(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
本ページでは、黄色い梅のような小花を咲かせるバラ科の高山植物を三種類取り上げてみる。
初夏に高山の岩場や砂礫地でよく見かけるのは、多くの場合、ミヤマキンバイだ。
ミヤマキンバイ Potentilla matsumurae var. matsumurae はバラ科キジムシロ属の一種で、
草丈は10~20センチ、根出葉は三枚の小葉に分かれている。
同じような小花をつけるミヤマキンポウゲはキンポウゲ科で草丈は20~50センチとやや高い。
葉は深く三つに裂け、さらに細かく裂けめが入る。また花弁にはエナメル状の光沢が有るし、
湿った場所に群生するので、識別は容易だ
(ミヤマキンポウゲについてはこちらを参照されたし)。
秋田駒ヶ岳はミヤマキンバイの多い山で初夏に登ると、あちこちでこの花が群生している。
次の写真はコマクサが生えている大焼砂で撮ったものだが、
ここではタカネスミレの大群生をバックにしてみごとな黄色の花風景になっていた。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳大焼砂にて。
ミヤマキンバイは手前のひと塊、バックの黄花はタカネスミレ。
次いで鳥海山。
2020/06/24 鳥海山長坂道にて。
手前がミヤマキンバイ、奥はハクサンイチゲ。
ここでは稜線から山頂にかけて多い。長坂道の稜線ではハクサンイチゲと混生していた。
2020/06/24 鳥海山長坂道にて。ミヤマキンバイと上左にハクサンイチゲ。
もう少しアップしてみよう。
2017/06/29 早池峰山にて。ミヤマキンバイ単品。
早池峰山で見た他の花との混生シーン。
2017/06/29 早池峰山にて。ミヤマキンバイとミヤマシオガマ。
2017/06/29 早池峰山にて。
ミヤマアズマギク、ミヤマキンバイ、ナンブイヌナズナ、ハヤチネウスユキソウなどの混生。
焼石岳では。
2017/06/17 焼石岳にて。ミヤマキンバイとハクサンイチゲの混生。
再び鳥海山、そして月山。
2015/05/30 鳥海山にて。ミヤマキンバイ単品。 2015/09/21 月山にて。ミヤマキンバイの紅葉。
ミヤマキンバイは草紅葉も奇麗だ。
2016/10/02 乳頭山にて。ミヤマキンバイの紅葉。
太平山や和賀山塊、真昼岳の稜線では、ミヤマキンバイに似たやや大柄な別の種類を見かけた。
花の色形はミヤマキンバイと全く同じだが、
葉(根出葉)は羽状複葉で大きく、ふつう5枚(まれに7枚、3枚もある)の小葉に分かれている。
これはミヤマキンバイではなく、エチゴキジムシロ Potentilla togasii であると識者から教えていただく。
この種類は高山植物とは言えない。主に山地帯の林縁などに分布するようだが、
和賀山塊や真昼岳では偽高山帯(亜高山帯に相当)の草地で咲いていた。
下界の草地や低山に多いキジムシロとの識別は難しい。
強いて言えば、頂小葉の形がキジムシロでは広卵形から楕円形、鈍頭から円頭なのに対し、
エチゴの方は菱状長楕円形から菱状倒卵形。
側小葉はキジムシロでは葉の基部に向かい徐々に小さくなるのに、
エチゴの方は下部の小葉は極端に小さくなるとのこと。これは難しい。
2016/05/28 太平山奥岳にて。エチゴキジムシロ。 2016/05/22 真昼岳にて。エチゴキジムシロ。
2017/11/03 真昼岳にて。エチゴキジムシロの草紅葉。
2018年6月下旬、秋田側(東成瀬村)から焼石岳に登ったところ、
前年の7月、ミヤマキンポウゲの大群生を見た場所(こちら。『イエローガーデン』と名付けた場所)が
別の黄色花にびっしりと覆われていた。
初めミヤマキンバイかと思ったが、小葉の数は三枚を超えていた。
エチゴキジムシロに似ているが、あまり自信は無いので、?マークをつけておいた。
この種類は八合目・焼石沼から九合目・焼石神社の手前にかけて多いが、
その先は衰退し、ミヤマキンバイに変わっていた。
2018/06/23 焼石岳焼石沼付近にて。エチゴキジムシロ?の群生。
2018/06/23 焼石岳焼石沼付近にて。エチゴキジムシロ?の群生。
ここでミヤマキンバイ、エチゴキジムシロ、
ミヤマダイコンソウの分布マップを。
エチゴキジムシロの山地帯の分布域は省略させて頂いた。
ミヤマダイコンソウ Geum calthifolium var. nipponicum
はミヤマキンバイによく似た黄色花だが、
花茎は直立し、葉の形、大きさが全く違う。根出葉は羽状複葉だが、大きな円形の頂小葉がよく目立つ。
属もキジムシロ属 Potentilla ではなく、ダイコンソウ属 Geum だ。
ウイキペディアによると、
ダイコンソウの名は、大根草の意で、根出葉の小葉が大小交互してつく様子が、
アブラナ科のダイコン(大根)の葉に似ていることからつけられたとあるが、
ミヤマダイコンソウの大きな丸い葉の形からそれを想像するのは困難だ。
もう少し実体に近い命名が出来なかったものかといつも思っている。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳馬の背稜線にて。
上写真で岩上に咲くのはミヤマダイコンソウ。
中ほどの咲き終わった小型の植物はミヤマキンバイ。葉の形、大きさで違いは一目瞭然だ。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳にて。ミヤマダイコンソウ。
この植物は東北では秋田駒ヶ岳に異常なほど多く、七月に登ると、エゾツツジと混じり合って咲いている。
このような花風景が見られるのは、国内広しといえども秋田駒ヶ岳と裏岩手の一部だけだ。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳にて。ミヤマダイコンソウとエゾツツジ群生。
ミヤマダイコンソウは、奥羽山系では、八幡平から岩手山、秋田駒にかけては多いが、
和賀山塊では途切れ、焼石岳でまた現れる。
栗駒山には無いようだが、それより南に有るかどうかはよくわからない。
2021/06/10 焼石岳にて。ミヤマダイコンソウ。 2020/10/09 焼石岳にて。ミヤマダイコンソウの紅葉。
日本海側では鳥海山や月山には無いようだが、朝日連峰まで南下するとまた現れる。
2019/06/26 以東岳にて。ミヤマダイコンソウ。
以上。
イワカガミはイワウメ(こちら)同様、
「岩」を冠するものの、岩場よりも平らな草地や湿地で多く見られる。
2013/06/17 須川高原いわかがみ平湿原のイワカガミ群生。バックは秣岳。
ウィキペディアによると、
『イワカガミ(岩鏡、学名:Schizocodon soldanelloides)は、
イワウメ科イワカガミ属の常緑の多年草。高山植物の一種ではあるが、実質的には低山帯から高山帯まで幅広く分布する。
茎は細く、地を這って、茎の先に葉が束生する。葉は厚く光沢があり、葉身は円形で、長さ幅ともに3-6cmになり、
先は円形または広三角形で頂部は短くとがり、縁はとがった鋸歯があり、基部はわずかに心形となり、
長い葉柄がある。葉の基部の側脈は一箇所に集まる。
花期は4-7月。束生した葉の中央から高さ10-20cmになる花茎を伸ばし、先端に3-10個の花を総状花序につける。
花は淡紅色。萼片は5個で、裂片は長楕円形。花冠は径1-1.5cmになり、漏斗状で5裂し、裂片の縁はさらに裂ける。
雄蕊5個と短い仮雄蕊5個がある。雌蕊は1個。果実は径3-4mmになる球形の蒴果となる。
北海道、本州、四国、九州の高山帯から山地に分布し、草地や岩場に生育する。
和名イワカガミは、「岩鏡」の意で、岩場に多く生え、葉に光沢があることから「鏡」に見立てたもの。
種小名 soldanelloides は、「サクラソウ科の Soldanella属に似た」の意味。
ところが、ヨーロッパ原産で、日本で栽培種として流通しているサクラソウ科の Soldanella alpine には、
「イワカガミダマシ」の和名がついている。
生育地によって植物体の大きさに変異があり、
コイワカガミ、イワカガミ、オオイワカガミという名があてられているが、
それらの中間型が存在し、変異も連続的で、類型分類では区別できないという見解がある。(一部略)』
とあった。
イワカガミは東北の高山ではほぼ普遍的に見られる。
以下、主だった山での生育状況を列記してみる。
栗駒山の紅葉は素晴らしいが、花は少ないお山だと思っていた。
しかしイワカガミ(他にはアカモノやシラタマノキ)は多かった。
特に硫気孔のある須川温泉や昭和湖付近では大規模な群生になっていた。
2013/06/17 須川高原いわかがみ平湿原のイワカガミ群生。
2013/06/17 須川温泉付近のイワカガミ。
高松岳も花の少ないお山だが、イワカガミは多く、ここではドッキリするような濃色の株に遭遇した。
2020/06/06 高松岳にて。
鳥海山では鉾立から登ると、
標高1100mの登山口付近から2000m超の山頂部まで広く生育している。
2019/07/06 鳥海山にて。アオノツガザクラと一緒。
2021/07/15 鳥海山にて。チングルマと一緒。
月山も登山口から山頂まで、しかも切れ目なく見られる。
2020/06/22 月山にて。イワカガミ単独。
2020/06/22 月山にて。ミヤマウスユキソウと一緒。
北に飛んで八甲田山。
2019/06/19 八甲田山大岳にて。
森吉山ではチングルマと並んで多く、この山の初夏を代表する花風景になっている。
2013/06/30 森吉山にて。チングルマと混生。
八幡平にも多いが、西側の焼山火山で特に多かった。ここも栗駒山同様、硫気孔の付近で群生していた。
もしかしたら日本最大規模の群生かなと思う。
2019/06/09 焼山火口付近にて。 2018/07/14 八幡平・大深湿原にて。
秋田駒ヶ岳にも多い。
2017/07/10 チングルマと一緒。
以上は高山での生育状況だが、イワカガミは1000m以下の山地帯の樹林下でも見かける。
花色は白か薄いピンクが多く、オオイワカガミと呼ばれる種類かと思われる。
格別、葉や花が大きいわけでもなく、高山のイワカガミと識別が困難だ。
秋田山形県境の甑山(こしきやま)(981m)で見たものを報告してみる。
2018/05/27 男甑山から女甑山を望む。 2018/05/27 甑山のオオイワカガミ?
2018/05/27 甑山のオオイワカガミ?ピンクタイプ
2018/05/27 甑山のオオイワカガミ?
秋田駒ヶ岳や北隣の笊森山には、一般的なイワカガミの他に次のような小型の種類が生えていた。
草丈(花丈)も葉の径も3~5センチと小さい。
手持ち図鑑の絵合わせではヒメイワカガミ Schizocodon ilicifolius によく似ているが、
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)の説明では、ヒメイワカガミの分布地は、
「関東、中部、紀伊半島の主に太平洋側」とあった。
新分布地だろうか。
なお秋田駒ヶ岳、笊森山ともにイワカガミが隣接して生育しており、両種の雑種のようなタイプも見られた。
2018/06/16 ヒメイワカガミ? 笊森山にて。
2021/06/17 ヒメイワカガミ? 秋田駒ヶ岳にて。
このタイプのイワカガミ、日本海側の鳥海山でも見つけた。
2018/06/10 鳥海山にて。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
イワウメは岩壁に貼り付いて咲くユニークな姿の高山植物だ。
ウィキペディアによると、
『イワウメ(岩梅、学名:Diapensia lapponica var. obovata)は、
イワウメ科イワウメ属に分類される常緑の小低木の一種。高山植物。
別名はフキヅメソウ、スケロクイチヤク。
枝は横にはい、厚い革質の葉が密生してクッション状となり、一見しただけでは木本とは思えない。
葉は倒卵状のくさび形で長さ1 cm前後、幅4 mm前後。花は乳黄白色でまれに淡紅色を帯び、
7-8月に枝先から伸びた長さ2 cmほどの花柄上に1個つく。
合弁花であるが、平開する花冠が直径1.5 cmと小さい上に5中裂するため、花弁が5枚あるように見える。
雄蘂は5個で萼は5裂する。果実の朔果はが長さ約3 mmのほぼ球形。
花が薄紅色の品種は、ベニバナイワウメ(f. rosea)と呼ばれている。
韓国、日本、サハリン、シベリア、ウスリー及びカムチャッカに分布。
母種のボソバイワウメ(学名:Diapensia lapponica subsp. lapponica)は、北半球の寒地に広く分布。
日本では北海道から本州中部にかけての高山帯に分布し、岩礫地や岩壁に張り付くように生育する。』
とあった。
2020/06/22 月山で見たイワウメ。上の方で咲くのはチングルマ。意外だが、どちらも矮性低木だ。
背丈は花が咲いている時でも、2センチ程度の高さなので、
私はずっと草だと思っていたが、
今回、ウィキペディアの説明を読んで樹木=矮性低木と知り、驚いた。
また東北には日本アルプスのような岩山が無いので少ないだろうと思っていたが、
岩のあるところを注意して歩くと、意外と多いことに気づいた。
特に鳥海山の山頂付近には多かった。
開花時期は意外に早く、どこの山も六月中がベストで、遅くても七月中旬まで。
真夏の登山シーズンに登ってイワウメをほとんど見かけないのは、
既に咲き終わったからなのだと最近になって気づいた。
2019/07/06 鳥海山にて。
2019/07/06 鳥海山にて。
2019/07/06 鳥海山にて。 七高山山頂にて。ピンクを帯びた株。
2019/07/06 鳥海山にて。イワウメのマットにハイマツが生えていた。
2019/07/06 鳥海山にて。
2019/07/06 鳥海山にて。右上にミヤマキンバイ。
2021/06/25 栗駒山にて。まわりの丸い葉はミヤマダイモンジソウ。
2021/06/17 秋田駒ヶ岳にて。上の丸い葉はミヤマダイコンソウ。
2017/06/29 早池峰山にて。右はチシマアマナ。
2017/06/29 早池峰山にて。ミヤマシオガマ、ミヤマアズマギクなども混生。
2016/06/14 八甲田山井戸岳にて。
八甲田山まで来たので、ここで見た他の花も少し報告しておく。
近くの岩場にイワウメと違う花がびっしりと咲いていた。
2019/06/19 コメバツガザクラ。八甲田山井戸岳にて。
2016/06/14 コメバツガザクラ。
八甲田山井戸岳にて。左の方にイワカガミも少し混じっている。
見慣れぬ花なので後で調べたら、ツツジ科の矮性低木、コメバツガザクラと判明した。
コメバツガザクラならば、他の高山岩場でもよく見かけていた。
それなのにわからなかったのは、この植物の花を今まで見ていなかったからだ。
何故ならこの植物、花付きが極めて悪い。また咲いていても、開花期が早いため、見逃していたのだろう。
2015/06/21 コメバツガザクラ。秋田駒ヶ岳にて。
2015/06/11 イワウメとナガバツガザクラ。岩木山にて。
ツガザクラの仲間が出たので、岩木山の岩場シーンを。
ここではイワウメのマットにナガバツガザクラやイワヒゲが共存していた。
2015/06/11 ナガバツガザクラ。岩木山にて。
イワウメのお友達はツツジ科が多いが、中でもイワヒゲは特に面白い草姿だ。
2017/07/10 イワヒゲ。秋田駒ヶ岳にて。 2021/06/25 イワヒゲ。栗駒山にて。
以上。
あまりメジャーな高山植物ではないが、今回は旧ユリ科のメンバーを数種類、取り上げてみる。
まずはキンコウカ。東北の高山では湿地によく群生し、真夏に黄色い穂花を咲かせている。
2020年に訪ねた栗駒山の秣岳、稜線上の平らな湿地では・・・
2020/07/24 秣岳のキンコウカ群生。
近寄るとこんな感じ。
2020/07/24 秣岳のキンコウカ
ここではタテヤマリンドウと混生していた。
2020/07/24 キンコウカとタテヤマリンドウ
月山の弥陀ヶ原湿原では凄く密な生え方をしていた。
2016/07/23 弥陀ヶ原湿原のキンコウカ群生。
2017/08/06 焼石岳にて。花のアップ。 2014/08/02 月山羽黒ルートにて。葉先が赤くなっている。
キンコウカは他の山にもいっぱい咲いているが、花は皆同じなので、これくらいで終わりとしよう。
この植物は、花以上に葉、紅葉が素晴らしい。
キンコウカの草紅葉は樹木紅葉よりも少し早い。
2019年9月中旬、乳頭山を訪ねたら、山の斜面一帯がこんがりと紅葉していた。
2019/09/17 乳頭山の草紅葉
近づいてみると、草紅葉の中で赤みの強い部分はキンコウカだった。
2019/09/17 乳頭山のキンコウカ草紅葉
乳頭山の近く、千沼ヶ原のキンコウカ草紅葉・二景。
2014/09/15 千沼ヶ原にて。
2014/09/15 千沼ヶ原にて。
鳥海山のキンコウカ草紅葉。
ここではチングルマやシロバナトウウチソウの紅葉も混じってシックな色合いになっていた。
2020/10/02 鳥海山の草紅葉。
キンコウカ Narthecium asiaticum はかつてユリ科、現在はキンコウカ科だ。
キンコウカが生えるような高山の湿地にはイワショウブも生えていることが多い。
2016/08/20 月山姥ヶ岳にて。手前にキンコウカ。後ろの草地にイワショウブ(白い穂花)が疎らに生えている。
ウィキペディアによると、
『イワショウブ(岩菖蒲、学名:Triantha japonica )はチシマゼキショウ科イワショウブ属の多年草。
別名、ムシトリゼキショウ。花茎の高さは、20-40cmになる。
葉は根生し、形はアヤメのような線形で、長さは10-40cm、茎には小形の葉が1-2個つく。
花期は8-9月で、花茎の上に花被片が6枚の白色、ときに淡紅色を帯びた花を総状につける。
花の中心に雌蕊が、その周りには花被片と同長の雄蕊が6本つく。
花茎の上部から花柄まで腺状突起が多くつき、粘る。
果実は蒴果で卵状楕円形、発生過程で生じる巨大な突起物を種子に有することが特徴である。
西限を伯耆大山とし、本州のおもに日本海側に分布し、
亜高山帯の湿原や山稜の雪田の縁などの湿り気のある場所に自生する。』
とあった。
なお花茎の上部が粘り、「ムシトリゼキショウ」との別名があるが、食虫植物ではないようだ。
2020/08/18 鳥海山にて。イワショウブ。
チシマゼキショウ科とは聞きなれない名前だ。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、チシマゼキショウやキンコウカに関して、次のような記述があった。
『日本の野生植物Ⅰ(1982)が準拠した新Engler分類体系(Melchior,1964)では、
ユリ目ユリ科シュロソウ亜科チシマゼキショウ連に含められていた。
分子系統樹に基づいたAPGⅢ分類体系(2009)によって、
このチシマゼキショウ連はチシマゼキショウ科とキンコウカ科(一部)に分割され、
そのうちチシマゼキショウ科は、オモダカ科やサトイモ科などとともにオモダカ目に分類されることになった。』
一方、キンコウカ科はヤマノイモ目に含められている。
イワショウブとキンコウカは高山の湿原では隣り合って生え、
図鑑上でも昔はユリ科の同じ頁に並んで掲載されることが多かったが、
新しい分類学ではユリ科を追い出され(?)、遠く離れた間柄になってしまった。
イワショウブに近縁で地味な旧ユリ科の高山植物を二種。
ヒメイワショウブ Tofieldia okoboi
チシマゼキショウ Tofieldia coccinea var. coccinea
ヒメイワショウブ 2020/06/22 月山山頂部にて。
チシマゼキショウ 2017/07/20 早池峰山(バックにハヤチネウスユキソウ)
折角の機会なので、新分類でキンコウカ科に属すことになった植物、二種類も紹介してみる。
見かけはキンコウカとだいぶ違う。科は違うが、イワショウブに近いような印象だ。
ネバリノギラン Aletris foliata は
高山の草地などでよく見かけるが、地味な花なので話題になることはほとんど無い。
しかしこの植物、秋になると一変する。草紅葉が意外と奇麗なのだ。
ネバリノギラン夏姿。
2020/07/17 鳥海山にて。 2017/08/06 焼石岳にて。ハクサンシャジンと一緒。
ネバリノギラン秋姿。
2014/09/15 笊森山にて。バックはガンコウラン。 2020/10/02 鳥海山にて。バックはチングルマ紅葉。
ノギラン Metanarthecium luteoviride も草紅葉が奇麗だ。
2014/09/06 森吉山
こちらは元々、低山性の植物だが、奥羽山系の一部の山では
山頂の風衝草原にも進出し、お花畑の一員になっているのには驚いた。
2018/07/27 ノギラン。焼石岳姥石平にて。
2019/07/26 和賀岳山頂にて。前列はノギラン、後列はネバリノギラン。
以上。
シラネアオイとサンカヨウは秋田のような北国では低山でもふつうに見かける。
けっして高山植物とは言えない。
しかし登山を再開したばかりの2013年6月、森吉山(1454m)に登ろうと思い、
ゴンドラを下りた途端に見た花風景に驚いてしまった。
森吉山のゴンドラ上駅の標高は約1180m。アオモリトドマツが疎らに茂る一帯なので、
一応、亜高山帯だが、そこには無数のシラネアオイが咲き乱れていた。
低山でも咲いているが、亜高山帯のシラネアオイは凄いと思った。
というわけなので、今回は高山植物のカテゴリーで扱うこととした。
2013/06/16 森吉山ゴンドラ上駅付近のシラネアオイ群生。
2013/06/16 森吉山ゴンドラ上駅付近のシラネアオイ群生。
登山道を歩き出しても、道の両側にシラネアオイが延々と咲き続けていた。
2016/06/05 森吉山石森登山道沿いのシラネアオイ街道。
この山のシラネアオイは株がでかい。
この道を「シラネアオイ街道」とでも呼ぼうかと思った。
シラネアオイは隣の八幡平にも多かった。下の写真は、ここ数年で見た中では最大の株だ。
2018/06/18 八幡平源太ヶ岳のシラネアオイ大株
ウィキペディアによると、
『シラネアオイ(白根葵、学名:Glaucidium palmatum )は、
キンポウゲ科(シラネアオイ科として分けることも多い)シラネアオイ属の多年草。
深山の植物。日本固有種の1属1種である。
北海道から本州中北部の日本海側にかけての山地帯と亜高山帯のやや湿り気のあるところに分布している。
高さは20-30 cm。
花期は5-7月頃。花弁はなく、7 cmほどの淡い紫色の大きな萼片が4枚あり、美しい姿をしている。
和名は、日光白根山に多く、花がタチアオイに似ることからシラネアオイ(白根葵)と名づけられた。
別名で「山芙蓉(やまふよう)」、「春芙蓉(はるふよう)」ともいう。
本種は1属1種のシラネアオイ科としてキンポウゲ科から分離することもあり(ダールグレン体系など)、
かつてキンポウゲ科に含められていたボタン科(現在では別系統と見るのが定説)に近縁とする説もあった。
しかし分子系統解析によれば、北米に分布するヒドラスチス属(Hydrastis:これも1属1種のヒドラスチス科 Hydrastidaceaeとする説がある)
とともにキンポウゲ科から初期に分岐したと考えられ、系統的にはキンポウゲ科に含めるのが適切である。』
とあった(一部略)。
「高さは20-30 cm」とあるが、写真からもお分かりの通り、亜高山帯でも、30-80cmと大型だ。
花弁(厳密には萼片)の形は、先のとがったものも丸っこいものもある。
2011/05/19 大館市長根山にて。剣咲きタイプ。 2018/06/23 焼石岳にて。丸弁タイプ。
花色は薄い紫が一般的だが、まれに純白や濃色も見かける。
2021/05/04 男鹿毛無山にて。白花。 2013/06/16 森吉山にて。濃色のタイプ。
2021/04/21 男鹿毛無山にて。紅味の強いタイプ。
花が終わると、大きな袋果をつける。
2013/08/03 森吉山にて。シラネアオイの袋果。 2019/11/10 男鹿毛無山にて。乾燥した袋果。
シラネアオイは日本海側の山に多い植物と思っていたが、太平洋側の岩手山にも多かった。
ここでは山麓から標高1700m付近の高所まで広く生育している。
もしかしたら日本一(日本固有種なので、世界一)、シラネアオイが多い山かもしれない。
特に北側の焼走りコースではコマクサ群生地の上、ダケカンバ林の中に群生しているのには驚いた。
2018/07/02 岩手山ツルハシ上部にて。シラネアオイ群生。
岩手山ではシラネアオイとサンカヨウがあちこちで混生していた。
2018/07/02 岩手山にて。シラネアオイとサンカヨウの群生。 2018/07/02 岩手山にて。サンカヨウとシラネアオイ。
サンカヨウの花は白く、メギ科の植物だが、
葉や草姿がどこかしらシラネアオイに似た雰囲気を持っているように感じている。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
『サンカヨウ Diphylleia grayi は、高さ30-60cm、茎や葉に縮れた毛が生える。
二個の茎葉のうち、下の葉は腎円形、長さ20-30cm、幅30-35cm、
不揃いな欠刻状鋸歯があり、上端と基部は湾入し、長い葉柄に盾状につく。
上の葉は下のものと形は似ているが、小さく、ほとんど無柄で、湾入した基部で茎につき、盾状にならない。
5-7月頃、白色で径約2cmの花を3-10個つける。
液果は楕円形、長さ10-13mm、藍色で白粉をおびる。南千島、北海道、本州、サハリンの温帯から亜寒帯にかけて、
落葉広葉樹林または針葉樹林の林床に生える。果実は甘酸っぱく食べられる。
なおサンカヨウ属は北アメリカ東部と東アジアの主として温帯に、それぞれ1種と2種が離れて分布している。』
とあった(一部追加記入)。
2021/06/07 三ツ石山にて。
この植物はある特殊才能というか芸を持っており、最近、それが話題になっている。
それは雨に濡れると花びらが白から透明に変わることだ。
私もそのシーンを狙っているのだが、完全透明には出会えないでいる。
理由は簡単。雨の日は山に行かないからだ。
2019/05/07 房住山にて。サンカヨウの透明化現象。
2017/05/22 八幡平にて。サンカヨウとニリンソウ。
サンカヨウは芽出しの姿も可愛らしい。
2019/05/22 八塩山にて。サンカヨウの芽出し。 2013/08/02 八幡平にて。サンカヨウの実。
実は食用になるとも言われるが、けっして美味いものではない。
無理に食べる必要は無いと思う。
以上。