ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【文盲】難波先生より

2017-10-17 12:46:42 | 難波紘二先生
【文盲】大学にAO入試が導入された頃、文学部が「大理石病のため全盲になった学生」を入学させたことがある。私がいた総合科学部には何の相談もなかった。「大理石病」は遺伝的に骨を成長させる破骨細胞に機能障害があり、骨が異常に硬く緻密になり骨折しやすくなる。

 多くの人は、骨はただ成長して大きくなり、成人に達するとそこで止まると考えているが、成長するにも維持するにも、絶えざる改築・補修が必要となる。そこで、造骨に関わる造骨細胞とできた骨を壊す破骨細胞が働く。
 中が管になった骨(長幹骨)では子供の成長に伴い、骨髄の造血空間を拡げるために、トンネルの拡張工事に似た作業が必要になる。これには「破骨細胞」が活動して、既存の骨を壊してくれないと、十分な骨髄空間が確保できず、重症の貧血が生じる。大理石病はこの破骨細胞に遺伝的障害があるために起きる難病だ。患者は子供の時から異常に骨折しやすい。
 最大の問題は、視神経索が通る脳内の骨トンネルが視神経の発達に合わせて広がらないため、圧迫されて全盲になることだ。

〔注〕破骨細胞は核が30個くらいある「多核巨細胞」で、学生時代には「骨固有の細胞」と教わったが、その後、「骨髄の単球幹細胞に由来する」ことが明らかにされた。異物を食べる多核巨細胞として「ツートン型異物巨細胞」が知られている。これは単球の細胞融合により生じる。何のことはない、破骨細胞も一種の異物巨細胞なのだ。
 破骨細胞が骨髄由来であることが判明してから、治療法として2000年頃から、健常者からの造血幹細胞移植が実施されるようになった。これは2005年刊「Pathologic Basis of Disease(病気の病理学的基礎)」にはすでに書いてあるが、日本ではやっと試みられつつあるところらしい。何しろ全国で約100人しか患者がいないという。
 http://www.nanbyou.or.jp/entry/5393

 障害者だから支援する学生がボランティアで付いていたが、私は事前に何の情報も受けていなかった。
 授業では「現代とIT革命」という話をした。
 「現代は18世紀に始まった産業革命以来の、世界史の転換点にある。あの革命はガイア(地球)の化石エネルギーを利用することで、熱力学の法則に従い、エネルギーを生産物に転化することに成功した。手工業から組織的な工場生産へと企業形態も変化した。この時に、教育があり文字が読める人が事務職つまりホワイトカラーになり、教育がなく文盲の人がブルーカラーつまり筋肉労働者へと階級が分裂した。
 化石エネルギーは太陽エネルギーを蓄えた過去の植物に由来するもので、いわばガイアの定期預金だ。現在の太陽エネルギーは米や野菜や果物やいろんな家畜や魚に蓄えられており、これは普通預金みたいなものだ。肉体労働自体は、この太陽エネルギーによる食物なしには不可能だ。
 肉体労働は、自己の肉体を維持する食物のエネルギーを除外した部分を、外部労働への出力として使うことで成り立っている。マルクスの「労働力価値説」は、太陽エネルギーとそのエネルギーの生産物への転化についてまったく無知であり、産業革命が化石エネルギーで成り立っていることにも気づいていない。
 これから進むIT革命では、事務処理、研究、通信などにどんどんコンピュータが導入されるから、産業革命で文字が読める人と文盲とが二つの階級に分離したような社会的大変動が起こるだろう。またIT機器の特徴は、使用電力量が少なくてすむことだ。ケータイや携帯端末を利用すれば設備投資も少なくてすむ。君たちはいま、こういう時代の転換点にいるのだから、IT機器の使い方をマスターし、「負け組」にならないように努力しなくてはいけない。」

 授業のあと「文盲」という発言が問題になった。文脈を無視した「言葉狩り」である。本人か介助学生が「差別発言」として、学部の左派のフェミニスト教官に訴え、学部長に「ご注進」となったらしい。もともと新学期の聴講受付は2回にわたり行われる。これは「試聴期間」で、学生の受講権だけでなく教師の許可権もある。両者の合意があって教師と学生の「契約」が成立する。嫌なら聴講しなければよいだけの話だ。
 この頃のフェミニストは勇ましくて、知ったかぶりで「片手落ち」は差別用語だ、などと主張していた。NHK大河ドラマでも「片」を「かたわ(片輪)」の片と勘違いして「かた落ち」などという台詞をしゃべっていた。あれは「片田舎」の「かた」と同じで単なる強調の接頭辞にすぎない。「片腹痛い」の「かた」も同様だ。
 学部長室に呼ばれたので、学生と付添教官を前に、その場は謝罪して済ませたが、その学生は結局、聴講届けをしなかった。

 「大理石病」という難病を理解できる教員は、当時の東広島キャンパスには私以外にいなかったはずだ。気にはなってはいたが、その後会うこともなく(不愉快な思い出でもあり)忘れていた。
 ある日、その学生が障害者用の「体育実技特別クラス」の授業で、他の学生と衝突して転倒し頭を床に打ち付け、頭蓋骨骨折・脳外傷を負って死亡したと聞いた。
 「大理石病」の頭蓋骨は硬いが、陶器のようなもので、ぶつけたら簡単に割れる。
 「体育実技」が大学生の必修科目になっている以上、この学生の入学を認める前に、総合科学部の関連教官にきちんと相談していれば、この悲劇は避けられたと思う。全盲なのだから「見学」では単位が出せない。私なら「一対一の指導が必要であり、助手一名の増員がなければ受け入れられない」と回答しただろう。

 その後、「言葉狩り」がどうなったか、「岩波・現代用字辞典・第4版」を調べて見た。1981年版にあり第4版(1999)にないものにXを付けることにしたが、
「片手落ち」
「片輪・片端」
「盲」
「盲目」
「文盲」
以上の5語はどちらにも載っている。「全盲」という用語は医学用語としては欠かせないが、上記の辞書にはどちらにも載っていない。
 これは岩波のポリシーか?と三省堂「新明解国語辞典」(2014)を見ると、
「全盲」、「半盲」がちゃんと載っている。
 要するにフェミニストによる「言葉狩り」は一過性のコップの中の嵐にすぎなかったことがよくわかった。
 一番困るのは「看護婦」がなくなって、男女とも「看護師」なったことだ。私は女性の場合は「ナース」、男性の場合は「看護師」と文字表記している。


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