33図】黒7、9も一型
・29図白6のとき、黒7と引くのもある。
・白も8に引き(aのシチョウは黒有利)、黒9ノビまで。
※この形、黒は三角印の黒の一子の動き出しをみて、白としては、なかなかうるさいところ。
 黒は、白のケイマの薄みに小技をふるい、一クセつけることに成功した。

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、53頁~56頁)

テーマ4 攻めの要諦


【派手な攻め方】
【24図】<黒>立徹・<白>丈和
〇もう一例、古碁をお目にかけよう。
・三角印の白を照準に、黒1。
・白2トビ……これも中央の黒を攻める気分。
・黒3と変則のカカリ。
※いい感じの手。隅の白に迫りつつ、はるかに三角印の白をにらんでいる。

【25図】こういう攻め方もある
・白4と逃げたのに対し、黒は5のカケを利かして、7の急所へ。
・白8を待って、黒9から11の肩と、目を見張るばかりのダイナミックな攻め。
 実に見ごたえがある。
※24図黒3、25図黒5、11と、できるだけ包囲網を大きく、遠巻きに攻めている点に注意せよ。

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、71頁~72頁)

テーマ5 攻即是守


【1図】必争のポイント(急場)を逃す―黒1
・アマ高段者同士の実戦で、黒1と構えたところ。
 丸印の黒の星から、三角印の黒と辺にヒラいた形は、黒1によって確かにキリっとし、好形になる。
 しかし、それは<局部の要点>に過ぎず、<全局の要点>は、また別にある…

【2図】
・黒1には、白2から4を利かし、6のトビ。
 これで黒窮する(実戦では白はこう打たなかったが…)。
※ご覧のように、丸印の白は強化され、逆に上の黒は棒石になった。
 また、丸印の白の一団が強くなると、白は平気でaの打ち込みや、bの三々などをねらうことができる。
 つまり、黒1と守った手自体が、効果の薄いものになる。

【3図】正解
・黒1と、先制攻撃!
 これにより、丸印の黒の一団は安定し、逆に丸印の白は弱体化する。

【4図】黒好調
・白は2とツキアタり、黒3に、白4トビぐらいのもの。
・黒は5のケイマと、攻めを続行。
※こうなると、丸印の黒はまったく心配がなくなったうえに、右方・三角印の黒の友軍とともに、黒は大きな地模様さえ形成する勢いである。
 白は、まだ左の一団が治まっていないので、黒模様に飛び込むわけにもいかない。
※黒3から5と肉薄しておけば、白がシノぐ調子で、中央の黒はさらに強化されるはず。
 そうなると、黒aなどの守りを省略して、このまま黒地となる可能性も出てくる。

※2図と4図、よく見比べてほしい。
 2図は、黒1と守ったようでも、たいした守りになっていない。
 それに対して、4図は、黒aと守らなくても、黒3や5が十分にその役目を果たしているし、最終的には黒aを省いて、大きな地がまとまる期待も持てる。
 両図の差は、天地雲泥というべきである。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~75頁)

「無くても有る」…禅的発想


【5図】
〇置碁でよくできる形。

【6図】
・黒1と、隅を守っても白2と打ち込まれるし(ただちに打つかどうかはともかく)、
【7図】
・黒1とこちらを守っても、白2と、三々侵入の余地がある。
※要するに、黒は、右上一帯を一手で地にするような手はない、ということである。
 考え方を180度転換させて、<白を攻める>ことを主眼としてみよう。

【8図】
・黒1のコスミツケ。
・白2はやむを得ない。
・そこで黒3のハサミ!
※黒1、白2の交換によって、白は重たくなった、つまり、黒は攻めの目標を大きくした。

【9図】
・白は、4のトビなどと、すぐ動くことになるだろう。
・これには、黒5の二間トビといった要領。
※この形、白からのねらいであるaの打ち込みやbの三々は、依然として残っている。
 黒は、上を直接守るというような手を全然打っていないので、それは当然。
 しかし、白は三子がまだ治まっていないので(=大きな負担)、ここで白aに打ち込んだり、bと三々に侵入するわけにはいかない。
 すなわち、黒はa、bの二つとも、これで守っていることになるし、極端にいえば、守りの手を二手連打できた理屈。
 実際には打たれていないのに、そこに打たれたのと同じような効果が認められる。
 いわば、石が無くても有る――禅問答のようなことになったが、攻撃を旨とすることによって、そういった一種玄妙の世界を作り出すことができるのも、碁の醍醐味の一つだろう。

・9図に続いて、

【10図】
・白6トビなら、調子で黒7と、自然に守ることができる。
※黒7は、上辺の守備にとどまらず、白四子への“攻めの意思”も強いことに注意せよ。
 やはり白は、続いてaと三々を襲ったりはできない。(黒bのサガリで白四子が著しく弱化)。
 黒はここでも、実際には隅を守っていないのに、守ったのと同じような状況を作り出している。

【11図】

<守る手>には、欠点が多い


・四子以上置いた置碁でも、手数が進むにつれて、いつの間にか黒のほうが攻められるといった珍現象が、よく起こる。
 五つも六つも置かれると、白が攻勢に立つということは常識では考えられない。ところが、その“非常識”が、現実にはよくある。まさに珍現象。強い上手にかかって、苦い体験を持つ読者も多いだろう。

・なぜ、そういう理不尽なことが起こるのか?
 ズバリいって、それは、黒が自陣の守りを優先させたから。
 まず自陣の守備を固めて、それから攻めよう、そういう作戦を立てたから。
(作戦を立てたというよりも、置碁の場合、黒はどうしても萎縮してしまい、つい、守りを固めるほうに目が行くということもあるだろう)

・それはともかく、ここで、守りに偏した手の欠点を、三つ挙げてみる。
①一手では守りきれないので、手段の余地を残す、ないし、味が悪い。
②完全に守るためには、手数を要するので、一手あたりの価値は存外小さい。
③相手に手を渡す(=守ると後手を引く)
【12図】

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~81頁)

置碁はとくに速攻が肝要


・結局、碁というものは、守ろうとしても守りきれるものではない、といえる。
 なぜなら、ある局部を完全に守ろうとすれば、三手も四手もかかるし、そのたびに後手を引いたのでは、他方面で弱石を作って、守勢に陥り、あげくのはてに、三手、四手と費やした確定地にも悪影響が及ぶからである。
 このような悲劇的光景を、よく見かける。
・要は、着手の優先権を、第一番に「攻め」に置くこと。
 これに尽きる。
 上手との力の差、技術の差がある置碁において、このことはとくに大切。
 上手にいったん攻勢に立たれると、下手側はシノギに難渋し、まずその碁は勝ち目がないと知るべき。
 守りに偏した手の欠点を、先に三つ挙げた。

<攻める手のメリット>
 その裏返しとして、攻める手のメリットをまとめると、次のようになる。
①攻撃することによって自然にできた地は、味が良く、手段の余地を残さないことが多い。
②相手に迫っていれば、守る手自体、不要となることもある。きわめて効率が良い。
 (前掲・4図のようなケース)
③攻めているかぎり、先手を堅持できるので(主導権)、相手の作戦の幅を狭くできる。

〇有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>。これはまさに真実。
 “色即是空”をもじれば、“攻即是守”。囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという。

・攻めと守りに関して、次のようなことも重要。
 アマチュアの人は一般に、攻めるときはムキになり、なにがなんでも取ってしまおうといった、非常に無理な打ち方をすることが多い。その大きな原因は、「先に守る」ことにある。
・守る手というのは、当然、得な手に違いない。
 その得な手を先に打ち、それから攻めて、なおかつ得を収めようとすると、敵石を取ってしまうような大戦果をあげないと、攻めの効果が出ないということになりがち。
 そうではなく、守りを省略して先に攻め、その効果は、攻める調子で自陣が固まる程度でいいと、このぐらいの小欲で処するほうが本筋であり、成功率も高いといえる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、81頁~82頁)

守った手が駄着化


【13図】黒1は緩着。どう打つべきか?
〇院生の対局から。
・黒1は、右辺がなんとなく薄いとみて、こうオサエたのであろう。一見、大きそうだが…。
【14図】
・黒1に対し、白は2、4、6と決めた。黒7まで。
※丸印の白の一団が治まっていないので、白としてはこんなもの。
 ところで、黒が、3、5、7と受けた形は、黒1のオサエが、不急の一手となっていないだろうか?

【15図】黒1、3が正解―先に攻める
・黒1のノゾキから3と、先に攻めてみる。

【16図】白10となれば、黒aはいそがない
・白は、やはり4、6、8と上から利かすぐらいのもの。
・黒9に、白10と形について、これではほぼ治まり形となった。

※さて、ここで黒はaにオサエるだろうか?
 5、7、9に石がきた現在、黒aの守りは不要。また、黒aとオサエても、右下の白にそれほど響くわけでもない。
 すなわち、黒aは単なるヨセの手である。
 白bのスベリとの出入りは、かなりの大きさとはいえ、中盤に打つ手でないのは、はっきりしている。

・白10に続いて、例えば左辺黒11など、より値打ちのある積極的な手を繰り出して、局面をリードしていくべきだろう。
・14図黒1と、先に<守りの手>を打ったため、あとでそれが不急の駄着になった。銘ずべき反省点である。



〇最後に、専門家の実戦例を一つ。
【17図】<黒>橋本宇太郎・<白>苑田勇一
文字通りの“攻即是守”ではなく、更に高級な意味を含んだ例であるという。
・まず、白1のコスミ!
※黒の根拠を脅かしつつ、白は右辺の大模様侵略の機をうかがっている。

【18図】実戦
・黒2に、白3と裂いたのは当然。
・次いで黒4のオサエ。こう治まった手が、下方の白陣へ臨む手がかりともなっている。
・白は上辺に転じ、5と割っていった。
※三角印の黒二子の動静を見ながら、白はやはり黒の大模様を注視。
 あくまで「攻め」をめぐって、局面が動いている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、73頁~86頁)


テーマ8 大きな手とは?


着手決定の基準 攻め→守り→大小


・実戦で、岐路に立ったとき、どういう考えで、<次の一手>を決めるか。
 その基準(優先順位)が、次の3つである。
①攻め
②守り
③局部の大小関係

①まず、相手の弱石をとらえ、それに対する攻めを考えること。これが第一である。
②次に、その裏返しとして、自陣を点検し、弱石があれば補強すること。
③三番目に、自他ともに弱石がない場合…そのときに初めて、局部の大小関係に注目すること。

・実戦において、迷いはつきものであるが、攻め→守り→局部の大小関係と、原則としてこの優先順位で処していけば、総じて適切な方向に石が行き、マチガイの少ない、活気に満ちた碁を打つことができるはずである、と著者はいう。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、125頁)

局部の大小関係に注目するケース


・局部の大小関係に注目するケースとは、例えば、こういう局面である。
【26図】弱石なく、平和な局面…大ヨセの感覚で
・ご覧のとおり、双方、弱石がない。
・従って、ここで黒aのオサエは、有力な一案。
・他に、黒bと肩を突いて、消しにいくのもあり(これも局部の大)、このほうが点数が上かもしれないが、少なくとも、黒aのオサエは、この場合、叱られない手といえる。

☆26図は、両者安定の局面であったが、反対に、双方弱石を抱えているときは、どうするか?
➡その場合も、原則として<攻め>を第一義としてほしい。
※つねに、積極果敢な姿勢を持つこと。それが勝利への近道だから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、126頁)

テーマ9切りかえ~<厚み>が<薄み>に変わった


【2図~8図】
<厚み>が<薄み>に変わった
【10図】黒、上が弱く、下が強くなった
〇8図白21のスベリまでの局面。
※7図白1とボウシした段階では、上の丸印の黒は確かに厚みであり、攻めに活用すべき外勢だった。
 しかし、それから20手進んだ本図では、丸印の黒の11子は、もはや厚みとは認定しがたくなっている。
 中央にもう少し白石が加わると完全に攻守逆転し、丸印の黒の一団が白の標的になりかねない。

・反面、三角印の黒の一団は非常に強くなっている。
 白に三々侵入を許し、その代償として、ここに相当な厚みを得たわけである。

※要するに、7図白1のボウシから20手進むうちに、社会情勢が大変化して、かつての厚みは薄みと化し、逆に、薄みが厚みに変わったのである。
 7図黒2とツケたときから、時代は移り世の中が変わった…そう認識して、

【11図】正解
・黒1と、こちらから打つ
※これが、「時代の変化」に柔軟に対応した、正しい石の方向である。
 次いで、
【12図】事態の変化に即応して…黒1、3、5
・白は2ぐらいのもの。
・そこで、黒3とオシ、白4に黒5のケイマ
※過去にとらわれることなく、現時点の状況にマッチさせた、正しい石運びである。
 黒1、3、5を打つことによって、
①丸印の黒の一団の不安が解消した
②中央から右辺へ、大勢力圏を構築
③三角印の黒の堅陣が光ってきた(白をまだ攻めている)
※このように、黒には「いいこと」が三つも重なった。
 前掲9図の“難戦模様”に比し、本図は、黒が快勝を収めそうである。

執着を離れ、発想を切りかえる


【13図】
・最初に、黒の<次の一手>(1図)を問われた人は、それまでの流れを知らないので、固定観念のようなものを持つことなく、冷静に局面を観察して、正しい方向(12図黒1ないしその近辺)に、眼が行きやすかったかもしれない。
・本局の当事者=黒のX氏も、実戦を離れた<次の一手問題>であれば、おそらく12図黒1、3と、この方向に石を持っていったことと思う。
・ところが、【13図】白1のボウシされたとき、上の丸印の黒を厚みと認識して、黒2とこちらにツケ、白を厚みの方に追い込もうとした。
※実戦では、この作戦・方針から、一つの流れが生じ、その流れに乗っているうちに、いつのまにか「上の丸印の黒は厚み」という考えが、一種の固定観念として定着してしまい、機に臨んで応変の戦略を描く柔軟性をなくしたといえるだろう。
 強い石が弱くなったり、弱い石が強くなったり、事態は常に流動的である。
 その変化の相を敏感にとらえ発想を切りかえて的確に対処することは、専門家にとっても時にむずかしいテーマとなる、と著者は解説している。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、129頁~138頁)

プロの実戦から~大竹英雄VS加藤正夫


大竹英雄VS加藤正夫
≪棋譜≫(1-50)138頁、大竹英雄VS加藤正夫

【14図】<黒>大竹英雄・<白>加藤正夫
・右下の応接・黒17まで。
※実利対外勢のワカレ
・白はここに蓄えた力をバックに、18とハサみ、攻勢に出た。
・黒19コスミに、白20トビ。
※左辺の二連星とも呼応した、スケールの大きな攻めの構想。

【15図】白、次の一手は?
・続いて、黒21のトビに、白は22を利かして、24トビ。
・黒もまた25とトビ。
〇さて、ここで白はどう打ったか?
 碁の流れは、白の攻め…。
 その流れに沿って、さらに急攻を企てるか。それとも…
≪棋譜≫140頁、16図

【16図】実戦―渋さが光る
・加藤名人は、ここで白1と守りについた。
※なかなか打てない手…思いもよらなかった、という人も多いのでは?
 しかし、よく考えてみると、状況の変化に対応した、素晴らしい一手であることがわかる。
※ちょっと前まで、右下の丸印の白の一団は強い石で、攻勢の基盤となっていた。
 ところが、数手進んで、丸印の黒のトビがくると、丸印の白は弱体化し、少し薄くなった。
 そこで、白1とガッチリ打って補強し、白aのツメや、白bのボウシなど、色々な含みを見る。
➡まことに、<攻・防>両面によく心配りされた、輝く名手、と著者はいう。

【17図】黒ありがたい
・ハサんだ石を攻めるという、これまでの一連の流れに安易に乗ると、つい、白1のケイマから3とトビと、こういう打ち方をしがち。
・黒は4とトビ。
➡白、どうもまずいようだ。
※白は、1、3といたずらに腰を伸ばしただけで、丸印の白の一団がそれほど強化されたわけでもなく、従って、上の黒への攻めも、多くを期待できなくなった。
※白の打ち方は一本調子であり、直接的に攻めようとしている。
 それがかえって、迫力を欠くことになっている。

【18図】実戦
・16図以降の進行。
・中央・黒39にトンだとき、白40の肩から46まで、今度はこちらを補強した。
・黒47のスベリに、白50のボウシ!➡満を持した強打

※本局は立ち上がから、「黒の実利/白の勢力」という骨格が決まり、碁の大きな流れとして、白の攻めがポイントになった。
 しかし、白は決して一本調子で攻めることなく、黒の動きに応じて、自軍をよく点検・整備し、慎重に打ち進めている。
 流れに乗りっぱなしでなく、ときどき岸にあがり、流れを冷静に観察している、そんな感じだろうかという。

※前回のテーマで、着手の決定の基準(優先順位)を
①攻め ②守り ③局部の大小関係とし、「攻め」の重要性を強調したが、これを補足する意味で、今回のテーマ=切りかえを著者は選んだという。 
・取るものを取り、あとをシノいで打つという実利先行作戦は、本質的に非常にむずかしいので、とくにアマチュアの人は攻め本位の作戦をとるのが得策である。
 この考えから、先の基準を示したが、攻めを重視するあまり、勢いのおもむくまま、どんどん行き過ぎてもいけない。今回述べたかったのは、これである、と著者はいう。
・「攻め」を第一義としながらも、彼我の強弱の変化によく注意して、ときに自陣を整備・補強すること、また、総じて100手を過ぎたあたりから、局部の大小関係、つまり<ヨセ>が大きな比重を占めるようになること。
 このへんの切りかえをうまく行うことも、勝利への大切な要素であるとする。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、138頁~143頁)

テーマ10 部分と全体~プロの実戦から 藤沢秀行VS石田芳夫


<黒>藤沢秀行VS<白>石田芳夫
【7図】
・黒1のトビに、白2のノビ。
 黒、次の一手は?

【8図】英断
・黒3!
※「さすがに…」と、話題になった手である。
 こう打つと、目前、白aの出がある―黒bは白cに切られて苦しい―
・黒の対策は?

【9図】
・白4(実戦ではこう打たなかった)には、黒5と応じ、白6にも、黒7にノビよう、という意図である。

※三角印の黒二子を放棄した損は小さくないものの、スケールの大きな黒模様を構成しつつ、7の剣先が左辺の白模様を消すという、一石二鳥の働きをしている点、上の損を差し引いても、十分にオツリがくる図となっている。

【10図】黒1、3は凡庸
・白2のとき、出切りに備える手としては、黒3のケイマが形(定石型)であり、例の<部分の最善>といえる。
・しかし、白4とケイマに出られては、黒の右辺の構えは影の薄いものになる。

※8図黒3のオサエは、一見常識外れの手ではあるが、9図と10図を比較すれば、大局的見地からの素晴らしい英断(真の最善)であることが分かる。

※10図黒3のような、石の姿・形、あるいは手筋といったものに明るいことは、碁の強さの大切な要件であり、それなりに評価されるが、それにも増して重要なのは、“大局を見る眼”である。
 対局中、少なくとも3回ぐらいは背筋を伸ばし、姿勢を正して、盤上全体を大きく視野に収める習慣をつけると良いという。
 そこから、全体にマッチする妙計も生まれる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、148頁~150頁)

テーマ10部分と全体~「呉清源布石」


〇「呉清源布石」の教材として、呉先生が採用された局面である。

【16図】白番
・いま、三角印の黒に打ち込んだ。
 白の、19路四方を視野に収めた構想は如何。

【17図】失敗Ⅰ
・白1トビ…19路四方ならぬ、10路四方ぐらいしか視野に収めていない打ち方である。
・白1と逃げた以上、黒2に白3トビもやむを得ない。
・以下、黒6までを想定。

※黒にとって、2、4、6は、白の右方の厚みの消しになっている。
 同時に、まだ左の三子への攻めも見ている。
 ―一子を逃げたため、白は全体が崩れた。
 なお、白5のナラビは、黒aのオキを防いだものである。

【18図】失敗Ⅱ
・白1とコスんで、三角印の黒を攻めたいという人もいるだろう。
 しかし、黒2のツケから10トビまで(相場の進行)となって、とても攻めがきくような石ではなく、逆に左の白のほうが不安である。
 前図同様、右の厚みも消えて、白サッパリ。

≪棋譜≫19~21図
【19図】正解
・呉先生推奨の手は、白1のケイマ。
 この際、三角印の白の一子を献上しようというもの。
・黒2のコスミに続いて、

【20図】
・白3のツケから、5のツキアタリも利かし、一転7のオサエ。
 これも、先手(権利)である。

【21図】芸術の香気
・黒8、10の受けを待って、今度は下辺に転じ、11の大ゲイマ。
 こう五線に打った手に、なんともいえない味がある。
 名工・左甚五郎が、361路の大地に至芸をふるい、最後の槌音を響かせた…そんな感じの一手であろうかという。

<碁の調和>
・これは呉先生の言葉で、非常に深い意味がある。
 本図も、白の全軍が相和した、一つの調和的世界だろうという。
 
【22図】
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、153頁~156頁)

テーマ11 タイミング


〇弱点が一つになったときが“いいタイミング”
 <黒>呉清源VS<白>坂田栄男
【14図】
・この局面―右上方面の黒陣へ、白はどういう“策”で臨んだのだろうか?
【15図】
・丸印の黒の構えに対して、白としては、
aの打ち込み、bのカカリ、cの三々、dの肩ツキなど、さまざまな作戦が考えられる。
・ところが、白の次の一手は、a~dのいずれでもなかった。
≪棋譜≫16~18図
【16図】
・白1と、中央からの「消し」…黒2の受けに、白3の打ち込み!
※黒2と、ここに石がくると、15図白bのカカリは、“ない手”になった。
(攻められるだけで、苦しい)
 また、15図a、dなども消えたことは、もちろんである。
 つまり、16図黒2と受けたとたんに、黒の弱点は三々だけになった。
 そこで、白3と飛び込んだのが、まさにグッド・タイミングというわけである。
【17図】
【18図】
・黒14までとなれば、三角印の白と黒の交換が、白にとって最高の利かしとなっている。
※黒は相当なコリ形で、上辺にできた地も、わずかなものである。
・先に16図白3と三々に入り、18図黒14までとなったあと、
【19図】
・白1に打っても、黒aとは絶対に受けてくれない。
・黒2ツケ、あるいはbコスミなどと反発される。
※16図白1、3の理想的なタイミングを、よく味わってほしいという。
【20図】実戦
〇なお、実戦では、17図白7のとき、
・黒8とツギ、白9に黒10のツメとなった。
※黒8は、いわゆる定石にない手であるが、この際の好手である。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、163頁~165頁)

テーマ14 打たずの戦術~見合いの考え方


【見合いの考え方】
・「打たずの戦術」というテーマで、二つの実戦例をあげたが、いわゆる見合いというものに着目すれば、この戦術はいっそう光彩を放ち、面白くなる。
・黒Aと打てば、白Bに打たれる。逆に黒Bと打てば、白Aに打たれる――
 これが見合いの関係であるが、黒としては、A・Bにはあえて打たず、他方面の好所=Cを占め、A・Bのところは、反対に黒のほうから見合いにする。
 これが見合いの考え方であり、序盤・中盤・終盤にいたるまで、非常に応用範囲の広いものである。
・AまたはB、どちらを選ぼうかと迷う――
 迷うぐらいだから、A・Bはいずれ劣らぬ好点のはずであるが、それらを見合いとしてとらえれば、あわてて一方に打ったり、迷ったりする必要はない。
 悠々と第三の好所=Cを占めて、「さあ、どういらっしゃいますか」と、相手に手を渡してほしい。
 A・Bは見合いだから、相手が先着しても、片方は打てるわけである。

・<分からないときは手を抜け>という実戦訓も、見合いの考え方に一脈通じている。
 投げやりで、無責任な響きがあるが、実は深い意味のあることばである。

・さて、見合いの考え方をうまく活用した棋士として、まっさきにあがる名前は、明治期の巨峰・本因坊秀栄。
 かつて、本因坊秀哉は、「秀栄に対すると、打ちたいところがたいてい見合いになっていて、いつも迷わされた」と語っていたそうだ。
 以下、秀栄の“見合いの名局”を鑑賞してみよう。

【6図】<黒>田村保寿・<白>本因坊秀栄
※黒の田村保寿は、のちの本因坊秀哉その人。
・立ち上がり早々次の白の手に注目。
・もっとも常識的な手といえば、白aのシマリ。
 しかし、白aには、黒bのヒラキが見え見え。
・しからば、白aを撤回して、bに先着?
➡そういう発想は落第
☆秀栄はどう打ったのだろうか?
【7~12図】
【7図】秀栄の青写真は?
・白1―秀栄はこのカカリから持っていった。
・黒2の大ゲイマに、白3といきなり三々へ!
☆どういう構図を描いたのだろうか?
【8図】
・黒4は当然。
・次いで白5から黒12まで、定石型。
※ここで、白a(5, 十四)のトビが、左上隅の三角印の白をバックにして、一級品の好点であることに注意。
【9図】白13から、aと15が見合い
・ところが、白は右下隅13。
➡これは特級品ともいうべきシマリ。
・こう打つと、右辺白15が、一級品のヒラキ=必争点となることは、6図で述べた通り。(右下隅が小ゲイマジマリ、大ゲイマジマリにかかわらず)
・白は、13とシマることによって、左右の一級品を見合いにしたわけである。
・黒は、白a(5, 十四)を嫌って、14と手を加え、白15のヒラキとなった。
※左下隅の定石を打って、白aという好点を作り、それとの嚙み合わせで、シマリとヒラキ(白13、15)を打った……実にうまいもの。
・続いて、黒16のカカリ。
※白はここでも、「見合い作戦」を繰り出す。

【10図】
・白17のコスミツケから19の大ゲイマ。
※通常、こういう打ち方は悪いとされている。
 なぜなら、……

【11図】左辺と右辺が見合い
・黒1(局面によってはa(3, 十))という、“二立三析”の好形を与えるからである。
※ただし、本局では、左下の丸印の黒の厚みが強大で、白から打ち込みをねらうわけにはいかない。
 こういう場合は、黒1を打たせてもいいのである。
※そして、もし黒が1と左辺の大場を占めれば、白は右上の2のヒラキヅメを打とうという作戦。
※要するに、10図白17、19によって、白は左辺への打ち込みと右上のヒラキヅメを見合いにしたわけである。
 白に手を渡され、若き本因坊秀哉の迷っている様子が、目に見えるよう。

【12図】白、間然するところなし
・思案のすえ、黒は20のヒラキヅメを選んだ。
・白21とトンだのは、利かしの気分。
・黒22トビを待って、白は予定通り23と二間に迫り、三角印の黒二子の挟撃に回ることができた。
※黒が左を打てば、右(黒が右を打てば、左)。
 まさに格調高い名曲の調べで、白はごく自然に主導権を得ている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、209頁~215頁)

「三手」を考える


・<黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
 本局にも秀栄の至芸を見ることができる。
≪棋譜≫216頁、13~19図、石井千治VS秀栄

【13図】白番 <黒>石井千治 <白>本因坊秀栄
・手番の白…目につく大場は、右辺と上辺、さてどちらにしようか、と迷いそう。
 ところが、秀栄の着眼はまた別にあった。
【14図】白1から、右辺と上辺が見合い
・白1のオシ!
※左辺の模様を盛り上げる意味で、黒a(8, 十六)のカケが相当な手、という判断のもとに打たれた手。
 白1は、黒aを防ぎつつ、右辺と上辺の大場を見合いにしている。
・実戦では、黒2のワリ打ちから4、6と、黒が右辺を打ったので、白7と上辺へ。
※このあと、上辺と下辺がまた見合いになっている。
 すなわち、次いで黒b(7, 三)なら、……
【15図】
・白1から3と下辺を占めて、模様で対抗する碁になる。
・14図白7につづいて、……
【16図】黒8なら→白15
・黒は8と打ち込み、下辺を荒らしにきた。
・以下、黒14と中央へ逸出。
・それならと、白は15のヒラキヅメ。
※まことに悠揚迫らぬ石運び。
 さらに、白はここでも<見合い>を考えている。
・すなわち、黒16、18から、17図~18図の応接を経て、……
【17図】
【18図】
【19図】黒も打ち回しているが…
・黒36のトビまで、白陣の一角を破られたので、「今度は私の番」と、白37に打ち込み、黒陣を荒らしにいった。
※黒が打ち込めば、白も打ち込む。やはり見合いの関係になっていたわけである。
 14図黒2から19図黒36まで、黒に方々を十分に打たせているが、白はその都度、見合いの箇所を占めて、決して遅れていない。
 よく「三手考えよ」というが、このような打ち方が最高の模範である。
 AとB、どちらにしようかと迷って、いたずらに時を過ごすことなく、もう一つ・Cに着目して、AとBを見合いにする…碁の極意であるという。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、216頁~219頁)

テーマ17 機略<ハザマトビ>


 藤沢秀行VS半田道玄

<白>藤沢秀行VS<黒>半田道玄
【23図】
・黒1の二間高バサミに、白2と三々へ。
・以下の応接は基本定石である。
(黒21でa(14, 十四)のノビが多いが、譜のカケツギも一策)
・黒25まで一気呵成に進んだところで、白の妙計は?

≪棋譜≫24~29図
【24図】嘆賞
・白1のボウシ!
 これぞ名手…通常のハザマトビ=a(11, 十二)の地点から、一路進んでいるので、いわば“ハザマ二間トビ”とでも呼べるだろう。
※丸印の白の二子との間を、黒に割らせようという点で、着意は普通のハザマトビと同じ。

【25図】
・白1トビの凡策は、黒の意中を行くもの。
・白2の大ゲイマぐらいから大きく攻められ、難戦必至となる。
 さて、24図以降も、実に見ごたえがある。

【26図】白、サバキに出る
・黒は2にツケて、白二子を“いっぱいの形”で取りにいった。
・一転、白3のハネから5、7の二段バネが冴えている。
 ヨミ筋は?
【27図】
・黒8、10のアテツギは、やむを得ない。
・そこで白11切り。
(続いて黒a(17, 十三)と逃げ出せば、どうなるか―それを考えてほしい)

【28図】
・実戦は、黒12にマガり、白13抜きとなった。
※ここで、白a(17, 十五)の切りがあることに注意が必要。

【29図】快打成功
・結局、黒14切りに白15のスベリとなった。
※黒の鋭鋒をかわした、白の鮮やかな太刀サバキ…見事というほかない。
 三角印の白と黒の交換が、ぴりっとワサビの利いた、文字通りいい利かしになっている。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、263頁~266頁)

テーマ18 形勢判断~四子局


四子局
〇四子局の布陣は40目強(281頁)
【総譜】1譜~16譜(1-197手)(284頁~334頁)
≪棋譜≫334頁、総譜

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、284頁~334頁)

【6譜】6譜(1-63手)(313頁)
・黒60のトビは緩着。
※右下隅に、白a(16, 十七)と打たれると眼がなくなる……その心配によるものか(いま検討した丸印の黒と白の交換をもし打っていなければ、白も少し眼が心配になり、黒60の点数が上がる)
・譜の形なら、白は黒60にそれほど脅威を感じることなく、左上、61、63のハネツギに回ることができた。これが非常に大きい。

左上は、出入り17目
左上を、白がハネツいだ図(白61、63)と逆に黒が61にサガった図と比較して、実際に算定してみる。

【10図】
・白がハネツげば、1のハサミツケが権利となる。
 白a(5, 四)の出を含みにしているので、黒b(3, 一)と遮ることはできない。

【11図】
・黒2、4と、これが相場。
・後に、黒a(1, 二)、白b(2, 一)で、×印はダメ。

(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、314頁)

【8譜】8譜(1-79手)(317頁)
・黒70と、あまり実を期待できないところに石が行き、反面、白は71から73コスミと、出入りの大きな要点(実質の手)に回っている。
・黒74、76は権利。
・続く黒78オサエは、やむを得ないところ。
・一転、白79サガリ。
※これがまた大きな手。

【16図】
・逆に、黒1、3とハネツがれると、白地は大幅に減る。
※黒a(2, 十)のハサミツケが、権利となるから。

【17図】
・白2、4ぐらいのもの。
・次いで黒5がうまく、以下、

【18図】
・白10まで、黒先手。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、318頁)

【19図】
・白が1とサガった図とを比べてほしい。
・白1から、さらに白a(2, 六)とトビコむ図を考慮すると、前図との出入りは16目前後にもなる。

【9譜】9譜(80-87手)(319頁)
・白のサガリに、黒a(2, 七)と受けるのはシャクということで、黒80のボウシ。これは不問とする。
・黒82も、80への応援をかねて、まあまあの手であるが、大きさからいえば、上辺・黒b(12, 二)のサガリのほうが上だろう。
・白83、85は、81にともなう権利である。
・続く白87のケイマは、左上の黒への攻めを見つつ、80の一子もにらんでいる。
・これに対して……
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、319頁)

【10譜】10譜(88-101手)(320頁)
・白99まで。
※黒はともかく先手で完全な生きを確保したが、感じのいい打ち方ではない。
 左上の黒は、いざとなれば、黒a(1, 六)から符号順に、黒e(1, 二)で生きがある。
・従って、黒92では、単に100とトンでいたかった。
※実戦は白を厚くさせて、少しマイナス点がつく。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、320頁)

黒のリードは10目に


【20図】
・さて、黒100トビに白101と打ったところで、4回目の形勢判断を行う。
・第3回の形勢判断(黒28目リード)から、50手進んだが、その間、黒には実質に乏しい手が散見され、また、損な交換もあった。
・反対に、白のほうは、7譜61、63のハネツギ、8譜73のコスミ、79のサガリなど、実のある手に恵まれた。
・当然の帰結として、形勢もそうとう接近したはず。

〇白101の時点におけるそれぞれの地の目数(試算値)は次のようになる。
【黒地】
・右上方面=32目
・左上方面=5目
・下辺左=10目
・右下隅=7目

【白地】
・上辺=12目
・左辺一帯=19目
・下辺右=8目
・右辺=5目
➡黒地総計「54目」、白地総計「44目」
 その差・10目と縮まった。
 第3回の形勢判断から、白は18目も追い込んだわけである。
 なお、中央一帯は、この段階では、双方ゼロと見なす。
 力関係が、ほぼ互角と見られるから。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、321頁~322頁)