ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【乳房切除、検体違い】難波先生より

2016-01-25 12:48:47 | 難波紘二先生
【乳房切除、検体違い】
 12-28の「便り」で千葉がんセンターにおける検体取り違えによる「乳房切除」事故を取りあげたが、その後続報がなく、病理検査のミスなのか臨床医・ナースのミスなのかが確定しない。メディアはちゃんと結末まで報じてもらいたい。さもないと他施設でその教訓を生かすことができない。医療事故の多くはシステムが内包する欠陥により生じており、悪意のあるミスと混同して報じてはならないのは、航空機事故と同様だ。

 これについて、写真週刊誌「フライデー」1/13号が、「病理医という仕事」という記事を載せていることを病理技師の青木潤さんから教えられた。静岡県立静岡がんセンター病院のやり方が紹介してある。(Fig.1)病理技師が左耳のところにビデオカメラを装着していて、生検した小さな標本を、薄青色した四角な平底の包埋用カセットに移し換えている。
(Fig.1)
 前の小瓶にはホルマリン固定液に入った生検材料が入っている。鼻くそほども小さく、軟らかく半透明だから、取り忘れやカセットへの入れ間違いが生じやすい。手順を録画しておけば、どこでどう間違ったかが後ですぐに検証できるというわけだ。
 これは飛行機のボイス・レコーダやバス、トラックのタコグラフや監視カメラの方式に近い。事故後の検証には有効だが、事故を防止する機能はない。この方法では、ビンから検体をピンセットでつまんでカセットに移す時に、人為ミスが生じやすい。

 これに対して元呉共済病院の青木潤技師らが提唱するのは「直接カセット法」だ。検体採取の時に臨床側が、ろ紙の小片に生検材料を付着させ、1患者分の検体を1カセットに入れ、蓋をしてビンの固定液に浸ける。(Fig.2 図中 図1と記載)
(Fig.2)
 この写真では左のビンにカセット3個、中央には2個、右のビンには4個が入っている。合計9人の患者の生検材料が入っており、それがホルマリン固定液に浸かっている。各カセットには横に患者名と採取した検体数が、検体採取時に内視鏡室で書き込まれている。
 病理検査室側は受付の際に、申込書の枚数とビンの中のカセット数を確認すれば、後は組織が固定された後、カセットを自動包埋機に入れればよいので、人為ミスは(少なくとも病理側では)起こりようがない。
 この方式だと、後、起こりえるミスは、パラフィン包埋したブロックを薄切する時に、ユング式(滑走式)のミクロトームで1枚ずつバラバラの切片を作ると、それを載せるスライドグラスを間違えることがある。しかしミノー式(回転式)のミクロトームでリボン状に繋がった切片を作成すると、載せ間違いのリスクが少ないという。
 この論文は「平成17年度サクラ病理検査賞受賞論文」として、
 青木潤他「検体取り違え事故を防ぐための生検組織標本作製法の改善:ベッドサイド直接カセット法の実際」医学検査(2007)、56(6),887-891
に報告されているから、多くの病理医・技師が参考にされることを望む。

<1/21付記=早めに晩酌したので、NHK・TV「クロ現」の「内部告発者:知られざる苦悩」を観た。
 千葉がんセンターの<手術事故多発>についてのものだった。
 歯科医師が麻酔科の研修医に多数いて、それが全身麻酔をかけていたのに、きちんとした指導が行われていなかったという。それを総長に内部告発した女性外科医は「乾されて」自主退職に追いこまれた。退職後、厚労省に訴えたところ「労働者でないから、告発者の要件に該当せず」として問題を取り上げてもらえなかったという。

 STAP細胞事件の教訓として「日本版ORI(研究不正防止局)」を設置すべきだと述べたが、その意見は多くの支持をえられなかった。ORI制度のミソは、「内部告発者の徹底保護」にある。内部告発によって、不利になることは絶対にないことが制度として保証されている。こういう制度があっても、研究不正がなくならないのは、誰も研究不正のすべてを告発しようとは思わないからだ。
 厚労省の役人に内部告発の内容を読んで理解する能力があったら、「労働者でないから告発資格がない」などという、問題回避の対応は取れなかっただろう。一般論として述べれば、メールによる告発などどれだけ正確かは疑わしい。中には私怨・私憤によるものもあるだろう。それを見分けるのが役人の能力というものだ。

 米政府内務省の漁業・野生生物局にいたレイチェル・カーソンは、春になったのに小鳥が鳴かないという異常に気づいて、調査を進め1962年、農薬の無制限な使用の危険性を主張する「Silent Spring」(「沈黙の春」, 新潮文庫,1974/2)を発表した。環境問題に関する不朽の名著である。
 すべて官吏は国民・住民への奉仕者であり、告発者の資格うんぬんよりも、告発内容がどれだけ深刻かが問題とされなければならない。偽告発に対応するには、刑法172条の「虚偽告発罪」を適用したらよいではないか。
 千葉がんセンターの問題は、患者又は病理検体の取り違えミスのレベルではなく、私が思っていたよりも重症のようだ。>
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-01-28 04:53:13
>ORI制度のミソは、「内部告発者の徹底保護」にある。内部告発によって、不利になることは絶対にないことが制度として保証されている。

私もそう思っていたのですが、1995年のORIの調査によると、不正告発者の2/3が、告発の直接の帰結として何らかの不利益を蒙っているそうです。

不利益を蒙らなかった人の9割以上が、(告発が必要な機会が生じれば)また告発をすると答えていますが、驚くべき事に、不利益を蒙った人の75%がまた告発をするだろうと答えているそうです。

その後、告発者の保護対策が徹底された結果、告発に起因する不利益を感じる割合がどこまで改善したのか、調べたけれど分かりませんでした。

参考 コロンビア大の責任ある研究遂行のサイト
http://ccnmtl.columbia.edu/projects/rcr/rcr_misconduct/foundation/index.html#2
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