■■■ 第三章 帝国議会 ■■■
第三章 帝国議会
第三章は帝国議会の成立及び権利の大綱を挙げる。蓋し、議会は立法に参与する者であり、主権を分かつ者ではない。法を議論する権能はあるが、法を定める権能はない。そして、議会の参賛は憲法の正条において附与する範囲に止まり、無限の権能が在るわけではない。
議会が立法に参与するのは、立憲の政における要素の機関たるところを以てである。そして、議会は独り立法に参与するのみならず、あわせて行政を監視する任務を間接に負うものである。故にわが憲法及び議院法は、議会のために左記の権利を認めた、一に言うには「請願を受ける権」、二に言うには「上奏及び建議を行う権」、三に言うには「議院政府に質問し厳命を求める権」、四に言うには「財政を監督する権」これである。もし、議会が果たして、老熟着実の気象に基づき平和静穏の手段を用いて、この四条の権能を適当に使用する事を愆らないときは、権力の偏重を制し立法行政の際に調和平衡して善良なる臣民の代議たるに負かされるべきである。
◆◆◆ 第三十三条 ◆◆◆
第三十三条 帝国議会は貴族院衆議院の両院を以て成立す(帝国議会は、貴族院と衆議院の両院で成立している)
貴族院は貴紳を集め、衆議院は庶民から選ぶ。両院合同して、一つの帝国議会を成立し、全国の公議を代表する。故に両院はある特例を除く外、平等の権力を持ち、一院で独り立法の事を参賛する事は出来ない。以て、謀議周匝にして与論の公平を得る事を期待する。
二院の制度は、欧州各国が既に久しく因襲するところであり、その効績を史乗に徴験し、そしてこれに反する一院制をとるものは、全てその流禍を免れないことを証明した。[フランス1791年及び1848年、スペイン1812年憲法]近来、二院制の祖国に於いて論者却りて、その社会の発達の淹滞障碍であるとの説を為すものがある。抑々二院制の利益を主持するものは、既にこなれた論があり、今ここに引挙する必要がない。但し、貴族院の設置は王室の屏翰をなし、保守の分子を貯存するのに止まるものではない。蓋し、立国の機関において、もとよりその必要を見るものである。なぜならば、おおよそ高尚な有機物の組織は、独り各種の元素を抱合して、成体をなすのみでなく、また必ず各種の機器によって中心を輔翼させる。両目は各々その位を殊にしたなら、視力の角点を得られない。両耳は各々その方向を異にしていなければ、聴官の偏聾を免れない。故に元首は一つ出なくてはならず、そして衆庶の意思を集める機関は、両個の一つが欠けてはならない事は、あたかも両輪のその一つを失ってはならない事と同じである。その代議の制度は、公議の結果を収めようとする。そして、勢力を一院に集め一時の感情の反射と一方の偏向とに任して、相互牽制によりその平衡を維持するものが無ければ、いずれかその傾流奔注(傾き流れた水が勢いよく注がれる)の勢いが容易に範防(堤)を踰越し、一変して多数圧制となり、再度変じて横議乱政とならない事を保障するものがあろうか。これ、その弊害は、かえって代議の制度が無い時よりも猶、甚だしきものがある。故に代議の制度を設けるのであれば、これを設けて二院にしないのであれば、必ず偏重を招く事を免れない。これは、即ち物理の自然に原由するものであり、一時の状況を以てこれを掩蔽するべきでは無い。要するに二院の制度の代議法においては、これを学理に照らし、事実に徴して、その不易の機関であることを結論する事が出来るべきである。彼のある国における貴族院の懶庸(ものぐさで平凡)にして議事延滞の弊害があることを論ずるごときは、これは一時の短所を摘発するのに過ぎず、そして国家の長計に対しては、その言説に価値が有るとは見なさない。
◆◆◆ 第三十四条 ◆◆◆
第三十四条 貴族院は貴族院令の定むる所に依り皇族華族及び勅任せられたる議員を以て組織す(貴族院は貴族院令の定める所により、皇族・華族及び勅任された議員をもって組織する)
貴族院議員は、その或いは世襲である、選挙または勅任であるに拘わらず、均しく上流の社会を代表する者である。貴族院にその職を得るときは、政権の平衡を保ち、政党の偏帳を制し、横議の傾勢を支え、憲法の強固を助け、上下調和の機関となり、国福民慶を永久に維持するために、その効果を収めることが多い位置にいようとする。蓋し、貴族院は貴冑によって立法の議に参頂させるのではない。また、国の勲労・学識及び富豪の士を集めて、国民の慎重・練熟・耐久の気風を代表させ、抱合親和してともに上流の一団をなし、その効用を全くさせる所以である。その構成・制規は貴族院令に具わるので、憲法にこれを列挙しない。
◆◆◆ 第三十五条 ◆◆◆
第三十五条 衆議院は選挙法の定むる所に依り公選せられたる議員を以て組織す(衆議院は、選挙法に定める所によって公選された議員により組織する)
衆議院の議員は、その資格とその任期とを定めて、広く全国人民が公選する方法を取る。本条の議員選挙の制規をもってこれを別法に譲るのは、蓋し選挙の方法は時宜の必要を将来に見るに従い、これを補修するための便宜を図るためである。故に憲法はその細節に拘わることを欲しない。
衆議院の議員は、全て皆、全国の衆民を代表する者である。そして衆議院の選挙に選挙区を設けるのは、代議士の選挙を全国に一般化させ、及び選挙の方法を簡便にするために他ならない。故に代議士は、各個の良心に従い自由に発言する者であり、その所属選挙区の人民のために一地方の委任使となり、委嘱を代行するものでは無い。これを欧州の史乗を参考にすると、往昔の議会はその議員である者が、往々にして委嘱の主旨に依り一部の利益を主張して、全局を達観する公義を忘れ、従って多数を以て議決とする大義の大則を放棄するに至る者が往々にしてあった。これは代議士の本分を知らない過ちによる。
◆◆◆ 第三十六条 ◆◆◆
第三十六条 何人も同時に両議院の議員たることを得ず(誰も、同時に両方のの議院の議員になる事は出来ない。)
両院は、一つの議会であり、分けて両局とし、その成素を殊にし、平衡相持する位置にいる。故に一人で同時に両院の議員を兼ねるのは、両院分設の制度の許さないところである。
◆◆◆ 第三十七条 ◆◆◆
第三十七条 凡て法律は帝国議会の協賛を経るを要す(全ての法律は、帝国議会の協賛を経る必要がある)
法律は国家主権より出る規範であり、そして必ず議会の協賛を経る必要があるのは、これを立憲の大則とするからである。故に議会の議決を経ない物は、これを法律とする事は出来ない。一院が可決しても、他の一院が否決する時は、またこれを法律とする事が出来ない。
附記:「どのような事を法律を以て定める必要がありや?」というような問題に至っては、一つの例言を以て、これを概括するのは難しい。ドイツの普通方を公布させる勅令に「本法は別段の法律によって定めない国民の権利義務を判明すべき条規を包括する」という。また、バイロン1818年5月26日憲法の第七章第二条に「人身の自由または国民の財産に関する普通の法を発布し、或いは現行法を変更したり、解釈したり、廃止したりするには、国会の共同を必要とする」という。然るに学者の多くは、法律の区域は権利義務もしくは自由財産に止まるべきで無い事を駮し、且つ事物を以て法律と命令との区域を分割しようとするのは、憲法上及び学問上の試験において、一つもその結果を得られ無いことを論じた。蓋し、法律及び命令の区域は、専ら各国の政治発達の程度に従う。そして唯憲法史を以てこれを論断すべきのみである。ただし、憲法の明文により特に法律が必要とされるものは、これを第一の限界として、既に法律を以て制定されたものは、法律でなければこれを変更する事ができないものは、これを第二の限界とする。これは、立憲各国で同じである。
◆◆◆ 第三十八条 ◆◆◆
第三十八条 両議院は政府の提出する法律案を議決し及び各々法律案を提出することを得(両議院は、政府の提出する法律案を議決し、及び法律案を提出する事が出来る)
政府において法律を起草し、天皇の命によりこれを議案とし、両議員に付するときは、両議院はこれを可決し、これを否決し、又はこれを修正する事が出来る。もし、両議院に於いてある法律を発行するのを必要とする時は、各々その安を提出する事が出来る。そして、甲議院がこれを提出し、乙議院がこれに同意し又はこれを修正して可決した後、天皇の裁可がある時は法律となり、このことは、政府の起案と異なる事は無い。
至尊は議会における召集・開閉の勅命及び法律裁可の他、会期中全て国務大臣により議案及びその他往復に当たらせる。故にこれを政府の提出という。
◆◆◆ 第三十九条 ◆◆◆
第三十九条 両議院の一に於て否決したる法律案は同会期中に於て再び提出することを得ず(両議院の片方で否決された法律案は、同じ会期中に再び提出する事は出来ない)
再議の提出は、議会の権利を既存するだけでなく、また、会期遷延して一時に拘滞する弊害が予想される。故に本条にこれを禁止する。既に否決を経た同一の議案を以て、その名称文字を変更して再びこれを提出し、本条の規定を避けるのは、また憲法の許していない所である。
君主の裁可を得ない法案は、同一会期中に議院より提出することが出来ないのは、これがもとより元首の大権に対する事理の当然の事であり、更に言明を必要としない。但し、建議の条において、その再び建議することを禁止することを掲げるのは、提出議案の裁可の有無は至尊の勅命により、そして建議採納の有無は政府の取捨に存在するからである。その間には、もとより軽重の差が有り、従って予め疑義が判明する必要の用を見るからである。
◆◆◆ 第四十条 ◆◆◆
第四十条 両議院は法律又は其の他の事件に付各々其の意見を政府に建議することを得但し其の採納を得ざるものは同会期中に於て再び建議することを得ず(両議院は、法律又はその他の事件について、各々その意見を政府に建議する事が出来る。但し、政府が採納しなかった建議は、同じ会期中に再び建議する事は出来ない)
本条は、議院に建議の権利が有ることを掲げるものである。上条で既に両議院に各々法律案を提出する権利を予め与えた。そして本条でまた法律に付いて意見を建議することが出来ると言えるのは何故か。議院は自ら法律を起案してこれを提出すると、或いは某の新報を制定すべく、某の旧法を改正又は廃止すべきことを決議し、成案を具えず単にその意見で政府に啓陳し、政府の取る所となるときは、その起草制定するのに任ずるという、両様の方法に就いて議院にその一つを選ばせるものである。蓋し、これを欧州に参考するのに、議院自ら議案提出の権利を有するのは、各国においても同じである(スイスを除く外)。但し、議院自ら多数に依頼して法律の条項を制定するのは、往々議事遷延と成条の疎漏出あり首尾完整ならないとの弊害を免れない。寧ろ政府の委員の熟練に依任するのに愈れるにしかず。これ各国学者のこれを実際に徴験してその特質を論ずるところである。
議会は立法の事に参頂するのみでなく、あわせて間接に行政を監視する任を負うものである。故に両議院は又は立法の外の事件に付いて意見をもって政府に建議を利幣得失を論白する事が出来る。
但し、法律又はその他の事件に拘わらず、議院の意見で政府により採納されないものは、同一会期中に再び建議することを出来なくさせるのは、蓋し、紛議強迫に渉るみちを防ぐためである。
◆◆◆ 第四十一条 ◆◆◆
第四十一条 帝国議会は毎年之を召集す(帝国議会は毎年召集する)
議会を召集するのは専ら天皇の大権である。然るに本条で毎年召集することを定めるのは、憲法において議会の存立を保障するためである。ただし、第七十条に掲げる場合のようなものは非常の例外である。
◆◆◆ 第四十二条 ◆◆◆
第四十二条 帝国議会は三箇月を以て会期とす。必要有る場合に於いては勅命を以て延長することあるべし(帝国議会は会期を三箇月とする。必要有る場合には勅命で延長することが有る)
三箇月を会期とするのは、議事が遷延して期間が乏しく成る事を防ぐためである。やむを得ざる必要が有ったときに会期を延長し閉会を延期するのは、また勅命による。議会自らこれを行う事はできない。
議会を閉会した時は、会期の事務が終わる事を告げるもの、とし特別の規定がある場合を除くほかは、議事が既に議決した、未だ議決されていないを問わず、次回の会期に継続する事は無い。
◆◆◆ 第四十三条 ◆◆◆
第四十三条 臨時緊急の必要有る場合において常会の外臨時会を召集すべし(臨時・緊急の必要がある場合は、常会の外に臨時会を召集すべし)
臨時会の会期を定むるは勅命による(臨時会の会期は勅命により定める)
議会は、一年に一会を開く。これを常会とする。憲法に常会の時期を掲げないと言っても、常会は毎年の予算を審議する利便を採用する。故に冬季に開会するのを定例とする。そして常会の外に臨時・緊急に必要がある時は、特に勅命を発令して臨時会を招集する。
臨時会の会期は、憲法では之を限定しない。そして、臨時召集する勅命の定める所に従う。また、その必要如何による。
◆◆◆ 第四十四条 ◆◆◆
第四十四条 帝国議会の開会閉会会期の延長及び停会は両院同時に之を行うべし(帝国議会の開会・閉会・会期の延長及び停会は、両院同時にこれを行わなければ成らない)
衆議院解散を命ぜられたるときは貴族院は同時に停会せらるべし(衆議院が解散を命じられたときは、貴族院は同時に停会されなければ成らない)
貴族院と衆議院は、両局であり、一揆の議会である。故に一議院の義を経ずに、他の議院の成義で法律としてはならない。また、一議院の会期の外に他の議院の会議を有効にしてはならない。本条に両院は必ず同時に開閉始終するのを定めるのは、この義による。
貴族院の一部は世襲議院をもって組織する。故に貴族院は停会するのであり、解散してはならない。衆議院の解散を命じられたときは、貴族院は同時に停会を命じられるのに止まる。
◆◆◆ 第四十五条 ◆◆◆
第四十五条 衆議院解散を命せられたるときは勅命を以て新に議員を選挙せしめ解散のひより五ヶ月以内にこれを招集すへし(衆議院の解散を命じられたときは、勅命を以て新に議員を選挙させ、解散の日より五ヶ月以内に召集すべし)
本条は、議会の為に永久に保障を与える。蓋し、解散は将に旧議員を解散して、新議院を招集しようとするものである。そして憲法で、もし議院解散の後に新に召集する時期を一定にしないときは、議会の存立は政府の随意で廃止するところに任してしまうことになる。
◆◆◆ 第四十六条 ◆◆◆
第四十六条 両議院は各其の総議員三分の一以上出席するに非されば議事を開き議決を為すことを得ず(両議院はそれぞれ、その議院の三分の一以上出席しなければ、議事を開き議決する事が出来ない)
出席議員が三分の一に満たないときは、会議を成立させる員数に足らない。故に議事を開く事が出来ず、議決を行うことが出来ない。
総議員とは、選挙法に定めた議員の総数をいう。三分の一以上出席しなければ、議事を開くことが出来ないときは、三分の一以上が召集に応じなければ、議院の成立を告げることが出来ない事を知るべきである。
◆◆◆ 第四十七条 ◆◆◆
第四十七条 両議院の議事は過半数を以て決す。可否同数なるときは議長の決する所に依る(両議院の議事は過半数で決まる。可否が同数であるときは、議長の可否で決まる)
過半数を以て決を挙げるのは、議事の常則である。本条の過半数とは、出席議員に就いてこれをいう。両議院平分して各々同数を得る場合に当たって、議長の見るところにより決をなすのは、事理宜しく然るべきである。但し、第七十三条における憲法改正の議事は令が意図する。また、議院において議長及びその他の委員を選挙することに付いては、特に定める多数及び委員会の規定は、各その規則に依るべきであり本条は干渉しない。
◆◆◆ 第四十八条 ◆◆◆
第四十八条 両議院の会議は公開す但し政府の要求又は其の院の決議に依り秘密会と為すことを得(両議院の会議は公開とする。ただし、政府の要求又は、其の院の決議によって、秘密会とする事が出来る)
議院は庶民を代表する。故に討論・可否はこれを衆目の前に公にする。ただし、議事が秘密を要するもの。外交事件・人事及び職員委員の選挙又は、あるいは財政・平成、あるいは治安に係る行政法のような場合は、その変例とし、政府の要求により又は各院の決議により秘密会とし、公開を取り止めることが出来る。
◆◆◆ 第四十九条 ◆◆◆
第四十九条 両議院は各々天皇に上奏することを得(両議院は各々天皇に上奏する事が出来る)
上奏は、文書を上呈して天皇に奏聞する事を言う。或いは、直後に奉対し、或いは慶賀吊傷の表辞を上り、或いは意見を建白し請願を陳疏するなどの類は全て其の中にある。そして或いは文書を上呈するのに留まり、或いは総代をもって観閲を請いこれを上程するのも全て相当の敬礼を用いなければならず、逼迫・強抗で尊厳を干犯しないようにしなければならない。
◆◆◆ 第五十条 ◆◆◆
第五十条 両議院は臣民より呈出する請願書を受くることを得(両議院は臣民より呈出された請願書を受け取る事が出来る)
臣民は、至尊に請願し又は、行政官衙に請願し、議院に請願することは、全て其の意に従う事が出来る。その議院に在っては、各人の請願を受けてこれを審査し、或いは単にこれを政府に紹介し、或いはこれに意見書を附して政府に報告を求めることが出来る。但し、議院は必ずしも請願を議定する義務があるわけではなく、政府は必ずしも請願を許可する義務があるわけでもない。もし、それ請願が立法にかかわるものは、請願をもって直ちに提出法律案の動議としてはいけないといっても、議員はその請願の主旨により通常動議の方法に従がって行う事が出来る。
◆◆◆ 第五十一条 ◆◆◆
第五十一条 両議院は此の憲法及び議院法に掲ぐるものの外内部の整理に必要なる諸規則を定むることを得(両議院は、この憲法及び議院法に掲げられているものの外、内部の整理に必要な諸規則を定める事が出来る。)
内部の整理に必要な諸規則とは、議長の推選、議長及び事務局の職務、各部の分設委員の推選、委員の事務・議事規則・議事記録・請願取り扱い規則・議院請暇規則・紀律及び議院会計の類をいう。そして憲法及び議院法の範囲内で議院が自らこれを制定するのに任される。
◆◆◆ 第五十二条 ◆◆◆
第五十二条 両議院の議員は議院に於いて発言したる意見及び表決に付き院外に於いて責を負うことなし但し議員自ら其の言論を演説刊行筆記又は其の他の方法を以て公布したるときは一般の法律に依り処分せらるべし(両議院の議員は議院において発言した意見及び法決について、院外で責任を負うことはない。但し、議院自らがその言論を演説・刊行・筆記及びその他の方法で公布したときは、一般の法律により処分される)
本条は、議院の為に言論の自由を認める。蓋し、議院の内部は議員の自治に属する。故に言論の規矩を越え徳義を紊し、又は人の支持を讒毀するような事は、議院の紀律により議院自らがこれを制止し及び懲戒すべきであり、そして司法官はこれに干渉すべきでは無い。議決は法律の成案を作ろうとする。そして議員の討論は異同相摩して、それを一つに帰結するための資料をなすものである。故に議院の議はそれによって、刑事及び民事の責任を問うべきでは無い。これは、一つは議院の権利を尊重し、二つ目は議員の言論を十分に価値あるものとする。但し、議員自らが議院の言論を公布し、その自由を行使してこれを外部に普及した場合は、動議と駁議とを問わず、全て法律の責問を免れる事は出来ない。
◆◆◆ 第五十三条 ◆◆◆
第五十三条 両議院の議員は現行犯罪又は内乱外患に関する罪を除く外会期中其の院の許諾なくして逮捕せらるることなし(両議院の議員は、現行犯の罪又は内乱外患に関する罪を除くほかは、会期中にその院の許諾なしに逮捕されることはない)
両議院は立法の大事を参賛する。故に会期の中は議員に予め例外の特権をもって議員の不羈の体面を持たせ、その重要な職務を全うする事が出来るようにさせる。もしそれが、現行犯の罪又は内乱外患にかかわる罪に至っては、議院の特典の庇護するところでは無い。会期中とは召集の後閉会の前をいう。非現行犯及び普通の罪犯は、議院に通牒し、その許諾を得え後にこれを逮捕し、現行犯及び内乱外患に関わる罪犯は先ず逮捕して、その後に議院に通知すべきである。
◆◆◆ 第五十四条 ◆◆◆
第五十四条 国務大臣及び政府委員は何時たりとも各議院に出席し及び発言することを得(国務大臣及び政府委員は、何時でも各議院に出席し、発言する事が出来る)
議会の議事に当たって、議場で弁明することは大臣の重要な任であり、万衆に対して心胸を開いて正理を公議に訴えて、嘉謀を時論に求めてその底蘊を叩き遺憾ないようにさせる。蓋し、このようで、なければ立憲の効用を収めるに足りない。但し、出席及び発言の権利は、政府の自由に任せ、或いは大臣自ら討論し又は弁明し、或いは他の委員に討論・弁明させ、或いは時宜に適さないことによって討論・弁明を行わないことが出来る。これは全てその意に随う。
出典
http://www.asahi-net.or.jp/~xx8f-ishr/kenpou_gikai.htm
第三章 帝国議会
第三章は帝国議会の成立及び権利の大綱を挙げる。蓋し、議会は立法に参与する者であり、主権を分かつ者ではない。法を議論する権能はあるが、法を定める権能はない。そして、議会の参賛は憲法の正条において附与する範囲に止まり、無限の権能が在るわけではない。
議会が立法に参与するのは、立憲の政における要素の機関たるところを以てである。そして、議会は独り立法に参与するのみならず、あわせて行政を監視する任務を間接に負うものである。故にわが憲法及び議院法は、議会のために左記の権利を認めた、一に言うには「請願を受ける権」、二に言うには「上奏及び建議を行う権」、三に言うには「議院政府に質問し厳命を求める権」、四に言うには「財政を監督する権」これである。もし、議会が果たして、老熟着実の気象に基づき平和静穏の手段を用いて、この四条の権能を適当に使用する事を愆らないときは、権力の偏重を制し立法行政の際に調和平衡して善良なる臣民の代議たるに負かされるべきである。
◆◆◆ 第三十三条 ◆◆◆
第三十三条 帝国議会は貴族院衆議院の両院を以て成立す(帝国議会は、貴族院と衆議院の両院で成立している)
貴族院は貴紳を集め、衆議院は庶民から選ぶ。両院合同して、一つの帝国議会を成立し、全国の公議を代表する。故に両院はある特例を除く外、平等の権力を持ち、一院で独り立法の事を参賛する事は出来ない。以て、謀議周匝にして与論の公平を得る事を期待する。
二院の制度は、欧州各国が既に久しく因襲するところであり、その効績を史乗に徴験し、そしてこれに反する一院制をとるものは、全てその流禍を免れないことを証明した。[フランス1791年及び1848年、スペイン1812年憲法]近来、二院制の祖国に於いて論者却りて、その社会の発達の淹滞障碍であるとの説を為すものがある。抑々二院制の利益を主持するものは、既にこなれた論があり、今ここに引挙する必要がない。但し、貴族院の設置は王室の屏翰をなし、保守の分子を貯存するのに止まるものではない。蓋し、立国の機関において、もとよりその必要を見るものである。なぜならば、おおよそ高尚な有機物の組織は、独り各種の元素を抱合して、成体をなすのみでなく、また必ず各種の機器によって中心を輔翼させる。両目は各々その位を殊にしたなら、視力の角点を得られない。両耳は各々その方向を異にしていなければ、聴官の偏聾を免れない。故に元首は一つ出なくてはならず、そして衆庶の意思を集める機関は、両個の一つが欠けてはならない事は、あたかも両輪のその一つを失ってはならない事と同じである。その代議の制度は、公議の結果を収めようとする。そして、勢力を一院に集め一時の感情の反射と一方の偏向とに任して、相互牽制によりその平衡を維持するものが無ければ、いずれかその傾流奔注(傾き流れた水が勢いよく注がれる)の勢いが容易に範防(堤)を踰越し、一変して多数圧制となり、再度変じて横議乱政とならない事を保障するものがあろうか。これ、その弊害は、かえって代議の制度が無い時よりも猶、甚だしきものがある。故に代議の制度を設けるのであれば、これを設けて二院にしないのであれば、必ず偏重を招く事を免れない。これは、即ち物理の自然に原由するものであり、一時の状況を以てこれを掩蔽するべきでは無い。要するに二院の制度の代議法においては、これを学理に照らし、事実に徴して、その不易の機関であることを結論する事が出来るべきである。彼のある国における貴族院の懶庸(ものぐさで平凡)にして議事延滞の弊害があることを論ずるごときは、これは一時の短所を摘発するのに過ぎず、そして国家の長計に対しては、その言説に価値が有るとは見なさない。
◆◆◆ 第三十四条 ◆◆◆
第三十四条 貴族院は貴族院令の定むる所に依り皇族華族及び勅任せられたる議員を以て組織す(貴族院は貴族院令の定める所により、皇族・華族及び勅任された議員をもって組織する)
貴族院議員は、その或いは世襲である、選挙または勅任であるに拘わらず、均しく上流の社会を代表する者である。貴族院にその職を得るときは、政権の平衡を保ち、政党の偏帳を制し、横議の傾勢を支え、憲法の強固を助け、上下調和の機関となり、国福民慶を永久に維持するために、その効果を収めることが多い位置にいようとする。蓋し、貴族院は貴冑によって立法の議に参頂させるのではない。また、国の勲労・学識及び富豪の士を集めて、国民の慎重・練熟・耐久の気風を代表させ、抱合親和してともに上流の一団をなし、その効用を全くさせる所以である。その構成・制規は貴族院令に具わるので、憲法にこれを列挙しない。
◆◆◆ 第三十五条 ◆◆◆
第三十五条 衆議院は選挙法の定むる所に依り公選せられたる議員を以て組織す(衆議院は、選挙法に定める所によって公選された議員により組織する)
衆議院の議員は、その資格とその任期とを定めて、広く全国人民が公選する方法を取る。本条の議員選挙の制規をもってこれを別法に譲るのは、蓋し選挙の方法は時宜の必要を将来に見るに従い、これを補修するための便宜を図るためである。故に憲法はその細節に拘わることを欲しない。
衆議院の議員は、全て皆、全国の衆民を代表する者である。そして衆議院の選挙に選挙区を設けるのは、代議士の選挙を全国に一般化させ、及び選挙の方法を簡便にするために他ならない。故に代議士は、各個の良心に従い自由に発言する者であり、その所属選挙区の人民のために一地方の委任使となり、委嘱を代行するものでは無い。これを欧州の史乗を参考にすると、往昔の議会はその議員である者が、往々にして委嘱の主旨に依り一部の利益を主張して、全局を達観する公義を忘れ、従って多数を以て議決とする大義の大則を放棄するに至る者が往々にしてあった。これは代議士の本分を知らない過ちによる。
◆◆◆ 第三十六条 ◆◆◆
第三十六条 何人も同時に両議院の議員たることを得ず(誰も、同時に両方のの議院の議員になる事は出来ない。)
両院は、一つの議会であり、分けて両局とし、その成素を殊にし、平衡相持する位置にいる。故に一人で同時に両院の議員を兼ねるのは、両院分設の制度の許さないところである。
◆◆◆ 第三十七条 ◆◆◆
第三十七条 凡て法律は帝国議会の協賛を経るを要す(全ての法律は、帝国議会の協賛を経る必要がある)
法律は国家主権より出る規範であり、そして必ず議会の協賛を経る必要があるのは、これを立憲の大則とするからである。故に議会の議決を経ない物は、これを法律とする事は出来ない。一院が可決しても、他の一院が否決する時は、またこれを法律とする事が出来ない。
附記:「どのような事を法律を以て定める必要がありや?」というような問題に至っては、一つの例言を以て、これを概括するのは難しい。ドイツの普通方を公布させる勅令に「本法は別段の法律によって定めない国民の権利義務を判明すべき条規を包括する」という。また、バイロン1818年5月26日憲法の第七章第二条に「人身の自由または国民の財産に関する普通の法を発布し、或いは現行法を変更したり、解釈したり、廃止したりするには、国会の共同を必要とする」という。然るに学者の多くは、法律の区域は権利義務もしくは自由財産に止まるべきで無い事を駮し、且つ事物を以て法律と命令との区域を分割しようとするのは、憲法上及び学問上の試験において、一つもその結果を得られ無いことを論じた。蓋し、法律及び命令の区域は、専ら各国の政治発達の程度に従う。そして唯憲法史を以てこれを論断すべきのみである。ただし、憲法の明文により特に法律が必要とされるものは、これを第一の限界として、既に法律を以て制定されたものは、法律でなければこれを変更する事ができないものは、これを第二の限界とする。これは、立憲各国で同じである。
◆◆◆ 第三十八条 ◆◆◆
第三十八条 両議院は政府の提出する法律案を議決し及び各々法律案を提出することを得(両議院は、政府の提出する法律案を議決し、及び法律案を提出する事が出来る)
政府において法律を起草し、天皇の命によりこれを議案とし、両議員に付するときは、両議院はこれを可決し、これを否決し、又はこれを修正する事が出来る。もし、両議院に於いてある法律を発行するのを必要とする時は、各々その安を提出する事が出来る。そして、甲議院がこれを提出し、乙議院がこれに同意し又はこれを修正して可決した後、天皇の裁可がある時は法律となり、このことは、政府の起案と異なる事は無い。
至尊は議会における召集・開閉の勅命及び法律裁可の他、会期中全て国務大臣により議案及びその他往復に当たらせる。故にこれを政府の提出という。
◆◆◆ 第三十九条 ◆◆◆
第三十九条 両議院の一に於て否決したる法律案は同会期中に於て再び提出することを得ず(両議院の片方で否決された法律案は、同じ会期中に再び提出する事は出来ない)
再議の提出は、議会の権利を既存するだけでなく、また、会期遷延して一時に拘滞する弊害が予想される。故に本条にこれを禁止する。既に否決を経た同一の議案を以て、その名称文字を変更して再びこれを提出し、本条の規定を避けるのは、また憲法の許していない所である。
君主の裁可を得ない法案は、同一会期中に議院より提出することが出来ないのは、これがもとより元首の大権に対する事理の当然の事であり、更に言明を必要としない。但し、建議の条において、その再び建議することを禁止することを掲げるのは、提出議案の裁可の有無は至尊の勅命により、そして建議採納の有無は政府の取捨に存在するからである。その間には、もとより軽重の差が有り、従って予め疑義が判明する必要の用を見るからである。
◆◆◆ 第四十条 ◆◆◆
第四十条 両議院は法律又は其の他の事件に付各々其の意見を政府に建議することを得但し其の採納を得ざるものは同会期中に於て再び建議することを得ず(両議院は、法律又はその他の事件について、各々その意見を政府に建議する事が出来る。但し、政府が採納しなかった建議は、同じ会期中に再び建議する事は出来ない)
本条は、議院に建議の権利が有ることを掲げるものである。上条で既に両議院に各々法律案を提出する権利を予め与えた。そして本条でまた法律に付いて意見を建議することが出来ると言えるのは何故か。議院は自ら法律を起案してこれを提出すると、或いは某の新報を制定すべく、某の旧法を改正又は廃止すべきことを決議し、成案を具えず単にその意見で政府に啓陳し、政府の取る所となるときは、その起草制定するのに任ずるという、両様の方法に就いて議院にその一つを選ばせるものである。蓋し、これを欧州に参考するのに、議院自ら議案提出の権利を有するのは、各国においても同じである(スイスを除く外)。但し、議院自ら多数に依頼して法律の条項を制定するのは、往々議事遷延と成条の疎漏出あり首尾完整ならないとの弊害を免れない。寧ろ政府の委員の熟練に依任するのに愈れるにしかず。これ各国学者のこれを実際に徴験してその特質を論ずるところである。
議会は立法の事に参頂するのみでなく、あわせて間接に行政を監視する任を負うものである。故に両議院は又は立法の外の事件に付いて意見をもって政府に建議を利幣得失を論白する事が出来る。
但し、法律又はその他の事件に拘わらず、議院の意見で政府により採納されないものは、同一会期中に再び建議することを出来なくさせるのは、蓋し、紛議強迫に渉るみちを防ぐためである。
◆◆◆ 第四十一条 ◆◆◆
第四十一条 帝国議会は毎年之を召集す(帝国議会は毎年召集する)
議会を召集するのは専ら天皇の大権である。然るに本条で毎年召集することを定めるのは、憲法において議会の存立を保障するためである。ただし、第七十条に掲げる場合のようなものは非常の例外である。
◆◆◆ 第四十二条 ◆◆◆
第四十二条 帝国議会は三箇月を以て会期とす。必要有る場合に於いては勅命を以て延長することあるべし(帝国議会は会期を三箇月とする。必要有る場合には勅命で延長することが有る)
三箇月を会期とするのは、議事が遷延して期間が乏しく成る事を防ぐためである。やむを得ざる必要が有ったときに会期を延長し閉会を延期するのは、また勅命による。議会自らこれを行う事はできない。
議会を閉会した時は、会期の事務が終わる事を告げるもの、とし特別の規定がある場合を除くほかは、議事が既に議決した、未だ議決されていないを問わず、次回の会期に継続する事は無い。
◆◆◆ 第四十三条 ◆◆◆
第四十三条 臨時緊急の必要有る場合において常会の外臨時会を召集すべし(臨時・緊急の必要がある場合は、常会の外に臨時会を召集すべし)
臨時会の会期を定むるは勅命による(臨時会の会期は勅命により定める)
議会は、一年に一会を開く。これを常会とする。憲法に常会の時期を掲げないと言っても、常会は毎年の予算を審議する利便を採用する。故に冬季に開会するのを定例とする。そして常会の外に臨時・緊急に必要がある時は、特に勅命を発令して臨時会を招集する。
臨時会の会期は、憲法では之を限定しない。そして、臨時召集する勅命の定める所に従う。また、その必要如何による。
◆◆◆ 第四十四条 ◆◆◆
第四十四条 帝国議会の開会閉会会期の延長及び停会は両院同時に之を行うべし(帝国議会の開会・閉会・会期の延長及び停会は、両院同時にこれを行わなければ成らない)
衆議院解散を命ぜられたるときは貴族院は同時に停会せらるべし(衆議院が解散を命じられたときは、貴族院は同時に停会されなければ成らない)
貴族院と衆議院は、両局であり、一揆の議会である。故に一議院の義を経ずに、他の議院の成義で法律としてはならない。また、一議院の会期の外に他の議院の会議を有効にしてはならない。本条に両院は必ず同時に開閉始終するのを定めるのは、この義による。
貴族院の一部は世襲議院をもって組織する。故に貴族院は停会するのであり、解散してはならない。衆議院の解散を命じられたときは、貴族院は同時に停会を命じられるのに止まる。
◆◆◆ 第四十五条 ◆◆◆
第四十五条 衆議院解散を命せられたるときは勅命を以て新に議員を選挙せしめ解散のひより五ヶ月以内にこれを招集すへし(衆議院の解散を命じられたときは、勅命を以て新に議員を選挙させ、解散の日より五ヶ月以内に召集すべし)
本条は、議会の為に永久に保障を与える。蓋し、解散は将に旧議員を解散して、新議院を招集しようとするものである。そして憲法で、もし議院解散の後に新に召集する時期を一定にしないときは、議会の存立は政府の随意で廃止するところに任してしまうことになる。
◆◆◆ 第四十六条 ◆◆◆
第四十六条 両議院は各其の総議員三分の一以上出席するに非されば議事を開き議決を為すことを得ず(両議院はそれぞれ、その議院の三分の一以上出席しなければ、議事を開き議決する事が出来ない)
出席議員が三分の一に満たないときは、会議を成立させる員数に足らない。故に議事を開く事が出来ず、議決を行うことが出来ない。
総議員とは、選挙法に定めた議員の総数をいう。三分の一以上出席しなければ、議事を開くことが出来ないときは、三分の一以上が召集に応じなければ、議院の成立を告げることが出来ない事を知るべきである。
◆◆◆ 第四十七条 ◆◆◆
第四十七条 両議院の議事は過半数を以て決す。可否同数なるときは議長の決する所に依る(両議院の議事は過半数で決まる。可否が同数であるときは、議長の可否で決まる)
過半数を以て決を挙げるのは、議事の常則である。本条の過半数とは、出席議員に就いてこれをいう。両議院平分して各々同数を得る場合に当たって、議長の見るところにより決をなすのは、事理宜しく然るべきである。但し、第七十三条における憲法改正の議事は令が意図する。また、議院において議長及びその他の委員を選挙することに付いては、特に定める多数及び委員会の規定は、各その規則に依るべきであり本条は干渉しない。
◆◆◆ 第四十八条 ◆◆◆
第四十八条 両議院の会議は公開す但し政府の要求又は其の院の決議に依り秘密会と為すことを得(両議院の会議は公開とする。ただし、政府の要求又は、其の院の決議によって、秘密会とする事が出来る)
議院は庶民を代表する。故に討論・可否はこれを衆目の前に公にする。ただし、議事が秘密を要するもの。外交事件・人事及び職員委員の選挙又は、あるいは財政・平成、あるいは治安に係る行政法のような場合は、その変例とし、政府の要求により又は各院の決議により秘密会とし、公開を取り止めることが出来る。
◆◆◆ 第四十九条 ◆◆◆
第四十九条 両議院は各々天皇に上奏することを得(両議院は各々天皇に上奏する事が出来る)
上奏は、文書を上呈して天皇に奏聞する事を言う。或いは、直後に奉対し、或いは慶賀吊傷の表辞を上り、或いは意見を建白し請願を陳疏するなどの類は全て其の中にある。そして或いは文書を上呈するのに留まり、或いは総代をもって観閲を請いこれを上程するのも全て相当の敬礼を用いなければならず、逼迫・強抗で尊厳を干犯しないようにしなければならない。
◆◆◆ 第五十条 ◆◆◆
第五十条 両議院は臣民より呈出する請願書を受くることを得(両議院は臣民より呈出された請願書を受け取る事が出来る)
臣民は、至尊に請願し又は、行政官衙に請願し、議院に請願することは、全て其の意に従う事が出来る。その議院に在っては、各人の請願を受けてこれを審査し、或いは単にこれを政府に紹介し、或いはこれに意見書を附して政府に報告を求めることが出来る。但し、議院は必ずしも請願を議定する義務があるわけではなく、政府は必ずしも請願を許可する義務があるわけでもない。もし、それ請願が立法にかかわるものは、請願をもって直ちに提出法律案の動議としてはいけないといっても、議員はその請願の主旨により通常動議の方法に従がって行う事が出来る。
◆◆◆ 第五十一条 ◆◆◆
第五十一条 両議院は此の憲法及び議院法に掲ぐるものの外内部の整理に必要なる諸規則を定むることを得(両議院は、この憲法及び議院法に掲げられているものの外、内部の整理に必要な諸規則を定める事が出来る。)
内部の整理に必要な諸規則とは、議長の推選、議長及び事務局の職務、各部の分設委員の推選、委員の事務・議事規則・議事記録・請願取り扱い規則・議院請暇規則・紀律及び議院会計の類をいう。そして憲法及び議院法の範囲内で議院が自らこれを制定するのに任される。
◆◆◆ 第五十二条 ◆◆◆
第五十二条 両議院の議員は議院に於いて発言したる意見及び表決に付き院外に於いて責を負うことなし但し議員自ら其の言論を演説刊行筆記又は其の他の方法を以て公布したるときは一般の法律に依り処分せらるべし(両議院の議員は議院において発言した意見及び法決について、院外で責任を負うことはない。但し、議院自らがその言論を演説・刊行・筆記及びその他の方法で公布したときは、一般の法律により処分される)
本条は、議院の為に言論の自由を認める。蓋し、議院の内部は議員の自治に属する。故に言論の規矩を越え徳義を紊し、又は人の支持を讒毀するような事は、議院の紀律により議院自らがこれを制止し及び懲戒すべきであり、そして司法官はこれに干渉すべきでは無い。議決は法律の成案を作ろうとする。そして議員の討論は異同相摩して、それを一つに帰結するための資料をなすものである。故に議院の議はそれによって、刑事及び民事の責任を問うべきでは無い。これは、一つは議院の権利を尊重し、二つ目は議員の言論を十分に価値あるものとする。但し、議員自らが議院の言論を公布し、その自由を行使してこれを外部に普及した場合は、動議と駁議とを問わず、全て法律の責問を免れる事は出来ない。
◆◆◆ 第五十三条 ◆◆◆
第五十三条 両議院の議員は現行犯罪又は内乱外患に関する罪を除く外会期中其の院の許諾なくして逮捕せらるることなし(両議院の議員は、現行犯の罪又は内乱外患に関する罪を除くほかは、会期中にその院の許諾なしに逮捕されることはない)
両議院は立法の大事を参賛する。故に会期の中は議員に予め例外の特権をもって議員の不羈の体面を持たせ、その重要な職務を全うする事が出来るようにさせる。もしそれが、現行犯の罪又は内乱外患にかかわる罪に至っては、議院の特典の庇護するところでは無い。会期中とは召集の後閉会の前をいう。非現行犯及び普通の罪犯は、議院に通牒し、その許諾を得え後にこれを逮捕し、現行犯及び内乱外患に関わる罪犯は先ず逮捕して、その後に議院に通知すべきである。
◆◆◆ 第五十四条 ◆◆◆
第五十四条 国務大臣及び政府委員は何時たりとも各議院に出席し及び発言することを得(国務大臣及び政府委員は、何時でも各議院に出席し、発言する事が出来る)
議会の議事に当たって、議場で弁明することは大臣の重要な任であり、万衆に対して心胸を開いて正理を公議に訴えて、嘉謀を時論に求めてその底蘊を叩き遺憾ないようにさせる。蓋し、このようで、なければ立憲の効用を収めるに足りない。但し、出席及び発言の権利は、政府の自由に任せ、或いは大臣自ら討論し又は弁明し、或いは他の委員に討論・弁明させ、或いは時宜に適さないことによって討論・弁明を行わないことが出来る。これは全てその意に随う。
出典
http://www.asahi-net.or.jp/~xx8f-ishr/kenpou_gikai.htm
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