斉白石さんの印を摸刻して7.8個彫りました。通常は字の片方から斜めに石を削り反対側から同じように印刀を入れてV字型にくぼみを作るのが普通です。斉先生は、単入刀法という片側からのみ、印刀を入れ、反対側はその刃のはじき方や動かし方で凹凸や曲面を出すという作法です。
実際これを試しにやってみると、徐三庚さんや趙之謙さんなどの摸刻とは全く異なることに気づき、出来上がりも今までとかなり違うタイプの印となることを実感しているのです。斉白石さんの印は直線的に字画で、素朴とも違う荒々しい線質を残すのが特徴です。一見ヘタに見えるような印ですが、技巧に走らない枯れた芯のある作風であります。しかし、本音で言うと単入刀法があまり好きになれないのであります。ワタシには、柔らかく繊細な曲線を交えた「技巧的・装飾的」印を細く小さい印刀でチマチマと彫るのが性に合っていると感じるのです。
ワタシは篆刻で食べていく必要も無ければ、芸術的な作品を追求する書道家でもなく、ただの篆刻愛好家で満足しているのです。自称篆刻家で、人に頼まれれば喜んで彫って差し上げる、自分の技量や作品の質が上がれば素直にその成長を自画自賛するだけの事であります。
ですから、何も嫌々好まないような彫り方を選ぶ必要も無く、自分の好きな作風で好きな(慣れた)刀法で修練すれば良かろうと思いました。そこでたまたま入手したのが「大東文化大学」の書道テキスト「第10巻篆刻」であります。
かつて現役であった時の会社の上司が、偶然、現代日本の篆刻界を代表する一人、故「河野隆」先生の義兄であったのです。(勿論篆刻などに何の縁も興味も無かった若き日のワタシが知る由もありませんでしたが)。
その先輩に頼んで河野先生由来の遺品をお願いして送っていただいたのがこれです。
偶然と言えば、この河野先生は、ワタシと同郷、大分県出身、更に学部は違えど同じ大学(横浜国大)卒業でありました。また、ワタシの仕事場から徒歩圏には河野先生に師事したという篆刻家さんも住んでいるし、個人的な書道繋がりのグループLINE12人のうち二人が河野先生と関係があったことを知りました。
さすがその道の第一人者が、芸術家・書道家を志すような熱心な学生に対峙してきちんと教えるために執筆しただけあって、大変よくできた分かりやすい教材でありました。そこで、斉先生の摸刻を中断し、このテキストに従って勉強し直そうと思いました。天国にいる河野先生の講義をリモート受講し篆刻の基本を学び直そうと思うのです。40数ページに及ぶ印譜は、それぞれ先生が厳選した名人・名刻で章法・刀法によって分類し「均布・粗密・屈曲・呼応・・等々」多彩な要素や特性をそれぞれ図説しているのです。
早速昨日、その摸刻に掛かりました。今まで、我流で好き勝手に彫っていて「目打ち」を使って下書きの線を彫ったり、いろんな印刀を変えながら何度も補刀していました。そのため弱弱しくふやけたような線になっていました。一から学び直すので、篆刻の王道である、「一本の印刀のみを使い、一刀のもとで、極力同じ場所をなぞらない」ことを意識しました。歳のせいでぼやけて見え、手元もいささか怪しくなっているのに加え、今までとは全然違う彫り方をするのです。
ハッキリ言えば、下手です(笑)。似せるだけなら、今までのやり方ならば、もっとうまく彫れます。
でもいいのです。途中入学した老学生が初めて篆刻にチャレンジしたと考えればこんなものでしょう。これはあえて手直しせず、どんどん彫ることに徹しようと思います。テキストには約350個ほどの「お手本」があるので、毎日2,3個、これを全部彫り終える頃には、大学の卒業作品程度まで上達できるのではなかろうかと期待しているのです。
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