
今臨時国会における安倍政権の重要課題のひとつに、いわゆる「地方創生」があります。
11月5日、この「地方創生」の基本理念を盛り込んだ「まち・ひと・しごと創生法案」などの地方創生関連法案の採決が衆議院の特別委員会で行われ、自民・公明両党と次世代の党の賛成多数で可決されました。同法案は、早ければ11月6日の衆議院本会議において可決され、参議院に送られる見通しだということです。
人口減少や高齢化、地方の活性化に向けた対策の必要性はこれまでも強く指摘されてきているわけですが、此処に来て、「地方創生」が国策として大きくクローズアップされることとなった背景には、「消滅自治体」と呼ばれる、特に急激な人口減少が予想される地方部の自治体の危機感があると言われます。
そのため法案では、その基本理念に人口減少と東京一極集中を是正するため、出産・子育て環境の整備や地方での魅力ある雇用の創出など進めることが明記されているほか、政府が作成する今後5か年の「総合戦略」を基本に、都道府県と市町村にも地方版の「総合戦略」を定めるよう求める内容となっています。
さて、時事通信社が運営する行政情報サイト「iJAMP」に、政府が目玉政策として進めるこの「地方創生」に関して、東洋大学教授の根本祐二(ねもと・ゆうじ)氏が「地方創生を成功させる3つのポイント」と題する興味深い論評を寄稿しています。(10月16日「オピニオン」)
根本氏は、この政策の効果を上げるために必要なポイントのひとつを、人口減少期のビジョンとして「コンパクト化」を明確に打ち出すことだとしています。
人口減少が続く中、政府の人口対策が効果を発揮したとしても、日本の人口が現在から2割近く減少することに変わりはない。これは(レッドカードにより2人退場し)「11人で行うサッカーを9人でプレーしている状態」と同じことだと氏は指摘しています。
日本では、現在でも面積で3%でしかない都市部に67%の人口が集中している状態にある。つまり、こうした都市部の人口割合が維持されると仮定するなら、それ以外の地域では、人口が現在の46%に減少すると考えなければならないということです。
言うなれば、(6人退場させられて)5人でサッカーをプレーしなければならない地方部のこうした状況について、根本氏は、少ない人数でいかにゲームプランを練るかは、監督である国の仕事だと指摘しています。
このような状況下において「全ての地区に人を住まわせ、それを支えるためのインフラを整備せよ」というのは、「(5人になっても)コートいっぱい走り回れ」と叫ぶだけの無責任なファンと同じだというのが根本氏の認識です。
当然、そこには規模感に合った戦略が求められることになります。具体的には、既に一定の集積のある地区を拠点として選び、そこに集中投資を行うとともに、住民は拠点地区に移住してもらうという「コンパクト化」の発想が不可欠だと根本氏は指摘しています。そして、農林水産業の維持およびそれを通じた国土保全、環境保全は、拠点地区からの通勤によって賄うという発想の転換も必要だということです。
地方創生を成功に導くためのポイントの二つ目は、「従来型の公共投資を支援しないこと」だと根本氏は論じています。
当たり前の話ではありますが、公共サービスを公共投資で提供する従来型の方法では、人口が減少すると維持管理費などに要する住民一人当たりの固定費の負担は逆に大きくなります。
このため、(1)異なる機能の複合化や他都市との共用によりできるだけ投資を小さくする、(2)民間や市民の力を使う(PPP/PFI)、(3)配達やITを使ったソフトなサービスに切り替えるなどの費用を固定しない方法を、この際、強力に支援すべきだという指摘です。
そして、根本氏が主張する三つ目のポイントは、「保有する固定資産のデータベースを作る」ということです。
現在、大半の自治体では固定資産台帳が整備されていない。民間のような会計情報を用いた経営ができないと、持続性のない事業を進めてしまいかねないと根本氏は指摘しています。
そこで氏は、金融、建設、不動産等の業界に豊富にいる定年前後の人材を活用して、資産の状況や価値を確認し、データベース化したち経営診断を行ったりしてはどうかという提案を行っています。
例えば、1自治体平均5人を全自治体に3年間派遣しても、総額3千億円程度で済む。一度データベースを作れば、あとは職員や市民を中心にメンテナンスできるので多額の後年度負担が残ることはないと根本氏はしています。
さて、こうした人口減少への対応に失敗すれば、財政的に破綻する自治体も当然に発生し、その影響は地方自治制度全体にも及ぶだろうと根本氏は予測しています。日本でも自治体の大型財政破綻が起きるのか。その可能性とこれを未然に防ぐ方法を具体的に探る必要性があるというのが、この論評における根本氏の主張の要諦です。
これまでと同じような手法により地方に一方的に投資するだけでは、地方の自治体の人口減少とそれに伴う経営の悪化は目に見えている。残されたロスタイムはあとわずかであり、効果的なゲームプランを組むことで、少なくともその間の失点を防がなればならないとする根本氏の指摘を、今回の「地方創生」必要な視点として興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます