空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『今度生まれたら』

2022年12月14日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

内館牧子の小説で、
「終わった人」「すぐ死ぬんだから」に続く作品。
この3昨は、
「老後小説」とか「高齢者小説」と呼ばれているらしい。
次作は「老害の人」という。

今度の主人公は、佐川夏江という、70歳の女性
夫の寝顔を見ながら、
「今度生まれたら、この人とは結婚しない」
とつぶやく場面から始まる。
保育園建設にまつわる取材を受け、
その記事に「佐川夏江さん(70)」と書かれたことで衝撃を覚える。
そうか、私は70か。
そこから夏江の懊悩が始まる。
70歳になって人生を振り返って、
やり残したことがあるように思える。
だが、70歳という年齢は
新しいことを始めるにも遅すぎる。
やり直せない歳に到達してしまったのだ。

夏江は、好きな園芸を捨てて、
結婚に有利な電器会社に就職して、
エリート社員の和幸を捕まえるために手練手管を弄した。
首尾よく、前途洋々たる男と結婚。
シンガポール支社の立ち上げの功績で、
昇進間違いない。
しかし、飲めない和幸が泥酔して、
タクシー運転手に暴行を加えてしまったことから、
閑職に追われ、やがて退職。
それからは翻訳の仕事でなんとかしのいできた。
72歳の今、近所の散歩老人の親睦会「蟻んこクラブ」の会長をして、
満足している。
しかし、夏江の方は、70歳を迎えた時、
自分の人生を振り返り、
進学、仕事、結婚など節目でしてきた選択は正しかったのか、
間違っていなかったか、と俄然思いに至り、
ジタバタが始まってしまう。

夏江の姉は夫とアツアツで、
「今度生まれても、同じ人生がいい」とのたまう。
息子の一人は、帰宅恐怖症で、妻と別居。
もう一人の息子・健は、仕事をやめて、スペインでギター製作者に弟子入りするという。
同じ世代の出世頭、弁護士の高梨公子の講演会に行っても、
言ってることがありきたりに思える。
高梨の出身高が自分のよりも下だったことも苛立ちの原因になる。
同窓会で級友に再会しても、
口にする前向きで陳腐なご託に苛立つ。
テレビで、
かつて和幸を選んで振った同僚の小野が、
世界的園芸家として成功しているのを観てしまう。
あの時の自分の判断は間違っていただろうか。
そんな時、おしどり夫婦だった姉の夫が、
「好きな人ができた」と離婚を口にする。
同窓会で再会した昔の同級生と再婚するというのだ。

というわけで、70年の人生を振り返って、
何が何だか分からない君江の混乱ぶり
読まされることになる。

70歳に至った人、
中でも女性は面白く読むだろう。
現実的には、
こういう悩み方をする70歳というのは、
意外に少ない気がするが。
ためしに、私のカミさんに、
人生を振り返って、何か悔いのようなものがあるか、
と訊いたら、
答は、「ない」。
特に、何になりたいという野心のなかった女性は、
かえって、幸福かもしれない。
そういう人には、
この小説のような悩みごとは、
聞きたくないと思うだろう。

まあ、絶望的に終わるのは、小説として出来ないので、
夏江は昔の夢を回復した、
新たなる出発に至るのだが、
最後の夫に対する感想が笑わせる。

今年5月と8月にNHK BSプレミアムで
松坂慶子主演でドラマ化された。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿