キキョウ科の高山植物と言えば、イワギキョウとチシマギキョウの二種が有名だ。
2018/07/20 鳥海山行者岳にて。イワギキョウ。
2018/07/20 鳥海山行者岳にて。イワギキョウ。
2016/07/23 月山にて。チシマギキョウ。
2015/07/05 月山にて。チシマギキョウ。
この二種はとてもよく似ている。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
『イワギキョウ Campanula lasiocarpa
葉に小さな鋭鋸歯があり、萼裂片は狭披針形~線形でわずかに鋸歯がある。
花冠の内面と裂片の縁に毛は無い。
チシマギキョウ Campanula chamissonis
葉は縁に波状の小さな鈍鋸歯があり、萼裂片は広披針形でほとんど全縁。
花冠の内面と裂片の縁に長い軟毛がある。』
とあった。
東北の高山ではどちらも少ない。
しかも生育する山が限られており、両方揃う山は無いとされる。
したがって片方が有る山を知っておけば、迷うことはないだろう。
キキョウの仲間の分布マップ
イワギキョウは鳥海山、岩手山、八甲田山の三山のみ、
チシマギキョウはこれらの山には無く、
月山、朝日、飯豊、他には早池峰、八幡平、南蔵王にホンの少しと聞く。
日本アルプスや北海道の山では両方が同じ山に生えているので、
先の識別方法が出番となる。
ところでこの二種は学名からもお分かりの通り、 Campanula =ホタルブクロ属だ。
東北の高山には、Adenophora =ツリガネニンジン属もある。
ハクサンシャジン(タカネツリガネニンジン)Adenophora triphylla var. hakusanensis
は、ツリガネニンジン Adenophora triphylla var. japonica の高山型とされる。
古い写真で恐縮だが、若かった頃、鳥海山で見たハクサンシャジンの花風景には圧倒された。
この年はニッコウキスゲやトウゲブキ、ヨツバシオガマなども一緒に咲いていた(通常は少しずつずれて咲く)。
このような花風景は他の山では見られないと思っている。
1993/08/08 鳥海山長坂道にて。
次は2008年、南面の八丁坂で見たハクサンシャジン。
2008/08/12 鳥海山八丁坂にて。
2008/08/12 鳥海山八丁坂にて。
2008/08/12 鳥海山八丁坂にて。
長年、使用していた二書、山渓カラー名鑑・日本の高山植物(豊国秀夫・編、山と渓谷社・刊)
と原色新日本植物図鑑(Ⅰ)(清水建美・著、保育社・刊)には
この植物をハクサンシャジンと掲載されていることから、
私はずっとその名前を使っていた。
ところが最近購入した改訂新版・日本の野生植物(平凡社)を見てショックを受けた。
変種としてのハクサンシャジンが消滅していたのだ。
該当箇所を抜粋すると、
「本州の高山帯には草丈が低く、花序の枝があまり発達せず、花が輪生してつくように見えるものが知られ、
ハクサンシャジンと呼ばれるが、低地の風衝礫地や海岸礫地にもこのようなものが見られ、
また必ずしもこの形質が遺伝的に固定しているわけでもないため、区別しない見解をとる」。
五十年近く使っていた名前をサラリと捨てることは私にはできそうにない。
比較的最近見たハクサンシャジンの花風景を。
2018/07/20 鳥海山御田ヶ原にて。バックに咲くのはトウゲブキ。
2020/07/30 鳥海山御浜にて。一緒に咲くのは、ヨツバシオガマ、ネバリノギランなど。
2020/07/30 鳥海山御田ヶ原にて。一緒に咲くのは、ハクサンフウロ、タカネアオヤギソウなど。
ハクサンシャジンの分布は山によって粗密があるようで、
特に多いのは鳥海山だが、
奥羽山系では乳頭山や和賀山塊、焼石岳に豊富な印象が有る。
乳頭山では登山道の両側がびっしりとハクサンシャジンに覆われ、思わずシャジンロードと呼びたいくらいだった。
2016/08/11 乳頭山にて。
2016/08/11 乳頭山にて。ミヤマトウキ、シロバナトウウチソウなども混生。
2019/07/26 和賀山塊薬師岳にて。
2017/08/06 焼石岳にて。下の方の白い花はハクサンイチゲ。
2017/08/06 焼石岳にて。ハクサンフウロなども一緒。
2017/08/06 焼石岳にて。三界山方面を望む。
約30年前、北アルプスを訪ねた折り、此方で見かけるシャジン類はミヤマシャジンやヒメシャジンが多いと教えられた。
この二種は非常によく似ている。
萼裂片の鋸歯の有無で識別する(鋸歯が無ければミヤマシャジン)が、
現在、改訂新版・日本の野生植物(平凡社)では、ヒメシャジン Adenophora nikoensis で一本化されていた。
東北の高山では少なく、早池峰山、南蔵王、吾妻山、飯豊連峰などで報告されている程度だろうか。
なお以下の手持ち4書籍ではミヤマシャジンの名前が使用されていた。
◆早池峰連嶺の花(土井信夫・著、文化出版局・刊)
◆フラワートレッキング蔵王連峰(日野東+葛西英明・著、無明舎・刊)
◆フラワートレッキング吾妻連峰(日野東+葛西英明・著、無明舎・刊)
◆花かおる飯豊連峰(小荒井実・著、ほおずき書籍・刊)
私自身が早池峰山で見たものは、土井氏の著作に従い、ミヤマシャジンの名を使用した。
2020/08/19 早池峰山にて。ミヤマシャジン。
2017/08/03 早池峰山にて。ミヤマシャジン。ナガバキタアザミ(蕾)も一緒。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
コバイケイソウは数多ある高山植物(草本)の中では最も大型の植物ではないかと思っている。
生育地の気候ゾーンは、山地(ブナ)帯から亜高山帯なので、
厳密な意味で高山植物と呼べるかどうかは何とも言えないが、
東北の高山には欠かせない花風景をつくるので、あえて高山植物に含めさせて頂く。
2018/07/14 コバイケイソウ群生。八幡平源太ヶ岳、標高1500m付近にて。
2018/07/14 コバイケイソウ群生。八幡平源太ヶ岳、標高1500m付近にて。
2021/07/31 コバイケイソウ群生。鳥海山薊坂、標高1800m付近にて。
ウィキペディアによると、
『コバイケイソウ(小梅蕙草、学名:Veratrum stamineum)はユリ科シュロソウ属の多年草。
新しいAPG植物分類体系では、シュロソウ属は、ユリ目メランチウム科に分類される。
(改訂新版・日本の野生植物(平凡社)では、メランチウム科をシュロソウ科と言い換えている)
山地草本の中では大型で、高さは1mほどになる。6月から8月に穂の先に白い花をつける。
花茎の先端部は両性花、横に伸びる花は雄花である。
群生することが多く、初夏の山を代表する花の一つ。
光沢があり、硬く葉脈がはっきりとした長楕円形の葉が互生する。
有毒であり、全草にプロトベラトリン等のアルカロイド系の毒成分を持つ。
誤食すると嘔吐や痙攣を起こし、血管拡張から血圧降下を経て、重篤な場合死に至る。
若芽は山菜のオオバギボウシやノカンゾウの若芽に似ており、
誤食による食中毒が毎年のように発生しているため注意が必要 。
名前の由来は、花が梅に似ており、葉が蕙蘭に似ているため。
日本の本州中部地方以北、北海道に分布し、
山地から亜高山の草地や湿地のような、比較的湿気の多いところに生える。』
とあった。
コバイケイソウの開花にはムラが有り、毎年、咲くわけではない。
これは開花に大量のエネルギーを消費するためと言われるが、本当のところはよくわからない。
エネルギー充填に要する期間はニッコウキスゲよりも少し長いように感じる。
上三枚の写真は、数年ぶりに訪れた開花年に撮ったものである。
東北では場所によって低所の湿原にも出現する。
八幡平西部の大場谷地湿原は標高960m。ブナ林からアオモリトドマツ林に移行する高さだ。
2015/06/24 コバイケイソウとレンゲツツジ。大場谷地にて。
2015/06/24 コバイケイソウ。大場谷地にて。 2018/07/14 コバイケイソウ。大深湿原にて。
コバイケイソウの芽出し姿と実、枯れ姿。
2012/05/27 コバイケイソウの芽出し。大場谷地にて。
2017/05/22 コバイケイソウの芽出し。大場谷地にて。 2017/07/18 コバイケイソウの実。
2013/09/22 コバイケイソウの枯れ姿。八幡平八幡沼付近にて。
東北の山では、シュロソウ属のメンバーをもう一種、よく見かける。
アオヤギソウ/シュロソウの仲間だ。
こんな表現をしたのは、正確な名前がまだわからないから。
次の四枚の黄緑~褐色の穂花は従来の解説書等ではタカネアオヤギソウとされていたものだ。
花は地味な色合いなので話題になることはほとんどない。
2018/07/20 鳥海山にて。 2020/07/30 鳥海山にて。
2016/07/16 月山にて。
ここで、改訂新版・日本の野生植物(平凡社)から抜粋。
『アオヤギソウ Veratrum maackii var. parviflorum
山地の林下や湿った草原に生える多年草で、茎の基部に古い葉鞘の繊維がシュロ毛状になって残る。
後出のシュロソウ(名の由来はこの性質による)も同様である。
茎は高さ50-100cm。葉は茎の下部に集まり、長楕円形~卵状長楕円形で長さ20-30cm、幅6-10cm、
下部は次第に狭くなり、基部は鞘になって茎を包む。葉の先は次第に尖り、毛は無い。
6-8月、茎の頂に円錐花序がつき、花序には縮れ毛が密生する。
花は黄緑色で径8-10mm、花被片は長楕円状倒披針形で長さ5mm内外、雄花と両性花がある。
雄蕊は花被片の半長、朔果は楕円形で長さ15-20mm。
本州中部以北、北海道、朝鮮半島に分布する。
葉の大きさ、花序の大きさ、花序の苞の長さなどに変化が多い。
タカネアオヤギソウ f. alpinum は高山型で、丈が低く、花序の苞がふつう花序よりも長くなるもので
本州中部以北の高山帯に生える。
シュロソウ var. reymondianum var. japonicum は、花被が暗紫褐色で朔果がやや小さいもので、
染色体数は2n=16。本州、北海道に産する。オオシュロソウとも言う。
これにも高山型があり、ムラサキタカネアオヤギソウ f. atropurpreum と言う。
基本形のホソバシュロソウ(ナガバシュロソウ)var. maackioides は葉が細く(幅3cm以下)、
花柄が長く(10-17mm)、花被は暗褐色で朔果の長さ20mm内外のものも有る。
本州(関東以西)、四国、九州、朝鮮半島、中国北部、シベリア東部に分布する。
以上のアオヤギソウ、シュロソウの類は環境により、形態、花の色などに変化が多く、
種、変種の区分が難しく、学名の扱い方もなかなか面倒である。』
植物素人の私には花色しかわからないが、月山の二枚目はムラサキタカネアオヤギソウだろうか。
しかしすぐ左奥に黄緑の株も咲いている。となるとタカネアオヤギソウの変異の範囲内なのだろう。
ところで、これらの種類、丈は1mになるものも多く、はたしてタカネ・・・と呼ぶのは適切だろうか。
後述の低山で見かけるものとほとんど差が無かった。
同じ東北の他のお山ではどうだろうか。
2017/08/03 早池峰山にて。 2019/07/10 太平山奥岳にて。
総じて黄緑の花が多いが、右上、太平山奥岳の株はもろムラサキタカネアオヤギソウという感じだ。
この仲間、中部山岳ではどうだろう。
1990/07/27 白馬岳にて。
こちらは花序全体が紅く、丈も低かった。
タカネシュロソウ(=ムラサキタカネアオヤギソウ)とした個体だ。
2007/08/14 霧ヶ峰・八子ヶ峰にて。 2015/08/10 湯ノ丸高原にて。
いずれも当時はシュロソウと同定したように記憶している。
この仲間、北東北では低山でも見かける。
特に男鹿半島の毛無山には多く、
海岸近くから山頂まで林の中はこの植物で埋め尽くされていると言っても過言ではない。
花の色も豊富でシュロソウのような赤褐色から
アオヤギソウとしか言いようのない黄緑まで幅広く、中間色の個体もある。
しかもそれらがどんじゃら混じり合って咲いている。
こうなるとどれがアオヤギソウでどれがシュロソウかなどの議論は全くナンセンス。
2020/06/21 男鹿半島毛無山で見た4シーン
この仲間は結局、なんと呼んだらいいのかわからないというのが結論だ。
以上。
高山の雪渓や雪田の近くでは、雪の生まれ変わりのような可憐な花たちが咲いている。
次の写真はそのひとつ、コシジオウレン(ミツバノバイカオウレン)。
2020/07/17 コシジオウレン。鳥海山にて。
フィールド百科 山の花3(大場達之、木原浩・著、山と渓谷社・発行)
この本は昭和時代の終わり頃、山と渓谷社から発行されたものだが、
当時では(現在でも)珍しく、植物図鑑と言うよりも植物の生きざま、生態に重きを置いた本で、
当時の私はおおいに感動したものだった。
その中に、雪渓や雪田の植生に関して触れた一節があったので、いささか長文だが、そのまま引用させて頂く。
『雪形の精たち<ハイマツ帯以上>
酷暑の都会を脱出して、一万尺の山稜に辿り着くと、残雪の白さとそのまわりの鮮緑とのコントラストが目に痛いほどである。
視界を遮った針葉高木林や低木林ははるか下方に去り、雪田をよぎって吹き上げる涼風が、ハイマツを撫で、
ハクサンコザクラの赤花の刺繍がほどこされた緑の園を、わずかにそよがせるだけである。
空は格別に広い。
本州中央部や東北地方の日本海寄りの山地は、冬の積雪量が多すぎるために針葉高木林の発達が悪く、
替わりに夏緑低木林や湿原が顕著になることは既に述べた。
また針葉樹林帯では、北や東に向いた斜面はどこでも積雪量が多く、
雪崩斜面や広い雪田をつくり、その作用が植生の発達に大きな影響を与える。
では亜高山帯上部の針葉樹林帯と、さらに高所に見られる雪田周辺の植生はどうなるか。
雪田の中にあっても、凸状の部分や急な斜面は、雪が消えたあと乾きやすい。
また土が雪解け水と一緒に流出したり、雨にたたかれて失われやすい。
こうしたところには、雪解けと同時に光合成を開始できる常緑の小低木のアオノツガザクラやジムカデ、
常緑草本のコイワカガミなどが乾きに負けずに群落をなし、短い夏を謳歌する。
雪田底の凹地は、これとは逆に絶えず有機物が流れ集まってくるし、
いつまでも冷たい雪解け水に潤されることが多いので、
泥炭に似た黒っぽいよく肥えた粘質土に富むところになる。
ここにはハクサンオオバコやハクサンコザクラなど、根茎にしっかりと養分を蓄え、
雪解けと同時に爆発的に広い葉を広げて光合成を開始し、花を咲かせる夏緑性の草が生える。
この群落には、多雪山地の湿原に数多いイワイチョウなども入り込む。
常緑の小低木と夏緑性の広葉草本のコンビ、これが高山の雪田跡地の植物群落の特色である。
毎年、9月近くまで雪の残る真の雪田底には、もはや密集した草はらはできず、
岩隙にクモマグサやミヤマタネツケバナが点在するだけである。
このような群落は、上記ふたつの雪田の群落とは性格が違い、むしろ崩壊地の植物に縁が近く、
厳しい自然条件の打ち重なる高山でも、最上級の"極地"である。』
以上、名文であり、優れた解説だと思う。
2021/07/31 鳥海山心字雪渓
2018/06/16 ヒナザクラ。笊森山にて。 2020/06/22 チングルマとイワカガミ。月山にて。
東北地方の高山では、雪渓や雪田が融けたあとには、ヒナザクラやチングルマがよく群生し、
みごとなお花畑を作っている。これらについては既にそれぞれの頁で紹介済みである。
⇒ 「 雪の子・ヒナザクラ・・・」 「チングルマ三昧」
雪渓や雪田にまつわる植物の種類は多い。
今回はこの二種以外の植物について、東北の高山の状況を語ってみようと思う。
2018/06/10 鳥海山長坂道稜線から鳥海山本体を望む。
イワイチョウは亜高山帯の湿地でよく見かける。個体数が多い割に花付きは良くない。
「イチョウ」とは秋の黄葉を銀杏の葉に見立てたものか。「イワ」と言うよりも、「ミズ」イチョウと呼びたいくらいだ。
2020/07/17 イワイチョウの密な群生。鳥海山にて。
2018/06/10 イワイチョウの花。鳥海山にて。
2018/06/10 イワイチョウの花をアップで。 2021/09/29 イワイチョウの草紅葉
焼石岳では山頂近くの雪田跡にワタスゲが群生していた。
これも遠目には雪の子のように見える。
2017/07/14 ワタスゲの群生。焼石岳にて。
地味な花だが、ハクサンオオバコとヒメイワショウブ。
なお高山の登山道や山頂の広場など人がよく踏みつける場所には、下界と同様、ただのオオバコが多い。
ハクサンオオバコは雪田の周辺など湿り気の有る場所に限定的に生育する。
2020/07/17 ハクサンオオバコ。鳥海山にて。 2020/06/22 ヒメイワショウブ。月山にて。
コシジオウレン(ミツバノバイカオウレン)を再度。
この花は個人的には、森吉山、鳥海山、月山、以東岳で見たが、奥羽脊梁山地ではまだ見ていない。
日本海側高山に特異的な種類のようだ。
なお近隣の笹薮や樹林下では別種のミツバオウレンがよく見られる(が混生はしない)。
前出の「フィールド百科 山の花3」では、ミツバオウレンとは違う系統で、
ゴカヨウオウレン(バイカオウレン)(福島以西の本州、四国に分布)から分化した種ではないかとの記載。
次のショウジョウバカマと並び、雪田の跡地で最も早く咲く花ではないかと思う。
2018/06/10 コシジオウレン。鳥海山にて。
2014/08/02 コシジオウレン。月山にて。 2021/06/30 ショウジョウバカマ。月山にて。
ショウジョウバカマは東北では低地から亜高山帯まで広範囲に生育している。
特に月山では2000m近い山頂部でも見かけた。
下写真では、コシジオウレン、イワカガミ、イワイチョウと混生していた。
2020/06/22 ショウジョウバカマ。月山にて。
雪田あと地でよく見かける花を三種。
2021/09/03 ミヤマリンドウ。鳥海山にて。 2014/08/24 ニガナの一種。鳥海山にて。
2014/08/24 ニガナの一種をアップで。鳥海山にて。
この乳白色のニガナは、鳥海山や月山の雪田付近で見かけるが、種名はまだよくわからないままだ。
ウサギギクは月山では雪の少ない風衝草原に多いが、鳥海山や八幡平方面では何故か雪田跡地でよく見かける。
山によって生育地に少し幅があるようだ。
2020/08/18 ウサギギク。鳥海山にて。
鳥海山の南面、心字雪渓は遅くまで残る。
2020年9月に行ったところ、薊坂付近にはまだ残りがあった。
2020/09/07 鳥海山(滝の小屋ルート)薊坂付近。
消えたばかりの岩の斜面で見たのは、まずはアオノツガザクラ。
これは「フィールド百科 山の花3」にも書いてあったように雪田跡地必須の常緑小低木だが、
左下の地味な草花は何だろう。
2020/09/07 アオノツガザクラ。鳥海山薊坂付近にて。
それはヒメクワガタだった。
本州日本海側の高山に分布するクワガタソウ属 Veronica の一種で鳥海山では30年前に一度見たきりだった。
2020/09/07 ヒメクワガタ。鳥海山薊坂付近にて。
今回、薊坂付近の岩場でヒメクワガタの大群に出会い、驚いてしまった。
地味な花だが、これも雪形の精のひとつだ。しかしこんなに遅くなってから開花するとはいったい!!
鳥海山の山頂部は十月には冠雪すると言うのに・・・
この植物は雪形の精であると同時に、新雪の先触れかもしれない。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
登山を再開してほどない頃、七月上旬の八幡平に行ってみた。
山頂部にはまだ雪が少し残っていたが、
それを越えて八幡沼の湿原に下りたら、次のような花風景に遭遇した。
2014/07/05 八幡沼の湿原にて。
雪が融けたばかりの湿原に小雪が舞い降りたように無数の白い小花が咲いていた。
翌年、近くの別場所でも同様の花風景を見た。
2015/07/06 八幡平山頂近くの湿原にて。
ヒナザクラは以前、他の山で侘しく数本咲いていたのを見ていた
が、こんな咲き方も有るんだなと再認識した。
ウィキペディアによると、
『ヒナザクラ(雛桜、学名:Primula nipponica)は、サクラソウ科サクラソウ属の多年草。高山植物。
学名は、「日本のサクラソウ」の意味。
根茎は短く、その上に5-10個の葉を束生させる。
葉は倒卵形で肉質、長さ2-4cm、幅1-1.5cmになり、先端には5-9個の大型の鋸歯がある。全体に無毛。
花期は6-7月。花茎の高さは7-15cmになり、先端に2-8個の花を散形につける。
苞は線形で、花茎の先に輪生する。
萼は深く5裂する。花冠は白色で径1cmになり、花喉部は黄色になり、5深裂し、裂片はさらに2浅裂する。
果実は径3mmの蒴果となる。
日本特産。本州の東北地方に分布し、西吾妻山を南限、八甲田山を北限とする。
多雪地の亜高山帯の湿原、雪田草原、湿った草地に生育する。
鳥海山を基準標本産地とする。早池峰山、岩木山には分布しない。』
とあった。
基準標本産地の鳥海山にヒナザクラを見に行った。
2020/06/24 大平ルート河原宿から鉾立ルート賽の河原にかけての雪渓を見下ろす。
以前、ヒナザクラを見た(と記憶している)場所を、
6月下旬に訪ねたら、ご覧の通り、まだびっしりと雪渓に覆われていた。
2020/07/30 大平ルート河原宿のヒナザクラ
同じ場所をひと月後に通ったら、今度はちゃんと咲いていた。
この花はやはり雪の生まれ変わり、『雪の子』なんだと思った。
この子にもっと近づいてみる。
2014/07/05 八幡沼の湿原にて。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳にて。 2019/07/15 笊森山にて。
2020/07/17 鳥海山にて。
ここで、突然、鮮やかなマゼンタのサクラソウを。
2015/06/11 岩木山のミチノクコザクラ
ミチノクコザクラ Primula cuneifolia var. Heterodonta は青森県岩木山の固有?種。
学名からもお分かりの通り、後述のエゾコザクラとは変種の関係、ただし花はやや大きいと言われる。
エゾコザクラ Primula cuneifolia var. cuneifolia が出たので、以前、大雪山で見た花風景を報告しておく。
2017/07/28 大雪山にて。
ヒナザクラと同様、雪渓や雪田が後退した後の平坦地にそれは群生していた。
こういうタイプのサクラソウ類を仮に『雪の子タイプ』と呼ぶとしよう。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、このタイプ、
P. cuneifolia もヒナザクラ P. nipponica もハクサンコザクラ亜属にまとめられていた。
旧植物生態研究室(波田研)のホームページによると、
『エゾコザクラ Primula cuneifolia var. cuneifolia は日本では北海道にのみ見られるが、
国外では千島、オホーツク海沿岸、アラスカからカナダまで分布する、小形の多年生草本。
本州に見られるハクサンコザクラに比べてひと回り小さな可憐な植物である。
森林限界より上部に見られ、雪田や湿性草原中に群生。大雪山では高山帯全域に広く分布する。
草丈は10センチ程度で、根際に10枚前後のへら形の葉を叢生する。
花期は6月下旬から8月中旬で、花茎を伸ばし、その先に2センチ程度の紅紫色の花を1~6個、散形状に咲かせる。』
とあった(一部略)。
2017/07/28 大雪山にて。エゾコザクラ。
1993/07/15 白馬岳にて。ハクサンコザクラ。
参考までに右上に白馬岳で見たハクサンコザクラ Primula cuneifolia var. hakusanensis を載せてみたが、
こちらもエゾコザクラとは変種の間柄。本州の飯豊山から白山にかけての日本海側高山に分布と聞く。
学名の種小名で見ると、cuneifolia はどうやら、北は北米アラスカから、オホーツク沿岸を経て、
北海道、南は本州北陸地方の白山まで広範囲に分布する種類とわかった。
ところが(岩木山以外の)東北地方では、一旦途切れて、白花のヒナザクラ P. nipponica に置き換わっている。
白とマゼンタが共存する山は無い。
朝日連峰と飯豊連峰は隣り合っており、植物相がとてもよく似ているが、この仲間だけは違っている。
前者はヒナザクラ、後者はハクサンコザクラとなっている。
何故そうなったのかはわからない。
雪の子タイプのサクラソウの分布はやはり不思議だ。
高山性サクラソウ類の東北地方・分布マップ
ここで再度、ヒナザクラを。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳にて。
2018/06/16 笊森山のヒナザクラ
2020/06/24 鳥海山のヒナザクラ
早池峰山は太平洋側にあり、積雪が少ない。そのため、雪渓や雪田は無いが、
初夏(6月上中旬)に行くと、蛇紋岩の急斜面のあちこちに小さな白花のサクラソウがパラパラと咲いていた。
ヒナザクラにとてもよく似ているが、これは別種のヒメコザクラ Primula macrocarpa だ。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
後述のユキワリソウ亜属に分類されており、ヒナザクラとは系統が違う。北上山地固有フロラとされる。
2017/06/06 早池峰山にて。ヒメコザクラ。
ヒメコザクラの生育場所は乾いた岩場だった。
2017/06/06 早池峰山にて。
初夏(6月上中旬)に焼石岳を訪ねると、
山頂近くの風衝草原(姥石平や東焼石岳)や崩壊地で、ピンクの小さなサクラソウを見かける。
ハクサンコザクラに似ているが、花は一回り小さく、ピンクはやや青みがかった印象。
ユキワリコザクラだ。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
『ユキワリコザクラ Primula farinosa subsp. modesta var. fauriei は、
ユキワリソウ亜属のユキワリソウ Primula farinosa subsp. modesta の変種で、
葉が広く、広卵形または楕円形で、下部が急に狭くなって柄状になり、葉の縁が裏側に多少とも強く反り返り、
不明瞭な波状の歯牙がある。南千島、北海道東部と南部、本州北部に分布。』
とあった。
2021/06/10 焼石岳のユキワリコザクラ
2017/06/17 焼石岳のユキワリコザクラ
ユキワリコザクラは東北では他に岩手山や蔵王連峰(不忘山など) にもあると聞く。
なお焼石岳にはヒナザクラも有り、場所によって群生しているが、湿った場所を好み、
ユキワリコザクラと混生することはなかった。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
高山植物には大きな群落を作るものがある。
チングルマはその代表だろう。
秋田駒ヶ岳のムーミン谷(馬場の小路)ではみごとな群落が見られる。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳ムーミン谷のチングルマ群落
チングルマをアップで。
場所によってはイワカガミと混生。
ウイキペディアによると、
『チングルマ(珍車、稚児車、学名:Geum pentapetalum)とはバラ科ダイコンソウ属の落葉小低木の高山植物である。
一般にダイコンソウ属に分類されるが、チングルマ属(Sieversia)に分類する説もあり、確定していない。
東日本(北海道~中部地方以北)、樺太、アリューシャン列島、カムチャツカ半島に分布する。
高山の雪渓周辺の多湿地に生える。高さは10cm程度。枝は地面を這い、群落を作る。
葉は羽状複葉。花期は6から8月。花茎の先に3cmほどの白い五弁花を1つ咲かせ、
多数の黄色い雌しべと雄しべがある。
花後、花柱は伸びて放射状に広がる。果実は痩果。
和名のチングルマは、この実の形が子供の風車(かざぐるま)に見えたことから
稚児車(ちごくるま)から転じて付けられた。(一部略)』
とあった。
森吉山もチングルマの多いお山。
山人平(やまうどだいら)にはこの山で最大規模のチングルマ群生が有る。
2013/06/30 森吉山の山人平(やまうどだいら)
私が2013年に行った時、花は盛りを過ぎていたが、それはそれとして眺めて見る。
花が終わったばかりの株
少し経つと実が風になびくようになる。
以前、「チョウカイチングルマ」という種類かあると聞いた。
どんな種類だろうと検索してみたら、
「花の直径が3cm以上あり、花弁の丸いチングルマをチョウカイチングルマと区別する場合もあるが、
一般的には区別しないことの方が多いようだ。」との記載があった。
鳥海山のチングルマを。
2018/06/10 鳥海山長坂道のチングルマ
2021/07/15 鳥海山御田ヶ原のチングルマ。右の方はハクサンイチゲが混生。
岩の上に這い上がるようにして咲く株も有った。
2021/07/31 鳥海山滝の小屋ルートのチングルマ
実姿
月山のチングルマも少し。
2020/06/22 チングルマとイワカガミ
2014/09/21 月山八合目付近のチングルマ(実)
2014/09/21 月山八合目付近のチングルマ(実)
こんなに遅い時期(もう彼岸)なのに実が残っているのは、ちょっと不思議だ。
この場所はつい最近まで雪渓に覆われており、九月になってからようやく咲き出したからだろう。
雪渓の近くに咲く花ではこういうことが往々にしてある。
チングルマは紅葉も素晴らしい。
2018/09/28 鳥海山河原宿のチングルマ大株(紅葉)
2018/09/28 鳥海山河原宿のチングルマ(紅葉)
2020/10/02 鳥海山長坂道のチングルマ(紅葉)。ハクサンイチゲやハクサンシャジンも混じっている。
2020/10/02 鳥海山長坂道のチングルマ(紅葉)
2020/10/02 鳥海山長坂道のチングルマ(紅葉)
以上。