[書籍紹介]
芸大浪人の里英は、父と共に、枝内島を訪れた。
島は資産家の伯父が所有していたもので、
交通事故で亡くなったので、
父が相続、
観光開発会社が、
島を整備して、まるごと貸し出すリゾート化を提案してきたため、
下見に訪れたのだ。
理英は子供の頃、島に来たことがある。
1泊2日の視察に同行したのは、
里英父娘、観光開発会社、不動産会社、建設会社から2名ずつと、
伯父の友人で、計9名。
うち女性は、里英と観光開発業者の綾川という研修社員と、
建設会社の設計士の中年女性の3名。
島は和歌山県白浜の沖合5キロほどにあり、
周囲1キロに満たない円形の無人島。
草が繁っており、
伯父が建てた堅牢な別荘がある。
食堂や応接間、8つの寝室があり、
発電機と海水の真水化設備もあって、
リゾート化しても問題はなさそう。
島の中央に作業小屋があり、
5つのバンガローが散在している。
回りは全て断崖で、
柵のない遊歩道が配置されている。
水温が低いことから、
島周辺で泳ぐことは出来ず、
海流が早いため、流されるおそれがある。
本書には、↓のような挿絵が掲載されていて、イメージしやすい。
一行が漁船に乗せられて、
島に着いて、調べてみると、
人が入っていた形跡がある。
発電機用のガソリン、
食べ物の残骸があり、
包装の賞味期限からみて、
この2年間のものらしい。
伯父は5年間、この島に来ていないというのに。
更に驚いたことに、
作業小屋には、化学薬品が残っており、
爆弾を作った形跡がある。
バンガローは、爆弾で一杯だった。
何者かが島に入って、
爆弾製造工場にされていたようなのだ。
一泊し、
目覚めると、不動産会社の社員がクロスボウの矢で撃たれ、
崖下に落とされていた。
そして、カレンダーの裏側には、
次のような指示が書かれていた。
島には三日間留まること。
島外に殺人の発生や島の状況を伝えてはならない。
各人、それぞれ寝室に一人のみで起居しなければならない。
複数人が30分以上同席してはならない。
カメラ、レコーダー等で記録してはならない。
スマートフォンは回収し、必要が生じた時だけ、
全員の監視のもとで使用しなければならない。
殺人犯が誰かを知ろうとしてはならない。
等、10項目の禁止事項。
つまり、「十戒」。
これが守られない場合は、
爆弾の起爆装置が作動し、
全員の命が奪われる。
島から誰も逃げ出すことの出来ない中での殺人事件。
いわゆる「クローズドサークル」もの。
クローズド・サークル(closed circle )・・・
ミステリ用語で、
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況下で
起こる事件を扱った作品を指す。
過去の代表例から、
「嵐の孤島もの」「吹雪の山荘もの」
「陸の孤島もの」「客船もの」「列車もの」
などに分類される。
島に視察に訪れて、
漁船が再訪するまで
孤立した状態、という状況は
かなり強引だが、そういう状況を楽しむミステリー。
孤立しても、今はスマホという連絡手段があり、
救助を求めることが可能で、
その防御のため、
スマホを全員から回収という手段が取られる。
電波が届かないほど遠い島では、
リゾート施設ということで無理があり、
本土から近くに設定したため、
そういうことになる。
全編、里英の視点で描かれ、
綾川の推理で進展する。
8人の中に殺人犯がいるのは確実だが、
里英と綾川は、最初の日、同室で寝ていたので、
殺人をすることが出来ず、除外。
里英の父も、娘を爆死させるはずはないので、除外。
残された5人の中に殺人犯がいる。
そして、第2、第3の殺人が起こる・・・
殺人の目的は何か。
本当に作業小屋の起爆装置はセットされているのか。
犯人は全員を爆殺する覚悟はしているのか。
脅しに過ぎないのではないのか。
等の疑問を引きずりつつ、
事態は新たな展開を迎える。
犯人からのカレンダー裏の追加指示も増える。
途中で犯人と犯行の内容が明かされるが、
そんなことは、この手の小説では信じてはいけない。
最後の最後に真相が明らかになる。
それは、読んでのお楽しみ。
残された者の中に犯人がいるのは確実で、
その犯人の意思を確認する方法が大変ユニーク。
また、時々行う全員監視のもとでのスマホでの会話で、
島の危機的状況に触れることができないままで、
外界と話をしなければならない様が面白い。
作者のミスリードには、気づかなかったが、
この手のものは、
一番怪しくない者が犯人、
という定石があり、
まさに、その通り。
作者の夕木春央は、
前作「方舟」でも、
クローズドサークルの謎を駆使して、
週刊文春ミステリーベスト10など4冠に輝いた人だという。
「方舟」も読んでみることにしよう。
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