歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~苑田勇一氏の場合≫

2024-09-08 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~苑田勇一氏の場合≫
(2024年9月8日投稿)

【はじめに】


 今回も、引き続き、囲碁の攻めについて、次の著作を参考に考えてみたい。
〇苑田勇一『NHK囲碁シリーズ 苑田勇一流基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]

さて、先週の「囲碁フォーカス」では、攻めは相手の石を取りにいくこととは限らず、方向を意識して、上手に逃がすことがテーマの一つであった。
 今週の本日(9月8日)のポイントの一つは、強い石(眼形や根拠のある石)には響かないので、近づかないことが攻めの鉄則であるという。
 これらの考え方は、今回紹介する苑田勇一九段は、「生きている石の近くは小さい。
 逆に、生きていない石の近くは大きい」そして、「攻めることは追いかけて逃がすこと」と、その要点を指摘しておられる。
 苑田勇一氏の独特の囲碁の攻めの考え方が、本書を通して、学べる。
例えば、
・生きている石の近くは小さい。
 逆に、生きていない石の近くは大きい(10頁)
・攻めることは追いかけて逃がすこと(38頁、112頁、160頁)
・美人は追わず(120頁、137頁)
※美人を追いかけて逃げられたら、プライドが許さないだろうから、1回も攻めずに逃がす方がいいという意味の著者の造語か。弱そうで魅力的な石は追わないのがいいとする。)
・サバキはナナメに石を使う(158頁、160頁)
・ナナメは眼形が多く、弾力がある格好(162頁)
・攻めるコツは、相手の石をタテにすること。強いほうは、石をタテヨコに使うようにする。強い立場のほうが、ナナメに石を使ってはいけない(161頁、162頁)
 
 ちなみに、佐々木柊真氏(野狐9段)は、次のYou Tubeにおいて、
「【囲碁】ツケの使い道」(2022年5月6日付)
 「私の碁の根本を作った超良著」と、この苑田勇一九段の著書を絶賛している。

【苑田勇一氏のプロフィール】
・1952(昭和27)年生まれ。大阪出身。小川正治七段門下。
・大手合優勝6回。関西棋院第1位3回。
・1983年、1988年棋聖戦最高棋士決定戦決勝進出。
・1986年、1988年天元戦、1998年棋聖戦挑戦者。
・趣味はワイン



【苑田勇一『基本戦略』(日本放送出版協会)はこちらから】






〇苑田勇一『NHK囲碁シリーズ 苑田勇一流基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]
【目次】
1章 「生きている石」の近くは小さい
     大場は簡単にわかる
     「3つめの眼」を作らない
     「生きている石」はよりかためる
     「攻めること」は逃がすこと
2章 「囲う」「囲わせる」
     「囲う」と地は減る
     「囲わせる」と地は増える
     地を作らせない努力
3章 攻めず守らず
     攻めず守らず
     「攻めること」は逃がすこと
     攻める方向
     強いところは厳しく
     大事な方向
     強い石を刺激する
     石数の多いところで戦う
     特訓講座
4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
     サバキはナナメ
     競り合い
     幅の考え方
5章 「三々と隅」大特訓
6章 とっておきの秘策




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


〇第1章 「生きている石」の近くは小さい
・THEME 大場は簡単にわかる~一間高ガカリ定石より
・THEME 「生きている石」はよりかためる
〇3章 攻めず守らず
・THEME「攻めること」は逃がすこと
・THEME攻める方向
・THEME強いところは厳しく

〇4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
・THEMEサバキはナナメ
・THEME競り合い~三連星の布石より

〇5章 「三々と隅」大特訓
・三々入りの場合

・【補足】利き筋~星の定石(小ゲイマガカリ・二間高バサミ)より
・【補足】利きと味消し~You Tube囲碁学校より
・【補足】苑田勇一氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より
・【補足】苑田勇一九段の実戦譜~第14期天元戦第4局より






第1章 「生きている石」の近くは小さい


・この章では、碁の考え方、戦略をわかりやすく解説している。
・最も意識してほしいのは、石の効率であるという。
⇒石の効率を簡単に表現したものが、次の大切な考え方。
〇「生きている石の近くは小さい」
〇「生きていない石の近くは大きい」
この点、実例をあげて説明している。

THEME 大場は簡単にわかる~一間高ガカリ定石より


【1譜:一間高ガカリのひとつの形】
≪棋譜≫9頁、テーマ図

・黒は3とすぐ一間高ガカリ、白18までとなるひとつの形が出来上がった。
☆一段落したら、白黒それぞれ出来上がった姿が、生きているのか、まだ生きていないのかをまず確認すること。
【A図:右上の白は楽々生きている】


・右上の白は、三角印の黒(11, 二)(11, 四)(12, 六)などと囲まれ黒1とマゲられても、白2で楽々生きている。

【質問図1】
≪棋譜≫(10頁)

・黒番である。次の一手はどこであろうか。
※ヒントは、「生きている石の近くは小さい、生きていない石の近くは大きい」である。

【ポイント図1】
≪棋譜≫(10頁)

・黒21と星下に構えるのが、いい手。
※右上の白は生きているので、なるべく遠くに。
 近くが小さいということは、遠くが大きい。
※21よりA(4, 十)は「生きている石に近い」ので、よくない。
【2譜:白も生きている石(右上)に近寄らない】
≪棋譜≫(11頁)

・白も生きている石(右上)に近寄らず、左下に白22とカカリ。
・白26のヒラキまで、よくできる形。

【B図:右上の黒の死活~まだ生きていない】
≪棋譜≫(11頁)

※右上の黒はまだ生きていない。
・白1と迫られると7まで、とたんに眼がなくなり危ない。

【3譜:右下で黒は右上に声援を送る】
≪棋譜≫(11頁)

・黒27のカカリから31のヒラキまで、右上の黒に声援を送るのは、理にかなっている。
※生きていない石の近くは大きいから。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、7頁~11頁)


THEME 「生きている石」はよりかためる


「第1章 「生きている石」の近くは小さい」

【質問図1】
≪棋譜≫(25頁)

・白2の高目に、黒3とカカリ。
・白が4、6とツケ引いて、ひとつの形が出来上がった。
・白8ではa(11, 三)と一路広くヒラクのもあるが、著者のおすすめは、8と狭くヒラいておいて、しっかり生きておくものである。
☆右上の形が生きているか、生きていないかをよく見極めて、次の黒の手を考えよ。
 AからHの8か所のうちから、選べ。

【ポイント図1】
≪棋譜≫(26頁)


・答えはHの黒1、目外(もくはず)し。
※右上の白は生きている。生きている石の近くは小さい。すなわち生きている石の遠くは大きい。
 ⇒AからHで、一番遠いのがH。
※「近い」「遠い」は、碁盤の目にそって考える。
 まっすぐに、また直角に折れる(ななめには見ないこと)

【質問図2】
≪棋譜≫(27頁)

☆少し配置を変えてみる。
・黒が一間にハサんできた。次の白はどう対応するのがいいだろうか。
※目のつけどころは、やはり右上の形。

【ポイント図2】
≪棋譜≫(27頁)

※右上の黒はしっかり生きている。生きている石はもっと生かしてあげればいい。
⇒生きている石の近くは小さいという考えにも通じるが、生きている石をより生かすという考え方である。








(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、7頁~11頁)


【THEME 「攻めること」は逃すこと】


THEME 「攻めること」は逃すこと


「第1章 「生きている石」の近くは小さい」

【質問図1】
☆白が三角印の白と二間高にハサんできた。
 黒はどう応じるか。応用編である。



【1図】
・黒1のトビをまず頭に浮かべる人が多いのではないだろうか。
・白2の受けには、黒3とボウシして、黒の生きている石のほうに追いやるのは、いい調子だが、……。
・その前に白2と受けられると、黒からaと両ガカリする可能性をなくしていて、先に損をしている。


【2図】
・白4のケイマにも黒5とボウシしていくと……。
・白6まで、方向はいいのだが、黒も薄く心配。
※もっと厳しい、いい手がある。


【ポイント図1】
・黒1と肩にカケる手が厳しい。
※ aのハザマがあいていて心配に思うかもしれないが、右辺は黒の強いところ。
戦いは不利ではない。



変化図として、
①白aのハザマ
②白bの押しを考えている

【3図】
・白が2とハザマをついてきたら、黒は3とカケて5とノビを決める。
・白はオサえ込まれたらたまらないので、6とケイマはまず絶対。
・そこで黒7とオサえれば、黒は連絡できる。
※白a出の対策は、5図で説明する。


【4図】
・3図の白4で1と出てきたら、黒2とオサエ込んで十分。



【5図】
・白1には黒4とソウのが筋。
・aの出とbの切りを見合いにしている。


【6図】
・3図の白4で1、3と出切ってきたら、単に黒4と出るのがいい手。
・白は5とカカえるくらいだから、黒は6と一子を切っていいだろう。
・白が7と抜いて、黒は先手を取った。




【7図】
・黒の肩つきに、白2と押すのはどうだろうか。
・白2、4は車の後押しで悪形。
・黒は喜んで、3、5とノビていればいい。
・黒5となると、右下の白が弱くなったのがわかる。
・白6の守りは省けないだろう。



【8図】
・7図の白6で1のケイマでは、黒10まで、白は閉じ込められて苦しい。



【9図】
・黒7は「千両マガリ」。
・白8のハネにも黒9から13までぐいぐい押す。
・3つほど押したら黒15とケイマ。
・白は16と連絡した。
※みなさんは、攻めることは石を取ることと思っていないだろうか。
 攻めることは逃がすこと
と覚えてほしいという。
※白16まで、全局をよく見渡してほしい。
 白はつながったが、地はほとんどない。
 堅い壁も、右上の黒が強いので、何も働くところがない。
 それに比べて、黒はのびのびと、中央に立派な壁を築き、全局にプラスの影響を与えている。



【10図】
・続いて黒17と肩をつき、19とトンで、厚みと左下を連絡させるようにする。
※生きていない石どうしがつながると、効率のよい地模様が出来上がる。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、33頁~39頁)





【1譜】
・では、次の図。
・白4のコスミには、黒5で白6とオサエと換わってから、黒7とコスむのがいい手。
・黒は13と右下にカカった。
※右下の黒はまだ生きていないので、右辺は大きい。
 生きていない石の近くは大きい、のだった。
≪棋譜≫40頁、1~2譜

【2譜】
・白16のコスミにも、直接はあいさつせず、黒17と右上の白に迫る。
※黒はAと小さいところを打っていないのがうまい。
 右上の白は生きていない石。だから、近くは大きい。
≪棋譜≫40頁、E図

【E図】
・白16でE図の白1とヒラいたら、黒2と三々を占めて、安定する。
・黒はaを省いて、もっと大きいところに手が回っているのが、「石の効率がよく」、しゃれている。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、39頁~40頁)


【質問図2】
・白1と二間高バサミしてきた。
 黒の次の一手は?
・質問図1とは、右上の形が変わっている。

≪棋譜≫43頁、ポイント図、11~13図
【ポイント図2】
・黒は2とオサえて生き、まず自分の安全をはかる。
・白3のヒラキは、白は所帯を持つために絶対。
・右上の黒はしっかり生きたので……。

【11図】
・黒4と肩をついて、8までノビるのが、よい。
・白は右下が弱くなったので、9と守った。

【12図】
・黒10のマガリから16まで、ぐぐっと押し、18とケイマにカケて、白19と連絡させ、つながらせた。
※攻めることは逃がすこと。

【13図】
・壁を作ったあとは、反対側から左下の星とつながるように、黒20の肩から22とトビ。
※生きていない石を連絡して、石の効率を上げる。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、41頁~43頁)

3章 攻めず守らず


・石を取ること、攻めることが好き、という人は多いだろう。
 しかし、石を取ることと、攻めることは全く別のことだと著者はいう。
・攻めるとは、むしろ「追いかけて逃がすこと」なのだとする。
 得をする攻めを心がけて、石の方向を見極めてほしい。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、87頁)

3章 攻めず守らず

THEME 攻めず守らず


☆四子局を使って、「攻める」ことについて説明している。
・白が5と上辺を占めたら、黒は6と反対側の下辺に向かう。
・白7と迫ってくるのは、置碁には必ずといっていいほど、よく登場する。
☆どう受けていいのか、困っている人は、多いのではないだろうか。
 黒はどう対応するか。

【質問図1】

【1図】
・怖いからといって、黒1と隅を守るのは、白2のノゾキから荒らされてよくない。
※守るとかえっていじめられ、眼がなくなってくる。

【2図】
・黒1のコスミもよく見かけるが、白2とヒラかせ、楽をさせては失敗。

【3図】
・黒1と一間とハサむのは、厳しい手。しかし、おすすめしない。
・白は2のトビから、4とカケてくるだろう。
・黒7から白12まで黒は低位に追いやられた。
※攻めると自分の石も危なくなる。
 厳しく攻めると、反動で自分にもはね返ってくる。

【4図】
・では、黒1の二間バサミはどうだろうか。
 これも、ものの本いはよく出てくるが……。
・白が2、4とトブと、黒も囲まれては大変だから、3、5とトンで逃げる。

【5図】
・続いて、白が6とカカって8となると、三角印の黒が囲まれて弱くなる。
 黒よくない。これもおすすめではない。
※攻めると反動で、自分の石が危なくなる。
 攻めるのは得策ではない。

【ポイント図1】
・黒1と三間にゆるくハサむのが、いい。
※白に二間にヒラかせないけれど、Aと一間に狭くヒラく余裕、逃げ道は作ってあげる。
 白はつらいけれど、ヒラくことができる。
※攻めず守らずがいい。
 三角印の黒と白の真ん中でもある。力関係のセンターはいいところである。

【1譜】
・白2とトンできたら、黒3とまずコスミツケ。
・3は大切な手で、Aのノゾキを緩和した。
・黒5、7とツケノビてモタれ、右辺の白の攻めを見せる。
※上辺の白は三間幅で強いので、かためてもいい。
※白8でBのノビは、Cの出から切りが狙えるときの手である。
・三角印の黒があるので、白8とコスんではずす。

【2譜】
・黒9のツケから黒13とツイで、しっかり隅を守る。
※三角印の黒があるので、白Aはこわくない。

【6図】
・このあと、白1の打ち込みには、黒2の上ツケでいいだろう。
・黒14まで連絡できているのが長所。
※白aとワタる手があるが、地にならず小さい。
 石の効率が悪いといえる。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、88頁~92頁)

質問図3


【質問図3】
・一見、ぬるいような黒1の「攻めず守らず」がいい手だと説明した。
・白が2とヒラいてきたときの対応を考えてみよう。

【ポイント図3】
・三角印の白は狭いので、少しつらい手。
・黒は3とコスミツケておくのがよく、白4と立たせて、黒5とモタレ攻めするのが調子。

【1図】
・白8のコスミから黒13まで、前に出てきた形。
・三角印の黒のおかげで、白aの狙いがなくなっている。

【2図】
・黒15も大切な「交通整理」。
・黒19まで下辺が盛り上がって、黒好調。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、97頁~98頁)

3章 攻めず守らず

「攻めること」は逃がすこと


【質問図1】
・右辺で黒と白がにらみ合っている。
・黒番である。三角印の白を攻めたくなるが……。どうしたらいいのだろうか。

【1図】
・黒1とコスんで攻める、という人がほとんどでは。
※1は白を攻めている。攻めるのはよくない。
・白は2と付けてサバいてくる。
・黒5と白をあおって、攻めを続行したくなる。

【2図】
・白は10と肩をついて、強い石をかためながら、さばいていくのが得策。
・黒は13と逃げたが、まだ治まっていない。
※追いかけたら逃げるのは、人間関係でも、碁でも同じ。
・白は10でaなど弱い石を攻めるのはよくない。
・白14まで白は左辺、下辺のどちらからも真ん中の黒を狙っていける。
※どこが大きいのか、判断できることが重要。

【3図】
・1図の黒3で1と押しても、白6まで白がいいだろう。

【4図】
・黒1のトビは白2のツケから連絡される手があるので、よくない。

【5図】
・黒1も白8まで、やはり白は連絡できる。

【6図】
・白10とコスむのがいい形。
・11の切りを狙いながら、頭を出す。
・白18とトビ出して、白よし。

【7図】
・2図では、a(白10)がよいと説明した。
・白1、3では、左辺の白模様に追い込んでよくない。
・白5とハサんでも、模様のできるところが見あたらない。
※得がない攻めはいけない。続いて黒bのカカリも厳しい。

【ポイント図1】
・黒1と弱い石の三角印の白は攻めないのが、いい。
※弱い石を見ると攻めたくなるのが人情かもしれないが、そこをぐっとこらえて、反対側へ向かう。
・白2と押してきたら、黒3とトビ。
・黒7とマガって、なるべく右辺の石から遠ざかる。
・黒9まで、下辺が黒っぽくなった。
※白2は三角印の白を弱くして、マイナスなのである。

【8図】
・ポイント図1白2で、2とツケてくるのも無理。
・三角印の黒がaにあったら、白bの出がみえみえで、とても3の強手は打てない。

【9図】
・黒7、9は両方とも種石。断固として逃げる。
・黒13とポンと抜けば、黒がいいだろう。

【10図】
〇白は抜いた形をよく見てほしい。
 上辺に向かう黒は、厚くていい形。
※攻めなければさばかれない。

【11図】
・白2とトンできたらどうするか。
※考え方は同じ。攻めてはいけない。
・黒3と押して、右辺の白にはさわらないようにする。
・黒5と自分の用心は大切。

【12図】
・上辺に黒が構えているので、白を追い込まないようにする。
・黒9まで、黒は好調。

【13図】
・11図の黒3を3とトブのもある。下辺を大切にする打ち方で有力。
・白は4、6とトンで逃げた。
※下辺を大切にするときには、下辺と反対に向かい、上辺を大切にするときには、下辺に向かう。
 反対に進むのがコツ。

【14図】
・黒7から9と下辺に根を下ろし、黒好調。
※のちに黒aの打ち込みも狙っている。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、105頁~111頁)

THEME 強い石を刺激する


【1譜】
・攻めの方向を考えていく。
≪棋譜≫136頁、質問図1

【質問図1】
・白22のトビまで、よくできる形になる。
 次の黒の手が問題。
【1図】
・黒1、3と白を攻めたくなる人が多い。
・しかし、白2から8まで、弱かった石が強くなってしまう。
※「美人は追わず」というのを思い出してほしい。
 弱そうで魅力的な石は「追わず」
【2図】
・黒1と芯を止めて攻めるのは、白2、6と逃げられ、上辺の黒のほうがかえって弱くなってしまう。

≪棋譜≫138頁、ポイント図1

【ポイント図1】
・白の強いほうの石に働きかけながら、まずは自分の弱い石の強化をする。
・黒23とトンで、25と大きく構える。

【2譜】
・白26、28のトビには、黒27、29と大きく包囲することができる。
※右下の星と連絡できれば、黒よし。
【3譜】
・黒は31と白をおびやかしながら、右下隅をかためていく。
・黒37のノゾキもいいタイミング。
➡中央の黒が厚くなった。

【7図】
・ポイント図1の白24で、上辺は無視して、1と逃げるかもしれない。
・黒2ツケが狙い。
※ツケて上辺の白をかためながら、自分を強化する。
・黒8までの姿は大変厚い。
※黒はaにあると、だぶっている感じがする。
 こう厚くなると、bから攻めていきやすくなる。

【8図】
・2譜の黒27で黒1と攻めるのは、方向違い。
・白8までトバれると、真ん中の黒のほうが薄くなり、失敗。

【9図】
・ポイント図1の黒25で黒1も悪くはないが、黒3まで白を封鎖できないので、少しぬるいかもしれない。

【10図】
・白aのトビでは重いので、白は動かず、白1、3と守るのが好手。
※右上の黒はしっかり生きている。
 生きている石の近くは小さい。

≪棋譜≫142頁、11~12図

【11図】
・白が1と二間に一歩進めれば、黒は2と止める。
・白3とトンだときがチャンス。
・黒4から決めていくのが、うまい。

【12図】
・黒8と出て、10と戻るのが肝要。
・黒12とノゾいて、14とトンで、黒が好調。
※白はまだまだ治まっていない。
 生きていなくて、石数が多いところが大きい。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、136頁~142頁)

4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
〇サバキはナナメ

4章 「サバキ」「競り合い」「幅」


〇サバキはナナメ
・石の強弱は、石数を数えればある程度わかる。
 石数の差が3つ以上あるときに、弱いほうの立場はサバくことになる。
・サバくコツは、ツケて、石を斜めに使うことである。
 反対に強い立場のほうは、石をタテヨコに使う。

〇「競り合い」はお互いに生きていない石が接触したときにでき、碁の骨格が決まるので、理解しておくのは、大変大事である。

〇「幅」は文字どおり、石の間が何路かを数えればわかる。
・3路以下なら狭い、4路以上なら広いというのが目安。
 幅の概念はすべての考えに共通して加える。
(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、157頁)


【THEME サバキはナナメ】


【質問図1】
☆右辺の黒模様に白が三角印の白と打ち込んで、黒が三角印の黒と鉄柱に受けた場面。
 白番で考えてほしい。
 三角印の白をどう動いたらいいのだろうか。



【1譜】
・白1と一間にトンで逃げるのを、考えた人は多いのではないだろうか。
 1だと黒2とノゾかれて重くなり、よくない。
※黒のノゾキは、白にサバかせず眼形を奪う好手である。
※攻めるコツは、相手の石をタテにすることである。
 右上方面は黒石が圧倒的に多いところであるので、工夫が必要。



【質問図2】
☆質問図1の答えを説明する前に、もうひとつ質問する。
 黒は右上の白をどう攻めるか?
※攻めは直接働きかけるだけではない。
 どう利用するか、どう利益をあげるかが問題である。



【ポイント図1】
・黒4と左上から手をつけ、右上には直接攻めないのがいい。
※左下の黒はまだ生きていない。
 また三角印の黒には幅があるので、左辺を大切にすることを考える。



【2譜】
・上辺の白は眼があり強いので、黒16からツケていく。
・黒20とケイマして、白21と連絡させる。
※攻めることは逃がすこと。
・黒22まで、幅のある左辺の生きていない石が模様になってきた。
※白は右辺から上辺に連絡しただけで、まったく実がついていない。
 黒大成功。
 白は三角印のトビではうまくなかった。
☆では、白はどうしたらよかったのだろうか?

【ポイント図2】
・白1とツケるのがよいだろう。
※ツケはお互いに強くなりましょう、という意味のある手である。
 立場が弱いほうがツケることになる。
※立場が弱いかどうかは、石数を数えて判断する。
 3つ以上少ないと、まず弱いといってよいだろう。


【1図】
・黒2のハネに白3と引くのは、重くよくない。
※まずツケて、そのあとサバキはナナメに石を使う。
 反対に考えれば、黒は三角印の黒も狭く幅がないから、黒は強い立場。
 なのに2はナナメに石を使っている。
※強いほうは、石をタテヨコに使うようにするのがコツ。



【2図】
・1図の白3では1とハネて、石をナナメにつかうのがいい手。
※強いほうは、黒2とツイでタテヨコに使えば、相手がナナメに使いにくくなる。



【3図】
・白3と隅に入り込むのも好手。
・黒が厚くなったので、白9のトビは絶好点。



【4図】
・3図の黒6で1とオサえるのは、白2と切られてよくない。
・白10まで、白がサバいた形。


【5図】
・3図の白3で1とツグのは重くよくない。
・黒4とツケるのが厳しく、黒8まで白がたいへん。


【6図】
※ナナメは眼形が多く、弾力がある格好。
 強い立場のほうがナナメに石を使ってはいけない。
・黒1のハネ(ママ、切りか?)だと白4、6と上から下からとアテられ利かされたあと……。


【7図】
・白10まで、白は簡単にさばかれてしまった。
※自分がナナメに石を使うと、相手もナナメになるので、強い立場、石が多いほうはナナメにしてはいけない。



【8図】
・黒1とハネるのも、ナナメでよくない。
・白8でaとツグと重くなり、捨てられなくなり、さばけなくなる。
※4、6、三角印の白は取られてもいい。
 何もなければ、右上の黒は一手で地になっているはずだったので、地にするスピードが遅くなり効率を悪くしている働きがある。

※攻められたときの眼の足しになれば、十分な成果。
 三角印の黒はまだはっきりと生きていないので、生きていない石の近くは大きいという鉄則を思い出してもらえば、自然に白8とトブことが浮かんでくるだろう。



【9図】
・黒としては1と、石をタテヨコに使うのがいい。
・黒5が少し、すましすぎ。


【10図】
・黒1と切って行きたい。
・白6まで、白は二子は取られたけれど、2と気持ちよくたたいたことに満足。
※黒白、どちらもうまくやっている図。


(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、158頁~163頁)

【質問図3】
☆形を変えてみよう。白番。
 三角印の白と打ち込んだ石をどうするかが問題。
※タテかナナメか、今まで説明したことをよく思い出してほしい。
 


【11図】
・白1の一間トビに逃げるのでは、重い発想。
・黒2とタテに石を使われると、また白は3とトバざるをえない。
・黒4のトビが絶好で、三角印の白も生きていないので、白が苦しい展開となる。



【ポイント図3】
・上辺は黒が6つ、白が1つ。
※白が打っても2つで差が四子もあるので、さばく場面ということがわかる。
 生きていなくて石数が多いところが大きい。

・白1とツケて、3、5、7とナナメに使う。
・黒8のアテに10にツイではいけない。
※ツグとタテに石を使うことになり、さばけなくなる。
 サバキとは、端の石を捨てることでもある。

・黒が10と抜いたので、左上の黒は生きた。
※生きた時点でそのまわりの土地の価値が暴落する。
・右上の黒はまだ生きていないので、右辺の弱い石から動き、白11と右上方面に向かう。



【12図】
・前図黒4では1とアテるのが正着。
・白に2、6と石をタテヨコに使わせているから。
・白12まで白は生きた。
(黒aとノゾいてきても、白b、黒c、白d)
※生きている石のまわりは小さいので、ゆめゆめeとツイではいけない。
 石数が多く、お互いに生きていないところをさがして、黒13と上辺の白の生きている石からなるべく遠くに打ち込む。



(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、164頁~166頁)

以上で、【THEME サバキはナナメ】は終わり。
 次は【THEME 競り合い】
4章 「サバキ」「競り合い」「幅」

THEME競り合い~三連星の布石より


【テーマ図】三連星の布石(1—41)

【質問図1】
・競り合いは、お互いに生きていない石が接触したときにでき、碁の骨格が決まるので、考え方を知っておくのは、大変重要。
・黒は三連星、白は二連星の布石。
・白が12と押してきた。
☆黒番である。どう応じるか。
 ヒントは、白にある欠陥を狙うこと。



【ポイント図1】
・白の欠陥を狙って、まず黒13と出て、15と切る。
・15、17と断点がふたつあるときは、価値の小さいほうから、切るのがコツ。
・黒19が、「競り場」。
※石どうしがぶつかりあっているところで、重要な急所にあたる。
・黒21のノビに対しては、Aと押したくなるかもしれない。
※黒Bとハネられたとき、白Cと切ることができないなら、Aと押して競り合ってはよくない。
 白Cだと、黒Dに切られて、白のほうが取られてしまう。
 かといって、Cで白Eとオサえるのでは、「競り負け」していることになる。
 Eのオサエは最初から考える必要はない。

・競り負けするときには、最初から22と「ごめんなさい」としておくほうがいい。



【1譜】
・黒23も競り場。
※三角印の白も、三角印の黒も生きていなくて、石数が多いので、価値が高いところ。
 三角印の白は、四角印の黒(14, 二)を取り切っていないので、まだしっかり生きたとはいえない。
※黒23に対して、けんかして負けるのなら、白はAとあやまるのも、立派な手。
※白28でBにハネていたら、迷わず黒は28に切る。
・黒29にカカったのは、四角印の黒(14, 二)を利用しようと考えている。





【2譜】
・白が30と守ってから、31と押すのが大切な手順。
※30がきたことによって、三角印の黒がほぼ動けなくなり、上辺の白は生きた。
 生きたら、どんどん地にさせるのがいい。
・黒は33と三々に入って、41まで稼いだ。




【質問図2】
・手順を少し戻す。
 黒がAとマガらず、1とカカってきたら、白はどう打つか?


≪棋譜≫172頁、ポイント、1~3図



【ポイント図2】
※生きていない石のそばは大きい。
・競り場、白2が急所。
・黒3のヒラキには応じず、白4と急所に一撃するのが厳しい。



【1図】
・黒が5と断点を守り、7と封鎖してきたら、白は8のハネから、10と切るのが手筋。


【2図】
・黒11と切ると、白12のホウリ込みがうまい筋で、黒は12を抜くことができない。


【3図】黒21ツグ(白16)
・右上の黒も取れそうだが、白16の割り込みから、18と切って丸めるのも筋で、26と黒はシチョウにかわって、つぶれてしまった。
※生きていない石のそばが大きい。





【4図】
・白としては、2譜の白30で、1とマガるのが好手。
・白3まで競り勝っており、両者うまく打っているといえるだろう。
※なお、三角印の黒で1と押すのは、aとノビられて、上辺への狙いがなくなり、よくない。
 押したくないときには、bとケイマにはずすのがコツ。



(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、167頁~172頁)




5章 「三々と隅」大特訓


【質問図8】
・黒が一間に受けているときの三々入り。


【ポイント図8-1】
・黒2、4とオサえると、黒8までが、よくある形。
 さてこのまま白が手を抜くと……?

【ポイント図8-2】
・コウになる手段が残る。

(苑田勇一『基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、204頁)

【補足】利き筋~星の定石(小ゲイマガカリ・二間高バサミ)より


・利き筋などについては、私のような素人のわかりにくい分野である。
 幸い、You Tubeにおいて、利き筋について要領よく簡潔に解説している動画がある。
〇小林さんちの囲碁
 「【囲碁】利き筋って何?」(2021年8月1日付)
 この動画では、小林孝之三段(NHK学園専任講師、日本棋院準棋士)が、星の定石(小ゲイマガカリ・二間高バサミ)を題材に利き筋について解説しておられる。
 利き筋=先手と捉えられるとする。

・利き筋=先手になるうる箇所として、次の9通りの利き筋があるとする。
図でいえば、△印が利き筋になる。
①3の九
②2の十
③3の十
④4の十
⑤5の十
⑥3の十一
⑦2の十一
⑧4の十一
⑨3の十二
≪棋譜≫利き筋、You Tubeより


⑨3の十二の場合が利き筋であることの証明~シチョウ
≪棋譜≫利き筋、シチョウ


〇星・小ゲイマガカリ10二間高バサミについて
 この定石は、石田芳夫『基本定石事典(下)』(日本棋院)に次のようにある。
【6図】(定型)
続き
≪棋譜≫石田、定石下、387頁

・白1とここで出てくるのは、黒2、4と切って、白の形に傷を作る。
・白9と抵抗すれば、黒10から16まで、白を封鎖して、右辺にa、b、c、dの利き味を見る。
※この型は黒が十分で、白1は最近見られなくなった。
(石田芳夫『基本定石事典(下)』日本棋院、1996年、387頁)

・【補足】利きと味消し~You Tube囲碁学校より
〇石倉昇九段「戦いの極意 第6巻 味を残す打ち方」(2018年7月23日付)
〇小林覚九段「さわやか開眼コース 第3巻 利きと味」(2017年10月23日付)
〇佐々木柊真氏「【囲碁】「利かし」と「味消し」」(2021年9月15日付)

【補足】苑田勇一氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より


・次の著作の「第3章 石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」(118頁~131頁)において、苑田勇一氏の実戦譜が載っている。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]

【研究局6】
 黒 片岡聡
 白 苑田勇一

≪棋譜≫118頁、片岡VS苑田

【第1譜】(1—19)あっさり
・白10のハサミまでは、黒白立場は違うが、研究局3とまったく同じ進行。
・著者は両ガカリではなく、あっさりと三々にフリカワる黒11を選んだ。
※「どう打っても一局」の場面

【第2譜】(20)細分化狙い
・白は20のカカリ。
※白(14, 三)でなく、こちら側のカカリは、局面細分化の狙いがある。
 局面を細分化して、コミに物を言わせようという手法。
(白(14, 三)との善悪はいえない)
※著書では、ここをテーマ局面としている。
➡白のカカリを迎え、きわめて常識的な応接でよい。
 中国流のこの部分にカカえられたときは、対応は決まったようなもの
・定法通り、黒21とコスミツケて、黒23と受けておく。
(黒21は白(18, 四)の拒否に他ならない)
・白24とヒラかせても、黒(17, 十一)の存在で寸のつまった二間ビラキ。
※白22と立たせてはいるが、まだまだ攻めの狙える石。
 攻めが狙えるということを言い換えれば、黒の右下一帯が地になりやすいともいえる。
※なお、黒23と受けておけば、碁の推移によっては、黒(6, 二)も有力な狙いになる。

【第3譜】(21—26)狙い含み
・白24に黒25のトビ。
※これでは右下一帯の完全な守りには、なっていない。
 ただし、白に圧力をかける手には、なっている。
※加えて、右下を一手で守り切る適当な手が見当たらない。 
 それなら、いっそうのこと黒25とトンで、二間ビラキの白への攻めと、ある狙いをテンビンにかける。
※黒25に白は白26と打って、二間ビラキを補強した。
 ここでテーマ場面としている。黒25と打ったからには、ただ右下を守る気にはなれない。
➡黒25とトンだ手には、複合的な狙いがあった。
 ひとつは、白の二間ビラキへの攻め。そして、もうひとつは、黒27への打ち込み。
※白が白26と二間ビラキを強化したので、黒27ともうひとつの狙いを決行するのは、必然の帰結。
※黒25は、以上の狙いだけでなく、場合によっては、右下を丸々地にする手に化ける可能性もある。
➡このように、狙いが複合的な手ほど、効率がいいといえる。

【第4譜】(27—31)
・白28に黒29、白30に黒31は、ともに大事な手。
※黒が利かされたと見るのは、誤り。
 こう受けて、「自動的に」右下が固まった、地になったと見るべきである。
 これも、黒27で白6を攻めに出た効果。
※攻めは「押して引く」「引いてまた押す」という緩急が大切。
 攻めっぱなしで、あとに何も残らない、という攻めであってはならない。
 黒29、31と「引い」たお陰で、右下が強化され、そこそこの黒地がついている。

【第5譜】(32—39)25目確定
・白は34のコスミツケでワタリを防ぎ、白36から逆襲に転じた。
※今度は黒が黒27をサバく番であるが、生きた碁とは、こういうもの。
※この間、黒は右下に約25目の地を確定させている。
 白が一子を強化するために、それだけの資本を投下したということ。
 サバキに回るのは、やむを得ない。

【第6譜】(40—53)治まる
・黒41から45まで、下辺で世帯を構えることができた。
※左下の白は、まだ確定地とはいえない。
 ただし、手をつけていくためには、黒一団の強化も必要。
・それが、黒47のハネから黒49、そして53。
※これは黒一団の単なる強化だけでなく、上辺の白をも意識している。
 中央が強くなれば、黒(6, 二)や黒(6, 五)が狙いやすくなる。
※単一の働きしかしない手というのは、そうそうない。
 要はその働きを、打ち手が認識しているかどうかである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、118頁~131頁)

【補足】苑田勇一九段の実戦譜~第14期天元戦第4局より


・次のYou Tube(囲碁学校)において、苑田勇一九段は、第14期天元戦(1988年)をみずから振り返っておられる。
〇苑田勇一九段「苑田勇一 飛天流名局選」(2015年12月24日付)

・とりわけ第14期天元戦第4局(黒番・趙治勲九段との対局)は、苑田勇一九段の棋風である「西の宇宙流」(中央を志向する独創的な棋風)といわれるだけあって、スケールの大きさが現れた好局であったようだ。詳しくは、「苑田勇一 飛天流名局選」とりわけ、22分~35分あたりをご覧いただきたい。
・ちなみに、囲碁棋譜.COMより70手までの棋譜を添えておく。

【第14期天元戦第4局】
1988年12月21日
 黒 趙治勲
 白 苑田勇一
〇白のスケールの大きさ
・白54手目のボウシ(8, 八)、70手目の白(12, 五)のケイマ
208手 白半目勝ち
【棋譜】(1-70)

(囲碁棋譜.COM 趙治勲対苑田勇一 第14期天元戦第4局)






≪囲碁の攻め~中野寛也氏の場合≫

2024-09-01 18:00:15 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~中野寛也氏の場合≫
(2024年9月1日投稿)

【はじめに】


 今日、9月1日(日)の「囲碁フォーカス」で、柳澤理志先生も、攻めについて語っておられた。攻めは相手の石を取りにいくこととは限らず、方向を意識して、上手に逃がすことだと。なるほどと思った。
 今回も、次の著作を参考にして、囲碁の攻めについて考えてみたい。
〇中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
 中野寛也氏は、プロフィールおよびコラムにおいても、書いておられたように、碁を始めた昭和53年ごろ、当時加藤正夫先生が五冠王で、活躍されていた。力でねじ伏せて大石を取ってしまう加藤先生の力強さに憧れたという。「殺し屋加藤」という異名であったことは、よく知られている。
(“殺し屋”とは随分ぶっそうな異名だが、中野氏本人もコラムに書いておられたように、加藤先生は優しく穏やかな人柄であったそうだ。また、吉原由香里さんも、師匠の加藤先生は優しい人であったと、「囲碁フォーカス」で涙ぐみながら偲んでおられた。)
 なお、本日のNHK杯テレビ囲碁トーナメント(2回戦)は、芝野虎丸名人と小池芳弘七段との対局で、解説は三村智保九段であった。その解説の中で、芝野名人は、大石を積極的に取りにいく“令和の殺し屋”であると、三村九段は形容されていた。それほど、大石を取りにいくことは難しいのである。
 だから、中野氏も、これまで紹介した著者と同じく、攻めにおいて、「石を取ること」を勧めていない。その代わり、次のように、いみじくも述べている。
 囲碁を始めたときに、誰でも最初に考えるであろうことが、「相手の石を取りたい」ということである。石を取ったら有利、取られたら不利と思いがちである。
ところが、上達してくるにしたがって、いらない石は捨てるという考え方を身につけるようになる。強くなることで、より大切な石を重視できるようになる。
捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイントである、と。(189頁)

 中野氏は、攻めのポイントとして、次のような点を挙げている。
〇石の強弱の判断(73頁、173頁、182頁)
・自分の石が強いか弱いかの判断によって、着手は変わってくる。簡単に言えば、強い石=生きている石、弱い石=生きていない石となる。
・相手に一方的に攻められると、ただ逃げるだけのダメ手を何手も打たされ、形勢を損じやすくなる。そうならないためにも、相手に攻められる前に、弱い石には備えが必要。
・逆に、自分の石が相手の石よりも強い時には、相手の石を分断して強く攻めることもできる。
・相手に封鎖されてしまうと、その石の生き死にを心配しなくてはいけなくなる。
 多くの場合、無理に生きるためにもがくことは、周囲にさまざまな悪影響を与える。
 だから、眼のない石は中央の広い方に頭を出していくというのが基本。

〇要石とカス石の判断(65頁)
・要石とは、助けるか、あるいは取ることによって、石の連絡に関わる石。
 カス石とは、お互いの石の強さには関係のない石で、助けても取られても、周囲にあまり影響のない石のこと。
➡その判断のさいには、石の眼のあるなしが、一つの大きなポイント。

〇石の方向(81頁)
・石の方向は、ある意味では石の強い弱いに、直接関係する部分だといってしまっても、いい。追いかけ方ひとつで、相手に楽をさせたり、苦しめることができたりと、展開が大きく変わってくるので、方向の見極め方は、とても大切。
・また、攻めの方向としては、相手を分断して、カラミ攻めを狙うべきところや、自分の石の安全を確かめるためにしっかりと連絡しながら相手を攻めること。

〇形の急所(126頁)
・石の配置が複雑な状態で行われる戦いにおいては、「形の急所」が、打つ手を選ぶ時の方針の一つになる。
・よく、プロが、「ここはこう打つ一手」といういい方をするが、それは手を読んで判断している場合よりも、形の急所を知っていて、それを指摘している場合が多い。
格言にもあるように、「二目の頭は見ずハネよ」や、「急所のノゾキ」などにあたる筋を大切。

〇「碁は切断にあり」(142頁)
・碁は陣地を囲うゲームであるが、石と石との戦いでもあり、その戦いは石を切ることによって始まることが多いからである。石を切るというのは簡単なことのようであるが、相手もそれなりに注意して守っていることがほとんどであるから、時にはテクニックが必要。
・まず、相手の連絡に不備があるのかどうか、そこを見極めることができるかどうかが、大きなポイント。

〇捨て石の活用(189頁)
・捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイント。
 助けると重くなってしまい、全体を攻められてしまうような時には、早く見切りをつけ、小さいうちに捨て石として活用すべきである。

〇仕掛けのタイミング(214頁)
・戦いの醍醐味の1つに仕掛けのタイミングがある。
 主導権を握ることのできる局面を見極め、また、相手の弱点をつき、よい攻めの方法を見つけてほしい。

〇根拠を奪う(238頁)
・相手の石の根拠を奪い、完全には生きていない状況に追い込むことで、攻めをより厳しくすることができる。
・根拠を奪うための最初のポイントは、相手の守りの不備を見つけることができるかどうか。

【中野寛也(なかの・ひろなり)氏のプロフィール】
・1969年広島県生まれ。島村俊廣九段門下。
・1985年入段、1997年九段。
・日本棋院中部総本部所属。
・1995年第10期NEC杯俊英トーナメント優勝、第51期本因坊戦リーグ入り。
 第38、39期王冠。
・2000年第38期十段挑戦。2010年第19期竜星戦準優勝、通算700勝達成。
・激しく戦う棋風で活躍中。
※趣味はゴルフ、読書。

<プロフィール補足>
「コラム 戦い王子のひとりごと ②戦いに目覚めたきっかけ」
・著者が碁を始めた昭和53年ごろ、当時加藤正夫先生が五冠王で、「殺し屋加藤」という異名で活躍されていた。
 地の計算で勝つ石田芳夫コンピュータ先生も活躍されていたが、著者は力でねじ伏せて大石を取ってしまう加藤先生の力強さに憧れたという。
・そのせいか、少年時代は碁とは戦って勝つものだと思い込んでいた。
 ところが院生になってみると、ただのチャンバラでは通用しない。
 皆、地のバランスや計算もしっかりしているので、乱闘派の著者も自然に勝負を意識して、バランスを重視するようになったそうだ。
・地元広島の呉に後援会ができ、島村俊廣先生の内弟子として、お世話になれたのも、後援会の方々のお蔭であったという。
 その後、島村導弘先生、羽根泰正先生、山城宏先生の親切な指導もあり、子供ながらプロにならなければという気持ちが強くなった。
・とはいえ、どんな局面でも最短で最強の手を選びたいという気持ちは変わらない。
 著者は、囲碁は石を使った格闘技だと思っている。
(子供のころから、ボクシングやプロレスが大好きで、昔はアントニオ猪木の大ファン)
・著者の尊敬する加藤先生の棋風も、普段の優しく穏やかな人柄とは正反対である。
 先生は著者が深夜までかかって負けた対局後も、さりげなく「ちょっと行こうか」と声をかけてくれて、お話をしてもらった。先生と話していると、負けて重い気持ちが薄れていくのを感じた。この気持ちが今でも戦い続けられる原動力で、著者の財産でもあるという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、96頁)



【中野寛也『戦いの“碁力”』(NHK出版)はこちらから】


〇中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
1章 打って良い時悪い時
 軽率なアテに注意
 生ノゾキの隣に急所あり
 切って厳しく攻めよ
 弱い石の連絡に敏感になる
 ツケは強い石を狙え
 腕試し問題①~⑤

2章 見分ける力をつける
 要の石を見逃すな
 石の強弱を見抜け
 戦うべき方向を読む
 押すか引くかを決断せよ
 腕試し問題①~④

3章 パンチ力をつける
 定石でシチョウを生かす
 ゲタシチョウの威力
 形の急所をつけ
 弱点をついて根拠を奪え
 戦いの勝機は切断にあり
 攻めの着点をさがせ
 腕試し問題①~⑥

4章 攻めを生む防御力
 弱い石を作るな
 封鎖をされるな
 捨て石で大胆に動け
 手入れで力をためろ
 腕試し問題①~④

5章 戦闘力をみがく
 弱い石の狙い方
 間合いを図って切れ
 包囲網を広く敷け
 根拠を奪う攻め
 腕試し問題①~④
 
【コラム】戦い王子のひとりごと
①碁を始めた時
②戦いに目覚めたきっかけ
③失敗談
④海外での経験、なぜ行くか
⑤テレビ講座を経験して




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


1章 打って良い時悪い時
 軽率なアテに注意
 生ノゾキの隣に急所あり
 切って厳しく攻めよ
 弱い石の連絡に敏感になる
 ツケは強い石を狙え

2章 見分ける力をつける
 要の石を見逃すな
 石の強弱を見抜け
 戦うべき方向を読む
 押すか引くかを決断せよ

3章 パンチ力をつける
 定石でシチョウを生かす
 ゲタシチョウの威力
 形の急所をつけ
 弱点をついて根拠を奪え
 戦いの勝機は切断にあり
 攻めの着点をさがせ

4章 攻めを生む防御力
 弱い石を作るな
 封鎖をされるな
 捨て石で大胆に動け
 手入れで力をためろ
 腕試し問題①~④

5章 戦闘力をみがく
 弱い石の狙い方
 間合いを図って切れ
 包囲網を広く敷け
 根拠を奪う攻め

・【補足】石の強弱に注意~山下敬吾『基本手筋事典』より
・【補足】ツケギリと両にらみ~藤沢秀行『基本手筋事典』より
・【補足】中野寛也氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より






はじめに


・本書に興味を持った人は、「戦わなくても碁は楽しい」あるいは「戦いはちょっと苦手」などと思っているのではないかと推測する。
 でもあと少し強くなるためには、戦う力も必要と感じているのではないだろうか。
 そんな人に、読後「戦うことが怖くなくなった」「碁が一層面白くなった」と思ってもらえたら幸いだという。
 逆に戦いが好きな人にはもうワンステップとなればと願っている。
➡著者なりの上達法のエッセンスをギュッと詰め込んでみたという。

・碁は何度対局しても同じ局面にはなかなか出会えない。
 しかし、それが醍醐味でもある。
 だから、図を記憶しようとするより、考え方をつかみ、本書で学んだことを実戦のさまざまな場面で応用してほしいという。

※なお、本書はNHK囲碁講座で、2011年4月から9月まで放送された「中野寛也の戦いの“碁力”」の内容と、新たに復習問題とコラムを付して、再構成したものであると断っている。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、2頁~3頁)

1章 打って良い時悪い時


・“碁力”は、“戦いが楽しくなる棋力”という意味の造語であるという。
 本書では、戦いというテーマを通して、囲碁の基礎知識や基本の手筋を紹介している。
・まず、基本の考え方。そして、戦いでよく使う基本手筋。最後に、それを応用した、戦いの中での攻めと守りの実戦を示す。
・1章は、基本の考え方として、決断力を養う。
 戦いでよく打つ場面が出てくる、アテ、ノゾキ、切り、連絡、ツケについて、代表的な局面をテーマ図にしている。
 周囲の石の状況をしっかり観察して、打つべきか否かを決断してほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、9頁)

軽率なアテに注意


・石を取るぞとアタリをかけるのが、「アテ」
 すぐにアタリを打ちたくなるが、打って良い時と悪い時がある。
 アテて良い時の例としては、相手を切るよりも、アタリのほうが勝る場合。
 アテて悪い時の例としては、いくつもあるが、簡単に言えば、いろいろな利きをなくす味消しの悪手となるアテを取り上げる。
(もちろん、周囲の状況によっては、部分的には同じ手でも、いい手になったり、悪い手になったりすることがある)

・大事なことは、状況に応じた対処ができるかどうかということ。
 そういう力をつけながら、アテていいか悪いかを、しっかり見極めてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、9頁)

1章 打って良い時悪い時

生ノゾキの隣に急所あり


・テーマは「ノゾキ」
 ノゾいて良いところと悪いところの見極めは難しい。
 いわゆる生ノゾキといわれる悪手の隣が、急所のノゾキとなる好手である場合が多い。
 また、ノゾいてはいけない時もあるが、それは相手を強化してしまうことで、周囲の自分の石にリスクが生じてしまう時である。

・悪いノゾキを打ってしまってから、これは悪手だったと後悔しても、時すでに遅し。 
 だから、ノゾキを打つ前にしっかり判断して、それから着手するのが、大切なポイント。

・碁には、良い手よりも悪い手のほうがたくさんあるものである。
 多くの人が知らず知らずのうちに生ノゾキの悪手を打っているケースが多い。
 注意が肝心。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、17頁)


【テーマ図3】(黒番・先手を取るノゾキ)
・目下の急務は、上辺の黒二子を安定させること。
 右上の白の弱点をうまくつきながら、すんなり黒を治まってしまう。
 そんな進行を目指したいもの。黒はどこに目をつけるか?

【1図】(正しいノゾキ)
・この場合も、黒1とナナメからノゾくのが正解。
・黒1に、もし白aのツギなら、黒はbと頭を出して、すっかり余裕のある形になった。
※これは、黒の理想の手順といっていい。


【2図】(黒の注文)
・黒1のノゾキには、白も2とコスミツケて、切り違いを防いで連絡するくらいの相場。
・これなら黒も3と、もうひとつノゾキを利かし、白4のツギに黒5と中央に進出して、これも不満のない形。

【3図】(これは生ノゾキ)
・初心者の人が、つい打ってしまうのが、黒1の生ノゾキ。
・今度は白2とツガれ、黒3とサガった時に、白aとは打ってもらえず、上から封鎖してくるだろう。
・黒3が先手にならないのが、生ノゾキの弱点。



【4図】(生ノゾキの弱点)
・黒1、白2の時に、黒3とトブのは、白4と打って、全体の眼を狙う好手がある。
・白4に黒aは白b。黒bは白a。
※黒1はaにあるほうがいい。


【5図】(ダメヅマリは怖い)
・黒1、白2に黒3と打って、先手を取るのも悪手。
・白4に黒5と打って、白を攻めようとしても、この場合は白6とコスミツケる好手がある。
・黒7に白8のワリ込みが手筋で、白12まで。
※黒は要の三子を取られて、ひどい形になった。
 黒の失敗は明らか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、17頁~25頁)

切って厳しく攻めよ


・戦いの好きな人なら、誰でも興味を持つのが、「切り」
 しかし、その切りにも、切って良い時と悪い時がある。
・たとえば、
①シチョウ関係の見極めは大切。
 もちろん、切った石がシチョウで取られるようではいけない。
②また、味方の連絡がしっかりできていないような状況でも、切ってはいけない。

・テーマ図1で取り上げた両ノゾキは、実戦では相手の石を切断する時に使うケースが多い。
 このような場面はすでに接近戦になっているので、決断力とともに、ある程度先を読む力が必要。

※切って仕掛けていく時には、自分の石の連絡はできているかなど、細心の注意をはらって決行しなければならない。

【テーマ図1】(黒番・切りは成立するか)
・上辺で競り合いが始まっている。
 白石の連絡には、どこか不備がありそうだ。
 黒から白の石を切っていく手段が成立するのだろうか。
 黒はどこに目をつけるべきか、考えてみよう。


【1図】(両ノゾキ)
・aとbを狙う、黒1の両ノゾキが目につく。

【2図】(白の反撃)
・しかし、黒1には、白2とこちらをツイでくる。
・黒3から5と切った時に…。

【3図】(ツケ切り)
・白6の反撃を食らうと、黒はまずい。
・黒7と下をハネれば普通だが、ここで白8の切りが好手。


【4図】(黒取られ)
・黒9に白10が決め手。
・続いて、黒aなら白b、黒cなら白aである。
 黒9でbなら白aである。
※1図黒1は失敗する。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、26頁)



【テーマ図3】(黒番・捨て石を使って攻める)
・上辺黒41のケイマに白が42と逃げたところ。
 ここは上辺の白三子と右辺の白の間を割って攻めたいところ。
 ただし、平凡に間を割ればいいのか?
 そこを考えてみよ。

<ポイント>
・ツケオサエ定石 石田(上)336頁

【1図】(手を抜かれる)
・すぐに浮かぶのは、黒1から3の押しだろう。
・しかし、この場合は黒3に手抜きで、白4と整形されそう。
※こうなると、上辺の白四子は好形で、それほど厳しい攻めは利きそうにない。
 問題は右辺であるが…。

【2図】(チャンスを逃した)
・黒5は二目の頭をハネる急所であるが、白6と受けられて、意外にたいしたことはない。
・右下の白は強く、右辺の幅は狭いので、白12、14くらいまでで、ワタられてしまう。
 黒はチャンスを逃した。



【3図】(切り)
・黒1と切る。
 この発想がひらめいた人は鋭い。
 白に変化の余地を与えず、攻めようというのである。
・黒1に白が手抜きをすると、黒aのノビで、三角印の白二子を取り込むことができるから、これは黒の大戦果である。

【4図】(二子にして捨てる)
・黒1の切りには、白2とアテる一手。
・黒3と二子にして捨てるのが手筋。
・白4で二子は取られてしまうが、黒5の切りが黒の読み筋。
 この石が取れるわけではないが…。


【5図】(強烈な攻め)
・白6と逃げた時に、黒7とこちらからアテ、さらに白8にも黒9がアタリ。
※ここで先手を取れることが1図との違い。
・白10に黒11から13と、上辺の白に襲いかかる。
※白は相当に危ない形で、黒成功。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、34頁)

弱い石の連絡に敏感になる


・連絡するかどうかの見極め方であるが、まずは治まっていない2つの石が連絡するのは、とても大きいということを、実感してほしい。
・その逆に、連絡しなくてもいい場合は、どちらか一方、あるいは両方の石が生きている場合である。
 特に両方の石が生きている場合は、連絡する手は無駄になる。
 また、弱い石同士を連絡しようとすると、まとめて危なくなってしまう場合もあるので、注意すること。
・連絡しなくてもいいのに、連絡に手をかけることは、ほとんど1手パスになってしまう。

※連絡は碁の中でもとても大切な要素で、生き死にもからんでくる。
 連絡の基本さえ頭にあれば、さまざまな場面で応用できる。
 ぜひその感覚をつかんでほしい。

【テーマ図2】(黒番・連絡か切りか)
・右上黒21、23は実戦にもよく現れるサバキのテクニック。
・白26のツギに対し、黒Aの連絡か、黒Bの切りか。
 次の一手はどちらを選ぶか?


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、38頁)

【テーマ図3】(黒番・連絡かツギか)
・右上隅で三々定石が出来上がったあと、白が28から動き出してきた局面。
・白28は、この定石後の狙いの一つであるが、黒29、31が正しい応手。
・ただし、白32のアテに対して、しっかり受けなければならない。
※黒は素直にツグか、それとも連絡を図るか。
 ここは重要な分岐点である。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、39頁)
【1~2図】

【3図】

1章 打って良い時悪い時

ツケは強い石を狙え


・ツケは接近戦の中では非常に重要になってくるテクニック。
・ツケの目的はいろいろある。
 自分の石を強化するため
 相手を凝り形にしたりするため
 また、ツケによって相手を封鎖するような時は、ツケてよい場面である

・ツケてはいけない時は、攻めるべき石を強化してしまうような方向が違うツケ。
・むしろ攻めたい石がある時は、その反対側の石にツケていく。
 これをモタレ攻めという。
 実戦でも好手になることが多い。
 攻めたい石に直接ツケるのは、悪手になることが多い。
※今回のテーマ図を参考にして、いろいろな場面で、ツケの良し悪しを見極めてほしい。

【テーマ図2】(黒番・相手を凝らせる)
・黒31のカカリに、白は32とハサんできた。
※ここは黒の作戦の分岐点。
 白は上辺に向けて強い厚みがある。 
 強い石はいくら強くしてもいい。
 そう考えると、次の手がみえてくる。

【2図】
【3図】(正解)
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、45頁)


2章 見分ける力をつける


〇2章は、囲碁では大事な目のつけどころをテーマにしている。
・それは、「石の力を見極める」ということ。
 石には、要となる石がある。その逆に、捨ててもいい石ができることもある。
 また、石は、強くもなるし、弱くなってしまうこともある。
・この石の強弱に直接関係する部分に、石の良い方向と悪い方向がある。
 戦いの中では、その分岐点が必ず何度かあらわれる。
 そして、周囲の自分の石と相手の石の状況を把握して、押す(攻め)か、引く(守り)かを見分ける力がつけば、“碁力”もステップアップである。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、64頁)

要の石を見逃すな


・要石とカス石の見分け方は大切。
・要石とは、助けるか、あるいは取ることによって、石の連絡に関わる石。
 カス石とは、お互いの石の強さには関係のない石で、助けても取られても、周囲にあまり影響のない石のこと。

・本項では、その石がはたして要石なのか、それともカス石なのか、クイズ感覚で挑戦してもらう。
・その判断のさいには、石の眼のあるなしが、一つの大きなポイント。
 例えば、眼のない石同士がその石を取ることで連絡することになれば、それは要石。
 逆に、生きている石から地をふやすだけのヨセのような石は、カス石。
 そのあたりを注意しながら、チャレンジしてみてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、65頁)


【テーマ図4】(白番・石を捨てる勇気)
・黒が白の形のキズをついて、黒27と出てきたところ。
 白としては、何かあいさつをする必要があるが、ここで急所の一手は白Aとオサえる手だろうか。白Bと緩める手だろうか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、71頁)

【1図】(バラバラになる)
・黒の出に白1(A)とオサえられてしまうと、黒2と切られる。
・隅の白は9から11でなんとか生きるが、黒12と二間にツメられると、7とトンだ中央の白五子が浮き上がって、一方的に攻められそうである。


≪棋譜≫72頁、2図
【2図】(緩める手が正解)
・白1(B)と緩める手が正解。
・黒2には、白3から5とどんどんノビて、白7までとなる。
・三角印の白二子は、ほとんど取られた格好であるが、これはカス石。
※代わりに、白は三角印の黒一子を制しながら、上辺に20目以上の白地を増やせた。
 白優勢である。


2章 見分ける力をつける

石の強弱を見抜け


・自分の石が強いか弱いかの判断によって、着手は変わってくる。
 簡単に言えば、
強い石=生きている石
 弱い石=生きていない石となる。
※とはいえ、実戦ではその見極めがなかなか難しい。

・相手に一方的に攻められると、ただ逃げるだけのダメ手を何手も打たされ、形勢を損じやすくなる。
 そうならないためにも、相手に攻められる前に、弱い石には備えが必要。

・逆に、自分の石が相手の石よりも強い時には、相手の石を分断して強く攻めることもできる。
 そんな時は穏やかな手よりも、厳しくいく手を選択すべきである。
 強い石はどれか、弱い石はどれか。
 そのあたりを注意したら、自然と判断力もついてくる。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、73頁)

【テーマ図2】(黒番・攻める意識)~中国流の布石より


・白36の三々入りは、黒の星に対する白の常とう手段。
・黒37のオサエは当然であるが、白38のハネに対して黒はAとBのどちらのオサエか?
 それぞれ、その後の進行を考えよ。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、76頁)

2章 見分ける力をつける

戦うべき方向を読む


・石の方向は、ある意味では石の強い弱いに、直接関係する部分だといってしまっても、いいかもしれない。
・追いかけ方ひとつで、相手に楽をさせたり、苦しめることができたりと、展開が大きく変わってくるので、方向の見極め方は、とても大切。
・また、攻めの方向としては、相手を分断して、カラミ攻めを狙うべきところや、自分の石の安全を確かめるためにしっかりと連絡しながら相手を攻める図を紹介している。

・これらは応用が利くテーマ図だと思うので、ぜひ活用してほしいという。
 一局の碁の中では、いい方向と悪い方向への分岐点が必ず何度かある。
 だから実戦では、そんな時に手が止まるかどうかが、ポイントになる。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、81頁)


【テーマ図3】(白番・攻めか守りか)
・黒35とツメてきたところ。
 迫られた右上の白二子はこのまま放置することはできない。
 白Aに打って生きを図るのが賢明か。
 それとも中央の方に打って、逆に黒を攻めることを考えるか?


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、86頁)

【1図】(失敗)入力せよ

【4図】(カラミ攻め)
・正解は白1のトビ。
・続いて、黒2、4には、白5とカケて、三角印の黒二子を攻める。
※黒は三角印の黒をサバいてくるが、白は先手を取って再び右上の黒四子を攻める展開になる。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、86頁~87頁)

2章 見分ける力をつける

押すか引くかを決断せよ


・「押す」とは、攻めを目指して強く打つこと。前に出る手のことをいう。
 反対に、「引く」とは、攻める前に守りを固めること。文字通りに、いったんは後ろに下がる手のことをいう。

・今回のテーマである、「押すか引くか」とは、攻めと守りの両方が考えられるような場面で、はたしてどちらにいくべきかを見分けるものである。
 やはり周囲の力関係によって、定石後の打ち方もさまざまに変わってくるので、そんな時にどう考えて選択するのかを見極めてほしい。
 自分の石もしっかりしていないと、相手の石を攻めることはできない。
 本章で勉強した味方の石は連絡しているのかいないのか、そして強い石なのか弱い石なのか、周囲の状況をよく把握して決断すれば、取り組みやすい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、88頁)

<ポイント>
・自分の石もしっかりしていないと、相手の石を攻めることはできない。

【テーマ図2】(白番・構想を立て直す)~打ち込み対策
・黒33の打ち込みから黒35のスベリは、狙いのある手筋。
・ここで白の次の一手は、白Aのオサエ(押す手)か。白Bと上の線を止める手(引く手)か?

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、91頁)
入力せよ
【1図】
【2図】
【3図】

3章 パンチ力をつける


・3章は、戦いで役立つテクニック(手筋)を紹介している。
 まずは、戦いの基本手筋である、シチョウとゲタ、そしてこの2つの合わせ技。
 本章で一番気をつけてほしいところは、様々な場面で「石の急所」が見つけられるかどうか。
石の急所とは、文字通り石の形の要点。
 形の急所を知ることで、攻めの威力や幅も増していく。
・また、相手の根拠を奪う手筋や、分断するための切断の手筋も覚えていこう。
・テーマ図では、それぞれの場面で気持ちのいいパンチを繰り出せる局面を用意したので、自分ならこの局面でどう打つのかと考えながら、チャレンジしてみよう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、106頁)

 定石でシチョウを生かす


・「シチョウ」は、基本的な石の取り方であるが、高段者になっても、毎回のように使う大切な手筋。
 特に戦いになると、プロでもシチョウ関係には細心の注意を払う。
・シチョウに慣れるには、簡単な詰碁をやるのがお勧め。
 シチョウ詰碁を盤に並べてみるのも、自然に碁盤に石の形が残る訓練になる。
 頭の中で追いかけている石の残像が、盤上に浮かんでくるようになれば、しめたもの。
・シチョウを覚えたら、次に覚えたいゲタである。
 実戦では、シチョウで取れる石でも、あえてゲタで取る場合もある。
 シチョウには常にシチョウアタリの心配がつきまとうから、憂いのないゲタで取りきっておく方がよいということがよくある。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、107頁)

ゲタシチョウの威力


・ゲタシチョウというのは、ゲタとシチョウを組み合わせた取り方で、著者の造語だという。
・ゲタシチョウは、シチョウの仲間であるが、ゲタからのシチョウのほうがより複雑な読みを必要とする場合が多くなる。
 ゲタにする場所を見つけるのが難しかったり、捨て石を使って相手の石をダンゴにしたりするケースもあり、少し難易度が上がる。

・また、ゲタシチョウに取る手を見つけて相手の石を取ることができる時はいいのだが、反対に、取られそうな時は注意が必要。
 逃げる前にしっかり読むことが大切。
 取られたことに気がつかずに逃げていくと、ドンドン取られる石が増えて大損。
 すぐに皆さんの対局でもお役にたてていただけるだろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、119頁)

【テーマ図2】(黒番・カケてシボる)~シボリのテクニック
≪棋譜≫122頁、テーマ図

〇カケてシボるテクニックは痛快。
・右上隅で、星の定石から変化した接近戦が始まっている。
・白の要石は白14、20の二子であるが、この石を取ることができれば、黒大成功。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、122頁)

【1図】(シチョウは不利)
≪棋譜≫122頁、1図

・黒1、3と追いかけるシチョウで取れれば簡単なのだが、これは白4、6と逃げられる。
※左下の三角印の白にぶるかることを確認してほしい。

≪棋譜≫123頁、2~3図

【2図】(ゲタの手筋)
〇シチョウに追えないときは、カケてシボるテクニックを思い出してほしい。
・まず、黒1のカケから入る。
【3図】(シチョウ完成) 白6ツグ(2の右)
・白2のアタリに黒3のアテ返しが手筋。
※この手が一目で浮かぶようになれば、しめたもの。
・白4の抜きに、黒5がアタリ。
・白6とツイだ時に、黒7から9で見事にシチョウが完成した。
※まずはゲタにかけてからシチョウに追い込む。
 その流れがわかってきたであろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、122頁~123頁)
<ポイント>
・カケてシボる。星の定石から変化。接近戦

3章 パンチ力をつける

形の急所をつけ


・石の配置が複雑な状態で行われる戦いにおいては、「形の急所」が、打つ手を選ぶ時の方針の一つになる。

・よく、プロが、「ここはこう打つ一手」といういい方をするが、それは手を読んで判断している場合よりも、形の急所を知っていて、それを指摘している場合が多い。

・本項では、格言にもあるように、「二目の頭は見ずハネよ」や、「急所のノゾキ」などにあたる筋を集めてみたという。
 よい形を覚えて、自然に急所に石がいくようになってほしい。
・形の急所を知って、それを実戦で使いこなせたら気持ちがよいはず。
 コツはよい形をたくさん見て感じること、悪い形とも比較して、その差が感じられるようになれば会得したのも同じである。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、126頁)
入力せよ
【テーマ図2】(黒番・急所のノゾキで攻める)
・白28とトンで、上辺の白が中央に進出したところ。
※ここでまた、「形の急所」として覚えてほしいところがある。
・黒は自身の安定を図りながら、白の形を崩してほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、130頁)

【1図】(急所を逃す)
・黒1のシマリは大場だが、白はすかさず白2に打ち、白6までと形を整えてくる。
※上辺の白はすっかり安定した。
 一方、左上の黒五子はまだ眼がなく、次に白aと打たれると、黒は生きるのに四苦八苦。

【2図】(効率が悪い)
・黒1は急所を外しており、白2とカカられた時に、決め手がない。
・黒3には白4とさらに手を抜かれ、黒5と切っても、上辺で三手もかけては、効率が悪い。

【3図】(急所のノゾキ)
・黒1がまさしく形の急所。
※こういう手は読みではなく、形で覚えてしまおう。
 次に黒aと切られては大きいので、白は2やbなどと受けることになるが、黒はそれから黒3のシマリに回るのが、好手順。
➡こうなれば、黒十分の展開。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、130頁~131頁)

弱点をついて根拠を奪え


・眼を取るというと、石を取る、イコール殺すという考えが浮かぶかもしれない。
 しかし、プロの実戦では、相手の石を取って勝つというケースは、意外に多くない。
・プロが考える攻めとは、相手の石の根拠を奪うことによって、その石に逃げてもらうこと。
 そして、弱い石に逃げてもらうことによって、その周囲や全局でポイントを稼ぎ、その効果を勝ちに結びつけようということ。
・今回のテーマ図2では、実戦でもよく出てくる二間ビラキの石の根拠を奪う場面を、ポイントにしてみたという。
 攻撃は最大の防御という言葉もあるが、相手の根拠を奪いながら攻めることが、自軍の石を強化することにもつながるので、その辺りも見てもらいたい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、134頁)

【テーマ図2】(黒番・根拠を奪うテクニック)~二間ビラキの場合
・白26とトンで、上辺の白が頭を出したところだが、この白には弱点がある。
・黒から攻めるとしたら、どこに打つか。
 白の根拠を厳しくエグって、攻める手がある。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、137頁)

【1図】(危険な筋)
・黒1とコスみ、白2に黒3、5と一歩ずつ出ていく手も考えられる。
・白6に黒7と内を切り込む手筋で、外側の白を切り離すことに成功した。
・しかし、この場合は白にも12から16の反撃があり、ダメヅマリの黒も危険。


【2図】(足が遅い)
・黒1とスソからエグるのは白6となって、白の形に余裕がある。

【3図】(コンビネーション)
・黒1、3が形を崩すコンビネーション。
・白4、6には黒5、7と応じて、白の眼を奪うことに成功する。

【4図】(黒成功)
・黒1に白2と下から受ければ、黒3から9まで。
※上下の白を切り離せる。

【5図】(黒に不満あり)
※本図はテーマ図2とは、似て非なる形。
・4図同様に、黒1から白8までとなっても、黒aには白bと出られて、止まらない。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、137頁~138頁)


3章 戦いの勝機は切断にあり(142頁~149頁)

戦いの勝機は切断にあり


・「碁は切断にあり」といった人がいる。
 碁は陣地を囲うゲームであるが、石と石との戦いでもあり、その戦いは石を切ることによって始まることが多いからである。
・本項のテーマ図では、連絡しているように見える相手の弱点をついて分断してしまう打ち方を取り上げた。
 石を切るというのは簡単なことのようであるが、相手もそれなりに注意して守っていることがほとんどであるから、時にはテクニックが必要。
・まず、相手の連絡に不備があるのかどうか、そこを見極めることができるかどうかが、大きなポイント。
 単純な切りではなく、手筋を使うときにはある程度先を読む力も必要になってくるので、その辺りも注意してほしい。



攻めの着点をさがせ


・本項のテーマ図は、著者や著者の息子、娘の実戦から題材を取り上げたという。
・いずれのテーマ図も、やや局面が広くて難しい感じを受けるかもしれないが、難しいと思った人はまず正解手を見て、雰囲気をつかんでほしいとする。

・一口に攻めの急所といっても、大きな攻めや、部分的な攻めなど、いろいろあるが、今回は次の3つのパターンを用意したという。
①包囲する攻めの急所
②弱点を補いながらの攻め
③肺ふをえぐるような攻め

・実戦では、周囲の力関係の見極めができて、初めて攻めの着点が決まる。
 失敗図との比較で違いがわかると思うので、その差を感じながら、このような手もあるのだなあと感じてもらい、正しい感覚を身につける力になれば、幸いであるという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁)

【テーマ図1】(白番・壁を攻める着想)~著者の実戦から
・著者の実戦から取り上げた。
・黒は右上に厚みを築いたようだが、この厚みは本物とはいえない。
 白としては、この壁をそっくりそのまま攻める構想を立てたいところ。
≪棋譜≫150頁、テーマ図

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁)

≪棋譜≫151頁、1図

【1図】(網を破られる)

・白1からaの切断を狙うのは、やや疑問。
・黒2のブツカリで守られると、次に黒bのハネやcの反撃などを狙われ、白のほうが持て余す。
※白1では次の狙いがなく、黒への攻めとしては中途半端。

≪棋譜≫152頁、3図

【3図】(敵の急所はわが急所)
・この場合、白1と打つのが、絶好の攻め。
・黒2のケイマなら、さらに白3とカケが、ぴったりした手になる。

≪棋譜≫152頁、5図

【5図】(白十分)
・1図のように、黒1のブツカリなら、白2とかぶせる。
・黒3とハネるくらいだが、黒を内側に封鎖して、攻めの効果は十分。
・右上の攻めはこれで満足して、白4のカケから白20までとなれば、白の手広い局面になった。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁~152頁)

4章 攻めを生む防御力


・4章は、「攻められた時にどう受けるか」がテーマ。
 攻めと守りは表裏一体のもの。
 碁は碁盤全体に常時攻めと守りの機会が織り交ざっているので、細かい注意が必要。
・自分がどう打つかということだけではなく、相手はどうくるだろうかと予測することも、大切な要素。

・守ることは力をためることでもある。
 正しく守っている石からは厳しく攻めることができる。
 また、守るだけでなく、時には石を捨てることで、有利な状況を作り出すこともできる。
・感覚として、守りの呼吸をつかんでほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、172頁)

弱い石を作るな


・本項のテーマは、「弱い石を作らない」
・弱い石とは何だろうか?
 基本的には、眼がなく、攻められる可能性のある石のことである。
 自分の石が強いのか弱いのかを判断することが、まず最初の一歩。
 自分の石が強ければ手抜きしてもよいのだが、弱いと判断した場合にどう手入れするのかが、大事なポイントになる。
 手の入れ方にもいろいろあるが、なぜそこを守るのかということを考えてほしい。

・「弱い石から動け」という格言がある。
 これは弱い石を強化するためには、そこから動けということを表している。

・相手の石を攻めるためには、まず自分の石を攻められないようにするバランスが大切なので、そこに注意してほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、173頁)
【テーマ図2】(黒番・弱い石から動け)
・白1と、右辺をツメてきたところ。
※この手は白の陣地を広げると同時に、ある狙いを持っている。
 黒は右辺の白地を大きいとみて、消しにいくか。それとも何かほかの手を打つか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、176頁)
入力せよ
【1図】
【2~3図】
【4~5図】
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、176頁~178頁)

4章 攻めを生む防御力

封鎖をされるな


・本項のテーマは、「封鎖をされない」である。
・相手に封鎖されてしまうと、その石の生き死にを心配しなくてはいけなくなる。
・封鎖をされても、死ななければいい? いえ、そうではない。
 多くの場合、無理に生きるためにもがくことは、周囲にさまざまな悪影響を与える。
 だから、眼のない石は中央の広い方に頭を出していくというのが基本。
・今回は、少し方向を間違えてしまうと、相手に封鎖されて苦しくなってしまうケースを集めてみたという。
 封鎖をされる寸前の状態とは、どのようなものかを見極めてほしい。
・なんとなく危機感がない状態でも、相手に打たれると急に脱出できなくなることは、多々あるので、あらかじめ察知する感覚が重要。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、182頁)


【テーマ図2】(黒番・逃げる時は広いほうへ)
・白1とツイだところ。
・黒には2つの懸案がある。
 1つは左上の黒が生きているのかということ。
 もう1つは上辺の黒の安定度。
 この2つを考えて、次の手を選んでほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、185頁)

入力せよ
【1~3図】
【5図】
【6図】
【7図】

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、185頁~188頁)

 捨て石で大胆に動け


・囲碁を始めたときに、誰でも最初に考えるであろうことが、「相手の石を取りたい」ということ。
 石を取ったら有利、取られたら不利と思いがち。
・ところが、上達してくるにしたがって、いらない石は捨てるという考え方を身につけるようになる。
 強くなることで、より大切な石を重視できるようになるということ。
・捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイント。
 助けると重くなってしまい、全体を攻められてしまうような時には、早く見切りをつけ、小さいうちに捨て石として活用すべきである。
 助けて重くなった図と、捨てて可能性を広げる打ち方との差を感じてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、189頁)


【テーマ図3】(黒番・捨て石の連続技)
・白1とノゾいてきたところ。
※この手は黒一子を切り離そうとしているだけではなく、黒三子をまとめて攻める狙いを持っている。
 黒は大胆な構想で、白の狙いを逆用してほしい。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、195頁)
入力せよ
【1図】
【2~3図】

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、195頁~196頁)

手入れで力をためろ


・手入れとは、危険な部分や弱い部分を前もって補強しておく手のこと。
実際に戦いを始める前に、1回力をためる、それが手入れ。
・手入れについては、それが本当に必要なのかどうか、そして必要だとすれば、どう手を戻すのかがポイント。
 本項は、全体的に布石の段階での手入れが、必要な場面を用意したそうだ。

・実戦では、戦いの最中に手を入れるというのは、スピードで遅れてしまうような気がして打ちにくいものである。
 しかし、相手からの攻めが厳しい場合は、きちんと備えておくことが、後から強い反撃に出られることにつながる。
 攻める前には、多少の我慢が必要なこともあろう。

・ある程度読みの力も必要になってくるが、この感覚を身につけてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、197頁)

【テーマ図1】(白番・万全な形で戦いを待つ)~トビマガリ対策
・黒1と白二子に狙いをつけてきたところ。
※左辺の白が弱い石であることはわかるだろう。
 そこで、手を入れるとしたら、どう形を整えるのがいいか、考えよ。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、197頁)
入力せよ
【1~2図】
【3図】
【4図】


<ポイント>
aトビ、bツケコシ、c両ノゾキ 
 反撃狙い スソから攻め、石の強弱の変化(頁)


入力せよ
コラム

5章 戦闘力をみがく


・最終章は、「戦いを楽しむ」というテーマで、攻める力の総仕上げ。
 テーマ図では、実戦に現れそうなさまざまな場面を用意したという。
 戦いの醍醐味の1つに仕掛けのタイミングがある。
 主導権を握ることのできる局面を見極め、また、相手の弱点をつき、よい攻めの方法を見つけてほしい。
・今までやってきたことの総まとめとして、とらえてもらえればありがたい。
 攻めが必要な時は攻め、守りが必要な時は備えという判断を常に正しくしてもらいたい。
 この1冊をマスターすれば、戦いの“碁力”も、ジャンプアップしていることだろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、214頁)

弱い石の狙い方


・本項のテーマは、「弱い石を見つける」
・根拠のない石が弱い石だから、実戦では、相手の石が強いのか、弱いのかを判断できるようになることが、まずは大切な第一歩。
・そして、布石の段階からどのように相手の弱い石を見つけるのか、また見つけたらどう攻めるのかが、次のポイント。
 その際の判断材料としては、周囲にあるお互いの石の強弱や力関係の見極めなど、ここまで本書で学んできたことが、判断をする際のベースになる。
・また、相手の立場になって、次にどう打ちたいかを考えてみるのも、着手を決める大きなヒントになるかもしれない。
 次の一手で石の強弱が変わる、その一歩手前の状態を敏感に察知することが大事。
 チャレンジしてみてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁)

攻めるは守りなり
【テーマ図1】(黒番・攻めるは守りなり)
・白1と左辺を守ったところ。
※白には弱そうな石が二つあるが、本当に弱い石はどれだろうか。
 具体的には、A、B、C。あなたなら、どちらに目をつけるか?




(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁)
入力せよ
【1図】
【2図】
【4図】
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁~217頁)

間合いを図って切れ


・本項のテーマは、「石を切って攻める」。
 石を切るのは、戦いに持ち込むための大切な手段であるが、時と場合に応じていろいろなケースがある。
 本項では、断点を直接切るという部分的な話ではなく、大きな戦いとして石を分断して攻めるということを考えてみよう。

・テーマ図は2つだが、どちらも布石が終わって、中盤の入り口という局面、どこから戦端を開くかを、考えてほしい場面を用意したという。
・正解の仕掛けに気がつくかどうかは、まず周りの石の強弱の判断と読みが大切。
 味方の石が強い時は厳しく切り込んでいく手も成立するし、そうでない時は無理な仕掛けにならないように自重すべきで、そのバランスに注意することが大切。
 線を切って攻める呼吸を感じてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁)


【テーマ図1】(黒番・線を切って戦う)~著者の実戦より
・著者の実戦で、白1とトンできたところ。
 白1は左辺と右上の黒模様を意識した手であるが、少々危険な意味もある。
 黒は積極的に戦いに持ち込んでほしい。
≪棋譜≫223頁、テーマ図

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁)

≪棋譜≫227頁、4~8図

【4図】(線を切る)
・著者が実戦で打ったのは、黒1の打ち込み。
・白2の押しには、黒3のノゾキを利かして、白4のツギに黒5。
・白6にも黒7とコスミ出して、まずは上辺の白のラインを切ることに成功。


【5図】(実戦)
〇実戦の進行をご覧いただこう。
・白は8にツケてサバキを狙う。
・黒9、11に白12とアテ返して、白14とアテるのは形作りの手筋であるが、この場面が黒にとってのチャンス。


【6図】(実戦続き1)
・5図白14のアテに、なんと著者は黒15と切って、大きなコウを仕掛けた。
・普通なら天下コウと言われるほど大きなコウで、黒が無理な打ち方であるが、この碁では、黒17のコウダテが利くのが、黒の自慢。


【7図】(実戦続き2)
・黒19とコウを取り返せば、今度は白にコウダテがないので、黒はこのコウに勝つことができる。
・白は20のツケをコウダテにしたが、黒はかまわず、黒21とコウを解消してしまう。

【8図】(実戦続き3)
※黒がコウを解消し、白は左上の黒二子を取り込んで、大きなフリカワリになったが、右上の黒地が大きくなり、黒に不満がない。
・黒25までの進行は、黒の積極策が成功したといえる。



(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁~227頁)



【テーマ図2】(黒番・切りのテクニック)
・白1とハッて、三角印の白と連絡しているつもりのようだが、本当にそうだろうか?
 白の甘い読みをとがめる強手を出して、有利に戦いを始めてほしい。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、228頁)

【1図】(これなら一局)
・本来なら、白は1のトビが無難だった。
・これなら、黒も2のコスミツケを利かすくらい。
・白も3とハネ一本から白5のコスミツケを利かし、白7のトビに回れば、一応シノいでいる格好。


【2図】(平凡)
・黒1とハネるのは、白aのマゲもあるが、仮に白2のコスミツケでも、単に黒3とノビたのと同じことになる。


【3図】(外切り)
・続いて、黒1には白2、4とポン抜き、黒3、5と打てば、白aには符号順に黒hと石塔シボリの筋で、攻め合い勝ちで、三角印の白二子は取れるが、ポン抜きの損が大きく、黒不満。

【4図】(内切り)
・黒1も白2から6(aも有力)までと生きられ、三角印の白は切り離したが、白b、黒c、白dの味も残って、黒不満。


【5図】(鮮やかな切断)
・黒の正解は、1のケイマ。
※切断の筋はこれが最善。
・黒1に白2なら、黒3とブツカリ、白4には黒5とハッて、完全に白を分断している。
※切って攻めるという目標は、完全に達成した。



【6図】(これも切断)
・黒1のケイマに、白2のオサエなら、黒3と一回押してから、黒5とサガリ。
・白6のワリ込みなら、黒7、9でやはり、きれいに白を分断している。
※黒1のケイマが切断の急所だった。










(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、228頁~230頁)

包囲網を広く敷け


・本項のテーマは、「包囲して攻める」。
・包囲というのは、文字通り包み込んで攻めること。
 地図を見るような感覚で碁盤を見て、広い視野でとらえる攻めの呼吸を感じてほしい。
・本項では、壁を攻めることも考える。
 包囲しての壁攻めと、包囲してカラミ攻めというケースを示したが、実戦ではまったく同じ局面ができるというわけではないので、石の流れを感じて、その感覚をいろいろな局面で応用してほしい。

・周囲の味方の石がしっかりしていることを確認して、包み込んで攻めるというのがどういうことなのか、出来上がった図の雰囲気をみて、「なるほど」と思ってもらえれば十分である。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、232頁)

【テーマ図1】(黒番・壁を重くして攻める)~壁を包囲する攻め
・上辺に白の壁があるが、この壁は厚みと呼ぶには、ちょっと頼りない形をしている。
 黒としては、この壁を攻めてしまいたい。
 それには、まずこの壁を重い形にすることを考える。




(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、232頁)
<ポイント>
・ノゾキが急所の攻め
・二間の薄みをつく(234頁)

入力せよ
【3図】
【4~5図】

根拠を奪う攻め


・最後は、「根拠を脅かす」がテーマ。
 まずは、相手の石の根拠を奪い、完全には生きていない状況に追い込むことで、攻めをより厳しくすることができる。
・根拠を奪うための最初のポイントは、相手の守りの不備を見つけることができるかどうか。
 相手の弱い形に対して敏感になるほど、チャンスをものにする可能性も高くなる。
・「このような形ではこのような攻め方がある」
 この呼吸を覚えてもらえば、実戦でも必ず応用が利くようになる。

・根拠を奪う攻めだけではなく、戦い全体に通じることだが、相手の形を見ただけで、その弱点がピンとくるようになってもらえば、本当にありがたいという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁)


【テーマ図1】(黒番・急所はどこか)~本手も必要
・上辺の白が黒に包囲されているが、白はこの石は大丈夫とみて、下辺を囲ってきた。
 しかし、本当にこの白は大丈夫なのだろうか。
 白の安易な判断をとがめてほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁)

入力せよ
【1図】(本手)
【2~3図】
【4図】
【5図】

【6図】(カド)

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁~241頁)

【補足】石の強弱に注意~山下敬吾『基本手筋事典』より


第4章 形を崩す 第5型 
【第4章 形を崩す 第5型(黒番)】
・形を崩すのと形を整えることは、表裏の関係にある。
 黒が急所を衝くか、白が守るか。
 一手の差で石の強弱が入れ替わる。
※原図は「活碁新評」所載

≪棋譜≫117頁、問題図


≪棋譜≫117頁、1図

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、白の断点をねらった、形を崩す手筋。
・白2と守れば、黒3とトンで、攻めの態勢が整う。
※白は眼形を失い、弱い石になる。
※白番なら、1と守るのが、相場。
 一手の価値があり、強い石となる。

≪棋譜≫117頁、2図

【2図】(変化)
・黒1に白2が手強い抵抗手段だが、この場合は黒3のサガリが強手。
※黒aの躍り出しとbのツケが見合い。
黒bのツケに白cのツギなら、黒dの切りが成立。
 攻め合いは白が勝てない。

≪棋譜≫117頁、3図

【3図】
・白が1図のように攻められるのを嫌うなら、白2のツケも考えられる。
・黒は3のハネ出しから、手順に9まで手厚く封鎖して十分の形。
※なお、黒3で6の下ハネは、白5とノビられて、生きても大損。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、117頁)

【補足】ツケギリと両にらみ~藤沢秀行『基本手筋事典』より


 藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。

<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような図を掲載している。
【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図


【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図


【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。
≪棋譜≫171頁、7図

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)

<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
 より全局的な手筋の運用といえるだろう。

【参考譜26】
≪棋譜≫参考譜26、186頁

第15期NHK杯戦決勝
 白 橋本昌二
 黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。

≪棋譜≫参考図1、186頁

【参考図1】(実戦)
・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。

≪棋譜≫参考図2、186頁

【参考図2】(サバキの筋)

・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)

【補足】中野寛也氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より


・次の著作の「第4章 石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」(196頁~205頁)において、中野寛也氏の実戦譜が載っている。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]

【研究局12】
 黒 片岡聡
 白 中野寛也
・タスキ小目から、ひと隅を黒5とシマリ。
・白は両三々から白6のカカリ。
・黒7で打つ手はいくらでもあるが、このカカリは一種の工夫。
・白8のカケから12までは、こちらの注文の拒否。
※注文通り打って悪いというのではなく、拒否したい気分になった、ということ。
 また、こちらの趣向に対し、趣向し返したいという反発もあったかもしれないという。
・黒13に当然ながら、白も14と反発してきた。
・黒15、17は必然。
・白18のアテを利かされても、この形は隅の白がまだ生きていないのが、黒の自慢。
・白20、22で間に合わせ、やむなく白は24のスベリ。
・黒25とトンで、少なくとも黒互角以上の戦い。

※白12の次の一手をテーマ図としている。
 実戦は、手抜きを咎める黒13と打った。
 打つ場所は、下辺、それも右下隅しか考えられない場面。
 黒7に手を抜いた白の趣向に対し、それを咎めるには、黒13に限る、と著者は解説している。

≪棋譜≫196頁、片岡VS中野

〇変化図として、参考となる図を紹介しておこう。

≪棋譜≫201頁、3図

【3図】(これだけはいけない)
※黒13で、黒1と打つのは、いけない。
 下辺から目をそらすのだけは、いけない。
・黒1、3は大場ではあっても、完全なソッポ。
・白4と受けられると、最初の黒の趣向、三角印の黒が悪手になってしまう。

≪棋譜≫203頁、7図

【7図】(シチョウ)
※黒13で黒1のケイマでも、いけない。
・白2に黒3とオサえられなければ、黒不満。
・しかし、白4と切られて困る。
・黒5、7で黒aのとき、見合えればいいのだが、白8とワタられ、黒aのシチョウが成立しない。

≪棋譜≫203頁、8図

【8図】(白やれる戦い)
・ということで、白のツケ切りに対しては、黒1とノビ、戦っていかざるを得ない。
・しかし、隅の白はすでに生きており、白4にノビられては、実戦とくらべても、黒の苦しい戦い。

≪棋譜≫205頁、10図

【10図】黒6コウ取る(1の右)
・実戦の白18でこの白1のカカエのとき、黒2の切り返しは、ひとつの手筋。
・しかし、このケースでは、白5と切られて、黒が持て余す。
※捨てるには、三角印の黒は大きい。
 手筋も、時と場所をわきまえるべきである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、196頁~205頁)


≪囲碁の攻め~山田規三生氏の場合≫

2024-08-25 18:00:08 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~山田規三生氏の場合≫
(2024年8月25日投稿)
 

【はじめに】


 引き続き、囲碁の攻めについて、山田規三生氏の次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇山田規三生『NHK囲碁シリーズ 山田規三生の超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]

 山田規三生九段は、プロフィールにあるように、攻めを主体とした魅力的な棋風で知られ、「ブンブン丸」の異名をもつプロ棋士である。
 本書の叙述スタイルは、テーマ図を問題形式で出題し、失敗図と正解図を載せ、必ずテーマ図に到る手順図が加えてある。だから、棋譜並べにも役立つ。
 山田氏も、「はしがき」(2頁~3頁)において強調されているように、戦っているときには「攻め」と「守り」があるが、攻める目的は得を図ることである。決して「相手の石を取りにいくことではない」点は肝に銘じておくべきである。
 大切なのは、状況判断である。つまり、石の強弱や周囲の配置を見極めることが大事である。この意味で、「5章 実戦に学ぶ」の中の「薄みをこじあける」(192頁~197頁)、「ちょっとの違いで」(198頁~202頁)は、この本を通読して、もっとも参考になった点である。テーマ図は、24手まで打たれた場面で、黒が一間トビの図あるいは二間トビ(二間ビラキ)+ケイマで打った以外は、全く同じ石の配置なのに、攻めや守りの打ち方が大きく変わってくることを実例を通して学べる。一路違いは大違いになる例である。
 そして、石の強弱に関連して言えば、1章の「弱い石を作って攻める」(19頁~23頁)、「弱いほうの石から攻める」(56頁~62頁)、3章の「厚みの判断」(111頁~114頁、とくに114頁の「弱い石に手をかける」)が参考になる。
 また、攻めのテクニック習得という点では、2章の「戦いの常用手段」(99頁~104頁)、3章の「利かした石は捨ててもいい」(142頁~146頁)が勉強になる。
 また、本書の目次を見てもわかるように、「4章 モタレ攻めの極意」とあり、1つの章をモタレ攻めの解説に当てられており、モタレ攻めについて本腰を入れて習得したい人にとっては、有用であろう。
 そして、プロ棋士の実戦譜が、テーマ図として取り上げられている。
●1章の「弱いほうの石から攻める」(56頁~62頁)
 ➡桑原陽子五段(黒番)VS小林泉美六段
●5章の「反撃の好機」(203頁~207頁)
 ➡高尾紳路本因坊(当時、黒番)VS山田規三生九段
 (黒番は低い中国流の布石)

※ブログの【補足】として、サバキとシノギについて触れておく。
 サバキとシノギについては、山田氏の著作でも、1章の「サバキを封じる急所」(33頁~39頁)や、4章の「モタれてシノぐ」(160頁~165頁)で言及されていた。
 ここでは、誰でも参照しやすいYou Tubeにアップされた、清成哲也九段の囲碁学校の講義より、実戦型について紹介しておきたい。
 格言にあるように、「サバキはツケ」とされるが、サバキとシノギの違いの一つとして、石が多くなるとサバけなくなると、ポイントを指摘しておられる。

【山田規三生(やまだ・きみお)氏のプロフィール】
・1972(昭和47)年生まれ。大阪市出身。山下順源七段門下。
・1989年入段。1997年新人王獲得。同年王座を獲得し、日本棋院関西総本部に初のビッグタイトルをもたらす。
・2006年本因坊戦挑戦者。
※攻めを主体とした魅力的な棋風で、ブンブン丸の異名をもつ。
・趣味は楽しいお酒。





〇山田規三生『NHK囲碁シリーズ 山田規三生の超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
1章 厚みを生かせ
 厚みは戦ってこそ
 周囲の状況を見極めて
 シチョウ回避のテクニック
 弱い石を作って攻める
 強気で突破
 うわ手でもスキがある
 サバキを封じる急所
 攻めて得をする
 勢力圏では厳しく
 簡単に治まらせない
 弱いほうの石から攻める
 急所に一撃

2章 模様を荒らす
 孤立させて攻める
 正しい方向とは
 相手のスキを見つける
 攻めの効果を実感
 「深く」か「浅く」か
 戦いの常用手段

3章 かわして戦う
 どちらがいい?
 厚みの判断
 ツメの方向
 模様比べ
 戦うか、かわすか
 まともに戦わない
 捨てる発想
 利かした石は捨ててもいい

4章 モタレ攻めの極意
 直接攻めない
 攻める石の遠くから
 モタれてシノぐ
 攻めながら逃げる
 ツケてモタれる
 ツケて固めていいとき

5章 実戦に学ぶ
 チャンスをつかめ
 薄みをこじあける
 ちょっとの違いで
 反撃の好機
 強烈なねらい
 攻める気持ちで
 風変わり




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき
・1章 厚みを生かせ
・厚みは戦ってこそ
・シチョウ回避のテクニック~中国流の布石より
・弱いほうの石から攻める
・正しい方向とは~両ガカリ定石より
・戦いの常用手段~トビマガリへの対策
・3章 かわして戦う
・どちらがいい?~ワリ打ちの場合
・厚みの判断~ワリ打ちの場合
・戦うか、かわすか~打ち込みの場合
・利かした石は捨ててもいい~ミニ中国流の布石より
・4章 モタレ攻めの極意
・直接攻めない~モタレ攻め
・モタれてシノぐ
・5章 実戦に学ぶ
・薄みをこじあける~トビマガリの場合
・ちょっとの違いで
・反撃の好機~高尾本因坊VS山田九段の対局より
・【補足】サバキとシノギ~You Tube清成哲也九段の講義より
(囲碁学校「戦いの百科 第9巻 サバキとシノギの技術」(2016年5月15日付))
・【補足】ツケ切りのサバキ形~石田芳夫『基本定石事典』より

※タイトルのあとの副題は、私が加筆してみた




はしがき


・囲碁の醍醐味は戦いにある、と著者はいう。
 戦いが強くなれば、勝率アップすることができるとする。
 しかし、やみくもに切った張ったで戦えばよい、というものでもない。
・まず、戦いを起こすタイミングが大事。
 石の強弱や周囲の配置などを見極めて、チャンスをつかまえられるように、ポイントを解説している。
(タイミングさえ間違えなければ、戦いを有利に運んでいく事が出来る)
〇戦っているときには、「攻め」と「守り」がある。
・攻める目的は、得を図ることである。
 相手の石を取りにいくことではない。
 自陣が厚くなったり、地が固まったり、相手の地が減るような展開になれば、成功。
※攻めを成功させるため、方向や眼形の急所なども、具体例を出して、解説している。

・一方、守るときのコツも考えている。
 自分の立場が弱くなり、シノギを考えるときの、良い打開策も伝授している。

〇最後には、著者の実戦譜を題材にしているので、生きた碁のおもしろさを味わってほしいという。

※大切なのは、状況判断。
 同じ碁はないから、考え方や流れ、呼吸の特徴をつかんで、考え方を身につけるよう、心がけてほしいとする。

(なお、本書は、2006年10月から2007年3月までの半年間、「NHK囲碁の時間」で放送したものを、さらにわかりやすくまとめたものである)
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、2頁~3頁)

1章 厚みを生かせ


・この章では、自分の強いところでの戦い方を伝授している。
 自分の模様の中に打ち込まれたとき、楽に生かしては、相手の思うツボ。
 根こそぎ攻めることをまず考える。
 そのためには、眼形を奪う急所を心得て、味方の厚い方へ追い立てるのが、良い考え方。
・また、さして悪い手を打っていないはずなのに、非勢になっていることはないだろうか?
 原因のひとつに、「利かされ」がある。
 利かされては、いけない。まず逆襲することを考えること。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、7頁)

厚みは戦ってこそ


【テーマ図A】(黒番)
・白が三角印の白とツケてきた。
・白の目的は何かを考えると、黒の進むべき道が見えてくる。
 どう打てばいいだろうか。
※ヒントは、厚みは攻めに使うと有効、ということ。
●厚みを地にするな



【手順図】(1~22)
・白8のカカリから、黒19まで。
※黒は後手ながら、厚い形の定石。


≪棋譜≫11頁、3~6図

【3図】(正解)
・黒1とハネ出すのが、最強の反撃。
・白2の切りには、黒3からアテるのが、さらに厳しい手段。
・白4と逃げさせ、重くしてから、黒5とソイ、全体に襲いかかる。




【4図】
・白6のハネには、黒は7といったん下から受けるのが冷静で、9とノビ切って、力を蓄える。

【5図】
・白12のカカエに、黒は13、15とノビて、17にトビ。



【6図】
・白から先にaにスベられるのは大きいので、黒19は重要な利かし。
・黒23まで、下辺が立派な模様になりつつあり、黒が大成功。

(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、8頁~11頁)


シチョウ回避のテクニック



シチョウ回避のテクニック
【テーマ図C(黒番)】
白が三角印の白にツケてきた。
ここのがんばり次第で、黒はペースをつかめるかどうかが、かかっている。
さあ、作戦の岐路。
右辺から下辺にかけては、黒の勢力圏。
白に楽をさせてはつまらない。
気合い負けしない次の一手とは、どこか。



【手順図(1~14)】
・黒は、9、11と下辺方面を占め、模様を広げていった。
・白は14とツケてサバキにきている。




【1図】
・黒1の下ハネには、白2に切られる好手が待っている。
・白8まで軽い形で、サバいた白に軍配があがる。
・黒9の切りには、三角印の白を捨て石に白10、12と丸めこんで、白大成功。


【2図】
・黒1とハネ出してから、3と引くのは、白4とシチョウにカカえられて、大損。




【3図】(正解)
・黒1とハネ出したあと、3と上からアテるのが、シチョウ関係を黒有利にするテクニック。
・ここで黒5と引く。
・白6の切りには、黒7と逃げることができるのが、3の効果。
・白は8と黒一子をカカえて、右辺で生きをはかる。
・黒9のアテを決めてから、11と二子の頭を気持ちよくタタく。
※下辺の黒模様の谷が深くなって、黒が成功。



(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、16頁~18頁)

 弱いほうの石から攻める~桑原五段と小林六段の対局より


【テーマ図K】(黒番)
≪棋譜≫56頁、テーマ図

・今回の題材は、桑原陽子五段(黒番)と小林泉美六段の一局。
・白が三角印の白に打ち込んできた。左上一帯は黒模様。
 ここで威張らせてはいけない。
・黒はいかに攻め、どうやって得を図るべきか?
●消しや荒らしは模様完成直前に

≪棋譜≫57頁、手順図

【手順図】(1~34)
・白18では19がふつうであるが、26まで工夫がみられる。
・黒も先手で生きたことに満足。
・しっかり準備をして、白は34と打ち込んだ。

≪棋譜≫62頁、10図

【10図】これが正解!
・黒1のコスミツケが厳しい攻め。
・白2のトビなら、黒は3とかさにかかる。
※黒の石、左上と上辺を比べてみよう。
 どちらが弱いか? 石の強弱は眼形があるかないか、生きているか、まだ生きていないかで判断する。
 すると、上辺のほうが不安定で、弱そう。
●攻めるときには、弱いほうの石から動くのが、コツ。
(弱い石から動こう)

・白4には、黒5のツメがまた名調子。
※黒6からの出切りをねらっている。
・黒9まで、白は根無し草状態で、黒が勝勢。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、56頁~62頁)

2章

正しい方向とは


【テーマ図B】(白番)
≪棋譜≫75頁、テーマ図

・黒が三角印の黒とケイマに構えた。
・右上を中心に、黒模様が着々と築かれている。
・白としては、もうそろそろ荒らすタイミング。
・白はAとBどちらから、カカるのが良いか?

≪棋譜≫76頁、手順図

【手順図】(1~25)
・黒9のハサミに白10と両ガカリして、定石が始まった。
・白18まで白が実利を占め、黒が厚みをとったワカレとなった。

≪棋譜≫77頁、2図

【2図】(正解)
・白1と上辺のほうからカカるのが正しい方向。
・黒が2とコスミツケれば、白5が二立三析の好形の上、三角印の黒の弱点をついている。
・次にaにスベリ込まれてはたまらないので、黒は6とコスミツケ。
・白9までふっくらとした治まり形を得ては、白大成功。
●厚みに近寄るな
●相手の弱点をついてサバく
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、75頁~77頁)

戦いの常用手段


【テーマ図F】(白番)
≪棋譜≫99頁、テーマ図

・布石が終わり、全体的に落ち着いた場面。
・自分の弱い石がないか確かめたら、相手の弱い石を見つけて、打込んだり攻めたりする。
・ここで三角印の白に打ち込むのは、好点である。
☆三角印の黒と封鎖されたときの対応を考えていこう。
〇ここは少々テクニックが必要。この形はよく出てくるので、覚えておくと役に立つ。

≪棋譜≫100頁、手順図

【手順図(1~31)】
・黒17から白26まで定石ができあがった。
・黒も27とヒラいて落ち着いている。

≪棋譜≫100頁、1~2図

【1図】
・白1とツケてワタれればいいのだが、三角印の黒のマガリトビの形は、ツナガることができない。
・まず黒に、2、4と反発される。

【2図】
・白は9とツイで手を戻さざるを得ない。
・黒10にカカえられては12まで、白は生還できなかった。
※左下が大きな確定地になっては大損。


≪棋譜≫102頁、3~5図

【3図】(正解)
・まず白1と一本利かす。
・黒2と交換したあと、それから白3にツケるのが巧い。
・黒4のオサエには、白5とコスんでノゾくのが、絶妙のタイミングの手筋。
※この形も実戦でたいへんよく現れるので、この機会にしっかり身につけてもらいたい。

【4図】
・黒が6とツイだときに、白7と引くのが、またまた巧い手順。

【5図】
・白9、11と出切り。
・黒が12と一子を助けると、白13から17まで、下辺の黒の要石を取ることができる。
➡黒はツブレ
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、99頁~104頁)

3章 かわして戦う


・自分の強い場所でなら、戦い、戦いで良いのだが、相手の強い場所では、まともに戦うよりも、サバいたり、かわしたりするのが、いい場合が多い。
・全局を見て、どの石が強いのか弱いのかを考え、判断するのが肝要。
・まず最初に、強いか弱いかの見分け方から、解説していこう。

どちらがいい?


【テーマ図A(白番)】
≪棋譜≫106頁、テーマ図

☆黒が三角印の黒(3, 九)とワリ打ちした場面。
 ここはすぐツメたいところであるが、AとB、どちらがいいか?

≪棋譜≫107頁、手順図

【手順図(1~17)】
・左辺の模様を気にした黒が17とワリ打ってきた。
・白はすぐツメることで、形勢をリードすることができる。
※どちらからツメるかで、運命が大きく違ってくる。

≪棋譜≫109頁、2~3図

【2図】(正解)
・左上にカカらせないためにも、白1からツメ。
・黒2とヒラかせ、さらに白3とケイマして、白の厚みに押しつけるのがよい。
●厚みに近寄るな
※相手の厚みだけでなく、自分の厚みにも近寄るのはよくない。

【3図】
・続いて、黒6のトビには、白7といったんは中央に顔を出す。
・黒に8と地を与える損は、気にとめる必要はない。
※左辺の黒を攻めることを第一に考えよう。
・白9、11と左上を盛り上げていく。
➡白成功の布石
●序盤では、地よりも石の強弱に気をつけよう

≪棋譜≫110頁、5~7図

【5図】
・白3とアオったときに、黒4の急所を衝かれるのは心配だが、弱気になって白6などツイではいけない。
・断固、白5と包囲する一手。
【6図】
・黒6の切りには、白7のアテから生きることができる。
【7図】
・白は15まで生き、黒も16までと生きるが、きゅうくつで仕方ない。
・先手で白17にまわって、白十分。
(山田規三生超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、106頁~110頁)

厚みの判断


【テーマ図B(白番)】
☆左辺は黒が楽をした。
 今度は白が、下辺に三角印の白(11, 十七)とワリ打ちをしてきた。
 ここは手を抜けないところ。
 黒はAとB、どちらからのツメを選ぶか?
※厚みをどう判断するかがポイント。

【1図】
・「厚みに近寄るな」の格言があるから、黒1の大ゲイマを選んだ人が多かったかもしれない。
・ところが、白4のスベリから6とブツカられてみると、左下の黒は、眼形がはっきりしない。
※眼形がないと厚みではない。

【5図】(正解)
・白aと眼形をおびやかされずにすむ、黒1からのツメが正しい方向。
※石は常に、弱い石のほうに手をかけてあげることが鉄則。
 特に左下の黒は、石数が多いわりには、まだ眼形がはっきりしないので、守るのが急務。
・黒1は逃せない。
・白も2とヒラキ。
・黒3のコスミツケ一本で、白を凝り形にさせて、5のケイマまでが相場。
●弱い石に手をかける
(山田規三生超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、111頁~114頁)

戦うか、かわすか


【テーマ図E】(黒番)
・3、4線のヒラキが終わり、そろそろ戦いが始まりそうな局面。
・白が三角印の白と打ち込んできた。
 どう対応するか。
 周囲の状況をよく見て、判断してほしい。

【手順図】(1~22)
・黒9には、白10と守っておく。
・黒13のワリ打ちには、白12が4線にあるので、白は14からツメた。
・黒17はヒラキの限度。これ以上、左上に近づくと反撃される。
・白はいったん18とツメた。
・黒19から21で、左下の定形が完成。


≪棋譜≫124頁、1~3図

【1図】
・黒1のトビは、自然に見える。
・しかし、白2のツケがうまいおまじない。
・白4のツケで連絡される。


【2図】
・黒5のハネ出しには、三角印の白(18, 九)を捨て石に、白8、10と突き抜かれる。
・黒11の切りには、白12が厚い良い手。


【3図】
・黒19まで、右辺上の白を捨てても、三角印の黒(15, 九)を切り離した白が、大満足のワカレ。

【10図】(正解1)
・白の打ち込みには、黒1のコスミが、断固ワタらせないのが大切。
※右辺下の白はまだ弱い。
・白は2とツケて、4と中央に逃げていくのがよく、相場。
・しかし、黒7、9の両方を打てては、右辺の白がふたつとも不安定で、黒のペース。


【11図】(正解2)
・黒1と逆にコスむのも、考えられる。
※右辺下の白がまだ弱い姿で、攻めが効くのが、ポイント。
 三角印の黒をしっかり逃げることで、白を分断し、「絡み攻め」に持って行くことが、肝要。
・黒3が厚い押し。
・黒7の要所を占めた上、9と厚くトンで、黒が好調。
※右辺の白はふたつともまだ完全に治まっておらず、攻めが効く。
 黒の楽しみが多い。
(山田規三生超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、122頁~127頁)

3章 かわして戦う

利かした石は捨ててもいい


・白が三角印の白に打ち込んできた。
 左下にある黒の三子をどうするかを、中心に考えていこう。
 局面の流れを、次の一手が決める。


【テーマ図1】(黒番)


【手順図(1~20)】
・黒1、5、7と、流行のミニ中国流の布石。
・対して、白は8とワリ打ちするのがもっともポピュラー。
・黒17と一間ジマリのタイミングで、白は18とサガって、大ナダレ定石にならないよう備えた。
・黒19のヒラキに、白がすぐ20と打ち込んだのが、テーマ図。
 どう対応するのが、いいのだろうか?


≪棋譜≫144頁、1~3図

【1図】
・黒1は部分的には形。
・白2のトビには、黒3とトンで、頭を出す。


【2図】
・黒5まで、黒は厚い形になったが、左辺の白はがちがちに強く、攻めることはできない。
※厚みは攻めてこそ働く。
 ●働く場所ばあってこその厚み

【3図】
・それに引きかえ、白は6のカカリから8とかぶせて、攻めに転じることができる。
※白の打ちやすい局面。


≪棋譜≫144頁、4~6図

【4図】これが正解!
・黒1とケイマして、左下の黒三子を軽く見るのが、明るい打ち方。
※黒三子は利かした石で、強い白にへばりついている廃石とみることもできる。
 場合によっては捨ててもいいと考えよう。
●利かした石は捨ててもいい。

・白2の受けは絶対。
※黒は一転、右辺の白二間ビラキに焦点をあてる。
・黒3、5は模様拡大の常用手段。


【5図】
・白が6、8とワリツいできたら、黒は9と引く。
・白10の切りには、黒11と黙ってノビるのが肝心。



【6図】
・白は手を抜いて、黒12と眼を奪われるとつらいので、12とナラんで生きるのが本手。
・そこで黒は13と模様に芯をいれれば、右下から中央にかけての大模様が現実味を帯びて、光り輝いてきた。黒の楽しみな形勢。

●模様には、芯を入れる。


(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、142頁~146頁)

4章 モタレ攻めの極意


・ねらいを定めた石を直接追いかけたり、攻めたりしても逃げられるだけで、何も得るものがなかった、なんてことはよくある。
 ここでは「からめ手」から攻める高等技術、「モタレ攻め」を伝授するという。
攻撃を厳しく成果あるものにする。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、147頁)

直接攻めない


【テーマ図A(黒番)】
≪棋譜≫148頁、テーマ図

・下辺にある黒模様を消そうと、白は△の白に臨んできた。
・△の白は良い手ではない。
・状況をよく判断して、△の白をどう悪手にするかを考えよ。

≪棋譜≫149頁、手順図

【手順図(1~36)】白26ツグ(19)
・黒13ノビに、白14と押す定石を選んだ。
・黒はすぐ15と出て、17と隅に近い方を切るのが、この形の急所。
・黒29ツギまでが定石。

・黒33のトビは絶好点。
・すぐ白34とコスミツけて、黒35のサガリとかわっておくのが、タイミング。
・白36に臨み、テーマ図の場面である。


≪棋譜≫150頁、1~3図

【1図】
・黒1とボウシで攻めるのは、白2と連絡を目指されて、うまく行かない。

【2図】
・白はいかにも薄そうで、黒3から5とブツカリ、7のハネ出しで、分断されそうにみえる。
・白8の切りに……。

【3図】
・黒9の切りから11とオサえ、13と三々にトンで、左下の白数子を包囲しにいく。
・けれども、白14のワリ込みがうまい手筋。
・白16で種石の黒二子が落ちては、黒が破綻している状態。
⇒これは黒が失敗。

≪棋譜≫151頁、4図

【4図】
・黒1と迫ると、白は2とトンで逃げる。
・白4まで。
※ただ逃がしただけでは、黒に得るものがない。
 攻めたら得をはかることが大切で、これも大失敗。

≪棋譜≫151頁、5図

【5図】
・下辺の模様を地にしようとすると、黒は1と囲いたくなる。
・黒5と囲のでは9まで。
※できた地は40目に満たず、一方地では小さい。
 左上方面に向かう白がこんなに豊かになっては、黒劣勢。

≪棋譜≫153頁、6~7図

【6図】(正解)
・黒1の肩ツキを思いついた人は、攻めのセンスがある。
※黒1は全局的で、すばらしく厚い手である。

※攻める目標は、三角印の白である。
 それをにらみながら、他の石にモタれていくのが、攻めの常とう手段。
●モタれて攻めよう
 直接攻めてうまくいかないことのほうが、実は多い。
 相手の周囲の石の近くからプレッシャーをかけるのが、巧い作戦。
 ここで攻めの下地を作ることができる。

【7図】
・白が2からまともに受けるのは、むさぼりである。
・白6まで稼がれるが、黒7のボウシで、大きく攻めることができる。
※白の逃げ道をふさいで、相当いじめがききそうである。
 白は逃げようにも目指す右上が遠くてたいへん。
 黒が大いに優勢。

≪棋譜≫153頁、8図

【8図】
・白が2とハザマをついて反撃してきたら、黒3と出て、大丈夫。
・白は4と連絡するほかなく、黒5とハネては、左辺白の傷みが激しく、白が大損。

≪棋譜≫154頁、9図

【9図】
・白2の押し上げから、4のスベリもよくある形。
・しかし、黒5がバランスのよい手で、白6には黒7、9と連絡する形があり、好調の流れに乗ることができる。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、148頁~154頁)

4章 モタレ攻めの極意

モタれてシノぐ


【テーマ図C(黒番)】
☆白が三角形印の白(3, 十四)とケイマした場面。実は、現在大切なのは上辺方面。
 黒はどこにねらいを定めるのが良いか?
 白が左辺に向かったので、黒は上辺の不備をつきたいところ。

【手順図(1~26)】
・黒19までできた姿は、黒、低いけれども、がっちり堅い形である。
・黒25のケイマは、左下へのカカリと上辺白模様への仕掛けを見合いにした好手。


【1図】(もうけは小さい)
・黒1に切れば、5まで白一子を取り込んで、隅を地にすることができる。
・しかし、白も6となっては、上辺が厚くなった。
 この取引は、黒大損。


【2図】
・黒1のノゾキから3とハイ、5と広げれば、9まで、
 眼形は簡単にできる。
・しかし、白10まで立派な形に整えられては、黒はせっかくのチャンスを逃している。
※これでは超攻撃法とはいえない。



【3図】
・黒1ケイマの攻めには、白2の肩ツキがうまい反撃。
・黒3には白4のオサエがぴったりで、黒は逃げられない。





【4図】
・黒1のケイマでは、白2とトバれて、黒のほうが弱い立場になり、攻めにはならない。
・黒3には、白4と落ち着いて受けられ、aのノゾキがねらわれる。
※自ら攻められる目標を作っただけでは、大失敗といえる。



【5図】
・上辺の右側に黒1と打ち込むのも魅力的であるが、白に2とトバれ、4と左上を守られる。
 三角印の白(14, 四)は軽いのである。
・いったんは捨てたふりをして、隙あらばaにツケたり、bにスベったりの値切りをねらわれる。





【6図】正解
・黒1と肩をついて、モタれながら動くのが絶好。
・白2の押し上げには、黒3とノビ、白4のトビには、黒5のマゲとあくまで上辺にモタれていくことが大切。
・白が6にハネて8にノビると、黒9のカケがぴったり。
※もし左上の白に生きられても、周りの黒は鉄壁。
 全局を圧倒している。
※ターゲットの石の近くにモタれるのが、うまい攻め。




【7図】(正解変化1)
・黒5のマゲに白が6とコスんで逃げたら、黒は7とケイマで上辺を攻める。
・白が8、10とツケ切っても、黒は11のブツカリがよく、13と突き破っては、黒断然よしの形勢。






【8図】(正解変化2)
・黒1の肩ツキに、白2と一本ハウのはがんばった応手。
・黒7から9のカケツギが厚く良い手。
・黒11までのしっかりした形と比べて、白が弱々しく、黒有利な形勢。



(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、160頁~165頁)

5章 実戦に学ぶ
 薄みをこじあける

薄みをこじあける


【テーマ図B(黒番)】
≪棋譜≫192頁、テーマ図

・白が左上へ打ち込まれないよう、三角印の白と守った場面。
・こんな序盤でも、チャンスはあるもの。
 さて、黒はどこに打つか?


【手順図】(1~24)
≪棋譜≫193頁、手順図

・左下で白が6から10とツケ引き定石を選んだので、白は実利、黒は外勢という骨格。
・下辺の厚みを生かそうと、黒は13とハサんでいく。
・黒21のトビマガリは良い形。
・白22のナラビはお互いの急所で、逃すことはできない。
※逆に、黒に22とツケられると、黒が安定してしまう。

≪棋譜≫196頁、5~6図

【5図】(正解)
・右上の白の一団が弱い今が、攻めるチャンス。
※三角印の白の二間が薄いのに気がついただろうか。
・黒1のノゾキから3と躍り出して、こじあけるすごい手段がある。
・白4、6の出切りに、黒7と白のダメをつめながら整形するのが肝心。
・白8のノビは絶対。
※右上からの白の一団と、白4、三角印の白二子を比べて、どちらが強いかを判断する。
・そして、黒9と強いほうに押すのが、戦いのときの鉄則。
●攻めたい石の逆を押す

【6図】
・上辺の黒は眼形が豊富なので、白がきても、びくともしない。
・白が14とノビたときが、またチャンス。
・黒15と切れば、白はまだ眼形を持っていない弱い石だらけ。
※白収拾不能。
 黒が主導権を握ることができた。

(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、192頁~197頁)

ちょっとの違いで


【テーマ図C(黒番)】
≪棋譜≫198頁、テーマ図

・テーマ図のBと、三角印の黒の二子の配置が変わっている。
 その少しの違いで、黒の打ち方が大きく変わってくる。
・さて、黒はどのような考え方で臨めばよいだろうか。
 一路違いは大違いというが、攻めや守りの手段は、お互いの石の配置によって変化する。
 白の反撃手段も考えながら、適切な次の一手を求めよ。

≪棋譜≫199頁、1図

【1図】
・テーマ図Bと同じように、黒1、3と裂いていくのはどうだろうか。
・白は4と押してくる。
・黒5なら、三角印の白を制することが出来るが、白6とタタかれてしまい、黒大変。
※白の一団はとても強くなって、右辺の三角印の黒が働きのない石となる。
 また、下辺の黒模様も一気に薄くなってしまう。
 いくら三角印の白を制しても、こんなに損をしては、黒が悪い。


【2図】
・黒はタタかれてはいけないので、黒1とノビると、白2、4と反撃される。

【3図】
・黒1とマゲれば、ゲタを防げる。
・しかし、白2のトビが好手。
※ねらっている石から遠いほうにトブのがコツ。
 白がaのゲタで取るのをねらっているから、黒3とノビることになるが、白4まで、白に分がある。

≪棋譜≫201頁、6図

【6図】(正解)
※三角印の黒の構えは、テーマ図Bの一間トビのときと比べ、aの押しが利くので、中央での戦いになると、うまくいかない。
・そこで、黒1と好点を占めて、白2と誘って、調子で黒3と守っておくことが大事。

≪棋譜≫202頁、7~8図

【7図】
・白1の両ノゾキから5の切りには、黒6としっかりとツイで、戦う準備をする。
【8図】
・次の一手は黒8のツケに限る。
・白が9とハネると、黒10、12で、種石が取れる。

【9図】
・白は1とノビるしかない。
・しかし、黒6、白7に黒8と切れば、白の姿はダメ詰まり。
※白参っている。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、198頁~202頁)

【補足】小目の定石~一間高ガカリ・二間高バサミ


小目の定石で一間高ガカリ・二間高バサミは、「薄みをこじあける」のテーマ図B(192頁)と「ちょっとの違い」のテーマ図C(198頁)の右上隅に出てくる。
 手順図(193頁)でいえば、黒1、白12~白18までの定石である。
 この点について、石田芳夫『基本定石事典(上)小目の部』(日本棋院)を参考に補足しておきたい。
8 二間高バサミ
【基本図】
≪棋譜≫416頁、基本図

・黒1と二間に高くハサむのは、比較的新しい手である。
※白の打ち方によっては、険しい変化を生じることから、「村正の妖刀」という呼び名がある。

①一間トビ
【2図】(簡明)
≪棋譜≫417頁、2図

・白1と一間にトベば、何よりも分かりやすく、複雑な変化はすべて避けることができる。
・黒2のトビに、なお白は3、4のトビを加えて、5とハサむ。
※白3を打たないと、黒から4の左へのケイマが好形となる。

【3図】(互角)
≪棋譜≫417頁、3図

・白1に黒2と二間にヒラくのは、白3に4と、右辺を盛り上げようとの意図である。
・やはり白は5とハサむ。
※白3は一路右にカケるのもあろう。
(石田芳夫『基本定石事典(上)小目の部』日本棋院、1996年[2002年版]、416頁~417頁)


反撃の好機~高尾本因坊VS山田九段の対局より


〇高尾紳路本因坊(当時)と著者・山田規三生九段の白番の一局を見てみよう。
【テーマ図D(白番)】
≪棋譜≫203頁、テーマ図

・高尾さんが黒1といっぱいに迫ってきたところ。
 白は守るべきだろうか。それとも攻めるべきだろうか。
※中盤戦入り口の関所。ここで、著者はどう打ったのだろうか。

≪棋譜≫204頁、手順図

【手順図】(1~21)
・黒11と狭く、高くヒラいたのが、趣向の一手。
・白に右上星にカカるのに、右辺からではなく、上辺からカカらせようという作戦。
・黒13、白14が白を窮屈にさせる交換。
・さて、黒21といっぱいに迫ってきた。
 どう考えるか。

【テーマ図D(白番)の候補手】
≪棋譜≫候補手、A~E

☆著者は、A~Eの候補手を挙げて、検討している。
A:コスミ
B:左辺へのツケ
C:上辺へのツケ
D:コスミ
E:ツメ
※このうち、Eが正解とする。下辺の模様から、ヒラキとツメを兼ねる手である。

≪棋譜≫206頁、5図

【5図】(正解)
・下辺の模様から、白1とヒラキとツメを兼ねるのが正解。
※上辺だけを見れば黒が強く見えるが、下辺方面を見れば、白のほうが強いので、十分戦うことの出来る局面。
➡まず、反発するところから、始まる。
 黒に楽をさせないという気持が大切。

≪棋譜≫207頁、6図

【6図】
・黒1と根拠を奪う攻めには、白2のツケ一本で強くしてから、白4とたたみかける。
・白10までとなれば、白厚くてやれる。

≪棋譜≫207頁、7図

【7図】
・黒1のコスミから、左上白を封鎖にきた。
・白は、生きを目指して、白6までしっかりと生きる。
※正解図白1とツメることで、相手の出方をきいてから、自分の打ち方を決めたという。

≪棋譜≫207頁、8図

【8図】
・前図白6で手を抜くと、黒1のハイが厳しくなる。
・白2、4のハネツギは、黒7まで死に。
※白2では7とコスんで、黒a、白6と生きるくらいだが、とてもつらい。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、203頁~207頁)


【補足】サバキとシノギ~You Tube清成哲也九段の講義より


【補足】サバキとシノギ~You Tube清成哲也九段の講義より
(囲碁学校「戦いの百科 第9巻 サバキとシノギの技術」(2016年5月15日付))

※ブログの【補足】として、サバキとシノギについて触れておく。
 サバキとシノギについては、山田氏の著作でも、1章の「サバキを封じる急所」(33頁~39頁)や、4章の「モタれてシノぐ」(160頁~165頁)で言及されていた。
 ここでは、誰でも参照しやすいYou Tubeにアップされた、清成哲也九段の囲碁学校の講義より、実戦型について紹介しておきたい。

<シノギの形>
〇左辺において、次の白の手順に注目すると、ツケノビ、ツケヒキ、一間トビは、生きを図る打ち方で、シノギの打ち方であるという。
・白22+白24➡ツケノビ
・白26+白28➡ツケヒキ
・白30➡一間トビ
≪棋譜≫清成、実戦のシノギ


<サバキの形>
〇先の図の白22のツケ+すぐに白24ツケ+白26切り(つまりツケ切り)
➡つまり、白は、ツケにすぐにツケ切りをするのが、サバキのコツという。
≪棋譜≫清成、実戦のサバキ1


<サバキの形~振り替わり>
〇ツケ切り後の変化~振り替わりの場合
 白は左辺で生きるのではなく、白二子を捨てて、左下で得をはかる。
≪棋譜≫清成、実戦のサバキ2


【補足】ツケ切りのサバキ形~石田芳夫『基本定石事典』より


〇ツケ切りのサバキ形について、石田芳夫『基本定石事典』より、実戦譜を補足しておきたい。
・定石としては、小目・一間高ガカリ・二間高バサミである。
【参考譜124】
〇第28期十段戦1回戦
 白 長谷川直
 黒 武宮正樹
≪棋譜≫参考譜124、419頁

・黒2のトビに白3と受け、黒を中に追い立てたところで、白は右辺5の大場に回った。
・黒6は好形。
※上辺の白が薄いため、黒の薄みをとがめられない。
・白7のシマリに、黒は8とハサんで、左上の勢力を働かせた。
・白9は隅を守り、左辺に、白a、黒b、白cのサバキ形を作る。
(石田芳夫『基本定石事典(上)小目の部』日本棋院、1996年[2002年版]、419頁)

【補足】山田規三生氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


 山田規三生氏の実戦譜から、次の文献を参考に、サバキの例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年

<小目タスキ>【参考譜】
②1999年 加藤正夫-山田規三生 (298頁)
第18型 【参考譜】
1999年 第47期王座戦本戦
白七段 山田規三生
黒九段 加藤正夫

【参考譜】(1-56)
≪棋譜≫298頁、参考譜

・白10のカケに黒11、13と出切り、白14のツケ以下18までは、代表的な定石。
・黒19のカカリに、白は手を抜いて、20のカカリから22とヒラいた。
・黒21のシマリでは、下記のような変化もある。
・黒27以下37は常套の封鎖手段。

※依田氏は、黒21のシマリについて、次のようなサバキの変化図を示している。
≪棋譜≫299頁、2図

【2図】(サバキ・1)
・前図の黒21のシマリで、黒1のハサミなら、白2のツケがサバキの筋。
・黒3に白4以下10となる。
・続いて、黒aと押し、白b、黒cなら自然。

≪棋譜≫299頁、3図

【3図】(サバキ・2)~ツケ切り
・前図の黒3で黒1のハネは、白2の切り以下の定石に戻り、これも白サバキ。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、298頁~299頁)






≪囲碁の攻め~マイケル・レドモンド氏の場合≫

2024-08-18 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~マイケル・レドモンド氏の場合≫
(2024年8月19日投稿)

【はじめに】


 先日、8月11日、パリ五輪の幕が閉じた。
 その閉会式において、大会組織委員会のトニー・エスタンゲ会長は、「我々は世界が見たことがないような五輪を経験した」と誇った。「フランスは文句ばかりの国民と言われますが、一丸となって声援を送り……」と笑顔で語った。
 また、IOCのトーマス・バッハ会長は、「センセーショナルな五輪、あえていえば、“セーヌ”セーショナルな大会だった」と話した。開会式で船上パレードを行ったセーヌ川にかけたものだったようだ。
 また、トム・クルーズが、フランス競技場の屋根上から登場し、ワイヤーアクションで地上に降り立って、ステージで五輪旗を受け取り、その後バイクに乗ってさっそうと走り去った。VTRの中で、パリの凱旋門、エッフェル塔などを走り抜けて、空港へ向かい、ロサンゼルスへは上空からスカイダイビングして、降り立つ。さながら「ミッションインポッシブル」の映画のようだった。
 バッハ会長が閉会を宣言した後、米国を代表する歌手、フランク・シナトラの代表曲「マイ・ウェイ」を、地元の歌手が歌った。「マイ・ウェイ」は元々、フランスの「コム・ダビチュード(Comme d’habitude:いつものように)というシャンソンが原曲だった。
 日本とパリとでは、7時間の時差があり、思うように、私としてはテレビ観戦できなかった。睡魔に勝てず、フランスとスペインのサッカー決勝も見逃してしまった。それでも、いくつかの競技は観戦できた。個人的で俗っぽい感想を記しておけば、メダルの有無や色に関わりなく、二人の選手が印象に残った。一人は、バドミントンのダブルスの銅メダリスト志田千陽選手と、クライミングで4位に入賞した森秋彩選手である。志田選手は、美貌とスポーツ能力、天は二物を与えたかと思うほどの秋田美人にもかかわらず、自らの失敗に舌を出したり、クルクル回転ダンスをしたりと、そのキュートな仕草が人気を博した。なりふり構わず全力で精一杯するプレーが、そのキュートな仕草とあいまって、特に海外で人気を得たようだ。
 一方、森選手は、筑波大学3年生であるが、154センチと低身長で、中学生かと見間違えるほどの童顔。ボルダーの第1課題でスタート直上のホールドをつかめず、0点であったが、得意のリードで全体1位の96.1点をマークした。
 美人なのにお茶目、童顔で低身長なのに実力ナンバーワンというギャップないし意外性が、二人の選手の魅力なのかもしれないと思いつつ、競技を観戦していた。

 ともあれ、バッハ会長は、いみじくも、次のように語り、選手たちをたたえた。 
「五輪は平和を作ることができないのは分かっている。だが、五輪は平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」と。
 
 さて、スポーツの祭典であるオリンピックのみならず、囲碁という文化も、「平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」のではないかと思っている。
 例えば、呉清源氏は、1928年、瀬越憲作氏らの尽力により、14歳で来日し、川端康成とも親交があり、『名人』の中でも、“天恵の象徴”と表現されている。そして、木谷実氏とともに、新布石時代を築いた(平本弥星『囲碁の知・入門編』30頁~31頁)。また、呉清源—林海峰—張栩という、法灯ならぬ“碁灯”を継承する(張栩『勝利は10%から積み上げる』18頁、60頁、99頁)。
 また、原爆下の対局で知られる、島根出身の岩本薫氏は、戦後、アメリカなどに囲碁の海外普及に後半生を捧げた(平本弥星『囲碁の知・入門編』36頁~38頁)。
 このように、囲碁文化の歴史は、平和および国際性と密接に関連している。
 さて、今回、紹介するプロ棋士は、アメリカ出身のマイケル・レドモンド氏である。
次の著作を参考にして、囲碁の攻めについて考えてゆきたい。
〇マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
 今回、紹介するマイケル・レドモンド氏は、奇しくも、4年後の2028年に開催されるロサンゼルスと同じ、カリフォルニア州出身のプロ棋士である(サンタバーバラ)。日本では数少ないアメリカ出身のプロ棋士である。妻は中国囲碁協会の牛嫻嫻三段、牛栄子四段は姪である。10歳の頃に物理学者の父親に教えられて、囲碁を始めたという。その後の活躍は、プロフィールにある通りである。

【マイケル・レドモンド氏のプロフィール】
・1963(昭和38)年5月生まれ。米国カリフォルニア州出身。大枝雄介九段門下。
・1977年院生。1981年入段。1985年五段。2000年九段。
・1985年留園杯優勝。1992年新人王戦準優勝。1993年棋聖戦七段戦準優勝。




【マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』(日本放送出版協会)はこちらから】





マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
【目次】
1章 攻めは分断から
 攻めの考え方①
 攻めの考え方②
 中央での戦い
 閉じ込める
 封鎖を避ける 
<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)

2章 両ガカリ対策
 両ガカリ対策
 戦いはまず頭を出して
 閉じ込めて主導権を握る

3章 ハサミで戦おう
 積極的なハサミ
 弱点をねらう
 戦いはスピード
 全局を視野に
 ボウシの威力
 まず封鎖
 閉じ込めれば大模様Ⅰ
 閉じ込めれば大模様Ⅱ
<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)
 
4章 見合いと振り替わり
 オサえる方向に注意
 カカっていこう
 小目に挑戦
 囲わせて勝つ
 切る・切られる
 見合いをみつけよう
 簡単! 高目と目外し





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・攻めの基本と守りの基本
・三連星の攻めと守り
・両ガカリ対策
・戦いはまず頭を出して
・ハサミで戦おう
・オサえる方向に注意
・小目に挑戦~小目の大ゲイマガカリ定石
・囲わせて勝つ~小目の大ゲイマガカリ定石の変化
・切る・切られる~競り合い
・見合いをみつけよう~小目の大ゲイマガカリ定石の変化
・【補足】ハネツギの効果
・【補足】ハネツギの効果~攻め合いのとき(『攻め合いの達人』より)







はじめに


・「どうしたら強くなれますか?」とよく聞かれるそうだ。
 定石の研究、詰碁の勉強といろいろあるが、碁の中でもっとも楽しくもあり、難しいのは、戦いの場面。
 しかし、戦いは、布石やヨセと違って、同じ形はまず現れない。
 定石がないところが、勉強しづらい点である。

・攻めが苦手な人もいるだろうし、守りがおろそかになる人もいる。
 攻め一辺倒でも、守ってばかりでもいけない。
 戦いには、攻めと守りの両面が必要。

〇戦いの考え方を理解して身につけることが、中盤を戦い抜くコツ。
 戦いに入ったときの作戦の組み立てかたで、碁の流れは大きく変化する。
 
※本書では、戦いの考え方を理解してもらうため、「攻め」と「守り」の基本をわかりやすく解説している。
 気に入った戦法があれば、必ず実戦で使ってみてほしい。
 何回か試してみれば、理解の度合いがぐんとアップするし、自分にとって使いやすいかどうかの判断も下せる。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、2頁~3頁)

攻めの基本と守りの基本


【攻めの基本と守りの基本】
ポイント
〇攻めの基本
①相手を分断する
 相手の石が連結して地を作ったり、大きな一団になったり安定すると、攻めが効かない場合が多い。
②閉じ込める 
 眼形のない石が孤立したら、中央などに逃げようとするだろう。
脱出を事前に防いで、狭い所に閉じ込めることができれば、攻めは成功したといえる。

〇守りの基本
①連絡する
 石は連絡すると強くなる。
 また、三線や四線で連絡すると地ができる。
②中央に出る
 辺の連絡が断たれると、中央へ向かう競り合いが始まる。
 一歩でも先に頭を出したほうが優位に立つ。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、9頁)

三連星の攻めと守り


☆三連星を題材に攻めと守り、戦いについて考えてみる。
 六子以上の置碁でも使え、実戦でよくできる形である。
 三連星は、隅と辺の要点を合わせて三手打った形である。
【基本図】
・三連星の内側に白が1、3と入ってきた。
・プロの対局では、白1がAと三連星の外側からカカって、急な戦いを避けるほうがふつうである。
 黒のほうが石数が多く強い場面であるので、白を攻めることを考える。
 しかし、白にハサまれた三角印の黒が心配である。
 黒は心配な三角印の黒から動いて、攻めと守りのバランスの取れた打ち方を考えるといい。
≪棋譜≫10頁の基本図

【3つの打ち方】
A一間トビ
B鉄柱
Cコスミ


【A一間トビについて】
・黒1と一間にトブのが、まず頭に浮かぶだろう。
 ハサまれて攻められたので、中央に早く脱出したいという気持ちが表れた手である。
 一間トビは確かに中央に出るスピードは早いが、白への攻め、分断ができているか心配。
※「一間トビに悪手なし」という格言があるが、白(17, 八)とケイマにあるときはあてはまらない。

・白は2とツケて黒の弱点を突きながら、連絡しようとしてきた。黒が連絡させまいと3とオサえると……
・白4の切りがうまい筋。「切り違い」になった。
・分断をもくろんで、黒5とアテる。
※切り違いは複雑なので、黒5のアテしかないわけではない。
 腕に覚えのある人は、研究するとよいという。

・白6と逃げられると、黒5の左の断点が心配。
・黒は7とツイで戻らなければならない。
・白8で連絡されてしまった。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、8頁~12頁)

両ガカリ対策


〇両ガカリ対策について
・互先でも置碁でも、よく登場するのが、「両ガカリ」
 とくに自分の立場が強い場面で始まる置碁では、有効な戦法。
 両ガカリの後は、模様を築くことになりやすく、厚いダイナミックな碁にもっていくことができる。
 攻めと守りの基本を念頭において、始めていこう。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、59頁)

【基本図】
・二間高ガカリの両ガカリについて、説明していく。
 右上が焦点。

【1図】基本図までの手順
・黒4と辺からトブのが、わかりやすくおすすめ。
※一間トビは足が早く、守るときに大いに役立つ。
 また、白も分断して、攻める姿勢も十分。
・白5と両ガカリされたときが、問題。


【2図】
・黒6とコスんで、中央に出るのが自然な手であるが、白7とカケがぴったりで、難しくなる。
※戦っていけば、黒が悪くなるわけではないが、三角印の白と両方が二間のときは、初心者にはコスミはおすすめできない。

【3図】
・二間高ガカリの両ガカリのときは、黒1とケイマにするのが、封鎖されない好手。
※白を分断すれば、攻めをみることができる。
・白は2とトンで、逃げてきた。

【4図】
・白に連絡されないように、また囲まれないように、黒3と押した。
※同時に上辺の白にモタレながら、右辺の一間トビしている白をねらっている。
 強いほうの石に働きかけながら、反対側の石の攻めをみる「モタレ攻め」は、攻めの常とう手段。ぜひ感じをつかんでほしい。
・黒5まで押して、黒7とボウシ。
※黒は一間にトンで守りながら、白を攻めて、一石二鳥。

【5図】
・黒1のケイマに対しては、白2と押すのが、最も自然な手。
※しかし、右辺の白がきれいに囲まれてしまうので、白苦しい。
・白6~10は、置碁などでもよく見かけるサバキの手順であるが、黒は11まで受けて十分。
※中で生きるとなると、白はつらい手ばっかり。
・黒17まで、右下隅の黒の勢力は巨大になってきた。

【6図】
・白2ケイマも形であるが、黒3と封鎖されて、ダメ。
・やはり黒15まで、白つらい。
※黒1のケイマは比較的強い上辺カカリの白石を固めて、右辺カカリの白石を狙う作戦だとわかる。
 逆に相手の弱い石を先に固めると、両方逃げられる恐れがある。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、60頁~62頁)

戦いはまず頭を出して


〇両ガカリを題材に、うまい手筋も紹介していこう。
【基本図】
・両方とも二間高の両ガカリのときは、三角印の黒とケイマで出ていくのが、わかりやすい。

【1図】
・白1のツケは強手で、要注意。
 黒はどう応じるか?

【2図】
・黒2のオサエに、白3と切るのが厳しい。
・黒4とアテたくなる。
※しかし、取れないのに、アタリにするのはよくないことが多い。


【3図】
・白5と逃げられたとき、黒はシチョウにならないので、6とアテることになる。
・白は7とさらに逃げる。
※白7のサガリがきたことで、隅の黒が心配になってきた。
 弱い石から動くのがコツ。
・黒8のオサエは逃せない。
※根拠の要点だから。


【4図】
・黒10のマガリに、白は11と二段バネしてきた。
※黒は気をつけて対応しなければならない。
・黒12としっかり、自分の断点を守ることが大切。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、68頁~69頁)

ハサミで戦おう


〇3章 ハサミで戦おう~積極的なハサミ
・3章では、四子局を題材に、戦いの考え方を解説している。
・互先の「二連星」でも活用できるので、実戦でも試してほしい。
・戦いは暗記ではない。考え方を身につけることが大切
➡盤面全体を視野に入れた打ち方を考えること。
 
【基本図】
〇四子局
・白1とカカってきたら、黒2と積極的にハサもう。
※置碁では、置き石の威力が十分な序盤で戦えば、有利に進めることができる。
※ハサミには、「一間バサミ」「二間バサミ」などがあるが、星という印のある「三間バサミ」がわかりやすい。
・白3の両ガカリに対しては、黒4とコスむのが、わかりやすくおすすめ。

【2図】
・コスミなら、白は5と三々に入るしかない。
※黒は三々だけ知っていればいいので、わかりやすい。おすすめ。
・黒はハサミのあるほうから、6とオサエ。
【6図】
・黒8とケイマにカケて、白への攻めを見たいところ。
【13図】
・黒がケイマにカケるのは、白9と出て11と切られるのが、恐いかもしれない。

【17図】
・白は13、15とハネツイで、弱点を補強した。
・黒16は上での戦いを意識した守り。
・白17のノビに対して、どう守るか?
・黒18とaと迷う人がいるようだが、18が正しい。
※ aでは白から出切りが残るし、右辺の星と2路違いで連絡が悪い。
・黒20は、白に囲まれないよう広げながら、bの切りを防いでいる好手。

≪棋譜≫94頁、17図


【22図】
・17図の白17で1とノビるのも、考えられる。
・黒は2とナラんで、受けるのが形。
【23図】
・黒は1などと手を抜くと、白に2から4と出切られて、困る。
・取られないためには、黒5からずるずるとハッていかなければならない。
※白は喜んでずっとノビていればいい。
※黒が仮に生きたとしても、二線では地が小さい。
 白の厚みが大いにまさって、黒がよくない。
【24図】
・三角印の黒のナラビがあれば、白1から3と出切っても、黒4、6とシチョウに取って助かる。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、85頁~97頁)

オサえる方向に注意


四子局
≪棋譜≫166頁、A1-3譜 



【基本図A】
〇四子局
・黒2のハサミに対して、白が他へ転じた場合を考えてみよう。
・白3と右下にカカってきた。
※相手が何かやってくるまで待っているという姿勢ではいけない。
 相手が手を抜いたら、続けて攻めるのがいい。
 守らなかった弱い石を攻めるのは、攻めの効果が出やすい。

【A-1譜】
☆黒は手を抜いた右上の白をねらう。
・黒4とコスミツケて、白の根拠を奪う。
・黒6は大切な守り。
・三角印の黒(16, 十)があるため、白は7と一間にしかヒラけない。

【A-2譜】
〇黒は最も弱い石から動く。
・辺の石に白が近づいてきたので、黒8と中央へ向かってトビ。
・白も閉じ込められないように、9と頭を出す。
※今度は右上の黒が囲まれそう。
 背の高さを比べれば、わかる。
【A-3譜】
・白が11と右下に両ガカリしてきた。
・両方とも小ゲイマガカリなので、黒は12とコスミ。
・黒はハサミのあるほうから、14とオサエ。
※もう得意の形になってくれただろうか。
・黒16とカケて、白にプレッシャーを与えて、黒が好調。

【5図】
・A-2譜の白9で1と右上の黒をおびやかしてきたら、黒は2とふんわり封鎖。
※攻めはまず閉じ込めるのが基本。
・白は3、5とツケサガって、フトコロを広げて、生きをはからなければならない。
※黒は無理せず、外からオサえ込むような気持ちで、応対すればよい。
・白9が急所で白は生きたが、狭いところに閉じ込められた。
・黒10で、黒は右上、右辺とかたまって、大きな地になりそう。
・黒12と攻めて、黒好調。

<ポイント>
・白3、5と、ツケサガリで、フトコロを広げて生きをはかる。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、166頁~171頁)

4章 見合いと振り替わり

小目に挑戦~小目の大ゲイマガカリ定石

 
≪棋譜≫182頁、基本図

【基本図】
・白1が「小目」
・小目には黒2の大ゲイマにカカるのが、著者のおすすめ。

≪棋譜≫183頁、2~3図

【2図】
※小ゲイマガカリだと、6とおりのハサミがあって、覚えるのが大変だが、その点、大ゲイマガカリは簡単!
・白3のコスミに黒4と二間にヒラけば、定石の完成。
※左上隅は白が先行しているので、険しい戦いになれば、白が有利な理屈。
 白の勢力が左辺に及ぶのを止めていることで、黒はカカリの目的を果たしている。

【3図】
※左辺で黒の勢力ができたので、次に黒が下辺に打てば、大模様ができそう。
・それを阻止する意味で、白5のカカリが普通。
・黒6ハサミなら、前に勉強した定石になりそう。
・黒先手を取って右辺に16と三連星するのが足早。
※碁盤の右側が黒の勢力で、これから白を攻める展開になりそう。

≪棋譜≫184頁、4~9図

【4図】
・大ゲイマガカリでは、白1のハサミが手順が長く少し難しいかもしれないが、これさえできれば、大ゲイマガカリは合格。
・ハサまれたら、黒は2とツケてサバキ。
※白の打ち方によって、カカった石を捨てて隅を取ろうと振り替わりを目指している。
 相手の強いところでは、振り替わって相手の攻めをかわすのが有力。

【5図】
・白は3とハネるだろう。
・黒は4と切り違える。
※黒はあとからカカッていったので、弱い立場。
 弱いときには、ツケたり切ったりハネたりするのがよい。

【6図】
・白はハサミの顔を立てて、5、7とアテ、三角印の黒(3, 六)の石を切り離すのが正しそう。

【7図】
・白は9にツイで、弱点を守る。
・黒は10と地を稼ぎながら、三角印の白(4, 三)を取る。

【8図】
・白11は薄い手であるが、三角印の白(4, 三)があるので、大丈夫。
・黒は12と1つ出て、白に節をつけてから、14と戻る。

【9図】
・白15のツギまでが、定石。
※白に厚みができたので、黒16とケイマにシマって、厚みをぼかす。
 aなど近寄るのは、苦しくなる。
相手の強いところでは、有利に戦えないだろう。
「厚みに近寄るな」という格言もある。
のちに、白がbと囲ってきても、黒はcの切りとdのコスミが見合いで生きているので、手抜いて大丈夫。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、182頁~185頁)


☆変化図を一つ
≪棋譜≫188頁、17~21図
【17~21図】

【17図】
・8図の黒12で1とハウのは、危険な手。
・白は断点を気にせず、2とハネ。
・黒3の出にも、白4と断固オサエ。

【18図】
・黒が5と切ってアテれば、よさそうに見える。
※アタリだからといって、すぐツイでもらえるとは限らない。
・白6とまくるのが厳しい手で、シボられてしまう。

【19図】
・黒は7と取るしかない。
・白8にアテられると、黒は9とツイでダンゴにされる。
・白は10とノビて、まず上辺を安定させる。

【20図】
・黒11と切ってみよう。
※これもアタリであるが、逃げてもらえない。
 白の立場では、大切な石がどれかを見失わないようにするのが大切。
・白は12とハネ。
・黒13のオサエに、白14と切れるのがミソ。

【21図】
・黒はアタリなので、15と取る。
・白が16とツグと、隅の黒三子はそのまま取れている。
・黒17とアテてもだめ。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、188頁~189頁)

4章 見合いと振り替わり

囲わせて勝つ~小目の大ゲイマガカリ定石の変化


【基本図】三子局
≪棋譜≫190頁、基本図

・前項で説明した定石の途中で、白が1と変化してきた。

≪棋譜≫191頁、2~3図


【2図】
※黒は閉じ込められてはいけない。
・黒2とコスんで、4とノビ、頭を出す。

【3図】
・白は5とマガって、黒一子を制する。
・黒は6とコスんで、三角印の白を取りきるのは、とても重要なこと。
・白8とサガって、一段落。
※白は分断されて薄い。
 これから黒は主導権を握れそう。

≪棋譜≫191頁、4~6図


【4図】
・3図の白5で1と逃げてくるのが心配かもしれない。
・黒はなんとしても2とハネ。
・白3の切りが黒二子をアタリにしている。
・黒4とツガざるをえない。
・白5とカカえられると、白二子に逃げられてしまったが。

【5図】
・黒6と白を封鎖するのが、いい手。
・白は、7,9とハネツギで、がんばってきた。
※さあ、隅は攻め合いになった。
 どうやって攻めたら、いいだろうか?

【6図】
・黒10とハネるのが、ダメを詰める好手。
・白11と眼を持っても、黒12とじっとツナいで、大丈夫。
・黒14のサガリまで、白は取られてしまった。
※4図の白1は無理なのである。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、190頁~191頁)

【基本図2】
〇では次のテーマ
≪棋譜≫192頁、基本図

・白が左下に1と一間にカカッてきたときを考えてみよう


≪棋譜≫192頁、7~10図

【7図】
・カカリに対して、黒は2と受ける。
・白3、5のツケ引きから黒6のサガリまでが、星の一間ガカリ定石として、よく打たれる。

【8図】
・ここで白は7と押してきた。
・11まで押して、下辺に13とトンで、模様を広げてきた。
※よく四線は押すと損というが、こんなに大きな模様ができるとびっくりしてしまうのではないだろうか。

【9図】
・白模様が大きすぎてちょっと心配かもしれないが、黒は14とケイマにトンで、連絡しながら消すのが、わかりやすい。
・白が17と守ったら、黒は18と下辺を広げる。

【10図】
・白が19と広げてきても、黒20から22と、白に囲わせて地にさせてあげればいい。
・黒24となったところまで、おおまかな形勢判断をしてみよう。
・囲わせた白地は55目くらい。
・黒地は上辺、下辺ともに、20目ほどで、合計40目ある。
※右上隅の黒地を足せば、地合いは接近しているが、上辺の黒模様は谷が深く、右辺と下辺も黒の楽しみが多い。
➡黒有望の形勢
※著者が囲わせてもいいといっても、やはり白地が大きそうに見えて心配になる人も多いようだ。
 そこで、1回形勢判断してみよう。
 普通は序盤から細かい地の計算をしなくてもいいのだが、このような確定地ができた場合はやってみていいだろう。

【11図】
≪棋譜≫195頁、11図

・まず地の境界線を確認する読み。
・すぐには打たないが、黒1から6までが相場。
・7も大きなヨセで、黒の権利。

【12図】
≪棋譜≫195頁、12図

・隅の切り取りの権利は半々として、三角印の部分を計算しないことにする。
・四角印で最低限の境界線を作ってみた。
 白地は56目。
・黒確定地は、左下隅21目、左上隅16目で合わせて37目で、19目少ないのだが、盤の右側は圧倒的に黒有利。
※右下、右辺と下辺も黒の楽しみが多い形勢。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、192頁~195頁)

切る・切られる~競り合い


・競り合いの解説をしている。
・前項からの続きだが、競り合いでは、キズや弱点が必ずできてくる。
・守っていれば堅いのだが、守ってばかりいると相手に大場へ先行され、体勢が遅れてしまう。
※ここでも、見合いと振り替わりの考え方は、基本となってくる。

【基本図1】
≪棋譜≫199頁、基本図

・左辺の模様拡大に、白は1と押してくるかもしれない。

≪棋譜≫201頁、1~3図

【1図】
※白が競っているときには、そっぽをむいてはいけない。
 黒はハネかノビかを打たないと、勢力争いに負けてしまう。
・黒は5つも並んで強くなったので、2、4と二段バネしてがんばる。
・白が5とノビたら、黒6と二間にトンで、反対側から消す。
※連絡していることが大事。

【2図】
・白は左下の三子が弱いので、白7と守る。
・黒は8とひとつ押したら、今度は10と上辺に転じる。

【3図】
・白は11と切って、13とハネるのが筋。
※二目の頭をハネたよい形になるから。
・黒は抵抗せず、14とカカエておくのが本手。
・黒16と下辺に構えて、黒十分。
※16は三角印の黒のちょうど真ん中にあたる。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、199頁~202頁)

見合いをみつけよう


・前項からの続きの図
・小目に大ゲイマガカリして、白が一間にハサんだ形の変化

【基本図1】
・黒2と切り違えたとき、白が3、5とアテてきた場合を考えていこう。

≪棋譜≫206頁、1~5図

【1図】
・アタリなので、黒は6と逃げる。
・白は7のカケツギで、両方の断点を防いだ。
・黒8で地を稼ぎながら、白一子を取り込んだ。

【2図】
・白は9とハネを効(ママ)かしてから、11とヒラキ。
※隅の黒は生きた。

【3図】
・白が上辺を守ったら、黒は12と左辺の白を攻める。
※四線と高くハサんだのは、下辺の模様を意識している。
 上辺と左辺は見合い。

【4図】
・黒は14とノゾいて、白の眼形を作りにくくする。
・白を強くしてから、黒16とマガるのが調子。
・黒18とトンで白を攻めながら、下辺を盛り上げる。

【5図】
・白は19とトバなければならない。
・黒は深追いせず、黒20と三連星に構えて、黒の模様は大きく十分。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、206頁~208頁)

【基本図2】
・では、白が1とノビてきたときのことも考えておこう。


【6図】
・黒は連絡したいので、2と引き。
・白3とノビると……?
※見たことがある定石に戻っているのが、わかるだろう。

【7図】
・白5で、白の壁ができたので、黒6と少し控えてぼかす要領。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、208頁~209頁)

【基本図3】
・今度は、白が1とハネてきたら、どう対応するか?



≪棋譜≫210頁、8~11図


【8図】
・黒は2と引いていて、いい。
・白3のカケツギは、カタツギより眼形が豊富。
・黒は4とトンで、まず自分をしっかりさせる。
※次に、上辺か左辺の白、どちらかに攻めに回る。これも見合い。
・白が5と左辺に二間ビラキして守ったら、黒は6と上辺を攻めにいく。
・黒6はコビンという急所。
・白7のツケが手筋だが、黒は8とハネていい。
・白は9とサガリ。しかし、つらい。

【9図】
・断点はあるが気にせず、黒は10とハネるのが厳しい。
※一番弱い石から動く。
・黒は14とトビ。
・白15のノビには、黒16とカケツギながら、連絡するのがいい手。
※隅の白を封鎖することができた。

【10図】
※左上の白を生きなければならない。
・白17、19とハネツイで、フトコロを広げる。
・続いて、黒は20と左辺の白を攻めに回る。

【11図】
・黒24とノビるのがいい手。
・黒は26と大きく上辺の白二子を攻めて、好調。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、210頁~211頁)
<ポイント>
・囲碁用語コビン
 相手の石のコビン(小髪、小鬢、もみ上げの上の部分)、斜め上を突く手。アゴと同意。

【補足】ハネツギの効果


・ハネツギの効果について、著者は、丁寧に解説しているので、紹介しておこう。

≪棋譜≫173頁、B-2譜

【基本図B】
〇今度は、黒2のハサミに白がすぐ3と三々に入ってきたときを見ていこう。
※互先のときによく出てくる定石である。
 この機会に身につけよう。

【B-1譜】
・黒はハサミのあるほうから、4とオサエ。
・三角印の白があれば、黒6とノビ。

【B-2譜】
・白は先に7、9とハネツギ、11とトンで一段落。
※定石では次に黒はAとハネるのだが、ここは雄大な構想で、黒12と大場に先着するのがよさそう。

〇さて、著者は、上図のハネツギについて、次のように、解説している。

≪棋譜≫173頁、2図

・ハネツギを打たずに、単に白1とトブのは、黒2、4と出切られ、6まで隅の二子を取られてしまう。


≪棋譜≫173頁、3図

・ハネツギがあれば、2図と同じように、黒1、3と出切られても、白6で黒を取ることができ、連絡している。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、171頁~173頁)

【補足】ハネツギの効果~攻め合いのとき(『攻め合いの達人』より)


・ハネツギの手筋は、攻め合いのときにも、その威力を発揮する場合がある。
 次の問題を参考にしてほしい。

〇柳時熏『囲碁文庫 天下初段シリーズ3 攻め合いの達人』日本棋院、2002年[2020年版]
【問題19】黒番 1分で4級
・三目どうしの攻め合い。
・白の手数は四手、黒は三手だから、普通なら勝てないが、そこは頭の使いよう。
 境界線をどうするか、テクニックの見せどころ。
≪棋譜≫攻め合い問題19、57頁


【正解】(ハネツギ)
・黒1、3のハネツギで解決。
・白4のツギがちょうど三角印の黒にぶつかり、手数が双方三手ずつ。
・黒5で一手勝ちになる寸法。
※ハネツギで相手のダメを縮める手法、よく覚えてほしい。
≪棋譜≫攻め合い問題19、正解、58頁


【失敗1】(黒負け)
・単純に黒1と攻めるのは、白2とハネられ、黒負けは明らか。
※白2ではaでも、黒いけない。
≪棋譜≫攻め合い問題19、失敗1、58頁


【失敗2】(同じく負け)
・黒1、白2のサガリ、サガリでは、工夫が足らず、黒負け。
≪棋譜≫攻め合い問題19、失敗2、58頁

(柳時熏『攻め合いの達人』日本棋院、2002年[2020年版] 、57頁~58頁)
<ポイント>
※ハネツギで相手のダメを縮める手法、よく覚えてほしい。


≪囲碁の攻め~石倉昇氏の場合≫

2024-08-10 19:00:04 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~石倉昇氏の場合≫
(2024年8月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の攻めについて、次の著作を参考に考えてみたい。
〇石倉昇『NHK囲碁シリーズ石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]
 前回のブログでも記したように、石倉昇氏は、攻めの要点について、次のようにまとめている。

【攻めの5か条】
①相手の根拠を奪う
②むやみにツケない
③自分の用心……自分の弱い石から動く
④モタレ攻め
⑤攻めながら得をする
※この中でとくに実戦で役に立つのが、「自分の弱い石から動く」である。
 これらの法則を頭に入れて実戦を打つと、それだけで勝率が上がっていくことだろうとする。


〇覚えておきたい法則として、次のものを挙げている。
・一段落したら、まず「弱い石」を見つける。
つまり、一段落したら……
①自分の弱い石を探す……あったら守る
②相手の弱い石を探す……あったら攻める
③大場に打つ

・また、守るときと攻めるときの打ち方をしっかり区別して身につけること
【サバキ】
①ツケ
②相手が厳しくきたら……ナナメ
 相手が穏やかにきたら……まっすぐ
③捨て石を使う
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、100頁、105頁、126頁)

 この要点を棋譜をテーマ図として掲げて、解説するというスタイルで叙述している。
 その中でも、私の印象に残った箇所を紹介してみたい。
(ただし、掲載されている棋譜を逐一アップロードするのは、難しくて煩瑣なので、一部省略した。とりわけ、変化図は省いたが、是非、本文をあたってほしい)

【石倉昇氏のプロフィール】
・1954(昭和29)年6月生まれ。神奈川県横浜市出身。
・元学生本因坊。
・1977年東京大学卒業。日本興業銀行を退職後、1980年入段。1991年八段。
・2000年4月九段に昇段。
・1982年棋道賞「新人賞」を受賞。
・1985年、1989年、1999年、2004年後期にNHK「囲碁講座」の講師を務める。
➡知性的でやわらかな講座が人気を集める。
 アマチュア出身ということもあって、囲碁普及にも情熱をもやす。
・2003年「テレビ囲碁番組制作者会賞」受賞。
 


【石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』(日本放送出版協会)はこちらから】
石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』(日本放送出版協会)





〇石倉昇『NHK囲碁シリーズ石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]

【目次】
上達への5K
1章 星の定石
1 スベって二間ビラキ
2 一間バサミ
3 新しい打ち方

2章 小目の定石
1 大ゲイマガカリ<1>
2 大ゲイマガカリ<2>
3 一間高ガカリ<1>
4 一間高ガカリ<2>

3章 攻め
1 「攻めの5か条」
2 弱い石から動く
3 置碁は序盤で強く戦え
4 相手の弱点をねらえ
5 とっておきの秘策

4章 打ち込みと荒らし
1 3線に打ち込む
2 ツケて荒らす
  ワンポイントレッスン
3 ツケてサバく
4 打ち込みで局面をリードする
5 ツケからの攻防
6 定石後の打ち込み
7 私の実戦から
  上達への5Kまとめ




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・上達への5K
・「攻めの5か条」のテーマ図と解説(3章より)
・「ツケからの攻防」のテーマ図と解説(4章より)
・【補足】小目の定石(大ゲイマガカリ)~切り違いの法則




はじめに


・囲碁は記憶だけで強くなれるものではない。
 たくさんの定石を苦しんで覚える必要もない。有段者として知っておきたい定石は、せいぜい10ほどだという。
・定石を丸暗記しても、相手がその通りにはなかなか打ってくれないもの。
 多くの定石を覚えるよりも、その定石の意味や、定石はずれへの対応、その後のねらい、戦いの法則を知ることのほうが重要であるという。

・「これさえわかれば初段になれる」ことを、「定石」「攻め」「打ち込み」の3本立ての構成で解説していく。
 石倉流の法則を使えば、楽に強くなれることができること請け合いとする。

・本書は、2004年10月から2005年3月まで、NHK講座で放送された講座「石倉昇の『上達の秘訣』教えます」をもとに、加筆し構成し直したものであるそうだ。

・初段を目指すレベルが中心だが、10級から3、4段まで、どなたにご覧いただいても、碁が楽しくなるという。棋力アップの一助になれば、幸いと著者は記す。
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、2頁~3頁)

上達への5K


・碁の上達に欠かせないことを、著者は「5つのK」で表している。
 Kとは、「感動」「好奇心」「形」「考え方」「繰り返し」のローマ字表記の頭文字をとったものである。
①「感動」
・プロの碁や講座を見て、「なるほど」と思うことが「感動」につながる。
 丸暗記はすぐに忘れるが、感動したことは頭に定着する。
②「好奇心」
・新しいことを覚えたら、実戦で使ってやろうと思うのが「好奇心」。
 覚えたことを実戦で使ってみて、はじめて自分のものになっていく。
③「よい形」
・「よい形」をたくさん知って、映像として頭に入っている人が、碁が強いといえる。
 「よい形」を知っていれば、しらみつぶしに読む必要がなくなり、読みのスピードも速くなる。
④「考え方」
・また強い人は、正しい「考え方」(法則)を知っている。
 戦いでどう打つか悩んだとき、「考え方」を知っていると、正しい手が打てるようになる。
⑤「繰り返し」
・どんな天才でも、1回見ただけで覚えることはなかなかできない。
 「繰り返し」使ってみることも大切である。
 そうすれば必ず身についてくる。
 身体の機能、五感を使うと、よく身につく。
(目で見て、耳で聞いて、自分の手で実際に並べてみることを勧めている)
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、6頁、221頁)

「攻めの5か条」のテーマ図と解説(3章より)


【テーマ図A (黒番)】
≪棋譜≫(102頁)


☆右辺の黒模様に、白が1と入ってきた。
 これは少々無理気味な打ち込みである。
 ⇒ここは黒が優勢になるチャンス
 しかし、攻め方を間違えると、形勢を悪くする。 
 どう攻めるか?

【テーマ図Aまでの手順~三連星の布石】
≪棋譜≫(103頁の1図)


・黒は1、3、5と三連星の布石である。
・黒7の一間バサミは、白に8と三々に入らせて外勢を築こうとしている。
・黒13まで基本定石である。
・黒19のカカリに白20とハサんで、29までこれも大事な定石。
・白30と左辺に白模様ができた。
・黒31と肩突きで消すのが絶好。
<ポイント>
・3線のヒラキには、4線から消す。

☆さて、テーマ図Aの場面をみてみよう。
 黒模様に入ってきたのであるから、この白をうまく攻めたいものである。
 そこで、石倉流攻めのコツを5か条にまとめている。
【攻めの5か条】
①相手の根拠を奪う
②むやみにツケない
③自分の用心……自分の弱い石から動く
④モタレ攻め
⑤攻めながら得をする
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、105頁)

【①相手の根拠を奪う】
≪棋譜≫(105頁の5図)


☆まずは5か条の①相手の根拠を奪う
・黒は1と鉄柱して、白の根拠を奪うことが大切。
※白a(18, 十)とスベられると、簡単に根拠を作られてしまう。
・白2のトビには、黒3とノゾくのも大切な手。
・白が4とツグと棒石になり、眼形が作りにくくなる。

≪棋譜≫(8図、10図、12図、14図、15図)



【④モタレ攻め その1】
≪棋譜≫(106頁の8図)
・黒7で白8のトビを誘導して、黒9に肩を突くのが名調子である。
※ただ追いかけるのではなく、攻めたい石の反対側にモタれることが大切。(5か条の④)

≪棋譜≫(107頁の10図)
・続いて、黒11とトンで白12のトビを誘う。
・もう少しで手をつなぎそうになった瞬間に、黒13とばっさりと分断するのが、うまいモタレ攻め。(5か条の④)

【ほぼ封鎖が完了】
≪棋譜≫(107頁の12図)
・続いて、白が14、16と眼形を作りにくれば、黒15、17と黒地が固まる。
・白18と外に出ようとしても、黒19の棒ツギが好手
・白は20とツイだとき、黒21にかぶせる。
 ⇒ほぼ封鎖が完了

≪棋譜≫(108頁の14図)
・続いて、白は22のコスミツケから24となんとか生きをはかろうとしている。
※黒としては白を全滅させようなんて、考える必要はない。
 狭いところで生きてもらえば、いいのである。
☆しかし、白26のときには注意が必要である。

≪棋譜≫(109頁の15図)
・黒27、29と自分の用心を忘れないようにしよう。(5か条の③)
<ポイント>
〇攻めるにはまず自分の用心
・白30で何とか生きられそうであるが、黒31にまわって下辺に大きな模様ができ、攻めながら得をすることができた。(5か条の⑤)

※ここで形勢判断をしてみる。
・白地は左辺が10目強。上辺が10目。右辺が3目、右下が8目、左下が15目で、合計46目強。
・黒地は下辺だけで40目以上ありそう。
 さらに左上が10目、右上が15目あっては、黒が圧倒的に優勢。

・これでは足りないといって、白が32と突入してきたら、黒は33とモタれるのが、うまい攻めである。(5か条の④)
・黒35まで、白32の石をのみこめそうで、黒がますます好調。
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、101頁~109頁)

「ツケからの攻防」のテーマ図と解説(4章より)


⑤ツケからの攻防
【テーマ図A】黒番
・白が三角印の白にヒラいたところ。
 三角印の白は問題の一手だった。
・黒としては、チャンス到来。
 上辺の白模様に黒がどう入っていったらいいのかを、考えてみよう。
≪棋譜≫(200頁)


【1図】
・白6の大ゲイマガカリは、小目へのカカリの中では、最もわかりやすく、おすすめ。
・右辺の黒模様には、白28とツケて荒らすのが好手。
・白34まで、うまく荒らした。
・左辺の黒39までの構えは堅く、好形。
・白40とヒラいた上辺の白に、黒はどこから入っていくのがいいだろうか。
≪棋譜≫(201頁の1図)



【2図】
・黒1と打ち込みたいのだが、三角印の白があるときには、苦しい。
・黒3とフトコロを広げようとしても、白4とサエギられては不自由。
※三角印の黒と白の交換がないときには、黒1は有力。
 けれども三角印の黒と白があるときには、ほかの手段を考えたほうがよさそう。
≪棋譜≫(201頁の2図)


【3図】
・黒1とツケるのが、好手。
※サバキはまずツケから始まる。
・白が2とハネて厳しくきたら、黒は3とナナメに動く。
※黒3を捨て石に使うことで、上手に荒らすことができる。
<ポイント>
サバキ
①ツケ
②相手が厳しくきたら……ナナメ
    穏やかにきたら……まっすぐ
≪棋譜≫(202頁の3図)


【4図】
・黒は7の切りから、11とカカエ。
※三角印の黒(黒a)の一子を捨て石にして、サバキ。
≪棋譜≫(202頁の4図)


【5図】
・白12に逃げたら、黒は13とアテて、15にカタツギ。
・黒19のオサエがぴったりで、封鎖して、黒よし。
≪棋譜≫(202頁の5図)


【6図】
・白としては前図の12と逃げないで、1と切って、3と連絡するくらいのもの。
・黒4まで左辺が厚くなって、黒は大満足。
≪棋譜≫(202頁の6図)


(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、200頁~202頁)

【補足】小目の定石(大ゲイマガカリ)~切り違いの法則


・前述の201頁の1図の右下隅にできた小目の定石について、補足説明しておきたい。

<小目の定石~大ゲイマガカリ>
【テーマ図A 黒番】
・白6の大ゲイマガカリは、小目へのカカリの中で、最もわかりやすいカカリ。
 覚える定石が少ないうえ、悪い手になる場合が少ない。
 こんな楽な定石は、なかなかないという。
(著者のおすすめの手である)
・大ゲイマガカリに、黒7とハサミ。
≪棋譜≫(56頁のテーマ図)


〇白の立場で考えてみよう。
 ハサミへの対策を知っていれば、大ゲイマガカリを自信を持って打てるようになる。
≪棋譜≫(70頁の4図)

・右辺は黒の強い所だから、苦しいときには、白1とツケるのがコツ。
・黒としては、2とハネ出すほうが厳しくてよい。
・黒が厳しくきたら、白は3とナナメに打つ。
※「ツケてナナメ」がサバキの極意である。
<ポイント>
【サバキの原則】
①サバキはツケ
②・相手が厳しくきたら……ナナメに動いて、捨て石
 ・相手が穏やかにきたら……まっすぐ動く
※強くなったら反撃せよ

☆ここからの変化を詳しく見てみよう。
※白3は切り違いである。
 よく「切り違いは一方をノビよ」というが、これは例外の多い格言である。
 石倉流切り違いの法則は、次のようになる。
<ポイント>
◎切り違いの法則
〇自分が多いとき……ノビ
〇相手が多いとき……アテ
※アテは大切な石から

≪棋譜≫(71頁の5図、6図)

※黒のほうが石数が少ないので、この場合はアテが好手になる。(黒(17,十二)は遠いので勘定に入れない)
・黒4、6とアテて、8とツグのがいい。
・白は9にオサえることで、三角印の黒を制する。
・黒10のトビは一見、危なそうに見えるが、三角印の黒があるので大丈夫。
・白が11と出て、13に戻り、黒も14にツイで、定石の完成である。
※黒が厚く、よさそうに見えるが、黒が一手多いことを考えると、これで互角と見られる。

(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、56頁、70頁~71頁)