[映画紹介]
池井戸潤の小説の映画化。
出版までには、次のような経緯がある。
「問題小説」(徳間書店)に2006年12月号から2009年4月号まで
3年かけて連載。
その後、書籍化されることなく眠っていた「幻の作品」だったが、
WOWOWのドラマ製作スタッフが偶然発掘し、
池井戸氏にドラマ化することを熱烈オファー。
ドラマ化するにあたり大幅な加筆をして、
徳間文庫より2017年5月17日に文庫本として刊行され、
その直後、7月9日から、WOWOWでテレビドラマとして放送された。
今回の映画化は、そのWOWOWによるもの。
階堂彬(かいどうあきら)と山崎瑛(やまざきあきら)という、
漢字が違うが、同じ発音の名前を持つ二人の人物の関わりを描く。
山崎瑛の実家は零細工場で、
瑛が小学生の時に、工場が銀行に見放されて倒産し、
一家は夜逃げ同然に引越しする。
銀行に恨みを持つ瑛だったが、
高校2年生の時、
父が再就職した親戚の工場の経営が傾いた時、
産業中央銀行の真面目な行員が
融資を継続できるように奔走してくれ、
工場を立て直すことができ、
銀行員の対応の違いで、
企業が救われることもあることを胸に刻む。
やがて瑛は東京大学経済学部に入学し、
その優秀さから、
産業中央銀行の人事部から声がかかり入行した。
階堂彬は、大手海運会社である東海郵船の御曹司。
父の後を継ぐだけの人生を拒否し、
産業中央銀行に入行する。
産業中央銀行では3週間に及ぶ新人研修が行われ、
その目玉とも言える「融資戦略研修」の最終対決に選ばれたのが、
彬のチームと瑛のチームだった。
一方のチームが融資を受ける企業側、
もう片方のチームが銀行に分かれての対決だ。
彬がなったのは、融資を受ける企業側で、
彬は融資を受けるために、データを粉飾する。
しかし、銀行側の瑛のチームは粉飾を見破り、
「融資見送り」の結論を告げた。
見事な対決を見せた研修は
行内でも伝説として語り継がれるものとなり、
2人のアキラは同期300人の中でも
特に優秀な存在として知れ渡ることになる。
しかし、順調に出世を遂げる階堂彬に比べ、
山崎瑛は零細企業の家族を救うための温情があだとなって、
地方支店に左遷されてしまう。
それでも腐ることなく、誠実な行員生活を送った瑛は、
実績を挙げ、数年後、本部に奇跡の復帰を成し遂げる。
一方、彬の父の死後、
東海郵船を引き継いだ彬の弟・龍馬は、
叔父たちの策略によって
叔父たちが経営する高級リゾート施設の連帯保証をして、
倒産の危機に陥る。
その再建のために彬は銀行を辞め、
瑛が銀行の担当者となり、
二人のアキラはタッグを組んで、
東海郵船の建て直しに立ち向かっていく・・・
彬も瑛もその根底にあるのは、
「カネは人のために貸せ」
という、新人研修で語られた羽根田融資部長の言葉だった。
二人のアキラが正反対の境遇にいながら、
目指すものは同じ。
池井戸潤らしく、銀行の話で、
理想のバンカー像を造形する。
二人のアキラには抵抗できない「宿命」があり、
それを乗り越えることが課題なのも大きなくくりだ。
幼い頃二人は一度(原作では2度)だけ偶然接触しており、
その「宿命」が最後に分かる。
映画にない小道具の使い方がいい。
2時間という制約の中で、
原作の枝葉を取り払い、
そのテイストを損なうことなく、
骨組みしっかり脚色した池田奈津子の腕が冴える。
監督は三木孝浩。
山崎瑛を演ずる竹内涼真、
階堂彬を演ずる横浜流星の二人が
大変魅力的で、画面を支える。
脇を固める俳優たちも力量を発揮する。
山崎瑛の銀行家魂と
階堂彬の同族企業に対する愛情は、
本作の中核をなし、
しばしば胸が熱くなった。
池井戸潤の映画化作品の中で、
これが一番ではないか。
5段階評価の「4.5」。
なに、ドラマ版では、山崎瑛を斉藤工が、海堂彬を向井理が演じた。
拡大上映中。
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