走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

日本に馴染みのない医療の形 その4

2020年12月31日 | 仕事





シリーズ4日目

ICUのベッドを増やせば医療崩壊は起こらないのでは? と思っている方。ICUベッド一つにどれぐらいの投資が必要なのかご存知ですか?

日本の詳細を知らないので知っている自分の職場の事を。ICUレベルになると症状が不安定で観察がとても重要になるし、管理しなければならない医療機器も多いので看護師は1:1でつきます。BC州の看護師の労働時間はフルタイム(正規雇用)で週37.5時間。よってICUベット一つを維持していくためには4.5人の看護師を雇う必要があります。一般看護師がICU看護師になるための教育は大学でフルタイムで8ヶ月の修得が課せられています。それほど特殊性が高いのがICU看護です。2床増やすには9人の看護師を雇わなければなりません。必要な教育へ行かせる必要もあり、その教育費は雇用主が支払わなければなりません。認定になるので一般看護師より給与を上げる必要もあります。それらの予算はどこから出てくるのでしょうか?

医師はどうでしょう?ICUレベルのケアで最大何床受け持つことが出来るのでしょう?医師と看護師だけではありません。呼吸療法士、栄養士、理学療法師、、とICU患者が回復に向かって治療できる環境は沢山の医療者と医療機器が必要なのです。6床を8床に増やすだけなんだ、超過勤務をして乗り切ってくれ!と言いますか??

何度も書いていますがコロナの恐ろしさは終わりの見えない長期化です。慢性的な超過勤務は医療事故を起こします。そしてコロナに関してはコロナに医療者自身が感染する可能性もあります(超過勤務のコンボでニアミスを起こすのは自身のPPE装着や手技にだって起こります)。スタッフがコロナで倒れれば、それこそスタッフ不足を起こし医療崩壊への道に拍車をかけます。医療機器は準備できてもそれを使える人間がいない、と言うのはこう言う事なんです。

確かに日本は潜在看護師が大勢います。その人たちに復帰を求めるのも得策です。しかし現場から離れている間の医療の発展を考えるとICUの最前線に立つとは到底思えません。現役の看護師からICU看護師への教育に8ヶ月かかるのを忘れないでください。

春のイタリアへは国境を超えて医師や看護師が応援に向かいました。日本の医療は日本語で行われているし、英語に堪能な医療者は半数もいかない。海外からの手助けが来ても活用できないのも日本の痛いところではないでしょうか?それに世界中で蔓延するコロナのおかげで他国を応援できる状態の国は存在するのでしょうか?これも春とは違う世界的状況です。

春からBC州では病院の稼働率を部門別に(救急、ICU、急性期病症数、手術件数)正確に把握してコロナに対する規制を調整しています。これを見誤るとあっという間に医療崩壊が起こるから。微妙な匙加減で経済と教育を継続しつつ、感染をコントロールする事を続けています。これが出来るのは州立の医療機関で統一されているからでしょう。日本のように国公立系、大学病院系、私立病院系と多岐に渡り、リーダーシップと統制とモニター、資源の共有が簡単ではありません。

同じカナダでも州によってコロナの感染率が異なります。これは春頃のブログでも書いていますが政治色による違いがはっきり出ていました。つまりコロナのような医療危機の時は医療界だけではなく政治行政経済ともうまく連携して医療資源を最大活用と調整していく必要があるのです。BC州では冬の第二波に備え500人強の保健師を雇いサベーランスのトレーニングを急ピッチで進めました。PPEも春の経験を生かして確保しています。どれもこれも緊急事態で動かせるお金を政府が動かす事により可能になっているのです。1病院が自分の資金でどうにか出来るレベルの話では無いのです。

続く

冒頭写真: 見てくださいこの技を!ビーバーです。鋭い歯で思い通りに木を加工します。


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