エンレイソウ、ツクバネソウの仲間は
以前の分類(エングラー分類)ではユリ科に含められていたが、
新分類体系・APG分類ではシュロソウ科という聞き慣れない名前の科になってしまった。
エンレイソウの仲間のプロフィールは、古い書籍だが、
朝日新聞社発行、朝日百科・世界の植物、鮫島惇一郎博士の解説文が
個人的にはとても好きなので、そちらを一部引用させて頂く。
「エンレイソウ属 Trillium は約40種が、アジア、ヒマラヤ、北米に分布する。
塊茎か、長い地下茎が有り、葉は三枚が頂生し、花の各器官も3が基数である。
属名のトリリウムとは「3を基数にしたユリ」の意味である。
茎頂に1花をつける。エンレイソウは延齢草と書き、年齢を延ばすというが、
実は猛毒ではないが毒草である。
オオバナエンレイソウとエンレイソウ 2013/05/18
エンレイソウ 2018/04/13 七座山にて。
エンレイソウ T. apetalon Makino の種小名のアペタロンとは
内花被が欠けているという意味であり、
エンレイソウには内花被の無いのがふつうである。
子房は上位、果実は液果、3稜のある球形で、緑色から黒紫まで変化があり、
株によって違う。北海道の高山には赤色のものもある。
この仲間の果実はその形からヤマソバとも呼ばれ、甘い。
酒をつくってもなかなかうまいものだが、果実にも少し毒があるという。
惜しい草である。高山帯をのぞけばおおむね広葉樹林の湿ったところに生える。
(以下、略)」。
男鹿半島のエンレイソウ二態。
2019/03/28 咲き出したばかりの頃。
2020/05/08 そろそろ終わり頃。
この花は低地では開花時期が早く、
カタクリやキクザキイチゲ、ニリンソウなどと同時期に一緒に咲くことが多い。
そのため、スプリングエフェメラルのように思われているが、
花が終わった後、秋まで葉や実が残っているので、スプリングエフェメラルには該当しない。
2011/05/05 西和賀町にて。キクザキイチゲやカタクリと混生。
2022/05/04 秋田市高尾山にて。ニリンソウと混生。
秋田では、エンレイソウの仲間は内花被が無く、
暗赤色や緑色のタイプ、すなわちエンレイソウばかりだが、
県北の大館鹿角地方や岩手県に行くと、
白い花弁(内花被)のあるタイプも見かけるようになる。
エンレイソウとミヤマエンレイソウ 2022/05/10 岩手県姫神山にて。
これはミヤマエンレイソウ T. tschonoskii Makino だ。
シロバナエンレイソウとの別名もある。
内花被が薄紫を帯びるタイプをムラサキエンレイソウと呼ぶそうだが、
初め白い内花被も古くなると薄紫に変わることもあり、
このタイプの特定は難しい。
ミヤマエンレイソウ 2019/05/10 姫神山にて。
ムラサキエンレイソウ? 2018/05/12 姫神山にて。
秋田県内のとある湿原には、
白い花弁(内花被)のあるエンレイソウが群生している。
初め、ミヤマエンレイソウかと思ったが、
こちらは、オオバナエンレイソウ T. kamtschaticum Pall だそうだ。
白い内花被が萼(外花被)よりも長く広い。
この種類は北海道には極めて多く、中には6センチを超す大花もあるそうだ。
本州では北部の限られた場所にしか無い。
園芸用に盗掘されるリスクも高いので、生育地は伏せさせて頂く。
2011/05/20
2011/05/20
2011/05/20
2013/05/18
エンレイソウの仲間は北米にも多く、その種類数は30種を軽く超えると聞く。
中にはトリリウム・グランディフロルムのように
内花被の長さが8センチを超える大輪種や奇麗なピンク色の花、
更にはシックな斑入り葉など素晴らしい種類があると言う。
それなのに日本では園芸植物としてさっぱり流通していない。
何故なんだろう。その理由はわからない。
最後に・・・
エンレイソウは葉は三枚が頂生し、花の各器官も3が基数である。
属名のトリリウムとは「3を基数にしたユリ」
と先に述べたが、
昨年(2022年)の春、県北の七座山で葉や花が4を基数としたエンレイソウに遭遇した。
2022/05/07 七座山にて。
四葉のクローバー(シロツメクサ Trifolium repens)ならば、「幸福のシンボル」が定番なのだが、
エンレイソウ(Trillium)の場合は何になるんだろう。
以上。
「ツクバネソウ二種と・・・」に続く。
カタバミというと、庭に生えるしつこい雑草のカタバミを思い浮かべてしまうが、
この仲間は秋田や岩手では山にもよく生えている。
ただし雑草のカタバミと違い、花色は白で、花の径は3~4センチとでかく、なかなか見ごたえがある。
2017/05/04 西和賀町にて。
2021/05/04 男鹿三山にて。
2021/05/04 男鹿三山にて。
2019/05/14 男鹿三山にて。
2021/04/21 男鹿三山にて。
2011/05/12 西和賀町にて。
2020/05/08 男鹿三山にて。
この花はずっとミヤマカタバミ Oxalis griffithii だと思っていた。
ところが今回、ブログに取り上げる関係で、日本の野生植物に関しては、最新の情報が載っている
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)を確認したところ、
意外な記述が有った。
同書には、ミヤマカタバミの分布域は本州(東北地方南部から中国地方)、四国で海外は中国、ヒマラヤとあった。
以上、6枚の写真は岩手の西和賀町や秋田の男鹿三山で撮ったものである。
岩手や秋田では、他の山でもこのカタバミがごく普通に見られる。
ところが岩手や秋田は東北地方ではけっして南部とは言えないだろう。
するとこれらの花はミヤマカタバミではないと言うことになる。
だとしたらこのカタバミの正体は何だろう。
心配になり、手持ちの秋田県発行(望月陸夫・編)、秋田県植物分布図を確認したところ、
男鹿も含めた秋田県内にはミヤマカタバミが広く分布することになっていた。
たぶん改訂新版・日本の野生植物(平凡社)の「東北地方南部から・・」の記述は
うっかりミスではないかと私は思う。
次の二枚のカタバミは亜高山帯で見かけたものだ。花の径は2センチ弱と小型だ。
これはコミヤマカタバミ Oxalis acetosella で間違いないだろうと思う。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳にて。
2021/06/07 三ツ石山にて。
青森市に住む友人から、
近くの梵珠山(468m)には大きなピンク色の花を咲かせるカタバミが生えていると聞いた。
是非見たいものだと思っていたが、2017年5月9日に訪ねる機会を得た。
これは花の径も大きく、各地で報告されているミヤマカタバミのピンクタイプかと思ったが、
土地の皆さんはヒョウノセンカタバミ Oxalis acetosella var. longicapsula だと言っていた。
花色以外はどこがミヤマカタバミと違うのだろうか。
最後に秋田市の我が家の庭に咲くピンク色のカタバミを。
これは園芸通販で取り寄せたミヤマカタバミのピンク品種だ
(別の山草屋で買った白いミヤマカタバミも一緒に植えている)。
当初、小鉢に植えて日陰地に置いていたが、
二、三年したら、
近くに置いてある他の鉢(エビネやギボウシを植えた大鉢)からも次々と咲き出した。
これらはけっして植えたものではない。
勝手にタネを飛ばして増えたものと思われるが、
何故だろう。地面には生えず、鉢の中からだけ芽を出して来る。
カタバミの仲間は山のものもやはりよく増えるんだなと感心した。
以上。
ニリンソウは群生する性質がある。秋田や近県で見かけた群生シーンを紹介させて頂く。
2022/04/28 男鹿半島にて。
2022/04/28 男鹿半島にて。
2017/05/04 雫石町にて。
2019/04/28 深浦町にて。
ウィキペディアによると、
ニリンソウ(二輪草、学名: Anemone flaccida)は、キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。春山を代表する花のひとつ。
【特徴】深く裂けた根生葉を持つ。茎に3枚が輪生する葉には、サンリンソウのような柄はない。
3-6月に、白い萼片を持つ直径約2 cmの花をつける。多くは1本の茎から特徴的に2輪ずつ花茎が伸び、和名の由来となっている。
まれに1輪や3輪のものもある[1]。根茎で増えるため、群落を作ることが多い。別名が、「フクベラ・ガショウソウ」。
【分布と生育環境】東アジア(樺太、朝鮮、中国(北部・東北地方)、ウスリー地方、日本)に分布する。
日本では北海道、本州、四国、九州に分布し、主に湿潤な山地の林床や周辺部に生育する。
とあった。
花のアップ。
2019/04/28 深浦町にて。
2016/04/27 八峰町にて。
こちらのニリンソウは花付きが好く、三輪草や四輪草になるものが多い。
また花の直径は大きく、2.5センチくらいのものが多かった。
2015/05/01 七座山にて。
2015/05/01 七座山にて。エンレイソウが混生している。
ニリンソウは近縁のキクザキイチゲ、アズマイチゲ、ユリ科のカタクリと同様、
スプリングエフェメラル(春の妖精)の一種だ。
花が終ると、ご覧のように、葉が枯れ出す。六月以降は完全に枯れ、休眠に入る。
2008/05/08 七座山にて。
岩手で奇妙なニリンソウに出会った。
このタイプのニリンソウは「ミドリニリンソウ」と呼ばれ、変種扱いされることもあるが、
単なる先祖返り、或いはマイコプラズマの感染のせいで生ずるとも言われる。
どれが正しいのか私にはわからない。
2011/05/12 九戸村にて。
次のニリンソウ?は栃木県奥日光で見かけたものだ。
2015/05/18
花の径は1センチ程度と小さく、一個しか付かないものが多かった。
茎は匍匐する傾向があり、草丈は10センチ程度と低かった。
近縁のサンリンソウ Anemone stolonifera かなとも思ったが、茎葉に葉柄が見当たらなかった。
facebookにアップしたところ、
植物に詳しい友人たちから、いろいろご意見が出たが、
結局、ニリンソウの花数が少なく(一輪しかつかない)全体小型のタイプと落ち着いた。
ところが、その後、栃木県在住の友人から、
奥日光のほぼ同じ場所で撮ったというサンリンソウの写真を送ってもらった。
となると、このニリンソウ?はいったい何なのか。
暫定だが、ニリンソウとサンリンソウの雑種、「2.5輪草」とさせて頂くことにした。
以上。
(本頁は「スミレ紀行3(アカネ、ヒナ、マキノ、ヒカゲ、オオタチ)の続きである。)
本編では秋田では見たことの無い二種と人里で見かける三種をを取り上げてみた。
アケボノスミレは以前、八峰町に有るとされたが、私は見たことが無い。
秋田には非常に少ないが、岩手県には比較的多いようで、
私自身は姫神山と東根山の二箇所で見かけた。
ピンクを帯びた厚みのある花弁が特徴的、葉は遅れて展開する傾向がある。
2019/05/10 姫神山にて。
2019/05/10 姫神山にて。
2019/05/10 姫神山にて。
2018/05/01 東根山にて。
2018/05/01 東根山にて。
葉が深く裂けたエイザンスミレは秋田には無いとされる。
ホームセンターの山野草コーナーか植物園(例えばこちら)で見るしかない。
長年、憧れのスミレだったが、岩手山山麓で初めて野生品を見た。
2018/05/12 岩手山山麓にて。
2019/05/10 岩手山山麓にて。
2022/05/10 岩手山山麓にて。
エイザンスミレ 2022/05/10 岩手山山麓にて。
ウィキペディアによると、
スミレは、スミレ科スミレ属の植物の総称であるが、
狭義には、Viola mandshurica という種の和名でもある(マンジューリカ・スミレと呼ぶ人も居る)。
本編では、狭義のスミレ Viola mandshurica を取り上げてみる。
このスミレは今まで取り上げて来たスミレ類とは少し違い、
日当たりの良い場所に生えることが多い。
そのためか、芝地や道端草地など人臭いところに多い傾向がある。
花色は濃く鮮やかな紫色だが、傷みやすく、
奇麗な個体に出会ったらラッキー!だと思っている。
2013/05/28 鹿角市にて。
2022/05/17 由利本荘市にて。
2013/05/21 男鹿寒風山にて。
2015/05/07 鹿角市にて。セイヨウタンポポと一緒。
ヒメスミレ?とスミレの混生。2015/04/27 八峰町にて。
八峰町の芝地で小型のスミレの群生を見つけた。
ヒメスミレだろうか。
2015/04/27 八峰町にて。
2015/04/27 八峰町にて。
2015/04/27 八峰町にて。
場所によって、ムラサキサギゴケも混生していた。
アリアケスミレも日当たりの良い場所に生えるスミレだ。
アスファルトの隙間など過酷と思われる環境でも見かける。
見かけ以上に性質は強いようだ。
2022/05/17 由利本荘市の道端にて。
2022/05/17 由利本荘市の道端にて。
2015/04/23 横手市の道端にて。
2015/04/23 横手市の道端にて。
以上。
(本頁は「スミレ紀行2(オオバキスミレ、スミレサイシン、ニオイタチ)」の続きである。)
本編では小粒ながらも奇麗だなと思う三種
と同時期に見かけたやや大型二種を取り上げてみた。
アカネスミレは秋田では少なく、限られた山にのみ産する。
八峰町で見かけた時は小型ながらもその紫色はとても鮮やかだった。
2019/04/28 八峰町にて。
2015/04/27 八峰町にて。
2019/04/28 八峰町にて。
ヒナスミレは八峰町、アカネスミレの生育地近くでも見たが、花はほとんど終わっていた。
よって本頁では盛岡市郊外の低山で見た新鮮なものを。
2018/05/06 盛岡市にて。
2018/05/06 盛岡市にて。
2018/05/06 盛岡市にて。
マキノスミレは出羽丘陵の乾き気味の山林でよく見かける。
小型だが、きりりとした姿をしている。
2022/05/07 七座山にて。
2022/05/07 七座山にて。
2022/05/07 七座山にて。
七座山の山麓、ニリンソウの群生地ではヒカゲスミレを多く見かけた。
2022/05/07 七座山にて。
2022/05/07 七座山にて。
男鹿でもニリンソウの群生地でヒカゲスミレに遭った。
このスミレはニリンソウと出来ているんだろうか。
2022/04/28 男鹿半島にて。葉が紫褐色を帯びているので、タカオスミレかハグロスミレかもしれない。
2022/04/28 男鹿半島のニリンソウ群生地。
ニリンソウの群生地では、大柄なスミレ、オオタチツボスミレも咲いていた。
2022/04/28 男鹿半島にて。
2022/04/28 男鹿半島にて。
2022/04/28 男鹿半島にて。
以上。
「スミレ紀行4」へ続く。