走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

日本に馴染みのない医療の形 その3

2020年12月30日 | 仕事
シリーズ3日目

呼吸器をつけていてもつけていなくても死はそこまで迫っている、これが重要なポイントと昨日書きました。回復の可能性があるときは治療と呼び、同じ処置でも回復の可能性がなくなると不毛な処置となる。処置をしてもそこには花が咲かない。処置をしてもしなくても死は避けられない。よって不毛な処置は行わない。これが人工呼吸器を切る理由。

有賀医師が書いていたコロナの重症患者のICU滞在日数について。
日本は一度つけた人工呼吸器を外す北米のような行為はされないと聞いています。どうしてそれが進んでいないかはここでは触れません。しかし今、日本が直面している問題は死が避けられない状況であっても死亡するまで人工呼吸器を装着しているので、ICUの滞在日数が伸びてしまい、重症コロナ患者の対応ができない状態が増加しているのです。そしてACPが普及していないので普及している国に比べICUだけではなく入院が必要な患者の数もACPが普及しつつある国に比べて高いと予測します(ACPで病院での治療を拒否し最後を在宅や施設で迎える人がいます)。これが諸外国に比べて医療崩壊しやすい原因の一つです。

有賀医師はトリアージの事を書いていました。このあたりを少し明確にしたいと思います。有賀医師は呼吸器を外すかどうかのトリアージと書いていましたが、今まで説明したようにそれはトリアージではなく回復不可能を判断した時に行う行為でコロナに限らず行われています。では実際コロナで医療崩壊寸前もしくは崩壊した国々で行われたトリアージの意味を説明します。

一つしか残っていない人工呼吸器。そこへそれが必要な2人の患者がきた場合、どちらか一人を選ばなければなりません。これがここでのトリアージの意味です。選ばれなかった人はそのために死が待っているのです。先述した回復の可能性があり治療として人工呼吸器を装着し、病状が回復しないことが明らかになって呼吸器を外すのとは随分意味合いが変わります。回復する可能性があるかもしれないのにその道が閉ざされるのですから。だから医師にとってとても辛い状況なのです。一つの機械に2人と書きました。それが3人、4人の中から一人しか選べない状況になったら?

ベッド、医療機器、人材がないから患者を見殺しに(とても衝撃的な言葉を選びました。しかし医師がそう感じてしまうのは本当です)しなければならない、、、。発展途上国や戦地、災害時にはありがちな状況ですが、同じ事があなたの住んでいる地域で起こるのです。そして戦争や災害は期間が限られていますがコロナの場合これが連続的に終わりなく続くと言う恐ろしさがあるのです。

選ばれるのは年齢、既往歴、肺の状態、症状悪化の速度などが吟味されるでしょう。それが科学に基づいた判断であっても、選ぶ医師の精神的な重い負担となります(戦地や災害時にはそれがトラウマの原因になってしまう医療者もいます)。そしてその患者の家族も簡単には受け入れられない状況だと思います。しかしこれが本当に起こってしまったのが今年のコロナの第一波で大打撃を受けたイタリア、スペイン、フランスなどのヨーロッパの国々とアメリカでした。

じゃあ、ICUを増やせば良いではないか?

と殆どの人が考えるでしょう。

続く

冒頭写真:拡大すると写真真ん中にこんもりとした枝が山のように折り重なっているのが見えると思います。ビーバーのお家です。この池はビーバーにより人工的に出来たものです。



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