歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~三村智保氏の場合≫

2024-11-17 18:00:11 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~三村智保氏の場合≫
(2024年11月17日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら考えてみたい。
〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
 三村智保氏の布石の本でも、布石の大切な原則ないしポイントとして、弱い石を作らないこと、弱い石から動くことを指摘している。そして、石の強弱を考えることは、一段落の判断をする際にも必要だと主張している。このことを集中的に説いているのは、目次を見てもわかるように、「第4章 弱い石から動く」である。

 また、三村九段のこの布石の本を通読して、一番勉強になった点は、次の点であった。
・布石の原則を示す格言に、1にアキ隅、2にシマリなどと言うが、実は「石を封鎖されないこと」というのが、アキ隅よりもさらに布石の基本中の基本と言ってもいい。
石が死ななくても、封鎖されることは悪いこと。
 これを実感できるようになるためには、ある程度強くなる必要がある。
・しかし、多少不安があっても、中央に出ることの効果ははっきりと実感できなかったとしても、そこは我慢して相手に封鎖されないように、中央へ出る習慣をつけてほしい。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、124頁)

 このテーマに関連して、【補足】してみた。
・【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より
・【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より
 なお、三村九段の実戦譜も調べてみたので、参考にしてもらいたい。
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs山田拓自)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs依田紀基)~依田紀基『基本布石事典』より


【三村智保氏のプロフィール】
・昭和44年7月4日生。北九州市出身。田岡敬一氏に師事。藤沢秀行名誉棋聖門下。
・昭和61年入段、平成12年九段。
・昭和62年棋聖戦二段戦優勝。
・平成6年第19期新人王戦優勝。平成7年第20期新人王戦2連覇。
・平成8年棋聖戦七段戦優勝。
・平成11年第29回新鋭トーナメント優勝。
・平成15年第50回NHK杯優勝。第15期テレビ囲碁アジア選手権準優勝。
・平成16年第23期NECカップ準優勝。第59期本因坊戦挑戦者決定戦進出。
・昭和63年棋道賞「新人賞」受賞。
・平成13年「勝率第一位賞」受賞。
・平成18年通算600勝達成。
※「市川こども道場」主催。


【三村智保『三村流布石の虎の巻』マイナビはこちらから】



〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
序章 布石には2種類ある
 広い所から打つ
 攻めの布石・シノギの布石
 2種類の布石

第1章 主導権を握る「攻め」の布石
 攻めの布石  テーマ図1~2
 白番の布石  テーマ図3
 相手の三連星 テーマ図4~5

第2章 正しい距離感
 正しい距離感とは
 テーマ図1~10

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」
 石の封鎖の重要性
 テーマ図1~10

第4章 弱い石から動く
 弱い石から動くとは?
 テーマ図1~11

第5章 一段落に気をつける
 一段落に気をつける
 テーマ図1~6




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・まえがき
・広いところから打つ
・攻めの布石・シノギの布石
・三連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・二連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・第2章 正しい距離感
・第2章 正しい距離感 テーマ図7~星へのカカリについて
・第2章 正しい距離感 テーマ図9
・第3章 勝負を分ける「石の封鎖」
・第3章 勝負を分ける「石の封鎖」テーマ図10
・第4章 弱い石から動く
・第4章 弱い石から動く テーマ図1
・第4章 弱い石から動く テーマ図2
・第4章 弱い石から動く テーマ図3
・第5章 一段落に気をつける
・第5章 一段落に気をつける テーマ図6
・【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より
・【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs山田拓自)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs依田紀基)~依田紀基『基本布石事典』より





まえがき


・布石は、碁でいちばん自由で楽しい部分である。
 初手を天元から打っても良いし、辺から打っても、別に悪くなるとは言い切れない。
 好きに打って良い。
・プロの布石や定石にあまりとらわれず、自分なりの作戦を楽しんで欲しいと、著者はいう。
 ただ、初級の人から「どう考えたらよいのか、何をしたらよいのか分からない」と途方にくれた声をよく聞く。 
(確かに自由すぎるのも困りもの)
・本書では、布石の基本の考え方に加え、著者のお勧めの作戦も示している。
 一手一手の意味を正確に分かろうとするよりも、流れを感じてほしいという。
 繰り返し手順を見ていると、だんだんコツがつかめてくる。

・布石は動くものである。
 自分が今ここに打って、相手がこうきて……こんな感じになったらいいな、と想像しながら打つことが大事だという。
➡楽しみながら打てば、上達も早くなる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、3頁)

広いところから打つ


・布石のはじめは空き隅から打ち始める。
(江戸時代の頃からもその原則は変わっていない)
⇒やはり、空き隅がもっとも「効率がよい」と思われているから。
【参考図:星・小目・三々・目外し・高目】
A:星、B:小目、C:三々、D:目外し、E:高目

※すべてが三線から五線の間に入っている。
⇒これは、布石そのものの原理である
<参考>
・二線の石は地が小さいだけではなく、封鎖されやすく死にやすいというマイナスがある。
・なお、一線に打つのは論外。
 一線は地がまったく増えない上に、根拠もない。
 布石における一線は最悪。

三々:三線~五線にかけてが効率がよく地を作るエリア 
   もっとも堅実に隅のエリアを確定地にする打ち方
星 :三々よりも風船をふくらませたようなイメージ
   効率よく地を作れる可能性がある半面、破裂する危険性もある
高目や目外し:少し辺に向けて力を入れる打ち方
   よく打たれている基本の打ち方であるが、難解な定石になることも多く、使いこなすには、ある程度の知識が必要
(本書では、定石の細かい話はしないので、高目や目外しの詳しい解説については他書に譲るという)
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、8頁~13頁)

攻めの布石・シノギの布石


【攻めの布石・シノギの布石】
・布石は、まず空き隅に打つ。
 その後が問題である。基盤があまりにも広くて迷ってしまう。
・迷うのは、基盤が広いからだけではない。
 「隅の次は辺に、辺の次は中央に、とにかく広いところを順番に打っていけばいい」という布石の原則はある。
 ただ、この原則が、布石の100%を表してはいない。
・布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素がある
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。

<まとめ>2種類の布石
①「攻め」の布石
風船をふくらませるかのように、自分のエリアをどんどん広げて相手が入ってくるのを待ち、その石を攻めて主導権を握る。
②「シノギ」の布石
まずはしっかりと自分の構えを固めて、後から相手の模様に打ち込んで荒らし、地でリードを奪うことを目的とする。

※どちらの布石を選ぶかは、「棋風」と言われる好みの問題。
・相手との兼ね合いがあるので、お互いに模様を広げ合って、大乱戦になるような碁もあれば、お互いに堅く打って細かいヨセ勝負になる碁もある。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

三連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


【攻めの布石】
・布石の総合力を上げるには、いろいろな本を読み、実戦を積んで棋力を高めるより他はない。
〇本書では、まず「攻め」の布石に絞って話すという。
・著者自身が攻めの棋風だということもあるが、アマチュアの人にとっては、特に「攻め」のほうが有利だと考えている。
 なぜなら、「うまくシノぐ」というのは、ある程度強くないと、できないことだから。
・実際、著者もシノギがうまいとは言えないそうだ。
 張栩さんや山田規三生さんなどは、シノギがうまいという。
 ただ、彼らと著者の間でも、布石における碁盤の見え方、判断力などは違っている。
※皆さんは、まずは「攻め」の布石をマスターすることを著者は勧めている。
 特に「黒番の攻め」から力をつけていくのがいいだろうとする。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、24頁)

【テーマ図1】三連星
・攻めの布石は、相手よりも大きく模様を広げて、先に入らせることがポイント。
・模様を広げやすい黒1~5の三連星は、やはり有力。

【1図】(黒が広くなる)
・普通に模様を広げ合えば、先に打つ黒のほうが有利。
・黒15までとなると入りにくいので、白はもっと早く入らなければいけない。

【2図】(先に攻める)
・アマの碁では、前図の白10くらいで、白1と入りそう。
・「白1と先に入らせて、黒2、4と攻める」。これが攻めの布石の基本思想。
【7~10図】
【7図】(手抜きには?)
・ところで、黒1の攻めに白2と先に守られたらどうするのか?

【8図】(封鎖は大成功)
・黒3と封鎖すれば、黒がいい。
※別に白3子を取れなくてもいい。封鎖するだけで、布石としては大成功。

【9図】(死にやすくなる)
※封鎖される最大のデメリットは、石が死にやすくなること。
 仮に白が生きても黒は悪くないが、死んでしまえば白は敗勢。

【10図】(白死)
・たとえば、少しでもまずいシノギを打ってしまうと、簡単に白死となってしまう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、24頁~29頁)

二連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


【白番の布石】
・「模様を広げ、相手に入らせて先に攻める」。この布石の意図と効果は、三連星の場合で分かってもらえたと思う。アマの人にはお勧めの布石であるが、ひとつ問題がある。白番のときにどうするか?ということである。
・黒番だったら「攻めの布石」を実践しやすいが、白番の場合は「ゆっくりした布石にして、コミを生かす」という命題がある。
・白番での「攻めの布石」の話は、ここまでの「黒番の攻めの布石」との矛盾が生じてしまうが、白番を持たずに碁を打ち続けるわけにもいかない。
〇まず「白番の攻める布石とは、相手に攻められないための布石である」ということを覚えておいてほしい。
・黒が堅い布石を選んでくれば攻めることもできるが、黒が攻める布石を選んできたら、攻められない布石を目指すことが、白番の心得である。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、41頁)

【テーマ図3】二連星
・白番は、相手の模様に入って攻められる布石になりやすいので、まずはスピードに優れた二連星がお勧め。
【1~3図】
【1図】(一例)
・次に黒5のシマリは、よくある布石。
※黒がやや堅い布石を選んでくれれば、白はスピードで追いつくことができる。

【2図】(三連星へ)
・黒5と一呼吸入れてくれたら、白6と三連星に発展させる。
※この布石なら、模様の大きさで対抗できるから。

【3図】(白の風船)
・続いて白14までとなれば、黒番のときと同じように、「相手よりも大きく広げて、入ってくるのを待つ」という攻めの布石にできる。

【4~6図】

【4図】(先に攻める)
・左下の白模様に黒1と先に入ってくれば、作戦は成功。
・白は2、4と先に攻めることができた。

【5図】(左右を固める)
・続いて黒5から15までは一例であるが、黒を攻めながら下辺と天元の白をつなげることと、左辺の白地を固めることがポイント。

【6図】(楽に入れる)
・白は中央のラインを連絡して、中央に勢力を作ることによって、右辺や上辺にa~cなどと打ち込んでも、楽に戦えるようになった。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、41頁~44頁)

【相手の三連星】
・前テーマのように、黒が多少地を固める布石を選んでくれれば、白でも攻めの布石に持ち込むことはできる。
・しかし、最大の問題は、相手が黒番で、三連星の構えから模様をどんどん広げて、「攻めの布石」を目指してきた場合である。
・碁が黒から先に打つゲームである以上、黒に本気でどんどん模様を広げられると、白はどうしても模様の大きさで対抗することはできない。
 白番では「できるだけ黒模様の拡大を制限し、模様に入っていくにしても浅く入って、厳しく攻められないようにする」くらいのことを目標にするのが相場。
・あまり早い段階で入っていくと、黒に厳しく攻められる。
 相手の模様に入ることをぎりぎりまで我慢することがコツ。
 慣れてくれば、相手のちょっとした隙をとらえて、黒模様の広がりをおさえこんでしまうこともできるようになるだろう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、46頁)

【テーマ図4】【1図】三連星は危険
・黒1、3、5と三連星を打ってきたときに、白6と同じく三連星で対抗するのは危険。
・続いて、黒17までは一例であるが、いつかは黒模様の中に入って攻められることになる。
・テーマ図の白6の三連星はそういう布石なのである。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、46頁~47頁)

中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
【テーマ図5:★黒の中国流】
・それではもう一つ。
 攻めの布石として、アマにも大人気の中国流を見てみよう。
 黒1、3、5が中国流の構え[白番]

【1図:星からカカリ】
●中国流の場合も、上辺や下辺への発展性を止めるのが、攻められない布石のコツ。
・白6と、上辺から星のほうへカカる。

【2図:天元は怖くない】
・続いて黒9、11と下辺を広げてきたら、白12と構える。
※中国流のときは、黒13と天元に構える手は、あまり打たれないから、という。

【3図:三線の石】
※中国流は、三連星と違って、地でもバランスを取るため、三角印の黒の石(16, 十七)(17, 十一)が二つも三線にある。
⇒三連星ほど模様拡大には向いていない。

【4図:黒甘い】
☆プロでシノギのうまい人なら、白1のカカリから簡単に荒らしてしまうそうだ。
⇒黒の構えは甘い。

【5図:どんどん逃げる】
・続いて黒1のコスミなら白2から8までが一例という。
※こういうところは深く入らずに、どんどん逃げるのがコツ。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、64頁~66頁)

【11図:構えるのが普通】
・中国流の場合は、2図の黒13と天元に広げず、黒1と構えるのが普通。
・そこで、白2と打てば、白のほうが大きく広げることができる。

【12図:工夫して打つ】
※三角印の白(天元)は、慣れてきたら a~cなどと工夫して打つことができるという。
<注意>
・白 d~ fなどと深く入るのは攻められる。

【13図:穏やかな布石】
・2図の黒9で、黒1、3と左辺を割ってくれば、白4、6と下辺を打つ。
※黒模様の拡大をおさえ、穏やかな布石にできる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、69頁~70頁)

第2章 正しい距離感


〇正しい距離感とは
・布石は幅の広い分野なので、ここまでの内容は、一つの考え方と、それに伴う打ち方をいくつか紹介したにすぎない。
 ただ、アマの高段者になるまでは、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが、多くの人にとって棋力向上の近道であると思う。
・さて、本章からは、アマの碁を題材にして、どのような布石でも役に立つ、布石の基本を話していきたい。
・まずは、石の距離感を意識して、布石を打つことを心がけよう。
 碁は石の効率を競うゲームであるという考え方がある。
 自分の強い石に近づきすぎると、効率が悪くなるし、相手の強い石に近づくとその石が弱くなってしまい、やはり石の働きが乏しくなる。
・定石だからと何気なく打っている手にも、考え抜かれた石の距離感があるものである。
 それをあらためて感じてみよう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、72頁)

第2章 正しい距離感~星へのカカリについて


【テーマ図7:星へのカカリ】
・白4の星に黒5とカカった。
☆星に対するカカリへの応手を見てみよう(白番)

【1図:両ガカリは厳しい】
・仮に白1と手を抜くと、黒2の両ガカリが厳しい手。
※三角印の黒(3, 十四)とカカられた三角印の白(4, 十六、つまり左下の星)は、見た目よりもかなり弱い。

【2図:根拠を奪われる】
・そこで、白2と中央に出るのが普通だが、黒3と三々に入られて、簡単に根拠を奪われる。
⇒これが星の弱点である。

【3図:ツケノビは難解】
・なお、白2、4のツケノビで中央に出ることもできる。
・しかし、黒3や7と左右を打たれる。
※難解な変化になる可能性も秘めている。

【4図:カカリには受ける】
※そこで、黒1の星へのカカリには、何か応じるのが普通。
⇒①白aやbの受け
 ②白cなどのハサミ
 ③白dのコスミツケなど

【5図:星へのカカリは近い】
※三角印の黒(3, 十四)と白(4, 十六)の距離は近い関係で、四角印の白(3, 五)と黒(4, 三)よりも切実。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、96頁~99頁)

前第2章へ移動せよ

第2章 正しい距離感 テーマ図9


【テーマ図9】
・白1とカカってきた場面である。
・下辺と右辺の距離感をどのように判断し、どう応じるか?(黒番)

【1図:左下の黒石の5子の強さがポイント】
・下辺の距離感は、左下の黒石(三角印の黒石)の強さがポイント。
※それらの黒石が強いと思えば下辺は狭く、弱いと思えば下辺は広いと判断できる。

以下、3つの場合について検討してみる。
①受け
②コスミツケ
③ハサミ⇒×三々、⇒〇両ガカリ

【2図:受けは甘い】
・黒1の受けはやや甘い。
・白2、4と治まられると、三角印の黒(8, 十四)のケイマが働きの乏しい手になってしまう。

【3図:コスミツケは強さの問題】
・左下の黒石5子(三角印の黒石)がとても強い石なら、黒1のコスミツケである。
・しかし、白4に続いて白を一方的に攻められるほど、三角印の黒石が強いかどうかは疑問。

【4図:ハサミは有力】
・そこで実戦の黒1のハサミは有力。
※さて、白にも応手の選択がある。
 三角印の白(14, 十七)を捨てるにしても、a(17, 十七)とb(16, 十四)の2種類がある。

【5図:白の三々の応手】
・白1の三々なら、白9までとなる。
・このとき黒10と広げられると、三角印の黒(8, 十四)と呼応して下辺がいい模様になる。

【6図:参考~狙いがない】
・白は本来、三角印の白(14, 十七)を利用して、a(14, 十八)やb(10, 十七)の味を狙いたい。
⇒ところが、この局面では、ちょっと実現できそうにない。

【7図:白の両ガカリが好手】
・4図に続いて、白1の両ガカリが好手。
・黒2のツケから白7までが定石。
※下辺の黒は固まるが、5図のような模様の広がりはない。

☆左下の黒の形が変わった場合、右下隅の白の三々入りが有力になり、味が残る。
【参考図:白の三々入りで味が残る】
・本図の配石の場合、白1の三々も有力。
・テーマ図ほどは左下の黒が強くないので、白9までの定石のあとに、a(14, 十八)や
 b(10, 十七)の味が残る。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、114頁~118頁)

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」


〇石の封鎖の重要性
・石を封鎖されないように打つことは、碁を覚えた人が最初に教わる大切な基本である。
・封鎖されることの最大のデメリットは、石が死にやすくなってしまうこと。
 死活の力に自信があって、シノギを読み切っていればいいかというと、そうでもない。
 下手な生き方をして相手を固めてしまうと、やはり形勢を大きく損じてしまう。

・シノギを読み切り、かつ封鎖されるマイナスをすべて判断した上で手を抜いて封鎖を許すなら、かまわない。
 しかし、そんな判断ができればプロ級であるし、そもそもそんな場面はめったにない。

・布石の原則を示す格言に、1にアキ隅、2にシマリなどと言うが、実は「石を封鎖されないこと」というのは、アキ隅よりもさらに布石の基本中の基本と言ってもいい、大切なことである。
(プロはときどき、布石でアキ隅を1カ所残したまま、激しく戦うような碁を打っていることがある。これはまさに、アキ隅よりも石を封鎖されないようにすることを優先している証明である)

・級位者の人は、簡単に中央に出ることができる石でも、わざわざ隅や辺にこもって根拠を作ろうとすることがある。
 石がはっきり二眼を持って生きると「安心」する気持ちはわかる。しかし、序盤から何手もかけ、周囲の相手を固めて小さな地を作ることで、高い安心料を払ってしまっている。
・石が死ななくても、封鎖されることは悪いこと。
 これを実感できるようになるためには、ある程度強くなる必要がある。
・しかし、多少不安があっても、中央に出ることの効果ははっきりと実感できなかったとしても、そこは我慢して相手に封鎖されないように、中央へ出る習慣をつけてほしい。
 すぐに石を封鎖されないことの大切さを実感できるだろう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、124頁)

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」テーマ図10


【テーマ図10】
☆黒1から白8までは、一時期よく打たれた布石だったそうだ。
 白の二間ビラキを圧迫するのも封鎖に似ている。

【1図:二間ビラキに対して】
・テーマ図に続いて、白12まで進行したとする。
 ここで黒はどこに目を向けるか?
※右辺の白の二間ビラキがポイント。

【2図:圧迫する】
・二間ビラキには、黒1、3と圧迫して攻めるのが好手。
・白8までの受けが普通である。
・しかし、黒9で上辺の黒模様は雄大。

【3図:白は一間トビが立派な手】
・したがって、1図の白12では、本図白1とトブのが立派な手。
※これも、封鎖を避けて中央に進出する、基本と同じ意味の手であるいう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、157頁~158頁)

第4章 弱い石から動く


☆弱い石から動く、とは?
・弱い石から動くということも、布石における重要なテーマ
※弱い石から動くということ以前に、弱い石をできるだけ作らないようにすることが理想的。
⇒「大場より急場」という格言もそのことを示している。
・しかし、模様の広げ合いなどで遅れを取り、相手の模様に入っていかなければならない場合など、仕方なく弱い石を作ってしまうことがある。
 また、互角の競り合いの中でも、石の強弱というのは、絶え間なく変化する。
∴常に自分のどの石が弱いかを気にかけ、弱い石から動くことを心がけておくことが大切。
(そうすれば、自然に自分の弱い石が補強されることになり、相手に厳しく攻められて主導権を奪われることが少なくなる)

<ポイント>
〇布石の大切な原則、ポイント
①弱い石を作らないこと、弱い石から動くこと
※石の強弱を考えることは、一段落の判断をする際にも必要。
②「捨ててしまえば、弱い石ではない」ということ
※弱い石を捨てられないから逃げるわけで、逃げるから攻められる
・取られたら形勢を損じる石(要石)なら逃げるよりないが、捨てても構わない石を逃げて弱い石を作るのは無駄。
・たしかに石を取られるのはくやしいが、ずっと攻められて苦しい思いをし続ける。
 あちこちで損を重ねるくらいなら、早いうちに捨ててしまうのも一策。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、160頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図1


【テーマ図1:競り合いの判断】
☆左下で競り合いが始まっている。
 黒はどのように戦うべきであろうか?

【1図:実戦の進行】
・実戦は黒1と打ち、白2、黒3となった。
 はたして、この進行は正しいのだろうか? どのように判断するか?

【2図:三角印の黒石と白石が弱い石】
※前図の黒1、白2は疑問手。
・序盤で競り合いが始まったときは、弱い石を補強するように打つのが基本。
 弱い石は、三角印の黒石と白石。

【3図:ますます弱くなる】
・1図の黒1では、本図黒1のほうがまだまし。
※いずれにせよ、方向が逆。
・白2とトバれて、三角印の黒石がますます弱くなる。

【4図:続き~手がかかる】
・黒は3、5と逃げなければならない。
・白4、6と中央や右下の好点を占めながら、白に攻勢に立たれてしまう。

【5図:弱い石から動く】
※三角印の黒石が黒の弱い石である。
 だから、テーマ図の場面では、弱い石から動く。
・黒1が正解。(こちらから左辺の白を攻める)

【6図:ケイマの理由】
・前図の黒1とケイマにした理由は、次のようになる。
・本図黒1のトビでは、白2の両ノゾキがあるから。
※左下の黒が弱いので、この進行は黒が怖い。

【7図:ケイマなら断点一つでいい形】
・黒1のケイマなら、白2から6と切られても断点が一つしかないので、黒7、9といい形で作ることができる。
⇒これなら黒も戦える。

【8図:白は逃げるくらい】
・黒1には、白2と逃げるくらい。
※1図の黒1と白2がともに不自然な手であることを、感じてほしいという。

【9図:状況が変わる】
※さて、三角印の白石がきたことで強弱関係が少し変わり、三角印の黒石が弱くなった。
⇒次に、白a(4, 六)あたりに打ち込まれると、苦しくなりそう。
 だから、黒はそこに打ち、左辺と左上隅を連絡させて補強することになる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、161頁~166頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図2


「第4章 弱い石から動く」
【テーマ図2:どちらが弱いか?】
☆ここで一つクイズ。
 左上隅の三角印の黒(4, 三)と左下隅の三角印の白(4, 十六)では、どちらのほうが弱いのだろうか?

【1図:星は根拠がなくなりやすい】
・三角印の白(4, 十六)の星は、黒1の両ガカリに対して封鎖を避けて白2と中央に出たときに、黒3の三々で簡単に根拠を奪われてしまう。

【2図:小目は根拠を作りやすい】
・ところが、三角印の黒(4, 三)の小目は白1とハサまれても、黒2、4と中央に進出したあと、黒8などと根拠が作りやすい。

【3図:カカられた星】
※したがって、黒1とカカられた三角印の白(4, 十六)のほうが弱い状態。
⇒黒1にはaやbの受け、c周辺のハサミなどで何か応対をするのが基本。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、167頁~168頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図3


【テーマ図3:白はどう打つか?】
・黒1と打ったところ。
・白は少し大変そうだが、どのように打つか?(白番)

【1図:強弱判断】
・三角印の白石(3, 五)はすでにハサまれているが、四角印の白(4, 十六、つまり左下隅の星)はまだ中央と下辺の二方向が空いている。
・また、三角印の黒石(4, 三、つまり左上隅の小目)は1子であるが、四角印の黒(3, 九)(3, 十四)は一応2子が連係している。

【2図:どちらも弱い】
※左上は黒も白も比較的弱いところ。
・弱いほうから動くという基本に従い、白1が急場。
・黒2なら白3と備えて、封鎖を避ける。

【3図:穏やかな進行に】
・黒も左上がまだ強くはないので、続いて黒4なら普通。
・白5、黒6とお互いに弱点を守れば、穏やかな布石になる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、169頁~170頁)


弱い石から動くにしても、小さく眼を作るのはできるだけ避けるべきである。
次のような配石で考えてみよう。
【テーマ図6:白はどちらが好手か?】(白番)
・白1から黒12までと進行した場合、続いて白はA(16, 十三)とB(15, 十九)のどちらが好手か?

【1図:封鎖を避ける基本に反する】
・実戦は白1と打った。
※弱い石から動いてはいるが、この白1は、封鎖を避ける基本に反している。

【2図:中央を打つのがよい】
※弱い石から動くにしても、小さく眼を作るのはできるだけ避けるべきである。
⇒白1と広いほうに打ち、封鎖されにくい形を作るべきであった。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、176頁~177頁)

第5章 一段落に気をつける


・アマチュアにとっては、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが棋力向上の近道でああろうという。(序章や第1章参照)
 しかし、本当の力をつけるためには、総合的にいろいろな知識を身につけ、判断力を磨いていく必要がある。
・第5章では、「一段落の判断」について解説している。
 このことは、技術だけではなく、心構えの問題という面もある。
 アマチュアが布石で遅れを取る原因のほとんどは、この「一段落の判断」ができないことにあるらしい。
 一か所を打ちはじめると、いつまでもそこから離れることができず、相手の手についていって、小さいところを打ち続けてしまう。

☆それでは、何をもって一段落したと判断すれば、いいのだろうか?
(毎局ごとに違う形が出てくるのだから、暗記しようとしても意味がない)
⇒三村智保氏によれば、一段落の基準となる「お互いに弱いところや攻められる石がない状態」を見分ける考え方を身につける必要があるとする。
 つまり、自分の石が攻められず、相手の石を攻めることもできなくなったと思えば、そこから目を離す。これが大切であるそうだ。

・アマチュアは、「いつ手を抜いていいかわからない」人が多い。
 たしかに相手がどこに打ってくるかわからないし、何か自分の見落としがあるのではないかという不安もあるだろう。
 けれど、自分が「もう一段落した」と思ったら、他の場所に大きいところを探す習慣をつけるようにするとよいと、アドバイスしている。
(その結果、実際はまだ一段落していなくて、攻められたり、大きなキズを作ったりしても、それは経験だと割り切る。何となく、いつまでも同じところを打ち続けていても、上達にはつながらない)
第5章では、対局中の心がけについても言及している。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、204頁)

第5章 一段落に気をつける テーマ図6


【テーマ図6】
・上辺も一段落していなかったが、黒1と忙しく打った。
・黒11までの進行に疑問はあるだろうか?

【1図】(ここまでは)
・黒1は左上を打てば普通だが、忙しく打つ趣向だろう。
・黒3、5は弱い石を動いているし、白6は根拠の要点。

【2図】(第一の疑問)
・ここで、黒7のハイと白8のオサエとなったが、この二つは両方とも疑問手。
※気がついただろうか?

【3図】(弱さの比較)
・相対的な問題で、左下の白△よりも左上の黒▲のほうが弱い石。
※白△は急に激しく攻められる心配がない。ここが白のチャンスだった。

【10図】(白14は?)
・黒1では、すぐに黒5など左上に回るべきだった。
・また黒3と決めたのも悪手。
・白6から12までは形であるが、白14はどう思うだろうか?

【11図】(黒▲は生きている石)
・この局面をよく見ると、黒▲と白△は生きている石なので、左上は一段落。
・そして、黒■と白□には、まだ根拠がない。

【第12~13図】
・10図の白14では、白1、3と先に左下隅の攻めに回るチャンスだった。
・白7とボウシして、白は主導権を握る。
・続いて、黒8と打てば根拠を確保できるが、黒8は狭く、白7と黒8の交換なら、白は満足。
・左辺は軽く見て、白9に回る。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、229頁~235頁)

【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より


第2部 守りの手筋
15進出する
・進出の手筋は、封鎖の手筋に対応するもので、封鎖を避けて外に進出するにはさまざまな形がある。
・常識的には、封鎖は避けたいもの。
 とくに眼のない石、あるいは眼形に不安のある場合、進出が絶対条件である。
・しかし、進出は守りだけでなく、相手への攻めや模様化阻止など、実際は多方面な目的を秘めているものである。
・ここでは進出の基本的な形、考え方を述べておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、416頁)
【1図】(コスミ)
・実戦に頻繁に現われる両ガカリ定石。
・白1と封鎖されては窮屈だから、黒1と進出するのが、もっとも簡明で手堅い。
・黒aやbの進出法もあるが、いずれにしろ、白を裂いて、左右の白の攻めをみるのも目的のひとつ。

【2図】(大ゲイマ)
・黒1の大ゲイマがスマートで、働いた進出の形である。
・ちなみに一間から大ゲイマに打つこの形は「馬の顔」と呼ばれ、好形の見本とされる。
・ちなみに、黒aは「猫の顔」、bは「犬の顔」、cは「キリンの顔」
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、416頁)

<ポイント>
・大ゲイマ=「馬の顔」好形の見本
 コスミ=「猫の顔」、ケイマ=「犬の顔」、大々ゲイマ=「キリンの顔」

【第1型】
・黒二子は放っておくと、封鎖されて危険。
・では、どう進出するかだが、手筋の力でスマートな進出を果たしたいところ。

【1図】(失敗)
・黒1のアテから3のカケツギは、典型的な俗筋である。
・白4のノビ、黒5と出ていくよりない。
※白は左右とも厚い形。
※これは「車のあと押し」で、このあと白aがきびしいから、さらに黒a、白b、黒cが必要。

【2図】(正解)
・黒1のツケが進出の手筋。
・白2、4ならおだやかで、黒5とハネて、一段落。
※双方とも治まって不満はないだろう。
※なお、白4では5と追及する手もある。
黒はaやbをみて、cからむずかしい戦いとなる。

【3図】(変化)
・黒1に白2のノビなら、黒3のアテから5、7と頭を出すのが、手筋。
・白8の切りに黒9と備えて、不満のない形。
※なお、黒3のアテではaにオサエ込む手もある。
 右辺重視の手段で、険しい戦いとなろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、418頁)

【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より


第2部 守りの手筋 序文
【進出の手筋】
・中央に進出する手じたいには利はないが、相手からの攻めを未然に防ぐとともに、挟撃あるいは圧迫、封鎖の基礎となる。
・見過ごされやすいが、重要な目的を帯びており、適切な進出の形は、以後の戦いに大きく寄与するだろう。
・ただし、進出するか根拠を求めるか、あるいは封鎖を許しても他方面に向かうか、部分だけでの判断は不可能である。
・進出しても、ダメを打った手となるケースに、最も注意しなければならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、285頁)

【脱出の手筋】
・脱出の手筋は進出の手筋とよく似ているが、包囲されかけた石がより危険な状態にあり、より高度の技術をもってしなければ、中央進出が不可能だ、というあたりに選別の基準を置いた。
・いくつか脱出の筋があるばあいは、最も相手に打撃を与える形でなければならないし、周囲の状況によっては、脱出しても大きく攻められるばあいもあろう。
 脱出するか否かは全局的判断を待つよりない。
・例によって、基礎的脱出の形を紹介してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、308頁)

【進出の手筋~ハサミツケ】
・二点を見合いにして、急所に先行する手筋の応用。
・黒のダメヅマリを拡大するねらいを秘めている。

【原図】(白番)

【1図】(無気力)
・白1、3と下をハエば無事だし先手だが、これではまったく黒の思い通りの進行である。
・白aのトビダシが残るていどのことでは進出形といえないし、白bとオサえて、ダメヅマリをねらう手も枝葉末節だろう。
※といって、白1でcのキリは乱暴。黒2で苦しい。

【2図】(白1、手筋)
・白1のハサミツケ、3のワタリと2のキリを見合いにする。
・黒2、白3とワタれば、黒▲、白3の交換がダメヅマリの悪手となり、将来、黒aとツメて、3のオキをねらうような手を消しているのである。
※前図とは比較にならぬ白の好形だ。

【3図】(無理な抵抗)
・黒が抵抗するなら、2のサガリだが、白3のキリから5のツギがキキ、今度こそ白9のオサエがダメヅマリを衝いて、きびしい。
※白1で単に3のキリは黒1とヒカれて、5、7というキキが生じないため、白9のオサエに威力がなく、無理な戦いになってしまうのだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、306頁)

【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
②2001年 山田拓自-三村智保 (370頁)
第26型 【参考譜】(1-61)
2001年 第26期棋聖戦リーグ
白九段 三村智保
黒六段 山田拓自

・白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。
・黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。
・白12と三連星を布いた。
・白14に黒15の三々入り以下、19までは定石である。
・白20のケイマは柔らかい手である。
(通常は、白(16, 十四)、黒(18, 十四)で手を抜く)
・白22は形。
・黒23と下辺からのカカリは正しい。

【1図】(黒、無理気味)
〇白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。これに対しすぐ、
・黒1と切るのは性急過ぎで、白2、4から6とカケツがれる。
・黒7以下の戦いは無理気味である。

【2図】(黒、先手)
〇黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。続いて、
・白1のトビサガリには、黒2から4のハイを決めて、先手を取るのも、一策である。

【3図】(上辺に備える)
〇白12と三連星を布いたが、これでは、
・白1とヒラくのもある。
・黒2の割り打ちに、白3とツゲば、上辺は一人前の形。
・黒4のヒラキ以下8まで、これもあるだろう。

【4図】(がんばり過ぎ)
〇白22は形だが、これで、
・白1のオサエはがんばり過ぎで、黒2を決めて、4、6以下10と抵抗されると、白地はガラガラになる。

【5図】(黒、重複)
〇黒23と下辺からのカカリは正しく、
・黒1からカカるのは、白2、4とツケノビられ、黒7のヒラキが上方の低位の黒▲(3, 七)とコリ形になり、黒はおもしろくない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、370頁~371頁)

【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
⑨2004年 依田紀基-三村智保 (416頁)
第31型 【参考譜1】(1-58)
2004年 第59期本因坊戦プレーオフ
白九段 三村智保
黒名人 依田紀基

・隅をシマらずにすぐ5とカカリ、白6のハサミに黒11と実利に就いた。
・白14のオサエ。
・黒17のコスミに、白18から20のワタリは欠かせない。
・白18で右上にカカると、黒(2, 十四)、白(1, 十四)、黒(2, 十二)の動き出しが厳しく、逆に白が攻められかねない。
・黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。
・白28のハサミ。
・白38、48のツケハネは筋である。

【1図】(一子が遊ぶ)
〇白14のオサエで、
・白1のオサエから5と下辺に構えるのは、黒先手で6のシマリにまわる。
※白は白△の一子が遊んでおり、不十分である。

【2図】(白、遅れ気味)
〇黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。これでは、
・白1から3が定形であるが、この場合、黒4から6と大場にまわられ、白は遅れ気味である。

【3図】(白、厚い)
〇ただし、2図の黒4で、
・黒1に受けると、白2以下6まで中央が厚くなり、絶好の8に展開される。
※また、白2ではaのカケもありそうだ。

【4図】(定形だが―)
〇白28のハサミで、
・白1のコスミツケ以下5までは定形だが、黒から6または黒a、白b、黒cと圧迫される可能性がある。

【5図】(白模様消える)
〇白38、48のツケハネは筋であるが、38で、
・白1と止め3と広げるのは、黒4以下10で簡単に白模様を消される。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、416頁~417頁)



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