歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~瀬戸大樹氏の場合≫

2024-11-24 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~瀬戸大樹氏の場合≫
(2024年11月24日)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年

・本書の目次および「はじめに」からもわかるように、本書の構成は、三連星、中国流、シマリと大別して、囲碁の布石について、解説している。
 本書の特徴としてを、次の点を私なりに指摘できる。
・三連星、中国流、シマリの特徴を最新の考え方も加えて、詳しく解説している。
・中には、手割りや死活まで言及されており、専門的な内容も含まれる。
(とりわけ、中国流の三々入りについての解説は氏ならではの解説であろう)
・古碁並べも立派な勉強法として、秀策の棋譜を取り上げている。
 著者自身、院生のころ秀策全集を5回並べたそうで、石の流れ、形を学ぶ点では良いとする。
 今回、著者の棋譜については、本書の随所で言及されている。
 私も、秀策について、手元にある次の著作を参考に調べ直してみたので、【補足】として加えておく。
〇福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』日本棋院、1992年[2002年版]
〇大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』日本棋院、2010年

※なお、中国流の弱点については、次のYou Tubeチャンネルが参考になる。
〇Kuroの碁
「【中盤に強くなる方必見】中国流の致命的な弱点を紹介します」
(2019年4月5日付)
※瀬戸大樹氏による中国流の解説についても、同じことを手割り、死活などについて詳細に説いておられるように思える。
 とりわけ、122頁4図~129頁18図の進行図、手割り、死活の図などを参照のこと。
 
【瀬戸大樹(せと・たいき)氏のプロフィール】
・1984年生まれ。三重県出身。関西棋院所属。
・2000年入段、2009年七段。
・2004年第1回中野杯優勝。2008年第4回産経プロ・アマトーナメント戦優勝。
・2010~12年本因坊戦リーグ入り。2011年棋聖戦リーグ入り。
〇院生のころ秀策全集を5回並べたそうだ。
 古碁並べは立派な勉強法。現代碁とはかなり雰囲気が異なるが、何も考えずに並べるだけでも、石の流れ、形を学ぶことができるという。かつて古碁は、棋士にとって必修科目だった。(233頁)
<著書>
・『バランス感覚で碁は勝てる シンプルに打つ6つのコツ』
<趣味>
・フットサル、旅行、中国語


【瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』(NHK出版)はこちらから】



〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はじめに
第1章 三連星で優勢を築くテクニック
 盤上の「司令塔」をめざそう!
 三々入りと模様の関係
 正しいヒラキのススメ~白番の心構え
 【問題】

第2章 中国流の魅力と威力
 中国流は何でも対応可能な懐の深さが魅力
 中国流は「攻め」と「模様」だけではない
 中国流に挑む! 三々入りで挑む!
 ミニ中国流は得意の型で押し切れ!
 一路ズラすのが小目+ミニ中国流の最新形
 【問題】

第3章 シマリの考え方と実践法
 白のワリ打ちの後をどうするか
 シマリ方で碁は大きく変わる!
 秀策流温故知新~基本から現代版まで
 【問題】

コラム
①毎週火曜日はフットサルの日
②知られざる研究会の雰囲気
③個性豊かな研究会が面白い
④やっぱり習い事が好き!
⑤中国語をかじった効能




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」の要点
・三連星の特徴~第1章 三連星で優勢を築くテクニック
・【中国流の構えは打ち込みに強い】~第2章 中国流の魅力と威力
・【地を取って簡明を目指す中国流】~第2章 中国流の魅力と威力
・【中国流に挑む! 三々入りで挑む!】~第2章 中国流の魅力と威力
・【白のワリ打ちの後をどうするか】~第3章 シマリの考え方と実践法
・【大ゲイマジマリはスピードを意識せよ】~第3章 実戦譜 瀬戸大樹vs河英一
・第3章 秀策流温故知新~秀策vs師匠秀和
・【補足】秀策の実戦譜(vs太田雄蔵)~福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』より
・【補足】秀策について~大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』より






「はじめに」の要点


・布石がマンネリになっていないだろうか?
 まだ序盤だし、大して変わらないだろう、は大間違い!
 勝負はまだ先と思いがちな序盤だからこそ、勝ちに結びつくチャンスはたくさんある。
・本書では、布石の段階で素早く優位に立つための考え方と、実践的なテクニックを分かりやすく伝えた。
 序盤でしっかり目的を持ち、戦略を立てて、実行する。
(著者が大好きなサッカーでは、こうした役割を「司令塔」が行う。自分が司令塔になったつもりで、勝負に臨んでほしいという。)

※本書は、NHK囲碁講座の2012年4月号から2013年3月号までの付録「瀬戸大樹のこれであなたも司令塔」をもとに、問題を新しくしたうえで、布石についての新たな知見を補足して、再構成したものであるという。
 ・大きなテーマは三つ。
 三連星、中国流、そしてシマリ。
 四連星、ミニ中国流、秀策流についても取り上げた。
・各章最後の問題は、内容の理解を確認するために活用してほしい。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、2頁~3頁)

三連星の特徴


三連星の特徴
【1図】(14頁)
〇三連星の布石
 黒1~白12まで

・攻めや模様形成に適しているのが三連星の特徴。
 ただし、これだけでは不十分であるという。
 三連星の弱点を忘れてはいけない。

【2図】(14頁)
〇三連星の弱点
 黒の構えに7つの弱点
・黒1がいい。
 ただし、守りではなく、模様に芯を入れる意識を持っていることが条件。
 驚きの事実を指摘しよう。
 三連星を基にしたこの黒の構えは、aからgまで、7か所の弱点を抱えている。
 白に打たれたら、どれも撃退することができないようだ。
 でも、三連星は廃れない。その理由は何か?

【3図】(15頁)
・守る意識がなければ、前図に続いて、白1の三々入りがありがたく感じられるはず。
※白に隅で生きられても、三連星の特徴を分かっている人はうれしくてたまらない。
 前図で指摘した本図のaやbの弱点が自動的に解消されている。
・また、白cの打ち込みはまったく脅威ではなくなった。
※三連星は守りの気持ちではなく、どんどん広げて相手に入ってもらってこその構えと肝に銘じておくこと。

【4図】(15頁)
☆右下隅の死活について、触れている。
・3図の黒8で、本図の1、3なら、部分的に眼形はない。
 しかし、白4から12が抵抗手段。
 黒の包囲網が耐えきれなくなる。
(瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、13頁~15頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【中国流の構えは打ち込みに強い】
【基本図】中国流の特徴は?
・中国流の特徴を見ていく。
・右上の星、右下の小目、そして右辺の星からちょっぴりズレたところに構えるのが、中国流。
・右辺の構えがAの四線のときは、「高中国流」
 本図のように三線なら「低中国流」と呼ばれている。
(黒Bとずらすのもある)
※三連星も、中国流と同様、三手の構えなのであるが、おのおのの性格は大きく異なる。
➡中国流は四線と三線の組み合わせ、三連星は四線だけの構成。
・中国流は「地でも争える」ということ。
つまり、攻めや模様が作戦の中心だった三連星とは違い、中国流は柔軟に作戦を立てられる。これは大変便利。
・プロの間では、三連星よりもかなり人気のある布石作戦。
(低中国流のほうが人気がある。プロの勝負は、確実に地になりやすい構えが好き)

【1図】白1は黒の思うツボ
・右下には、白1とカカるのが部分的には常識。
※しかし、この常識、中国流の構えには通用しない。
・白1には黒2と受けておき、白3、5には黒6のサガリがいい。
※ここで白番だが、黒▲が白のヒラキを邪魔している。
・白7ではさすがに窮屈。
※白はせめてaまではヒラきたい。

【2図】定石として覚えておきたい
・1図に続いて、黒1のトビがお勧め。
・白2と頭を出してきたら、黒3、5を決め、黒7に構えて満足。
※満足の理由はもう一つ、白はまだ眼形がはっきりしていない。
※黒からaにコスむと、白は逃げ回らなければならない運命に。
 この急所、これもしっかり覚えておこう。

【3図】中国流基礎知識その1
・定石に詳しい人、2図に異論があるかもしれない。
2図の白6のツギでは、3図の白1とツケるのが手筋だと。
・実はこの局面だと、黒は喜んで2、4と応じる。
・白5のツギには黒6と、右辺から右上が2図より大きく成長する。
※いったいどういうことか。次図で種明かしをしよう。

【4図】中国流基礎知識その2
・黒1のノゾキに、白2、4のツケ引きを決めていいのは、こんな局面のとき。
※右上の形がこのように決まって黒の広がりが制限されていれば、黒3、5と固めても惜しくはない。
※3図と4図の違いはしっかりと把握しておいてほしい。中国流の基礎知識である。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、87頁~89頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【地を取って簡明を目指す中国流】

【基本図】白1、3は中国流ならでは
・中国流の「もう一つの顔」、知っているだろうか。
※中国流と聞くと、積極的な作戦が思い浮かぶ。
 ただ、三連星と違い、三線に二つの石を配置する中国流(低中国流)は、その分、地にカラいと主張できる。
 そこで、こんな作戦を提案する。
・白1から3は中国流特有の進行。

【1図】白がシノギの達人だったら…
・黒1から9が、よくある進行。
☆でも、もし相手がシノギの達人(笑)だったとしたら、どうするか?
右上をあっさりシノがれ、上辺には打ち込まれ…。
こんな展開には絶対にならない作戦。

【2図】黒は「実利で先行」と考える
・黒▲三子に注目。
 一間ジマリにヒラキが加わり、右下方面はほぼ黒地。
・白は左辺に二連星、下辺の白△二子も地には甘い構え。
※ということは、黒は地で先行していると主張することができる。これを長所と考えるのである!

【3図】黒1はaやbでもいい
※「模様作戦や攻めが苦手」という人にぜひ試してもらいたい。
➡それは、「地を取って簡明を目指す中国流」作戦!
・例えば、黒1のカカリ。
・白2なら黒3、5で満足。
※中国流から大模様という夢を捨て、右下に黒地、そしてさらに白の勢力を分散しながら、左辺にも所帯を持つのである。
※黒1はaやbでもいい。発想を転換しよう!

【4図】黒2が絶好!
・白1は少しも怖くない。
※黒▲と白△を交換してあるので、黒には余裕がある。
 当然、手抜きが正解!
 この後はaのハイと中央への逃げ出しを見合いにしておけばいい。
・そして黒2の三々が絶好。
※いきなりの三々入りをためらってはいけない。黒2は急所、そして絶好のタイミング。

【5図】白△が重複
・黒の三々入りに対して、白1からオサえると、黒2から白11までとなる。
※プロなら苦戦を意識するくらい、白のつらい取引。
・先手が黒に渡り、右上黒12に先行されただけではない。
 それは左辺の白△。先に白1から白11の定石ができあがっていたとしたら、白△とはツメない!

【6図】白△二子が中途半端
・白1はどうか。
・5図同様、定石どおり進んだとする。
・これも白11までで先手は黒のもの。
※さらに下辺白△二子が中途半端。先に左下の定石ができあがっていたとすれば、白△とは構えない!

【7図】穏やかな性格の人にお勧め
※白は4図の1で7図の白1と大場を目指すことになる。
・白5の後は左下黒6のカカリが最後の大場。
・以下黒10まで、黒は右辺と左辺に陣を取り、白は上辺と下辺に勢力圏。
※戦いや模様を張ったり張られたりするのが苦手な人には、もってこい。

【8図】黒は負けようがない
・白1と広げてきたら、どうするか?
※「上辺が大きく見える」ようなら、感覚に難あり。
・ここは黒2から囲い合いを目指してOK。
・黒8まで、上辺にできそうな白地よりも右辺にまとまりそうな黒地のほうがはるかに大きい。負けようがない形勢と言ってもいい。

【9図】やはり右辺が大きい
・白1、3とモタてきたら、じっと黒4と受けておき、aの傷を狙いたい。
・続いて白5なら黒6がいい見当。
※右辺を広げながら上辺白模様の成長を阻んでいる。
※なお、黒4を手抜きは白4、黒bの交換がつらい。
 地の損であるし、何より白の姿が厚くなる。

【10図】封鎖は避けたいもの
※3図の白4で10図の1とハサんできたらどうするか?
・定石どおり黒2から白9までと進んだとする。
(白9でaは右下方面にシチョウアタリを狙われる)
・すると黒は10で白の厚みをけん制する必要がある。
・そして白11へ。
※白には大模様の「芽」が出てきている。「簡明を目指す」作戦にはふさわしくない進行。
 原因は左上の黒が封鎖されたことにある。
 封鎖をどう避けるか?

【11図】ツケ引くのが簡明
・白1には単純に黒2、4とツケ引くのがいい。
※封鎖を避けながら、黒aの切りと黒bの三々が見合い。
 根拠をしっかり得ておけば、下辺白陣の模様化も怖くない。

【12図】黒4を忘れずに!
・白1なら、黒は2で地と根拠をしっかり確保しておくのがいい。
・白は3のヒラキが相場。
※ここで次の一手がすぐに思い浮かぶだろうか?
※白は左下の星から両翼にヒラいた構え。
・黒4の三々入りが急所。
・白15まで、左辺白は凝り形。下辺も甘い姿。
※先手も黒のもので、好きなところに打って優勢(笑)

【13図】黒好調の流れ
・黒1に白2とこちらを大事にしてきたら、黒3、5の攻めがピッタリ。
※白はしばらく放浪の旅が続く。
 この白を攻めていれば下辺白陣の模様化は難しいし、何より右辺黒陣が肥沃な大地になる。
 これも黒の大変打ちやすい局面。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、106頁~112頁)

第2章 中国流の魅力と威力


【中国流に挑む! 三々入りで挑む!】
〇中国流布石の研究は驚くほど進んでいる。
【1図】白1が大流行!
・白1のカカリが主人公。
※この手自体は珍しくない。
 多いのは、白a、黒b、白c。白dの三連星もあるだろう。
 白1でb、e、fはやめたほうがいい。

【2図】なんと白3の三々入り!
・白1には黒2が一般的。
・ここで白3の三々入りがプロのあいだで大流行している。
※これでa、黒3、白bなら昔からあるのだが…

【3図】分かりやすくいくなら
・ごちゃごちゃしたのは嫌いという人は、黒1から3にオサエて先手を取る打ち方でも構わない。
※これが敗因になることはあり得ないから。
 ただ、今よりも強くなりたいなら、次図以降は必修。

【4図】白10が新機軸
・黒1、3と断固、白を分断する。
・白は6とスベッて根拠を確保。
・黒7のツケから9も当たり前の進行。
・驚いてほしいのは(笑)、白10のオサエ込み。
※まったく、碁はまだ始まったばかりだというのに、忙しく打つものである。


【5図】自然に見えて自然ではない?
※ここで黒は、白の連絡を許してはいけない。
〇断固として連携を断つべきであるが、その方法は二つある。
・まずは【5図】の黒1。
・これには白2と生きることになる。
・黒3(aやbも実戦例あり)と傷を守って、白は4へ。
※簡明で、自然な流れ。でも、プロはもっと石を働かせたくなる。

【6図】白が生きていれば黒4が自然
※手順を変えて考えてみる。
・白が1と先に生きたとする。
・黒が2と備えたときに、白3とオサエ込んできた。
※さあ、どうするか?
・隅の白はすでに生きているので、aではなく、4とハネて外側に力を向けたくなる。
※こうなれば、黒石にはまったく「ムダ」がない。

【7図】死活を知らないと打てない
・というわけで、プロの実戦では白1オサエ込みに、黒2のハネが多く見られる。
・それを受けて、白は3と上辺に展開。
※狙いは、「展開によっては隅も辺もオレのものにしちゃうぞ!」
 で、この作戦は仕掛けるほうも仕掛けられるほうも、隅の死活を正しく理解しておく必要がある。ここが第一関門。

【8図】様子見のハネ
・黒が隅の白を攻める、あるいは取りにいく場合、1のハネから始める。
・この局面での黒1は、様子見の雰囲気に近い。
・白aが利いているため、取ることはできないから。
・白2なら、黒3、5で再び白の出方をうかがう。

【9図】生きてもこれでは、白が失敗
※死活をおろそかにしていると、こんな場面で何が何だか分からなくなるもの。
・生きなければの意識が強くなり、白1、3を選択…。
※これは敗着になっても、おかしくない。
・黒2、4が先手で決まり。
※黒の外勢がご覧のようにすばらしいものに!
・黒6に先着されて、白はかなりリードを奪われた。

【10図】やはり黒は厚い
・せめて白1と出る抵抗くらいはしたいもの。
・それから白3と抜いて、白7までなら、前図よりは頑張ったことに。
※でも、とても合格とは言えない。
 黒はやはり厚く、主導権を握っている。生きてダメなら、どうするべきか…?
 生きてダメなら死んで打つ。この作戦を実行するには避けて通れない。
 最もハードルの高い関門。

【11図】死んで打つ!
・黒1のハネには白2、4と下辺の大どころを占める。
・黒は勢いで5と連打。
※これで右上の白に生きがない。
 さっき三々に入ったばかりなのに、これで全滅。でも、形勢はまったくの別物。
 このあとの進行を見た皆さんはきっと驚くはず。

【12図】右辺以外は真っ白な世界!
・白1のトビに黒2は省けない。
・白3に黒4のツギも絶対。
・そこで白5(他の構えでもOK)へ構えると、右辺以外は真っ白になっていることに気が付く。

【13図】手割りではひどいことに…
〇11図、12図がどういう理屈なのかを手順を変えて探ってみよう。これを手割りと言う。
※黒の中国流、白の二連星でスタート。
・白1のカカリから7までは、双方互角。
・ただ、この後が黒はいけない。黒8と12、14のハネツギは堅いところをさらに守った理屈。特に黒8は思いつかない一手。
・白は15へ。

【14図】差し引き、白のプラス
・白は右上に1、3と仕掛けたことになっている。これがひどい。
・白5、7も黒8までと換わり、マイナス。
※ただし、13図と14図を比較すると、黒のマイナスが大きいことは明白。
 つまり、白有利なワカレ。

【15図】じっと黒1が結論
〇それでは決定版を紹介しよう。
・7図の白3に続いて、黒は1とここをしっかり守っていくのが、現段階での結論。
・白はaなら生きであるが、最善は白2、4の下辺への展開。
 右上はやはり死んで打つのがいいというのであるから、面白い。

【16図】いつ仕掛けるかが難しい
※死んで打つというのは正しくないかもしれない。
・右上の白は黒から打っても、無条件で取られることはない。
・黒1のハネから3、5が最強であるが、ご覧のようにこのあと白からaに取ればコウ。
※互いにコウ材が見つけにくく、特に黒は仕掛けるタイミングが難しそう。

※隅の死活の変化はこれだけではない。知っておいてほしいのは、以下の二つ。
【17図】黒7では白生きてしまう
・黒1から3のツケもある。
・ただし、白6に黒7とツイではいけない!
・これは白8までで、白の無条件生き。

【18図】白4の価値が小さければ有力
・黒7では、本図の1、3が正しい。
・白も4と抜いて上辺が厚くなるので、簡単には決められないが、白4の抜きが働かない局面なら有力。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、121頁~129頁)

第3章 シマリの考え方と実践法


第3章 シマリの考え方と実践法
 白のワリ打ちの後をどうするか

【基本図】ツメはaとbの2通り
・黒1の星に黒3、5の小ゲイマジマリを組み合わせる。
※黒番の布石作戦の中でかなりのシェアを持っている。
 スピード感もあり、それでいて実利もしっかり確保している。
(読者の中にも愛用者は多いと思う)
※誰がいつ打ち始めたのかは分からない。
 秀策流というような名前が付いていないことからも理由は想像できよう。

・黒1、3、5は、今日碁を覚えた人でも安心して打てる、その手軽さこそがセールスポイントと答えるだろう。
 そこにほんの少しのスパイスを効かせるだけで、この簡明布石作戦は輝きを増す。
 これも、黒1、3、5の大きな魅力。

・黒5の後も、戦略は立てやすい。
・白6のワリ打ちが予想しやすく、黒はaとbのいずれかのツメを選ぶかが、最初の大きな分岐点だった。
➡ところが近年、いろいろな考え方が見られるようになってきた。プロアマ問わず打たれてきた白6や黒aやbが、“当たり前”ではなくなってきた。この布石の新常識をマスターしよう。

※小ゲイマジマリが中心だったが…
【1図】白の目指す進行
・昔は白のワリ打ちに黒1のツメがほとんどだった。
(いえ、絶対という言葉を使ってもいいくらい)
・対して、白aは黒bがピッタリ。
・白は2のカカリまで進み、4、6を理想形としていた。
(黒番でこうなると叱られたそうだ)

【2図】黒攻勢のはずが…
・1図の黒5では、本図の1へ打ち込む一手。
・白2には黒3とコスんで白を分断し、黒13までで黒攻勢と言われた。
※ところが、近年は白の走った布石との意見が大変多くなってきた。

【3図】右上黒が不安材料
・2図の黒3で、本図の1と右辺に力を入れると、白2のツメがなかなか厳しい。
・黒は3と頭を出すしかないが、白4にも黒5が省けず、白6の好形であるシマリを許すことになる。
※注目したいのは、右上。
 白△四子は封鎖されたが、根拠は三々を占めているので、まず心配なし。
 問題なのは、黒の一団。
 単独で生きがあるのかどうか、右辺との連絡を断たれると不安。

【4図】大きさ比べも白の勝ち
・黒の財産の右辺を黒1、3と広げるのはどうだろう。
➡残念ながら好転しているとは言えない。
・白4の構えで大きさ比べではいい勝負。やはり右上の「差」は、埋まっていない。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、186頁~188頁)

第3章 シマリの考え方と実践法


第3章 シマリの考え方と実践法
〇大ゲイマジマリはスピードを意識せよ。
【1譜】著者の実戦譜
・実戦例。1譜(1-24)
 黒 瀬戸大樹七段
 白 河英一五段

・黒11から15を決行し、21まで。
※このワカレ、棋士は白持ちが多いようであるが、著者は黒が好きだという(笑)
・白22の段階で黒地は約45目。
・当面は黒23以降のサバキが焦点。
※白Aなら黒B、白C、黒24、白D、黒Eで楽なのだが、許してくれるはずもなく……。
・白24はこの一手。

【参考図1】白の注文
・続いて、本図の黒1は、白12までで、黒が面白くない。白の注文。
※白は黒を攻めながら、左辺や下辺で得をしていく。
 右下白が膨らみ、黒は重い姿。

【参考図2】敵陣の中では「軽く」
※敵陣の中では「軽く」がセオリー。
・それに従うと、黒1もありそう。
・白2と受ければ、黒3が気持ちいい。
・白4に黒5で白を下にハワせれば、黒がきつい攻めにあうことはないだろう。
※そして見逃せないのが地合い。
 黒地約45目が白にプレッシャーとなりそうな局勢。

【2譜】(25~40)
・実戦で著者は、黒25の二間トビを選んだ。
※薄く見えるが、白が何か仕掛けてきたら、その力を利用するつもり。
・白26に黒27は好例。
※黒は下辺か左辺のどちらかに足を下ろせばいいとの考え。
 実利を先行しているので、バランスを取った意味合いもある。
≪棋譜≫瀬戸大樹vs河英一(1-40)


【参考図3】全部は助けなくていい
・黒25に対して、本図の白1なら黒2のボウシするつもり。
※こういう手、読者は苦手ではないだろうか。
 これが「軽い」ということ。
 黒は実利で先行しているので、白の勢力圏である左下では全滅さえしなければいい。
 そんな意識を持ってほしい。
 左下には三つ黒石がある。白が襲いかかってきたら、全部取られなければいいと考える。
 そうすれば、対処法はいくらでもある。これこそが「サバキ」である。

【3譜】(40~42)※40再掲
・白が40と力を蓄えたので、黒は41と左下の補強へ。
・これで左下の不安がなくなったため、白42には黒43から荒らしへと向える。
(瀬戸大樹『布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、223頁~225頁)

第3章 秀策流温故知新~基本から現代版まで


秀策について
・江戸時代末期に活躍した本因坊秀策は、広島県の因島で生まれた。
・当時の御城碁(御前試合)において、19戦全勝という驚異的な記録を残したことでも知られている。

・御城碁が終わった後に勝敗を聞かれると、「先番でした」と答えたそうだ。
 つまり、「私が黒で負けると思いますか?」という意味。
(かなりの自信家ですね(笑)。でもこの逸話、真偽のほどは定かではないらしい。)

・秀策は34歳で早世する。原因は当時流行したコレラ。
 本因坊家でも患者が出て、看病にあたった秀策も感染してしまう。
(秀策の本当の性格、何となく想像できるよね。)

〇それでは、【基本図】を見てほしい。
・黒1、3が秀策流のはじめの一歩と言える。
・ここで白4が、当時は当たり前のように打たれていた。
・黒は手を抜き、左下を黒5と占めて、秀策流は完成。
※コミのない時代。普通に考えれば、先に打てる黒が有利。
 黒は早くも三隅を確保。秀策の先番が堅実無比と言われるゆえんである。

【基本図】秀策流はじめの一歩
【4図】オーソドックスな進行
・秀策流を敷いた後、白はやはりシマリを防いで、右下にカカるケースがほとんど。
・このときの黒1が「秀策のコスミ」として一般に広く知られている。
※秀策のコスミ は、白(15, 三)への攻め、そして右辺へのヒラキを見合いにしている。
・当時のオーソドックスな進行は、白2から6である。

※次に、秀策の実戦譜を鑑賞してみよう。
 師匠の本因坊秀和との対局である。
 およそ200年前の対局である。

〇秀策vs師匠秀和(1815[ママ、1851]年11月15日)
途中白66まで

1~227手まで
半コウ黒勝ツグ 黒4目勝ち

【1譜】(1~27)
・黒1、3、5の秀策流に師匠秀和は、白6、8とシマリを拒否した。
・秀策は黒9のカケで勢力を蓄え、黒11へ。
※黒の着手が分かりやすいのは、秀策流の特徴。
・白12は大斜ガケ。
・黒27までは一つの型。

【2譜】(28~66)
・黒は右辺白を取り、白は中央を重視するフリカワリ。
・まずは白66から秀和の打ち回しに注目。

【3譜】(66~71)
・フリカワリはさすがに黒が得をしたが、白66から師匠が貫禄を見せる。
・黒は69の守りが省けず、白70のシマリへ回って、石の流れは好調そのもの。

【4譜】(72~74)
・秀和の次の一手は白72の肩ツキ。
・黒73に白74と構えたところで全局を眺めてみると、「真っ白」という言葉がピッタリ。

【5譜】(75~91)
※いよいよ秀策の出番。秀策は分かりやすく局面を捉える能力が持ち味。それは当然、正しい形勢判断に基づいている。

・黒75はバランス感覚満点の一着。
・黒83以下は、黒91に先回りするための犠打と言っていい。
※このあたりの秀策は、正確な形勢判断により目標を設置。
 そこに最短距離でたどりつける着手を、驚くべき精度で繰り出していく。

【6譜】(92~105)
・左辺に黒が先着。
・秀和先生、白92から上辺黒に襲いかかる。
・しかし秀策は予想どおりと言わんばかりに、黒101まで。見事なシノギ。

【7譜・8譜】(106~227)
・白は中央右にあった黒の一団を飲み込み、大きな白地をまとめた。
・ただ、序盤から堅実に打ち進めていた黒を捉えることはできず、黒の4目勝ちで終局。
※もっとも、白がよく4目差にまで持っていったというのが、著者の率直な感想。
 やはり、秀策、さすが秀和。

<著者の感想>
・初めてこの碁を並べ、4譜の白72と出会った瞬間の驚きと感動は、はっきりと覚えているそうだ。そして、今でも、新鮮に感動できるという。
・碁はいい手を探すだけでなく、自分のイメージを素直に盤上に表すことも大切。
 4譜の白72は教えてくれたような気がするという。
(瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年、232頁~236頁)

【補足】秀策の実戦譜(vs太田雄蔵)~福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』より


第25局 雄蔵との三十番碁


第25局 雄蔵との三十番碁
嘉永6年(1853)2月2日
 於青地延年宅
 三十番碁第二局
 互先 七段 太田雄蔵
 先番 六段 本因坊秀策

・嘉永6年の新春、旗本赤井五郎作の屋敷に棋士が集まった。
 仙得、松和、雄蔵、算和の四傑と服部一だったという。
 談たまたま秀策の芸に及び、いま対等に打てるものはいないだろう、という結論が出かかったとき、先ほどから無言だった雄蔵が、同調できない、と発言した。雄蔵としては3年前に互先に打ち込まれたばかり。その後は打ち分けだから無理はない。
・そこで、五郎作が発起人となり、雄蔵・秀策の打ち込み三十番碁が始められた。
 御城碁に出場しない雄蔵にとって、手塩にかけた秀策と真剣に打つ機会はまたとないものだったろう。

【1~3譜】(1-139)秀策vs太田雄蔵 139手完 黒中押勝

【1譜】(1-50)<鋭い反撃>
・白8から黒15まで、当時としては斬新な感覚。
・黒31、33が鋭い反撃。
・黒41から45までわかりやすい碁になった。

【2譜】(51-100)<雄蔵のサバキ>
・白72と踏み込んで、攻めとサバキ。
・白84が好手で、白96のワリコミにつなげた。

【3譜】(101-139)<黒の名局>
・黒105と手を延ばし、黒109、白110とフリカワリ。
・白112の勝負手も、黒119と切断されて不発。
(福井正明『古典名局選集 秀麗秀策』日本棋院、1992年[2002年版]、150頁~153頁)

【補足】秀策について~大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』より


第八局 晩秋の師弟対局(秀和・秀策)
【秀策について】
・秀策は七段にとどまったが、棋聖と仰がれている。
 碁は深く強靭なヨミに支えられて渋滞がなく、形勢判断のよさがその棋風を明るいものにしている。
 序盤で優位に立てば最後までその優位を持続して押しきり、劣勢の碁はあえて蛮力を発揮していずれは逆転している。
 したがって、棋力は群を抜き、丈和が「我が家は百五十年来の風が吹く」と喜んだように、しばしば道策と並び称されている。
・秀和・秀策の師弟対局は天保13年に秀策二子で始まり、嘉永4年まで、27局が残されている。
 内訳は二子局2局秀策1勝1敗。定先局25局、秀策17勝5敗1ジゴ2打掛けとなっている。
※残された碁譜を見るかぎり、秀策は秀和より強かったとはいいきれないものがあり、むしろ秀策の先をうまくこなして、細かい碁に持っていく秀和の、アマシの力量が目立つ。
 当然のことながら、この二人の師弟対局は血戦の要素が皆無なので、どこかのんびりしたムードが漂っているという。

【大平修三氏の解説】
・黒1、3、5が世に秀策流と呼ばれている布石の手法。
※先番の優位性を定着する布石として、秀策が体系的に多用した。
・しかし、これはよくいわれることであるが、黒7のコスミは3目程度でもいいから、あくまでも勝とうとする手。
※現代ではコミがあるから、黒は二間高バサミなどときびしくやっていく。
・白8は、趣向といってさしつかえない。

<名局>
〇本局は秀和、秀策27局中、26局目にあたる。
 嘉永年間、最後の数局はいずれも名局の名の高いものばかりで、堅実な秀策の黒とシノいであましていく秀和の白が顕著な対照を示している。
※秀和の碁はいわゆる玄人好みのする棋風であるが、秘めた力は名人の域にある。
 秀和の実子、秀栄名人(十七、十九世本因坊)が「オヤジとは二子置いても自信がないよ」と述懐しているのはさすがに冗談とはいえ、一分の実感もあるようだ。

<秀策の魅力>
・秀策は師匠思いで、孝心もあつく、奥さんをたいへん愛してもいたようだ。
・遺された書簡集を見れば、いかに優れた徳性を持っていたかがわかる。
・しかし、秀策の魅力は、にもかかわらず紅燈の巷に遊ぶのをいとわず、むろん好んだという所にあるという。祇園で「芸子買い候処大もて、よく鬱散致し候」などと手放しに歓ぶ一面と愛妻に対して怒った顔を見せたことが一度もないという一面とに何か人間的なはばが感じられるという。

嘉永4年(1851)10月22日 阿部甚三郎邸
 十四世   本因坊秀和
 4目勝 先 本因坊秀策
(大平修三『名局鑑賞室 道策から秀策まで・江戸時代の碁』日本棋院、2010年、207頁~233頁)


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